「VFW」鑑賞

著名なホラー映画雑誌「ファンゴリア」製作の映画。でもホラーではなくてサスペンスだった。

VFWというのはVeterans of Foreign Warsの略で、外国で戦った兵士たちの軍人会みたいなものかな。映画の舞台はこの軍人会が集うオンボロのバーで、ベトナムで戦ったフレッドが仕切るなか、さまざまな戦争を経験した仲間の軍人たちが与太話に興じていた。しかし世間ではハイプと呼ばれる凶悪な麻薬が蔓延しており、姉をハイプで亡くしたリズという少女が、地元のディーラーのハイプをすべて盗んでバーに駆け込んでくる。怒ったディーラーはハイプの中毒者たちにバーを襲うように命じ、フレッドたち元軍人はリズを守るため、というか自分たちを守るために籠城して戦うことになるのだった…というあらすじ。

設定的にはジョン・カーペンターの「要塞警察」に似ているし、カーペンターを彷彿とさせるシンセ音楽が多用されてるあたり、往年の70〜80年代低予算サスペンスっぽい作りにしてるなあ、という感じ。大量のジャンキーが老人(ひとり若者もいる)だらけのバーに押し掛ければあっという間にカタがつきそうなものだが、ハイプの中毒者はヘロヘロで真っ当に動けないという設定になっており、その姿はまさしくゾンビ。よってこれはゾンビ映画だと考えてもよいでしょう。

そんなジャンキーどもを迎え撃つために元軍人たちはベトコンばりの罠を作って対抗するのだが、結局のところ力勝負になってしまって、戦闘シーンにあまり工夫が見られないのが残念。老人たちのヨボヨボとした動きを隠すためでもないだろうが、バーの電気系統が壊れているということでやけに照明が暗く、アクションが見えづらい内容であった。あと「要塞警察」は警官と囚人の結束というテーマがあったけど、この作品は人間ドラマの要素がありきたりで、どうも盛り上がりに欠けるのよな。

タフな爺さんのフレッドを演じるのが、タフな爺さん役で知られるスティーブン・ラング。まあ良くも悪くもハマり役ですね。彼の親友役が俺の好きなウィリアム・サドラーだが、やけに太っていてビックリ。健康に影響がないと良いのだけど。あとはデビッド・パトリック・ケリー(69歳)フレッド・ウィリアムソン(82歳!)といった老人俳優たちが出演してます。ジョージ・ウェントが酒飲み役で出てるのは「チアーズ」へのオマージュかな?監督のジョー・ベゴスってこれと同じ年に「BLISS」という映画も撮っていて、そっちはまあまあ評判いいみたい。

傑作かというとそうでもないのだけど、往年の低予算サスペンスのオマージュとして、みんなで酒でも飲みながら観て楽しむ分には悪くない作品かと。

「MILITARY WIVES」鑑賞

みんな大好き「フル・モンティ」のピーター・カッタネオ監督の新作。

イギリスの軍事基地に住む軍人の妻たちを主人公にした作品で、中佐の妻であるケイトは新たに妻たちのレクリエーション係を担うことになり、彼女たちの気晴らしになることを模索する。基地で気楽そうに暮らしている妻たちだったが、夫たちが戦地(アフガン)に派遣されており、いつか還らぬ人になるかもしれないというストレスを日頃彼女たちは抱えていたのだ。そんな妻たちのストレス発散のために、ケイトは彼女たちを男性ストリップショーに連れていく…のでは当然なくて、合唱グループを編成することを思いつく。しかしグループのもう一人のリーダーであるリサと指導法の意見が合わず…という内容。

例によって「事実に基づく話」でして、実際にイギリスには軍人の妻たちによる合唱団がいくつも存在していて、それをフィーチャーしたリアリティーショーもあるんだそうな。

まあ内容はこの手の映画にありがちな、非常に典型的なものになってまして、クラシックはダメだった女性たちがポップソングを歌うことでノリノリになったり、シャイだった女性が歌うことで自己表現に目覚めたり、リーダーふたりが肝心なところでケンカしたり、いわゆるフィールグッド映画のフラグを1つ1つ丁寧に立てていくような、かなり先の読める話になっております。

まあお決まりの展開であってもそれが楽しめるものならば不満はないし、妻たちが歌う懐メロだらけの合唱曲(ヤズー!ティアーズ・フォー・フィアーズ!シンディ・ローパー!)も聴いてて心地いいものであるのは間違いないのだが、1つの映画を成すにはあまりにも抑揚がないような。性格の違う人たちが集まって目標のために団結する、という点では「フル・モンティ」にも通じるけど、あっちにあった軽快さがこの映画には決定的に欠けているというか。あと30分くらい短くても良かったんじゃないか。

