「フェアウェル」鑑賞

2週続けてオークワフィナ作品だぜ!日本では4月に公開される映画。

子供の頃に両親に連れられて中国からアメリカに移住した女性であるビリーは、中国にいる祖母がステージ4の癌にかかっていることを両親より知らされる。末期癌は本人には告知しないという中国の風習のもと、ビリーの一家および伯父の一家は、ビリーの従姉妹が結婚式をするという名目で中国に集まり、祖母の前では健気にふるまうのだが…というあらすじ。

咳はするものの自分が癌であることはつゆ知らずに身内のことをあれこれ言う祖母と、そんな彼女に気を使う親族たちの光景を淡々と描いた内容で、あまりコメディ要素はないかな。

A24製作のアメリカ映画だが内容は完全に中国映画で、監督のルル・ワンの実体験に基づいた話なのだとか。親族が集まったということでやたら料理の量の多い食事シーンが続くなか、中国とアメリカの違いとか、変わりゆく中国の風景などがいろいろ語られていく。中国に残った親族がビリーの母に「金持ちになりたいなら中国に来ればいいのに〜」とか言うのが時代ですかね。ビリーの父が「俺はアメリカ人だ」と言うのに対し、日本に移住したというビリーの伯父が「俺は中国人だ」と言うのも興味深かった。その伯父の息子が日本人と結婚式を挙げるということでみんな中国に集まったわけだが、中国語を離せない日本人女性にやはり一番共感を抱いてしまったよ。

オークワフィナは従来の役回りとは違って、中国人とアメリカ人のアイデンティティの間で揺れながら、親族のなかでもしっくりこないビリーの役を好演。中国語もペラペラ喋っていて、「バーニング 劇場版」のスティーブン・ユァンもそうだけど、バイリンガルのアジア人俳優っていろんな役が出来るよなあ。ビリーの父親役はツィ・マーで、祖母を演じる赵淑珍も中国では名の知られた女優なのだとか?

なおこの作品、実話をもとにしただけに製作後にちょっとした出来事があって、映画のラストに関わることなので白文字で書きます:

劇中の最後において祖母は亡くならず、現在においても元気であることが伝えられるのだが、映画製作の時点まで彼女が癌であることは彼女に告知されず、周囲は必死に隠してたそうだが、製作後のレビューを読んで彼女は初めて自分が癌であることを知ったそうな!お祖母さんタフだねえ。

自分も年老いた親を持っているので、いろいろ考えさせられる作品であった。よくできた小品。

「HONEYLAND」鑑賞

こんどのアカデミー賞でドキュメンタリー映画賞だけでなく外国語映画賞にもノミネートされたマケドニアのドキュメンタリー。以降は最後まで内容を語ってるのでネタバレ注意。

舞台となるのは北マケドニア共和国(「北」をつけないと怒る人たちがいるらしい)の田舎村。そこに寝たきりの母親と住むハティゼ(Hatidze )という女性は高い崖の上にいる蜂の巣や、自分の家の近くに作った蜂の巣から蜂蜜をとり、それをバスに乗って首都のスコピエに行って売ったりして、細々と暮らしていた。そんな彼女の家の隣に、7人の子供をもつ一家が引っ越してくる。彼らは牧畜を生活手段としており、ハティゼとも仲良くなるが、やがてハティゼが行っている養蜂を自分たちも行おうと巣箱を大量に持ち込み…という話。

撮影には3年が費やされたそうだが、作品自体の尺は90分もない。しかもナレーションもテロップもなく、ハティゼの名前もろくに紹介されないまま話がどんどん進んでいくので、登場する人々の素性などをとにかく憶測しながら観ていくことになる。ハティゼの経歴や、彼女がなぜ養蜂を始めたなどかの説明は一切なし、母親が85歳だというので、彼女自身は60前後くらいだろうか。

