「100 BULLETS vol.9: STRYCHNINE LIVES」読了


現在続いているシリーズとしては最高の作品だと考えているコミック「100 BULLETS」のペーパーバック第9巻「STRYCHNINE LIVES」がやっと発売された。 前巻の「THE HARD WAY」でストーリーが1つのヤマ場を迎え、最重要人物の1人の死によって終わっていたことから、今回はその死が引き起こす状況の変化を描いた「過渡期」的な内容になるかなと思っていたら、その予想は見事に嬉しく裏切られた。確かに物事の移り変わりが中心的に描かれているものの、過去に登場した様々な人物たちが再び登場し、それぞれの人生が複雑に交差して、皆が1つの大きな運命に引き寄せられるかのようにストーリーがグイグイと進んでいく。途中で意外な再会をする者たちや、衝撃的な死を迎える者たちがいろいろ出てくるわけだが、話が決して唐突もしくは散漫な感じにならず、すべての裏に綿密なプロットがあるかのようなブライアン・アザレロのストーリーテリングはやはり見事。そして上流社会の美女から社会の底辺に住む人々までを生々しく、かつスタイリッシュに描くエデュアルド・リッソのアートもまた素晴らしい。彼の描く危険な男たちの世界があってこそ、この作品は成り立っていると言っても過言じゃないだろう。

スラングや隠喩の多い文章や、謎の多いストーリー展開のおかげで多少読みづらい部分もあるものの、相変わらず他のアメコミでは得られない満足感を与えてくれる傑作。次のペーパーバック発売まで、また1年近くも待たなければならないのが非常につらいのです。

「CIVIL WAR」開始

マーヴェル・コミックスの大イベント的ミニ・シリーズ「CIVIL WAR」の#1を読む。ストーリーはマーク・ミラーでアートはスティーブ・マクニーブン。 話のおおまかな内容は、B級ヒーロー・チームであるニュー・ウォリアーズと、これまたB級のヴィラン(悪党)チームが市街地で戦った結果巨大な爆発が生じ、数百人もの犠牲者が出る大惨事となってしまう。これにより世間ではスーパーヒーローに対する風当たりが強くなり、彼らを規制するための法案が国会に提出されようとしていた。そしてヒーローたちの間でも、この法案に賛成するアイアン・マンたちと反対するキャプテン・アメリカたちのあいだで軋轢が生じ、やがてタイトル通りの「内乱」へとつながっていくのだった…というようなもの。普通はヒーローたちを規制する前に、ヴィランたちへの規制や罰則を強化するもんなんじゃないの?という気がするけどね。

ここ数年のミラーの作品って「アルティメイツ」や「オーソリティー」のように過度に政治的かつ暴力的なものが多く、しかも師匠のグラント・モリソンのようにストーリーをユーモアや奇抜なアイデアでカバーする技量に欠けてるものだから、なんか話がギトギトして嫌だったのです。昔に「スワンプ・シング」を書いてた頃は良かったんだけどなあ。んでこのミニ・シリーズもまた、現実世界のアメリカにおけるパラノイア(パトリオット・アクトとか)が結構露骨に反映されている。でも一読した限りでは、そんなに悪くはなかったかな。確かに内容は政治的なんだけど、ストレートなヒーローものとしてもそれなりに楽しめることと、まだ全7話中の第1話なので、あまり話が深いところまで行ってないというのが主な理由だろう。少なくとも「次もぜひ読みたい」と思わせてくれるくらいの作品。あとスティーブ・マクニーブンのアートは非常にいい。

あと6話でどのような展開になるかまるで分からないけど、ダメダメだったこないだのミニ・シリーズ「HOUSE OF M」よりかはマシなものになるんじゃないだろうか。

「INFINITE CRISIS」読了

DCコミックスの大イベント「INFINITE CRISIS」の最終話である#7を読む。途中での感想については以前に書いたけど、いざ読み終わっても、まあ、何というか、「悪くはないんだけどメチャクチャいいわけでもない」シリーズだったなあ、という感じ。「ZERO HOUR」よりは良かったけどね。 ヒーローたちが悪党と壮絶に戦うシーンなんかはかなり面白いんだけど、やはり気になってしまうのが黒幕の正体。シリーズの前作にあたる「CRISIS ON INFINITE EARTHS」でアレックス・ルーサーやスパーボーイは美しく別世界へと旅立っていったわけで、そんな彼らが悪者となって戻ってくる動機付けがどうも弱いように感じられるんだよね。うーん。最後に惑星型グリーン・ランタンであるモゴが登場したのはマニア心をくすぐられましたが。

まあこのイベントによりDCユニヴァースは相当変わるみたいなので、今後の展開に期待しましょう。

John Cox joins SGT. ROCK’s squad!!!


DCコミックスの代表的戦争コミック、「サージェント・ロック」の映画化が進行してるそうな

コミックは主人公のロック軍曹をはじめ、イージー・カンパニーのワイルドマンやアイスクリーム・ソルジャーといったキャラクターがとても特徴的な作品だけど、これが映画でどのくらいうまく再現されるのかしらん。そして何よりもジョー・キューバートの天才的なタッチをきちんと映画で表すことが出来るのだろうか。ただの戦争映画にならないことを願うばかりです。

「ASTERIX AND THE FALLING SKY」読了

フランスの人気コミック「アステリックス」シリーズの最新刊「ASTERIX AND THE FALLING SKY」を読む。日本では全然知られてないけど、これは40年以上も続いている傑作シリーズで、フランスではテーマパークが造られたほどの国民的作品なのだ。

んでこの「FALLING SKY」、イギリスのアマゾンなんかではずいぶん酷評されていたので覚悟して読んでみたんだけど…

うーん…

何というか…

これは「アステリックス」じゃないでしょ、という感じ。「アステリックス外伝」として読めば楽しめる作品、といったところか。シリーズの特徴であるスラップスティックさは健在だし、アートも活き活きとしていてそれなりに面白いんだけど、「アステリックス」らしさが欠けているというか、宇宙人なんか出してきてどうすんの、というのが正直な感想。

変にフェミニズムを持ち出した「Asterix and the Secret Weapon」と「Asterix and the Actress」や、カーク・ダグラス顔のスパルタカスが出てきた「Asterix and Obelix All at Sea」など、ここ最近のアステリックスのストーリーってあまり好きにはなれなかったんだけど、ついに宇宙人ですか…。最後の傑作が1987年に出た「Asterix and the Magic Carpet」というのは寂しすぎるぞ。アステリックスの原点である「ヨーロッパ各地を旅して暴れまわる」というストーリーには、旅する国が尽きたんでもう戻れないんだろうか。作者2人のうちゴスキニーはずいぶん前に他界し、ユデルゾも相当な高齢になったとはいえ、これが最後の作品ではないと明言しているようなので、次はぜひまたゲラゲラ笑える傑作を出してもらいたいものです。

ちなみにこの話に出てくる宇宙人は、善玉がディズニーで悪玉が日本のマンガの露骨なパロディになっている。どうもユデルゾはディズニーを尊敬していて、日本のマンガは嫌いらしい。こういったパロディは以前からシリーズによくあったし、俺はディズニーもマンガも嫌いなのでどうでもいいことですが。ただ「All at Sea」におけるカーク・ダグラスと同じで、作者の個人的趣味がうまくストーリーに昇華しきれてないのが残念なところか。