ケイトを演じるのがクリスティン・スコット・トーマスで、リサ役にシャロン・ホーガン。どちらの女優の過去作も観てるはずなのですがあまり記憶に残っておらず…でもこの映画での演技は悪くなかったですよ。あとは知ってる顔だとジェイソン・フレイミングが出ています。

無難な線を狙わずに、もうちょっと冒険しても良かったんじゃないの、と思ってしまう作品。「フル・モンティ」を期待してはいけないよ。

「ブラッドショット」鑑賞

いちおう日本では5月29日から公開らしいですが、首都圏の劇場で観られるのはいつからですかね?ワーナーのDC、ディズニーのマーベルに対抗してか、ソニーが中国資本と組んでヴァリアント・コミックスのスーパーヒーロー作品を映像化したもの。以降はネタバレ注意。

日本では馴染みがないがヴァリアント・コミックスというのは、元マーベルの名物編集長だったジム・シューター(身長3メートル)が1989年に立ち上げたコミック会社でして、ブラッドショットやハービンジャー、XOマノウォーといった新キャラクターを生み出したり、マグナス・ロボット・ファイターなどといった60年代のゴールドキー・コミックスのキャラクターをリブートした作品を出していたところ。初期はボブ・レイトンやバリー・ウィンザー・スミスといった名クリエイターたちが関わっていたことや、90年代前半のコミックへの投機ブームにも乗っかって、それなりの人気を誇っていた会社なのです。そのあとゲーム会社のアクレイムに買収されたが軌道に乗らず、アクレイム自体が倒産して、そのあとも親会社が2回くらい代わったものの、現在でも根強い人気をもって出版を続けております。

そんで今回のブラッドショットはヴァリアントの看板キャラクターの一人でして、軍の極秘プロジェクトによって血液中にナノボット(ナナイト)を注入されて驚異的な再生能力を持つことになった元兵士が、でっかい銃をぶっ放して悪と戦うというもの。90年代前半はね、ブラッドなんとかとかデスなんとかという名前の、銃を使うのが好きなキャラクターがたくさんいたのですよ。

今回の映画もコミックのオリジン話をなぞっていて、目の前で妻が殺され、自分も殺された兵士のレイ・ギャリソンが身体中にナナイトを注入されてデッドショットとして蘇り、記憶が消されていたものの妻の殺害を思い出し、復讐を遂げるために殺人者のもとに向かうが…というもの。

ブラッドショットはナナイトによって超人的な怪力を持ち、撃たれようが刺されようが瞬時に回復する能力を持ち、さらにはテクノロジーを自在に操ることができるというチート能力全開のキャラクターなので、敵と戦っても無双状態のためあんまりスリルはなし。ハッキングによって体内のナナイトが不活性化させられると途端に活動停止するのだが、映画にしろドラマにしろ最近の「ハッカーはなんでもできる」という設定は話の醍醐味を削ぐよねぇ。

コミックのブラッドショットは上のイラストのように肌が真っ白なキャラクターなのだが、主演のヴィン・ディーゼルが「怒りのデスロード」のウォー・ボーイズのようなキャラクターを演じるのは違和感があるとでも感じたのか、劇中で肌が白くなるのは最後の一瞬だけで、あとはヴィン・ディーゼル色で過ごしております。そうなるとこれはアメコミ映画ではなくただのヴィン・ディーゼルのアクション映画ではないか?と思ってしまうのだが、どうなんだろう。

とはいえハリウッドメジャーの作品なのでそんじょそこらのアクション映画よりも予算がかかっていて、8Kカメラで撮影されたという映像は綺麗だったし、最後のエレベーターでの戦闘は迫力があったな。ただ敵役がいまいち貧弱で、ブラッドショットに真っ当に立ち向かえる奴ではなかったような。ヴァリアント・コミクスには超能力者集団ハービンジャーの宿敵にトヨオ・ハラダというガチで強いヴィランがいて(90年代はまだ日本が強かったのだよ…)、ほかのタイトルにもヴィランとして登場するのだが、それ意外にキャラの立ったヴィランがいないのが難点だよな。

監督のデビッド・ウィルソンはビデオゲーム畑の出身で、これが監督デビュー作?出演はヴィン・ディーゼルのほか、ガイ・ピアースや「ベイビー・ドライバー」のエイサ・ゴンザレス、「NEW GIRL」のラモーネ・モリスなど。

アメリカでの興行成績はコロナウィルスなどの影響もあり大コケしたらしいが、これをきっかけにヴァリアント・コミックスの映画化が続くのかな?と思ったらどうもソニーは「ハービンジャー」の映画化権をパラマウントに売ったらしく、マーベルみたいなシネマティック・ユニバースが構築できるのかはよくわかりません。

