「GLOBAL FREQUENCY」読了

ウォーレン・エリス作のコミック「GLOBAL FREQUENCY」全12冊をダーッと読む。

これは1001人の様々な分野のエキスパートから構成された世界的組織「グローバル・フリークエンシー」の活躍を描いたもの。彼らはリーダーのミランダ・ゼロのもと、カルト教団のテロや暴走した人工衛星、さらには異星人からの侵略などといった危機に対し、各々のメンバーが特殊な技能を活かして世界を救っていくのだ。「ストームウォッチ」や「アーソリティー」「プラネタリー」の例を見れば分かるように、世界規模の活動をするグループもの、というのはエリスの得意分野ですね。登場人物の大半が毒舌家なのも彼のコミックらしい。「フリークエンシー」は「プラネタリー」ほど話が入り組んでないし、アクションも多めなので比較的気軽に読めるのがミソ。ストーリーはすべて1話完結で、登場人物もミランダ・ゼロとチームの連絡係であるアレフを除けば毎回違うので、前知識がなくてもすんなり読めるかもしれない。

また話によってアーティストが全て違うのが大きな特徴で、スティーブ・ディロンやジーン・ハ、デビッド・ロイドといった人たちがアートを担当している。サイモン・ビズリーやジョン・J・ムスといった、普通のシリーズだったら見かけないようなアーティストも参加していた。俺が知らないアーティストも何人かいたけど、みんな水準以上の出来になっていると思う。

聞くところによると、エリスはこの作品をテレビ・シリーズのスタイルをもったコミックにしたかったらしい。1話完結であるとことか、最後のページにクレジットが出されるところなんかは、確かにドラマの1エピソードを観ているのような感じにさせてくれる。そして実際に、この作品は1話だけテレビ化されているのだ。これについてはまだ未見なので、こんどまた詳しく書きます。

MATT WAGNER ON GRENDEL’S 25TH

俺の好きなアメコミ作家、マット・ワグナーの代表的作品「グレンデル」が発表から25周年を迎えるということで、作品の再販なんかがいろいろ行われるそうな。 意外だったのは「ER」などで知られるジョン・ウェルズのもとで映画化が企画されてるらしいことで、しかも主人公は初代グレンデルことハンター・ローズではなく2代目のクリスティーン・スパーになるそうな。でもグレンデルって本来は「悪の化身」というキャラクターなので、それをどう映画化するんだろう。

んでワグナー本人もグレンデルの新作を出すらしいけど、彼の特徴的なスタイルだった、非常に細かく実験的なコマ割りがここ10年くらい見られないのがちょっと残念なところ。93年に出た「バットマン対グレンデル」なんて緻密な話の展開がコマ割りに非常にマッチしてたのに、その3年後に出た続編なんて結構絵柄が粗くなっていたんだよね。

アメコミ・最近のお勧め

最近読んだアメコミの中で、非常によかったものを3つほど紹介…SGT. ROCK: THE PROPHECY #1 (DC)
アメコミ界の生ける伝説のひとりジョー・キューバートが40年以上にわたって描き続けている、第二次大戦を舞台にしたサージェント・ロックとイージー・カンパニーの冒険の最新作。真夜中のパラシュート降下から市街地での戦車との戦闘にいたるまで、もう構図の取り方や雰囲気の醸し出し方がハンパじゃなく見事。全6巻のうちの#1ということでストーリーは比較的シンプルなものの、これからの展開がとても期待できる内容になっている。大ベテランが手慣れたキャラクターを扱えば、ここまで立派なものが出来るんだよという好例。キューバート先生、今度はぜひ「ENEMY ACE」を再びやってください。

PLASTIC MAN #20 (DC)
天才アーティスト、カイル・ベイカーがプラスティック・マンを手がけたシリーズの最新刊。ベイカーの作品(特にカラーのやつ)はどれも大好きなのだけど、この話もシリアスあり、スラップスティックあり、カリカチュアありといろんな要素が凝縮された、非常に楽しいものになっている。ドタバタ活劇でありながら、現在のDCのコンティニュイティー(「Infinite Crisis」周りのやつ)をしっかり押さえているのも面白い。この人のアートは眺めてるだけで楽しいですね。しかしこれだけ優れた作品でありながら、売れ行きは決してよくなかったらしく、この#20でシリーズは終わってしまうんだとか。なんてこった。賞とかもいっぱい穫ってんのに。残念。

NEXTWAVE #1 (MARVEL)
作ウォーレン・エリス、画スチュアート・イモネン。これすげー楽しい。マシンマンやフォトンといったマーヴェルのC級ヒーローたちがHATEという組織に加わって世界への脅威と戦うという内容なんだけど、話はもう完全にコメディ。エリスが担当してた頃の「AUTHORITY」をさらにブラックにしたというか、スーパーヒーローたちを絶妙にパロっているのがとにかく笑える。ここ最近のエリスってなんか不調になった感じがあったけど(「アイアンマン」とか)、やっぱり才能あるライターなんだと再確認。今になって思えば、「AUTHORITY」もエリスが抜けて、マーク・ミラーが担当するようになってからつまらなくなってったんだよな…。イモネンも以前はアダム・ヒューズのような柔らかい絵を描く人という印象があったけど、今回は結構トンガった感じのアートをこなし、話にうまくマッチさせている。早く次が読みたい。

ARTIST SETH FISHER DIES

アメコミの若手アーティスト、セス・フィッシャーが他界した。 彼の手がけた作品を読んだことは無かったんだけど、「GREEN LANTERN: WILLWORLD」のアートをいくつか見たときに、ものすごく独特なタッチをもったアーティストだな、と強い印象を受けた覚えがある。

訃報を読むまで知らなかったんだけど、彼は実は日本に住んでいて、奥さんも日本人なんだとか。そういえば「VERTIGO POP: TOKYO」という作品について、「日本ではビジュアル系なるものが流行っていて…」なんてことを以前書いてたっけ。ちなみに大阪の7階建てのクラブから転落死したらしい。うーん。

日本在住のアメコミ・アーティストというのは貴重な存在になりえたろうに、その早すぎる死が惜しまれる。彼の公式サイトはこちら。合掌。

「INFINITE CRISIS」途中経過

DCコミックスの大イベント「INFINITE CRISIS」#4を読む。#7まで出るわけだが、とりあえず今まで読んだ限りでは…何か…といった感じ。世間での評判はいいみたいだけど。

個人的に一番ひっかかるのが黒幕の正体。このストーリーの前編にあたる「CRISIS ON INFINITE EARTHS」の最後でアレックス君たちは正義の味方らしく別世界へと去っていったわけで、それが悪者となってしれっとした顔で戻ってくるのは何とも…。一応彼らの目的は「よりよい世界を作ること」なんだろうけど、それって「ZERO HOUR」の黒幕の魂胆とほとんど一緒じゃん。#4でもアンチ・モニターの死体が宇宙空間に普通に漂ってたことになってたり、2代目フラッシュが突然登場するなど、なんか「CRISIS ON INFINITE EARTHS」のよき思い出を荒らしてくれてるような、そんな感じが否めないのです。

とりあえずまだ話の途中だし、#7までにはもうちょっと満足できるような展開になっていることを願います。せめて「ZERO HOUR」よりかはマシなものになってくれよ…。