ハティゼが蜂蜜を集める蜂は岩場のあいだに蜜蝋を作るという、おそらく日本にいないタイプの蜂で、こういう野生の蜂の蜜をとって暮らす人はマケドニアでもごく少数であるらしい。とはいえ必ずしも自然ドキュメンタリーというわけでもなく、とにかく製作者の意向が分からない作品ではあるのだが、個人的には田舎でのミクロ経済が描かれているのが印象的であった。

ハティゼの隣人一家は決して悪い人たちではないのだが、家族を養うために父親がハティゼの蜂蜜に興味を持ち、自分たちも養蜂をやってみようと巣箱を大量に仕入れてくる。ハティゼも親切に養蜂のやり方などを教えていたのだが、父親は商人(だと思う。見るからに強欲そうな人物)に大量の蜂蜜を仕入れるように要求されてしまう。蜜蝋を巣から取るときも半分だけ取り、半分はそのまま蜂のために残すというハティゼと違って隣人の父親は蜜が欲しいために蜂を乱獲するようになり、やがてそれはハティゼの蜂にも影響をもたらすことになる。

結局のところ隣人の養蜂はうまくいかず、おまけに飼っている牛たちも謎の病気によって大量死し、彼らは別の土地へと去っていく。ハティゼも元に暮らしにすんなり戻れる訳ではなく、自分はこのあとどうなるのかと嘆いたりするのだが、母親が無邪気に「結婚すりゃいーじゃん」とか言い出すのが、同じ独身者として観ててひやっとしました。そんな母親もやがて死に、独りになったハティゼが外を歩くシーンで映画は終わる。なおこの映画が高い評価を得て賞などを獲得したことで、製作者たちはハティゼに新しい家を買ってあげることができて、彼女は親族たちの近くで暮らしているんだそうな。

とにかく説明が一切ないドキュメンタリーなので、これを観てどういう感想をいだくかは、人によってかなり違ってくるかもしれない。自然の描写は美しいし、それを寡黙に見つめるハティゼの姿もいろいろ印象的でした。外国語映画としては先日の「MONOS」のほうが良かったけど、ドキュメンタリー部門に選ばれたのは納得できるような作品でした。

「MONOS」鑑賞

昨年のサンダンスで高い評価を得た、コロンビアとアメリカ合作の映画。IMDBなんかでは「猿」という邦題がついてるのだけど、日本公開は決まってるのかな?

舞台となるのは南米の某国。内戦が続くその国において反政府ゲリラは高地に建つ廃墟を占領し、そこに誘拐したアメリカ人女性を人質として拘留していた。その廃墟の管理にあたるのは10代の少年少女からなる8人の兵士たちで、彼らの上司はごくまれに指導にやってくるのみ。兵士とはいえまだ若者である彼らは他愛ない遊びに明け暮れるような日々を過ごしていたが、戦火が拡大したり人質が逃走を試みたことで彼らはやがて野蛮化していき…というあらすじ。

話の背景はかなり曖昧にされていて、舞台となる国もコロンビアのようだが明確にはされていない。ゲリラ組織の名前はそのまま「組織(THE ORGANIZATION)」で、彼らが何と戦ってるかの説明はなし。高地を守る少年少女たちは上司には「モノス(猿)」と呼ばれ、メンバー同士は「ウルフ」「ドッグ」「レディー」「ブームブーム」といったニックネームで呼びあうほか、「ランボー」という兵士は性別も曖昧な感じ。彼らの監視下に置かれる人質も「ドクター」と呼ばれるだけ。そうした意味ではかなり抽象的な内容になっている。

内容はゴールディングの「蝿の王」にインスパイアされたそうで、自分たちの世界を与えられたあどけない少年少女たちが疑心暗鬼に陥り、仲間割れしていくさまが生々しく描かれている。そんなに予算は高くないと思うが撮影が非常に美しくて、標高4000メートルを超える高地における雲の光景とか、ジャングルにおける水中撮影とかが綺麗に撮られている。これ軍隊とか地元スタッフの協力があったのかな。あれだけの高地で撮影された映画ってそう多くはないはずなので、後半から舞台がジャングルに移ったのが少し残念ではあった。

