「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム」鑑賞

公開中なので感想をさらりと。とはいえヴィランに言及しないといけないので以下はネタバレあり。

  • 前作では6人いた脚本家が2人になった一方で、全体的にストーリーが散漫になった印象あり。ヨーロッパ各地をまわる設定のため、イベント→休憩→イベントといった流れになっているためか。
  • とはいえピーターたち一行が旅行を楽しんでいる(?)のを眺めるのはそれはそれで面白いわけで。ただ大作映画というよりもTVシリーズみたいな展開だな、と感じました。
  • 「アメイジング〜」のときもそうだったけど、ロマンスの部分になるとスパイダーマンってやはり良いですね。若者がドキドキしてるところがうまく表現されているというか。ここは他のMCU映画にない、スパイダーマン特有の強みじゃないだろうか。
  • その一方で敵役がちょっとなあ。ヴィラン自体はリー&ディトコのキャラクターのなかでもその独創的なデザインが好きだし、彼なりの特徴ある戦い方などはうまく描けてると思うのですよ。ただエレメンタルズという相手がアベンジャーズ的というか、路上で戦うスパイダーマン向きではないというか。もうちょっとマンツーマンで戦うようなシーンが欲しかったな。
  • キャストは2作目(あるいはそれ以上)ということもあり、みんな小慣れててよかったのでは。個人的にはベティ・ブラントが前作以上に出てたのが良かった。最後の最後にはあのお方が復帰されて、やはり「アメイジング〜」に欠けてたのは彼だよね〜。
  • とはいえあの終わり方、次作でちゃんと収集がつくのか不安だが、大丈夫なんだろうか。フェイクニュース!で片付けるのかな。
  • 劇中で「アース616」が言及されていたが、アラン・ムーア考案のネタがMCU映画に出てきたのってこれが初じゃないかな?こうしてムーア御大の呪いがMCUにも発動するのか…?

まー今年(昨年)は「スパイダーバース」というホームラン級の傑作があったために、あれと比べると見劣りしてしまうのは仕方ないのだが、全体的には楽しめる作品であったかと。これでマーベル映画のフェイズ3も終わり、今後はスパイダーマンが他の映画にどう関わっていくんでしょうね?

「BORDER」鑑賞

スウェーデン作品で、日本では「ボーダー 二つの世界」の題で秋に公開みたい。

原始人めいた顔つきをしたティナは、スウェーデンの税関に努める女性。彼女は人の罪悪感や羞恥心を感じ取ることができるという才能を持っており、その力を活かして旅行者が持ち込む規定以上の酒や、さらにはいかがわしい映像の入ったSDカードまでも嗅ぎ当てることができた。その能力を認められ、幼児ポルノの調査を手伝うように依頼されるティナ。その一方で彼女は人付き合いを好まず、山奥に恋人とひっそりと暮らしていた。そんな彼女はある日、自分に顔つきのよく似たヴォアーという人物に出会う。何度かヴォアーと会ううちに惹かれていくティナだったが、やがて自分に関する意外な事実を知ることになる…というあらすじ。

原作は「ぼくのエリ 200歳の少女」のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストで、あの作品と同様に現代社会を舞台にしたファンタジー作品になっている。どこらへんがファンタジーか、というのはネタバレになるので書きませんが、まあムーミンが生まれた北欧らしいというか。ただファンタジーといっても特撮描写みたいなものは殆どなくて、大人のおとぎ話、といった内容になっている。

ティナが自分についての事実を知るにつれて、性格的にもセクシャリティ的にも解放されていくのが1つのサブプロットになっているのですが、例によってキワどいシーンもあるので日本では修正入るんだろうか。

監督のアリ・アッバシとか出演者とか、すいませんみんなスウェーデン人なのでよく知らないです。ティナの原始人メークが評価されてこないだのアカデミー賞ではメイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネートされてたけど、単にメークがすごい、というだけの作品ではないです。

