「THE DAY SHALL COME」鑑賞

FOUR LIONS」に続くクリス・モリスの監督作がしれっと出ていたので早速鑑賞。

舞台はマイアミ。モーゼス・アル・シャバズはアヒルを通して神が自分に語りかけてきたという妄想を抱いた男性で、妻子や友人などを集めてスター・オブ・シックスという数名ほどの教団を作り、農園を営みながら細々と活動を続けていた。彼の教えは白人社会の転覆を訴える一方で、銃器の使用を禁じるという決して暴力的なものではなかったが、教団の行いはFBIの知るところとなる。テロを防止していることをアピールしたいFBIは、モーゼスの教団をテロ組織にでっち上げるべく、イスラム国のメンバーが資金と武器を提供したがっているという話をモーゼスに持っていく。銃の受け取りに難色を示したモーゼスだが、農園の立ち退きを迫られて金に困っていたため、この話を受け入れることになる。しかしFBIとマイアミ市警の主導権争いなども絡んで、話はあらぬ方向に展開していく…というあらすじ。

テーマ的には「FOUR LIONS」によく似ていて、あちらは頭の弱いテロリストたちの話だったのに対し、こちらは間抜けなFBIの話といったところ。ただしこの映画では本当のテロリストが出てこないというのがポイントなわけだが。愉快なドタバタを描いているようで、終わり方がメランコリックなのも前作と同様。

ポスターに書かれている「100の実話に基づいた物語」という文言は映画の冒頭にも出てくるのだが、FBIがテロリストをでっちあげているという実例はモリスが調査をしているうちに何百件も目にしたものらしい。

映画のプロットによく似ているのがマイアミでカルト教団(イスラム教徒ですらない)が逮捕されたLiberty City Sevenと呼ばれる事件で、あちらはFBIが偽のアルカイダになりすまして、シカゴでのテロを持ちかけたものなのだとか。教団のメンバーを起訴する確固とした証拠が見つからず何度も裁判が行われたようで、それでも結局は何年にも渡る禁固刑が下されたらしい。

これに合わせてクリス・モリスのインタビュー映像を観てみたけど、FBIは黒人をテロリストにでっちあげている一方で、白人至上主義団体は標的にしない、と糾弾しているのが印象的であった。ヘイトデモは警察が守る一方で、反政府デモは厳しく取り締まる日本にも似てますね。

映画の出来としては、モーゼスが頭がちょっとおかしい人として描かれ、FBIも目的のためなら手段を選ばない人たちとして登場するので、誰にも感情移入できないのがちょっと辛かったかな。あと「FOUR LIONS」を先に観ているとインパクトが弱まると思う。

出演は、モーゼスを最初に見つけながらも、あとで良心の呵責を感じるFBI捜査官にアナ・ケンドリック。あとは知った顔ではコメディアンのジム・ガフィガンがチョイ役で出ています。モーゼスを演じるのはほぼ新人のまーしゃんと・デイビスという役者だが、「FOUR LIONS」のあとにリズ・アーメッドがブレイクしたように、彼の名前を今後いろいろ見かけることになるかもしれない。

まあクセのある映画であることは間違いないのだが、いろいろ考えさせられる風刺映画ではありますので、「FOUR LIONS」およびアーマンド・イアヌーチの「IN THE LOOP」とともに、いずれ日本でも公開されることに期待。

「アド・アストラ」鑑賞

なんか日本では評判がイマイチのようですが、個人的には大変楽しめた作品だった。「EUROPA REPORT」とか「THE WILD BLUE YONDER」とか「VIRTUALITY」など、ホラーからアート映画からTV番組まで、おれ宇宙探索ものが好きだということを改めて実感しました。公開中なのでざっと感想を書くけど、結末についても書きたいので、以降はネタバレ注意。