監督はコロンビア人のアレハンドロ・ランデス。役者は人質を演じるジュリアンヌ・ニコルソンと、少年たちのリーダー役を務めるモイセス・アリアス以外はみんな演技経験ゼロの人たちを起用したそうだが、それでもスタントなしで激流に身を投じたりして、体当たりの演技を見せ付けています。モイセス・アリアスってディズニーの「ハンナ・モンタナ」出身だそうだけど、アイドルみたいな雰囲気はゼロで怖いリーダーを演じ切ってます。あとゲリラの上司を演じる人が低身長なのに筋肉モリモリですごいのだが、実際にコロンビア・ゲリアで戦ってた人なんだそうな。

音楽を「アンダー・ザ・スキン」のミーカ・リーヴァイが担当していて、音楽が流れるシーンは多くないものの、使われている箇所では非常に印象的な音楽になっている。というか音楽が派手すぎてシーンを食っちゃっているような印象も受けるのだけど、そういうのは監督がどこまで意図しているのだろうかと、こないだ同じくリーヴァイが音楽を担当したジョナサン・グレイザーの短編を見たときも考えてしまったのです。

ゲリラのメンバーが上司の前でお互いの不正をチクりあうシーンもあって、連合赤軍などでも同様のことが行われたんだろうか。ただ映画自体は決して政治的なものではなく、もっと人間の本質に迫るようなものであった。高い評価も納得の傑作。

2019年の映画トップ10

3年前にやったように、上位5位と下位5位を順不同で観た順に並べていく。ちなみにみんな大好き「アイリッシュマン」は未見な。

<上位5位>
・「アベンジャーズ/エンドゲーム
前作よりもずっと楽しめる内容になっていたし、きちんとキメるところはキメて、長年にわたるマーベル作品の流れをきちんと締めくくる出来になっていた。これから何が続くにせよ、この作品までの盛り上がりを再現するのは難しいだろう。

・「アド・アストラ
今年は「ハイ・ライフ」もそうだったけど、孤独な宇宙探索ものって個人的に好きなのです。この監督の前作に続き、探検に執着する父子の姿が良かった。ブラピは「ワンス・アポン〜」とあわせて今年は良い演技を見せていたな

・「BOOKSMART
飛行機で観たので、内容はたぶんカットされていると思う。それを置いておいても、同級生たちのあいだで空回りするガリ勉女子ふたりの青春物語が、観ていて大変切ないのです。

・「THE ART OF SELF-DEFENSE
これも飛行機で。巷で話題になったToxic Masculinityが男性に及ぼす効果を、暗く、そして面白おかしく描いた傑作。主役のジェシー・アイゼンバーグがとにかくハマっている。これもっと話題になっても良いのになあ。いずれカルト人気を誇る作品になってほしい。

・「パラサイト 半地下の家族
そしてこれも飛行機で。どこに話が着地するのか分からないまま、ハラハラ感を抱きながら観続け、やがて社会格差を鋭く突いたオチに驚く。韓国映画は「バーニング 劇場版」も良かったが、あれもまた社会格差をテーマにしていた。

<下位5位>
・「アクアマン
DCコミックスが「ジャスティス・リーグ」の呪縛から離れて、好きにやろうぜ!というスタンスをとったらちゃんと面白いものができてしまった。「シャザム!」も「ジョーカー」もそうだけど、無理にユニバース作りとか気にしなくてもええんよ。

・「WHAT WE LEAVE BEHIND
映画なのか?と言われると微妙だけど、まあ劇場公開したしぃ。自分が出資した「DS9」のドキュメンタリーが完成したのを見ると嬉しいじゃないですか。元ライターたちが1日だけ集まって続編のプロットを投げ合う光景も大変勉強になった。