「ぼくのエリ」ほどカルト的人気は出ないだろうけど、あの作品が好きなら観ても損はしないんじゃないかな、という作品。

「X-MEN: ダーク・フェニックス」鑑賞

海外でちょっと先に観てきてしまいました。以下はいちおうネタバレ注意。

  • 「ダーク・フェニックス・サーガ」といえばコミック史上に残る有名なストーリーラインだが、ヒーローが強大な力を手に入れたことで悪に転じて、悲劇的な結末を迎える…というストーリーは必ずしも娯楽大作向けではないと思うのですね。コミックにおいても「本物のジーンは海の底で寝てました」とレトコンされてるし、映画でもすでに「ファイナル・デシジョン」で一回やって、あまり面白くなかったし。「アポカリプス」もそうだったが、あまりコミックに沿わないほうが劇場版「X-MEN」は面白いのではないか。
  • 製作時はまだディズニーによるFOXの買収は影響なかったと思うけど、それでも何というか、フランチャイズの末期の疲れみたいなものが感じられる内容になっている。せかしたプロット、拘束時間が短かったのか途中退場する出演者などなど。
  • 映画作りでいちばん避けるべきことは「共感できるキャラクターが誰もいない」状況を作ってしまうことだと思うのだけど、この映画の前半はまさしくそんな感じ。プロフェッサーXは大衆の人気を得るために大統領に媚びへつらってX-MENを顧みないし、ジーンはどんどん悪に転じていくし、他のキャラクターはあたふたしているだけだし。せめて敵キャラがもっと魅力的だったら助かったのだが。
  • とはいえ役者陣が手堅いのは救いで、マカヴォイにファスベンダー、ローレンスといった有名どころが揃って出演しているのはそれでも見応えがあるんじゃないかな。最後の列車のクライマックスとかそれなりに盛り上がったし。ジェシカ・チャステインは別に彼女でなくても良かったんじゃね?と思いますが。
  • 来年の今頃にはマーベル傘下になった新たなX-MENのキャストが発表されて話題になってるんじゃないかと思いますが、FOXのX-MEN(あとライミのスパイダーマン)こそが今のスーパーヒーロー映画のブームを築くもとになった作品だと個人的には考えているわけで、これだけジャンルに貢献したフランチャイズが、このような凡作でひっそりと終焉を迎えることは寂しくて仕方がないのです。ちゃんと劇場公開されただけ「ニュー・ミュータンツ」よりもマシなのだろうけど。

機内で観た映画2019 その1

先週と先々週にと出張が続いて体がダルくて仕方ないのですが、忘備録的に感想をざっと:

  • 「THE BOY WHO WOULD BE KING」:ジョー・コーニッシュの待望の新作ですが日本では例によってソフトスルーだそうな。普通の少年がアーサー王の再来となって活躍する冒険譚だがストーリーは比較的凡庸というか先が読めるものであったような。「ドクター・フー」の特番くらいの出来というか。若きマーリンを演じたアンガス・イムリーという役者がエキセントリックでいい演技をしていて、またどこかで見かけるんじゃないかと。「アタック・ザ・ブロック」並みの出来を期待していると失望するであろう作品。
  • 「FIGHTING WITH MY FAMILY」:これ監督がスティーブン・マーチャントなんだよな。でも前に監督した「CEMETERY JUNCTION」みたいなキッチンシンク的な家族ドラマになっているわけでもなく、WWE製作によるWWEのプロパガンダ映画みたいになっている。WWEのプロレスラーになった少女の物語だけど、WWEがすごく良いところのように描かれているのですもの。ニック・フロストとか出てるし、そんなに悪い作品でもないのだけどね。主人公が最後までマイクパフォーマンスが下手だったような。
  • 「FREE SOLO」:ナショジオ製作だからかテレビ番組のジャンルに入ってたが、れっきとしたアカデミー賞受賞映画ですがな。ヨセミテ公園の絶壁エル・キャピタンを初めてフリーソロ(道具なし)で登攀したアレックス・ホノルドのドキュメンタリーだが、最初の1時間くらいは地上にいる彼の暮らしを追ってるので、ジミー・チンの前作「MERU」みたいな緊張感はなし。しかしいざ彼がエル・キャピタンを登るところになると、頭のおかしいような光景がいろいろ出てきて流石に圧倒される。あとホノルドのガールフレンドが俺の好きなポルノ女優によく似ていて、なんか羨ましいと思いました。
  • 「レゴ ムービー 2」:前作はそのメタなオチで皆をアッと言わせた作品だったが、続編はじゃあどうするのかというと、そのオチをそのまま引っ張っておりました。でも最初から仕掛けがわかっているとあんまり楽しめないのよ。いっそ前作の設定を捨ててレゴの世界に特化した話にしたほうがよかったんじゃないだろうか。

「Batman & Bill」鑑賞

いまちょっとVPNをゴニョゴニョしてアメリカのHULUに加入してまして、いくつか観たかった作品をチェックしているのでございます。そのうちの1つがこれで、バットマンの知られざるクリエイターであるビル・フィンガーにまつわるドキュメンタリー。

バットマンのクリエイターといえばアートも担当したボブ・ケイン(写真左)が有名だし、コミックも映画も長らくケインのみが唯一のクリエイターとしてクレジットされていたが、実際のキャラクター設定などはケインの友人だったビル・フィンガー(写真右)が行った、というのはアメコミファンのあいだで長らく語られてきた話でありまして、ここらへんは明確な証拠などは存在しないものの、ジェリー・ロビンソンやカーマイン・インファティーノといった同時代のアーティストが証言していることだし、ケイン自身もフィンガーの死後にしれっと認めてたりするのでまず間違いないのでしょう。

ケインの当初のデザインでは凡庸な格好だったバットマンを闇の騎士としてのデザインに変え、ジョーカーやリドラー、ブルース・ウェインといったキャラクターを生み出していったのが実はフィンガーであることが、このドキュメンタリーでは語られていく(ここらへんロビンソンの貢献もあったはずなので、あまり明確ではないのだが)。