  • 海王星にて消息を絶ったけど生きているらしい父親を探しに、遠路はるばると旅をして道中いろんな危険に見舞われる息子の話だが、話のプロット的には「地獄の黙示録」によく似ている。主人公のモノローグで心境が語られるところも。あるいはさらに、監督の前作「ロスト・シティZ」にも似ているところがあったな。父親の執念に付き合わされる息子の姿を、あちらは父親の観点から描いていたが、こっちでは息子の観点になっているというか。
  • ハードSFっぽい内容のようで、基本的に焦点が当てられるのは主人公の内面であり、いわゆるインナースペースSFというのはこういうのを指すの?
  • 撮影監督が同じホイテ・ヴァン・ホイテマなので、「インターステラー」っぽく見えるのは仕方ないかと。
  • トミー・リー・ジョーンズやドナルド・サザーランドといったいい顔のおっさんたちが出ている一方で、話の要となるのはやはりブラッド・ピットの抑えた演技でして、こないだ「ワンス・アポン〜」でもっとチャラい役を演ってたのと見比べても、いい演技ができる役者になったと思うことしきり。
  • ラストはね、戻ってくるところまで映さなくても、余韻をもたせてその前で切ってしまっても良かったと思うが、これは人の好みそれぞれでしょうね。
  • そして、監督は非常にリアリスティクな科学描写をしたかったらしいけど、劇中の宇宙船って反物質を燃料にした駆動装置で、79日で火星から海王星から行ける代物なんでしょ?それって燃料ロケットなどに頼らない、スター・トレックなみのスラスターとか開発できなかったのか。宇宙ステーションでサルを研究しているようなレベルの技術じゃないだろ。
  • 「オデッセイ」もそうだったが、火星や月面での低重力の描写を完全に無視してましたね。リマ・プロジェクトの宇宙船もしっかり重力があったような。

まあ細かいツッコミは野暮だから置いとくにしても、個人的には大変良かった作品でした。

「BRIGHTBURN」鑑賞

ジェームズ・ガンがプロデュースしたSFホラー。脚本がガンの従兄弟ふたりで、監督も「ガーディアンズ」にチョイ役で出演した人という、ジェームズ・ガン人脈で作られた小品になっている。日本では映画配給に乗り出した楽天が公開するらしいですが、いつになることやら。以降は思いっきりネタバレしてるので注意。

プロットは、まあ予告編見ればわかるのですが、一行で説明すると:

もしスーパーマンが悪人だったら?

というもの。カンサスの農家に赤ん坊を乗せた宇宙船が墜落し、ちょうど子供を欲しがっていた農家の夫妻がそのまま赤ん坊を養子として育てることに。ブランドンと名付けられた少年は、しかし12歳になると超人的な能力を見せつけるようになり、それと同時に奇怪な言動をとるようになり、周囲の人々を不安がらせるようになる…というのがおおまかなあらすじ。

ブランドンの能力は怪力・飛行・ヒートビジョンといったところで、スーパーマンそのまんま。あとちょっと電気器具を操れるみたい。赤ん坊のときに乗ってきた宇宙船が納屋に隠されているところなんかも、明らかにスーパーマンを意識してますな。DCコミックスにキャラクター使用料を払ったほうがいいレベル。まあドリームワークスの「メガマインド」も設定が似てましたが。

ブランドンを育てた夫妻はいい人たちであるものの、悲しいことにブランドン君はそんな両親の愛情を無下にしてヒネくれたクソガキとなり、変なエリート思想を抱いて自分の気に食わない連中を痛い目に遭わせていく。12歳ということで日本の中学二年生より年下だが、言動はいわゆる中二病そのものでして、クラスメートの女の子にストーカー行為をしたり、「ブランドンマーク」を考案して事件の現場に残していくものだから、周囲にすぐ疑われてやんの。

予告編を見れば話の内容が大体わかってしまうから、最初の30分くらいは話の展開が読めるので結構しんどい。後半になってからもブランドンが悪に目覚めて暴走する展開はかなり想定通りというか。終わり方がちょっと意外だったのと、エンドクレジット中の映像でかなり強烈なネタをかましてくる(左下のキャラクターに注目)ところは面白かったけど。

劇中にノートパソコンと携帯電話がちょっと登場するほかは、田舎が舞台ということもあり全体的にレトロな感じがあって、「オーメン」みたいな70年代のホラーっぽい雰囲気もあったかな。それなりにグロ描写もあるし。

「マン・オブ・スティール」はスーパーマンの宇宙人としての側面を強く描いていたけど、こちらはそれにホラーの要素を加えたもの。あまり怖くないけど。いかんせん脚本が稚拙で、それこそ中学二年生が考えたような内容の映画でした。このままDCユニバースの映画とクロスオーバーとかしたら非常に面白いのでしょうが、まあ有り得ないでしょうね。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」鑑賞