「FAST COLOR」鑑賞

1年くらい前にアメリカで公開された低予算SF。プロットの深いところまで書くので以下はネタバレ注意。

舞台は近未来、8年間も雨が降っていないアメリカ中西部。水が貴重な社会において、ルースという女性が逃避行を続けていた。彼女は発作が起きると巨大な地震を誘発するという特殊な能力の持ち主で、自分がコントロールできないその能力が周囲に迷惑をかけないように、そして彼女の能力を狙う科学者たちから逃げるために旅を続けていた。しかし彼女も根気が尽き、かつて家出した我が家へと戻ってくる。そこには母親のボーと、ルースが置いていった娘のリラが暮らしていた。彼女たちもまた特殊な能力を持つ者たちであり、ルースをかくまうが、彼女を狙う科学者たちも近づいていた…というあらすじ。

特殊能力を持った人の逃避行、という点では「ミッドナイト・スペシャル」に似ているけど、ルースが家に着いてからは女性三人の家族ドラマみたいになる。超能力バトルみたいなものはなくて、もっと叙情的な内容かな。現地では黒人向けの映画を扱う配給会社が配給したらしいが、人種的なテーマは特になし。知的なSF小品といった感じで、結構楽しめました。

ルースを演じるのがググ・バサ=ロー。自分の能力をコントロールできず、娘の世話もできない情緒不安定な役回りなのでちょっと損をしてるが、そんな彼女を黙って受け入れる母親役をロレイン・トゥーサントが演じていて、こっちが主人公じゃね?と思うくらいに大変よい演技でした。町の保安官をデヴィッド・ストラザーンが演じていて、個人的には大好きな役者なのであります。

監督はジュリア・ハートで、タフな女性たちの描き方は女性監督ならでは…と言ったら差別的かな。でもしっとりとした演出とか、最後の美しいクライマックスは良かったですよ。102分という比較的短い尺のためか、雨の降らない世界の描写は中途半端だったし、ルースたちの能力も説明不足だった感は否めないが、この映画をもとにしたTVシリーズがアマゾンで企画中だそうな。いろいろ掘り下げれば面白くなりそうな設定なので、シリーズのほうにも期待しましょう。

「LITTLE JOE」鑑賞

ヨーロッパ製の(いちおう)SFスリラー。邦題は「リトル・ジョー」で7月公開予定だとか。以降はネタバレ注意。

シングルマザーのアリスは植物学者で、同僚のクリスたちとともに新種の花の改良にあたっていた。彼女の作り出した花は匂いを嗅いだ人たちに幸福感を与えるというもので、彼女は息子のジョーにちなんで花を「リトル・ジョー」と名付ける。そして真っ赤な花を咲かせたリトル・ジョーは大量に花粉を撒き散らし、それを吸った人たちはどことなく奇妙な振る舞いを見せるようになる…というあらすじ。

このあらすじだけで話の展開が8割がた分かると思うが、まあ要するに植物のリトル・ジョーが人を操って自分たちの覇権を広げる話ではあるのですが、あくまでもアートハウス映画といった内容なので派手な展開はなく、リトル・ジョーが毒ムチを持って人を襲うとか、人を大量自殺に追い込むとかといった演出は全くなし。ちょっとあの人変わったわね、というような話が淡々と続いていく。

これを観る人って話の内容は大まかに知ってるだろうし、話の序盤でもリトル・ジョーがどうも怪しいことは分かるのだが(ほかの同僚が指摘する)、アリスとクリスはリトル・ジョーを守る側なので、そういった予兆をことごとく無視してるのがなんかまどろっこしい。ホラーなら真っ先に殺されてる役ですぜ。リトル・ジョーが何かのメタファーという訳でもないみたい。

監督はオーストリア人のジェシカ・ハウズナー。全体的にポップな色使いとか、雅楽(だよね?)だらけのサントラとかが、あーなんかゲージュツ映画だなーという感じ。別に悪くはないが。アリスを演じるのがエミリー・ビーチャムで、この役でカンヌで女優賞獲ってるのか。クリス役がベン・ウィショー、あとは「シャロウ・グレイブ」のケリー・フォックスが出ています。

「トリフィドの日」みたいなサスペンスを期待してたのだけど、そういう作品ではありませんでした。研究所のセキュリティが緩すぎるだろうとかいったツッコミもあるものの、リトル・ジョーの花粉はマスクで防げるということで、やっぱりマスク大事!と今の時世を鑑みて思ってしまったのです。