「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」鑑賞

ディズニーがFOXを買収した後の作品なので、あの往年のFOXファンファーレ&ルーカスフィルムのロゴのオープニングが観られるかと期待してたんだが…ネズミはそんなに寛容ではなかった。以後はネタバレ注意。

結局やはりエイブラムスだよねえ。何をすれば観客が喜ぶかを計算して映画を作っているだけで、自分の芸術性などは二の次。だから結局のところ無難な作品した作れなくて、過去のレガシーにおんぶにだっこしてるだけ。彼の作家性を伺わせるトレードマークといえば、目障りなレンズフレアくらいじゃ無いだろうか。しかも今回顕著なのは、自分が撮らなかった前作を嫌ってるんじゃね?と思わせる展開があったこと。

いや確かに「最後のジェダイ」はプロット的にはいろいろ問題あったけどさ、少なくとも「エピソード4」の焼き直しだった「フォースの覚醒」よりかは新しい要素を取り入れようとしていたじゃん?フォースはジェダイのみが持つ特権ではなく、もっと誰もが秘めているものという扱いだったじゃん?それが今回はあからさまな血統主義にとらわれていて、ジェダイもシスもみんな先祖が偉大だったのでフォースを使えるんですという展開。「ファントム・メナス」でミディクロリアンのコンセプトが紹介されたときは満遍なく叩かれたけど、少なくともあっちは自然の生物と一体になることでフォースが使えるようになる、という考えがあったわけで、祖父がフォース使えたので自分も使える、というのよりもずっと理に適ってると思うけどね。いちおう擁護しておくと一般人のフィンがフォースを感じられるようになっているのは明白だったが、そこを深掘りすることは全くなかったな。

あとプロットについて言うと、今回に始まった話ではないが、ストームトルーパーって命令に従順に従わせるためにクローン培養してるんじゃなかったっけか?なんで命令に背くような一般人を拉致してストームトルーパーやらせてるんだ?

出演者はね、リチャード・E・グラントが出てたのが嬉しかったな。ここ数年はアメリカの話題作になぜかよく出ているのだけど、往年のファンとしては嬉しいこってす。あとおれはドミニク・モナハンをずっとジミ・シンプソンだと思って観ていました。

もちろん前述したように観客を喜ばせるツボはちゃんと押さえているので、及第点はとれている出来にはなっていると思うのですよ。美しいショットもいくつかあったし、えらく懐かしいキャラも出てきたし。その反面、話をとにかく予定調和にまとめようとしているのが残念であった。

そんでこれによって「スター・ウォーズ」が完結するかというと、当然そんなことはなくて、金を産む限りはネズミがひたすら絞り取るでしょ。それでもエピソード1〜9の枠からは外れたものになるだろうから、その際はエイブラムスなどではなく、もっと新しいことをやるのに意欲的な監督を起用してほしいところです。

「THE NIGHTINGALE」鑑賞

カルト人気を誇る「ババドック~暗闇の魔物~」のジェニファー・ケント監督による2作目で、今回はホラーというよりもオーストラリアン・ウェスタンになっている。

舞台は1825年のタスマニア。その地に犯罪人として送られ、夫と幼児とともに暮らすアイルランド人のクレアは、自分の刑期が終わって3ヶ月が経ったのに未だ釈放の承認が下りず、英国軍の士官ホーキンズに労働を強いられ、さらには彼の慰みものにされるという辛い日々を送っていた。彼女の扱いに激昂した夫のエイダンはホーキンズに殴ってかかり、その報復としてホーキンズはクレアの家に押し入り、エイダンと幼児を殺し、クレアを部下に陵辱させる。そしてホーキンズはタスマニア北部に去るが、夫と子を殺されて復讐の鬼と化したクレアはビリーというアボリジニの青年を案内人として雇い、ホーキンズを追うのだった…というあらすじ。

監督自身がオーストラリア出身で、自国の暗い歴史に興味があったらしく、暴力に満ちた追跡劇が繰り広げられていく。飲んだくれの兵士たちが幅をきかせる土地において女性の権利など無いに等しく、クレアだけでなくアボリジニの女性がホーキンズに誘拐されて慰みものにされるシーンもあり。劇中の暴力描写は本国でも議論を呼んだらしいが、女性監督の方が女性への暴力描写を容赦なく描けるのかもしれない。

女性だけでなく原住民のアボリジニもまた虐げられた存在であり、島にやってきた白人たちによって土地を奪われ、奴隷扱いをされていく。クレアに雇われたビリーも当初は金だけが目当てだったが、イギリス人が嫌いなアイルランド人とアボリジニということで結束し、二人の仲が深まっていくことが作品の大きなテーマになっている。犬のような扱いを受けたビリーが「ここは俺らの国だったのに…」と泣くシーンが印象的だった。