ボブ・ケインはアーティストとしてよりもビジネスマンとして腕のたつタイプであったようで、DCコミックスには彼が唯一のクリエイターであると伝え、他のアーティストがバットマンを描くようになっても自分の名前のみを作品にクレジットさせ、そして60年代にアダム・ウエスト主演のTVシリーズが爆発的人気を博したことで彼の名前もコミックファン以外にも知られるようになる(実はフィンガーがTVシリーズ版のエピソードを1つ執筆していたことは知らなかった)。彼がDCコミックスとの間に「バットマンのクリエイター表記には自分の名前のみを載せること」という契約を結んだ、というのは長らくファンのあいだで語られてきた話だが、その契約が実際に存在するのかはこのドキュメンタリーでも明らかにされない。

一方のフィンガーはコミック以外の文章なども書いて細々と糊口をしのぐ有様で、ケインが手にした名声とは無縁の生活を送っていた。それでも初期のコミコンのゲストに招かれ、当時のファンジンに彼がいかにバットマンに貢献したかというコラムが載せられたものの、ケインがそれに反論する手紙をそのファンジンに送っていたりして、まあケインはフィンガーによる貢献の事実を明らかに否定しようとしてたようです。そうしてフィンガーは家賃も払えぬまま、ニューヨークのアパートで1974年にひっそりと孤独死し、墓碑もない墓に葬られてしまう。

これらの話はアメコミのファンならば比較的よく知られているもので、ジャック・カービーや「スーパーマン」のシーゲル&シュスターなど、コミックのクリエーターが出版社から満足な扱いを受けなかった話は他にもあるのだが、このドキュメンタリーは単にフィンガーの紹介をするだけでなく、作家のマーク・タイラー・ノーブルマン(写真上)の活動を追っていく。

子供向けの本を執筆しているノーブルマンはフィンガーと彼が受けた不遇のことを知り、彼の名誉を回復させるために積極的な調査を行なっていく。その一環としてフィンガーがかつて住んでいたアパートを訪れたり、近所のフィンガーという姓の人にかたっぱしから電話したりして、なんかストーカーと勘違いされそうなこともやってるのですが、すごくいい人そうなんですよノーブルマンさん。ちなみに彼はこの調査をもとにフィンガーの伝記も書いています。

どうもアメリカの法律では、フィンガーがバットマンのクリエイターでもあるよ、と主張するのは親族が行わないといけないらしく、ノーブルマンはフィンガーの子孫を探しに奮闘する。2度結婚したフィンガーは最初の妻との間に息子のフレッドをもうけていたが、フレッドはゲイであり1992年にエイズで亡くなっていた。

こうしてフィンガー家の血筋は絶えたかのように思われたが、フィンガーの妻の親族と話したところ、実はフレッドは一度結婚しており、アシーナという娘がいることが判明、ノーブルマンは早速彼女に会いにいく。そして彼女(とその母親)の口から、フレッドも彼なりに父のビルのことを想っており、バットマンのクリエイターであることを認めてもらおうと過去にDCコミックスを何度か訪問していたものの、願いは叶わなかったことが明かされる。

しかし当時に比べてバットマンはDCコミックス、さらにはワーナー・ブラザースにとって非常に重要なフランチャイズになっていた。よって企業としても余計な訴訟は避けたいこと、そしてノーブルマンの活動も功を奏して、アシーナは映画のプレミアに招待されたり、ワーナーから貢献料を払われたりする。これを見て、DCコミックスいいことやってるね!と一瞬思うのですが、そのうち彼女のもとには、バットマンに関する一切の権利を放棄するよう求める手紙がワーナーから送られてきてしまう。

これに不満を感じた彼女は、ワーナーと交渉することを決断。あまり著作権の定義とかよくわからないのですが、ビル・フィンガーがバットマンの創造に関わったことは明らかであることなどからワーナーが折れる形になり、バットマンの誕生から80年近く経ってから初めて、フィンガーがバットマンの共同クリエイターとしてクレジットされることが認められ、その後公開された「バットマン vs スーパーマン」でフィンガーの名前が出てくるのをノーブルマンが見つめるところでドキュメンタリーは終わる。

バットマンの知られざるクリエイターをただ紹介するだけのドキュメンタリーかな、と思ったら後半は一人の男性の根気強い活動の話になり、それが実際に物事を変えるという展開は見ごたえのあるものでした。バットマンに限らず、アメコミのキャラクターってクリエイターが誰だか明確にされていないものが意外と多いので、これが状況の改善につながっていくといいなと。劇中ではケヴィン・スミスやロイ・トーマスに加えてなぜかトッド・マクファーレンがインタビューされていて、ニール・ゲイマンと著作権であれだけ争ったお前が何を言うか、という感じでしたが。

あとはね、クリエイターを自認する人たちは子孫作っといたほうがいいよ、という重要性が感じられる内容でした。ゲイでも子供つくっておけば、あとで印税がっぽり貰えるかもしれませんから!