ハンター・S・トンプソン死去

朝っぱらから、カウンターカルチャーのジャーナリズムの先駆者であるハンター・S・トンプソンが死んだことを知って気が滅入る。しかも自殺だとか。クスリと銃に密接したライフスタイルで有名な人だったから、銃による自殺というのはある意味で彼らしい死に方ではあるのだが、大変残念なことである。自殺の理由はまだハッキリしてないらしい。ここ最近は全盛期(ニクソン時代)に比べて明らかに「枯れた」感があったとはいえ、まだ多大な人気と発言力を持っていた人だから、せめて次の大統領選挙までは生きていて欲しかったものだ。  俺が大学生のときに彼の代表作「恐怖と嫌悪のラスベガス(別名「ラスベガスをやっつけろ」「ラスベガス★70」)」をケタケタ笑いながら読んだのも今となっては懐かしい思い出だ。ラスベガスでの狂乱をコミカルに描きながら、ときに真剣な内容になるところ、特にモハメド・アリの徴兵拒否に対する懲役判決を知って唖然とするところが強く印象に残っている。映画版はダメ作品だったが。そういえば彼の小説「ラム酒日記」も現在映画化中じゃなかったっけ。人気コミック「Doonesbury」のアンクル・デューク、および「Transmetropolitan」のスパイダー・ジェルサレムは彼がモデルのキャラクターである。それだけ影響のある人物だったのだ。合掌。

夜は映画教室。ニック・ゴメスの低予算映画「Laws Of Gravity」を見せられる。低予算とはいえ撮影がかなり見事。ただストーリーに起伏が乏しく、かなり間延びした感じがするのも事実。若かりし頃のイーディ・ファルコが出演していた。

There’s Something About Marrying

テレビで「シンプソンズ」をつけたら、前から話題になってた同性愛結婚のエピソードをやっていた。観光客獲得のためにスプリングフィールドで同性愛結婚が承認されることになったら、マージの姉のパティがカミングアウトして…という内容のもの。この番組では初めて「事前の注意」が付けられたそうだが、カナダでは付いてなかったような?番組中にも「ここに2人の結婚を認める。カナダでは法的効力があるかもしれないが、テキサスには近づかないように」なんてジョークがあった。 パティがカミングアウトする、ということは前から聞いてたので驚きはしなかったが、内容が徹底的にリベラル一色なのは面白かった。同性愛結婚に賛成の立場をとっときながら、身内の結婚になると難色を示すマージの描写がよく出来てたと思う。でもやっぱり全盛期の頃に比べると、何か物足りないんだよなあ。同じ社会問題を扱った内容でも、外国人の不法労働が問題になってアプーが窮地に立たされるやつのほうが面白かったと思う。

ちなみに妄想の中でホーマーが自分自身と熱いキスをする、なんてシーンもあった。そんなの見て喜ぶ奴がいるのか?

United Kingdom Leads the World in TV Downloads

インターネット上で違法にテレビ番組をダウンロードしてる連中はイギリス人が1番多く、2番目はオーストラリア人だとか。要するに自国のテレビがアメリカの番組にどっぷり浸されていて、英語を理解する人々のいる国ですね。アメリカで放送された新しいエピソードを見たいがためにインターネットにすがるわけで、極端な例だとエピソードの放送直後に動画がネットに流されてるとか。アメリカやカナダでのダウンロードが少ないのはリアルタイムで新エピソードが見れるからなのだが、イギリスで世界初放送されてるはずの「Battlestar Galactica」がイギリスでもダウンロードされてるのは、このシリーズが有料チャンネルで流されてるかららしい。 こうしたことを考慮すると、iTunes Music Storeのように「ドラマをネット上で切り売りするサービス」が本格的に開始されるのも遠い話ではないかもしれない。みんなタダで入手してるのに、有料のサービスなんか成功するわけないと思う人もいるだろうが、iTMSも違法ダウンロードがまかり通ってたときに「合法なサービスを提供しない限り、不法なダウンロードは減少しない」という概念のもとで登場して大成功を収めたわけだ。
もっとも現在のところ製作側はテレビシリーズのDVDでボロ儲けしてるわけで、その儲けに影響するようなサービスは始めたがらないかもしれない。特典映像などでDVDとうまく差分化して、ダウンロードとDVD両方で儲かる仕組みにもっていければ一番いいんだろうけど。

そしてこうしたサービス(海外ドラマ限定で)が日本でも成功するかというと、やっぱり言語の壁は厚いなあと感じる次第である。インターネットのおかげで海外にあるファイルも容易に入手できるようになったとはいえ、「SIX FEET UNDER」を熱心に収集してる日本のファン、なんて聞いたこともない。せいぜい日本語版をリップしたファイルや、お世辞にも上手いとはいえない手製の字幕が付いたデータが流されてる程度だ(ちなみにフランスには、日本のアニメにせっせと字幕を付けて流してる連中がいるとか)。