劇中で話されるゲール語(アイルランド語)やアボリジニの言語をはじめ、撮影にあたっては入念な時代考証が行われたらしい。復讐に燃える親の追跡劇、という点では「レヴェナント」に似たところがあるが、あちらは大自然の光景を前面に出していたのに対し、こちらは4:3の画面比率を使って人物の背景などをあまり映さず、緊迫した雰囲気を出しているのが特徴的であった。

主人公のクレアを体を張って演じているアイスリング・フランシオシって、流暢なゲール語を話すなと思ったらアイルランド系イタリア人なのですね。あとは有名どころだとホーキンズ役に「ハンガー・ゲーム」のサム・クラフリン。イケメンなのでいい奴のように見えるけど、かなりのクズを演じてます。彼の部下役が「ワンハリ」でチャーリー・マンソンを演じたデイモン・ヘリマンで、こっちは見事なくらいにクズの役でした。ビリー役のベイカリ・ガナムバーは新人らしいが大変素晴らしい演技でしたよ。

暴力描写などのために万人受けするような作品ではないだろうが、オーストラリア(あるいはどこの国でも)における暴力の歴史を真正面から扱ったものとしては興味深い作品でした。

「ミッドサマー」鑑賞

「ヘレディタリー/継承」のアリ・アスター監督によるさらなるホラー。日本では2月公開ということで感想をざっと書きますが、内容を語りにあたりネタバレせざるを得ないので以下は注意。

身内にきつい不幸があったため精神的に不安定になっていたダニという女性が、彼女に迷惑してそうなボーイフレンドに連れられて、スウェーデン人留学生の里帰りに友人数名と同行することになる。帰省先は田舎のコミューンで、昔ながらの習慣に従って夏至の祭りを祝おうとしていた。笑顔を絶やさない地元の人たちにダニたちは歓迎されるものの、やがて周囲で奇妙なことが起きるようになり…というあらすじ。

ぶっちゃけ話は「ウィッカーマン」そのままで、地元のカルト民に翻弄される部外者をテーマにしたもの。「ウィッカーマン」「ヘレディタリー」同様に、いろいろ事前に仕掛けられたプロットに主人公がハメられていく話なので、そういうホラーが好きでない人には向かないかも。「ヘレディタリー」に比べて急にビックリさせるようなシーンが少ない反面、カメラワークが上達していて、楽しそうなんだけどなんかヤバいコミューンの姿を端麗に描いている。物語の途中に出てくるタペストリーにも重要な意味が隠されているので見過ごさないように。

劇中に出てくる儀式や道具についてはそれなりに入念なリサーチがされたそうで、過去の遺物や伝承に基づいたものであるそうな。ただし勿論のこと話に出てくるようなコミューンや儀式は現実には存在しないわけで、これってスウェーデンの人たちに失礼じゃね?と思ってしまったよ。

少なくとも「ウィッカーマン」は「自国の片隅ではこんな恐ろしいことが行われている」という設定だったが、こちらはアメリカ人が外国で原住民たちにヒドい目に遭う、という内容であるため、これが舞台がスウェーデンでなくアフリカとかアジアだったりしたら、少なくともポリコレ的には叩かれていたのではないかと。しかも撮影はスウェーデンでなくハンガリーで行ったとかで、スウェーデンに経済的な貢献もしていないし。これスウェーデンでの評判はどんなものなのだろう。

その一方では、これをヤコペッティ的なモンド映画の進化した形態として捉えることもできるわけで、世界各地を舞台にリメイクができるんじゃないだろうか。日本だって奇妙な風習の残る農村なんてたくさんあるだろうし。

主演のダニを演じるのはフローレンス・ピュー。「ファイティング・ファミリー」での演技はそんなにピンとこなかったが、1年くらいのあいだに、あれと「ミッドサマー」と「リトル・ドラマー・ガール」と「若草物語」という幅広いジャンルの作品に怒涛のスケジュールで出演しているわけで、それを考えるとすごい演技力を持っているのかもしれない。あとは有名どころではウィル・ポールターなども出ていて、みんな満遍なくヒドい目に遭っています。

2時間半近い長尺(完全版は3時間あるらしい)ながら、話が具体的に進展するのは最後の1時間くらいだし、ある程度は人を選ぶ作品かもしれない。個人的にはやはり「ウィッカーマン」に似ているのが気になったかな。とはいえ悪い映画ではないです。

「KNIVES OUT」鑑賞

ライアン・ジョンソンの新作。日本では「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」の邦題で1月末に公開らしい。キャスリーン・ケネディに解雇されずに「スター・ウォーズ」作品を監督したことで一躍名を挙げたジョンソンだが、デビュー作は高校生探偵映画「BRICK」であったわけで、今作はその原点に戻るかのような推理ものになっている。よって以下はネタバレ注意。