公開中なので感想をざっくりと。ネタバレ注意。

  • ブラッド・ピット主演というわけではないが、タランティーノ作品としては雰囲気的には「イングロリアス・バスターズ」に似ていた。あっちはタランティーノの戦争映画の趣味が詰め込まれていたのに対し、こっちは60年代のエクスプロイテーション映画とかマカロニ・ウェスタンの趣味が詰め込まれているというか。
  • 「バスターズ」ではヒットラーが歴史改変の憂き目に遭っていたので、こっちもそんなオチになるんじゃね?と思ってたら本当にそうだった。よってラストの展開はそんなに驚きはなし。
  • あとブラピのキャラがブルース・リーと戦う展開も、リーの娘がクレームを入れたことで結果を知ってしまったので、意外性はなし。
  • というわけで話の展開がなんとなく分かっていたし、そもそもの脚本がファーストアクトにセカンドアクトにサードアクトときっちり組まれているような構成ではないし、ただ当時のハリウッドの雰囲気を眺めるような、そんな内容になっていた。
  • つまりタランティーノの趣味の世界に2時間以上も付き合わされるわけだが、いろいろ小ネタは多いし、ブラピの車の飛ばし方とかに爽快感があるので、観ていて飽きることはない。尺が短く感じられたな。
  • 小ネタといえばラジオのニュースとかもいろいろ言ってるのだけど、日本語字幕がさすがに追えていなかったのが残念。
  • タランティーノ映画の常連も「ザ・ギャング」としてたくさん出てきて、シーンがカットされたティム・ロスまでもがクレジットされてて、なんかタランティーノの集大成みたいでしたな。
  • 常連以外でいうと、ダミアン・ルイスのマックイーンが微妙に似てなくていい感じ。ティモシー・オリファントの役って実在した役者なんすね。エミール・ハーシュは暴行事件でホサれたかと思ってたがバリバリ出演してるな。
  • 観た後に心に何か残るのか、というと何も残らない作品かもしれないけど、観ていて普通に楽しめるものでした。タランティーノはこのまま60年代のノリで「スター・トレック」撮ってしまえば良いのでは。

「The Standoff at Sparrow Creek」鑑賞

良い評判を聞いていた低予算映画。ヘンリー・ダナムなる人の初監督・脚本作品らしい。

アメリカのとある片田舎の夜。その土地の民兵組織のメンバーであるギャノンは、警察無線を聞いているうちに何者かが警察官の葬式において銃を乱射し、逃走していることを知る。自分たちの組織にあらぬ疑いが向けられることを危惧したギャノンは、組織のほかの6人のメンバーたちとアジトに集結する。そこでしばらく潜んでいようという計画だったが、保管していた銃が1つ無くなっていることが発覚し、彼らの中に銃撃犯がいる疑いが出てきてしまう。メンバーのうち誰が犯人であるかを突き止めるため、元警官でもあるギャノンは調査を始めるのだが…というあらすじ。

舞台は夜のアジトだけで、女性も一切登場しないまま、ムサい男たちの腹の探り合いが繰り広げられる密室劇になっている。メンバーにはそれぞれアリバイがあり、彼らに対してギャノンが尋問をしていくのだが、メンバーのひとり(ギャノンのブラザーらしいのだが、実際の兄弟なのかはいまいち不明)は実は覆面警察官であり、ギャノンもそのことを知っていて、彼には他のメンバーから危害が加えられないよう苦心するというのが話にヒネリを加えている。

閉じこもった状況のなかで緊迫した状況が続き、外部の様子は警察無線を傍受することによってのみ知る、という展開はゾンビ映画に通じるものがあるな。最後のオチは、あとになって考えるとなんかしっくりこないところもあるけど、まあいいでしょう。

ギャノンを演じるのがジェームズ・バッジ・デールで、あとはパトリック・フィッシュラーとかクリス・マルケイなんかが出ています。デビュー作としてはどことなく設定が似てる「パルプ・フィクション」ほどに洗練された出来ではないけど、悪い作品ではないので、今後もこの監督のことはどこかで目にしていくんじゃないだろうか。