・「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」
ストーリーが雑なのは重々承知しているのですが、とにかく監督の怪獣愛がひしひしと伝わってくる作品でした。怪獣がいればすべてオッケー!株価も上がるしあなたもモテモテ!みんなハッピー!といったラストは、多くの映画人が見習わなければならないと思う。たぶん。

・「アンダー・ザ・シルバーレイク」
日本だと昨年公開ですが、アメリカ公開にあわせて観たということで…個人的にはすごくトマス・ピンチョンの小説に似ていると思った。主人公が意味不明な陰謀に巻き込まれていく様が大変面白かったです。

・「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
純粋なフーダニットかというとそうではないかもしれないけど、豪華キャストがお互いを罵倒しながら話が二転三転していくのが面白かった。ライアン・ジョンソンはやはりSFよりもミステリーが似合っている。

「シルバーレイク」を昨年の作品として省くなら、「THE NIGHTINGALE」あたりが入るかな。世間の評判が高い「ワンス・アポン〜」や「ジョーカー」はさほどでもなかったような。昨年の「ROMA」にしろ今年の「アイリッシュマン」にしろ、配信系のオリジナル映画もちゃんとチェックしないといかんですね。

「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」鑑賞

ディズニーがFOXを買収した後の作品なので、あの往年のFOXファンファーレ&ルーカスフィルムのロゴのオープニングが観られるかと期待してたんだが…ネズミはそんなに寛容ではなかった。以後はネタバレ注意。

結局やはりエイブラムスだよねえ。何をすれば観客が喜ぶかを計算して映画を作っているだけで、自分の芸術性などは二の次。だから結局のところ無難な作品した作れなくて、過去のレガシーにおんぶにだっこしてるだけ。彼の作家性を伺わせるトレードマークといえば、目障りなレンズフレアくらいじゃ無いだろうか。しかも今回顕著なのは、自分が撮らなかった前作を嫌ってるんじゃね?と思わせる展開があったこと。

いや確かに「最後のジェダイ」はプロット的にはいろいろ問題あったけどさ、少なくとも「エピソード4」の焼き直しだった「フォースの覚醒」よりかは新しい要素を取り入れようとしていたじゃん?フォースはジェダイのみが持つ特権ではなく、もっと誰もが秘めているものという扱いだったじゃん?それが今回はあからさまな血統主義にとらわれていて、ジェダイもシスもみんな先祖が偉大だったのでフォースを使えるんですという展開。「ファントム・メナス」でミディクロリアンのコンセプトが紹介されたときは満遍なく叩かれたけど、少なくともあっちは自然の生物と一体になることでフォースが使えるようになる、という考えがあったわけで、祖父がフォース使えたので自分も使える、というのよりもずっと理に適ってると思うけどね。いちおう擁護しておくと一般人のフィンがフォースを感じられるようになっているのは明白だったが、そこを深掘りすることは全くなかったな。

あとプロットについて言うと、今回に始まった話ではないが、ストームトルーパーって命令に従順に従わせるためにクローン培養してるんじゃなかったっけか?なんで命令に背くような一般人を拉致してストームトルーパーやらせてるんだ?

出演者はね、リチャード・E・グラントが出てたのが嬉しかったな。ここ数年はアメリカの話題作になぜかよく出ているのだけど、往年のファンとしては嬉しいこってす。あとおれはドミニク・モナハンをずっとジミ・シンプソンだと思って観ていました。

もちろん前述したように観客を喜ばせるツボはちゃんと押さえているので、及第点はとれている出来にはなっていると思うのですよ。美しいショットもいくつかあったし、えらく懐かしいキャラも出てきたし。その反面、話をとにかく予定調和にまとめようとしているのが残念であった。

そんでこれによって「スター・ウォーズ」が完結するかというと、当然そんなことはなくて、金を産む限りはネズミがひたすら絞り取るでしょ。それでもエピソード1〜9の枠からは外れたものになるだろうから、その際はエイブラムスなどではなく、もっと新しいことをやるのに意欲的な監督を起用してほしいところです。