舞台はボストンの巨大な館。そこには有名推理小説家のハーラン・スロンビーが住んでいたが、ある朝彼は喉を切られた死体となって発見される。警察によって彼の死因は自殺とみなされ、彼の膨大な遺産を分けるために彼の子供たちが館へと集合するが、何者かによって雇われたという探偵のブランクが現れ、皆に聞き込みを始める。そして家族に隠された秘密が徐々に明らかになっていき…というあらすじ。

原作などはないもののアガサ・クリスティの作品にインスパイアされたとかで、設定自体は「BRICK」に比べると比較的ストレートなフーダニットものになっているかな。ただし途中でプロットに大きなヒネリがあって、単純な犯人探しものではなくなったりする。個人的にはちょっとそれが興醒めだったけど、最後にまたヒネリがありまして、まあそこは観てのお楽しみ。

家長の遺産を狙って子供たちがいがみあい、皆が何らかの殺人動機を持っている一方で、ウソをつけない人物が出てくるなど、なかなか特徴的なキャラクターたちがストーリーにアクセントを加えている。敏腕なんだかよく分からない探偵のブランクもいい感じ。

というかこの作品、キャストがえらく豪華で、ダニエル・クレイグにクリス・エバンズ、クリストファー・プラマー、ジェイミー・リー・カーティス、ドン・ジョンソン、マイケル・シャノン、アナ・デ・アルマス、ラキース・スタンフィールド、トニ・コレットなどなど、ほかの作品なら主役を張ってるような役者がズラリ。

「ヘレディタリー」のあとでは屋敷にいるトニ・コレットがとても怖いのが難点だが、これだけの役者が揃っているのを観るだけでも一見の価値はあるかと。「ミッドナイト・スペシャル」で親子を演じたマイケル・シャノンとジェイデン・マーテルがここでも親子を演じてるという小ネタもあるよ。個人的には「ロイス&クラーク」のK・カランが出てたのがツボでした。

これだけのキャストを率いるのがブランクを演じるダニエル・クレイグで、007のような寡黙な役を演じることが多いだけに、今回のようなコミカルでよく喋る役は意外だったし面白かった。南部訛りで話すのがちょっと耳障りだが、あの青い目で真実を聞き出そうとする姿がカッコいいのよ。

推理ものということで内容について多くは語れないのが残念だが、批評家に絶賛されている通りに楽しめる作品だった。ジョンソンの「最後のジェダイ」は自分の周囲ではそんなに評判良くないようだけど、あれの監督だということを気にせずに映画館に足を運んでもらいたい一品。

機内で観た映画2019 その4

9月から月イチで飛行機に乗ってるのだが、さすがに疲れますな。観るものがなくなってきてR指定の作品を鑑賞したりしたが、あまり内容はカットされていなかったと思う。ストリッパーの映画を観てるのを周りの乗客に気づかれたりしないか、ちょっとドキドキしましたが。

  • 「READY OR NOT」: 金持ち一家に嫁いだ花嫁が、結婚式の晩に奇妙なゲームに参加することになるという、文字通りの「さあゲームの始まりです」映画。まあその手の邦画よりは予算かかってるだろうし、そこそこ面白いのだが。ただ屋敷でのかくれんぼというルールながら、結構早い時点で屋敷の外に出てしまっているのが残念。最後のオチもなんとなく分かったし。どうせB級映画なのだから、もっとえげつない展開にしてもよかったのに、比較的無難な出来になってしまっていた。
  • 「ハスラーズ」:リーマンショックの時期にも頑張ってウォールストリートの社員たちから金を稼ごうとするストリッパーたちの物語。胸はさすがいにボカシ入ってました。プロデューサーにアダム・マッケイ(&ウィル・ファレル)がいるので金融業界を風刺した内容になっているけど、「マネー・ショート」ほどシャープなわけでもなく、これも無難な出来になっているかな。「クレイジー・リッチ!」のコンスタンス・ウーが体を張った演技をしてますが、ポールダンスを軽々こなす姉御役のジェニファー・ロペスがおいしいところをみんな取ってしまっていた。
  • 「パラサイト 半地下の家族」:上記2作と違って、こちらは全く無難ではなく、そこまでやるか!という内容。1つの家を舞台にしながらも韓国の社会格差を巧みに描き、音楽の使い方やシーンの対比なども効果的でした。世界的に絶賛されてるのもよくわかるな。核攻撃する将軍様のモノマネが出てくるのが韓国映画の強みだろうか。
  • 「モンスターズ・ユニバーシティ」:唯一観てなかったピクサー映画なので。前作は少女とモンスターの仲良し具合があまり好きではなかったが、こちらはモンスターたちが「怖がらせる」ことに重きを置いているので、続編にしては意外と楽しめた。