もっとも日本はiTMSさえ開始されてないんですけどね。

ジャーナリズム対ブログ

気に入らないジャーナリストやマスコミをネット上でバッシングする連中がいるのは別に今に始まったことではないが、最近(?)ではそれが団体のホームページとか掲示板とかじゃなくて、個人のブログ上で行う動きが活発化しているため、新たなジャーナリズムの形としてのブログに注目が集まっているようだ。 日本でもよく特定のメディアを叩いてる連中とかがいるけど、これはアメリカでも同じことで、最近ではブログのすっぱ抜き&圧力によってCNNのディレクターが辞職に追い込まれたとか。こうしたブログの風潮について、こないだ「The Daily Show With Jon Stewart」が絶妙な特集をやっていた。動画は こちら
一応コメディ番組のはずなんだけど、その鋭い観点には感心することしきり。「レポーターのことをレポートするヒマがあったら、政府のやってることについて書くべきなんだ」というコメントは一理あると思う。ジャーナリストをコケにするブロガーをコケにする連中がテレビに出たりしてるのが、アメリカの奥の深いところか。

In the Realms of the Unreal

7人の無垢な美少女ヴィヴィアン・ガールズを主人公に、キリスト教国家のアビエニアと悪の侵略者グランデリニアの戦いを描いた絵物語「非現実の王国」を延々と延々と描いていった男、ヘンリー・ダーガー(ダージャー)に関するドキュメンタリー。監督はアカデミー賞監督のジェシカ・ユー。最近は映画界でなぜかダーガーが流行ってるらしく、「ラスト・サムライ」の監督とかも伝記映画化を狙ってるとか。ちなみにタイトルロゴはクリス・ウェア。

昼間はシカゴの病院で清掃員として黙々と働き、夜はせっせと「非現実の王国」の執筆に何十年もとりかかっていたダーガーの行為は隣人などにも知られることはなく、彼が他界したときに初めてその膨大な作業の実態が明らかになった。正規の芸術教育を受けていない彼が、広告のイラストなどをトレースするという自分なりの表現方法で描きつらねていった作品群はその独創性が高く評価され、いわゆる「アウトサイダー・アート」の傑作として世界中に知られるようになっていった…。と書けばカッコいいだろうが、キチガイオヤジが残したお絵描きの山を後世の人が勝手に褒めてるだけ、という意地悪な見方ができなくもない。だって男性器を生やした少女たちが石像に首を絞められて窒息したり、四肢を切断され内臓を引き裂かれて地面に転がってるような絵(しかも小学生レベル)を何枚も描いてるような人って、絶対にマトモではないと思うんだが?しかし雲の描き方や色使いは非常に良いと個人的には思う。 映画自体は普通のドキュメンタリーのスタイルをとっており、彼の生い立ち(孤児院で育ち、周囲に溶け込めなくて…という典型的なパターン)や生前の彼を知る人たちへのインタビューなどによって構成されている。数多くの資料を集め、彼の実像を明確に描こうとする熱意は伝わってくるものの、なんせアーティストとしての彼の側面を知っている人が誰もいないために、彼がなぜあのような作品を描くことになったのかを深く掘り下げていないのが残念なところである。ダーガーへの入門編としては適切な内容だろうが、この映画を観にくるような人なんてダーガーのことはそれなりに知っているだろうに。何種類もの声色を使ってよく1人で会話していたとか、里親になる申請を何度も出していた(もちろん毎回却下)といった“ちょっといい話”はよく紹介されるけど。あと彼の絵をアニメにして見せる手法は、確かに「非現実の王国」のストーリーを理解するのには便利なんだけど、登場人物にこだわりすぎて絵の全体的な構成を映したショットが少なかったのも不満に感じた。

監督はかなり以前からダーガーに入れ込んでいたらしく、この映画では彼が徹底的に美化されているような感じがするのだが、美化しようとすればするほど彼の稚拙すぎるアートとズレが生じていってしまい、見ているうちにシラケ気味になってしまうのも確かだ(事実、館内からは苦笑が聞こえてた)。ダーガーの美化の手段として、監督は彼がいかに敬虔なキリスト教徒であったかを、十字架やキリストなどのショットをふんだんに使って強調しようとするのだが、敬虔なキリスト教徒だって頭のおかしい人はたくさんいると思うんだけどねえ。あとナレーションをダコタ・ファニングがやってるのも何かあざとい感じがした。実際のところ、あのような絵を描く人に興味がある客というのは、純粋に美術的な興味というよりも「フリークショーを見に行きたい」といった程度の興味を持ってる人が大半じゃないの?結局ダーガーが何を表現したかったのかということは、この映画を見た後でも謎のままである。