「Dispatches from Elsewhere」鑑賞

AMCネットワークの新作ドラマ。

フィラデルフィアに住むピーターは毎日職場に向かい、退屈な仕事をして家に帰って寝るだけ、という生気のない生活を続けていたが、ある日道で見かけた謎めいた広告を目にして、そこに書いてあった番号に電話をしてみる。それによって彼はジェジュン研究所という組織の建物に招かれ、誰もいない部屋でテレビを見せられるものの、研究所の目的について警告するメッセージを目にしたために慌てて建物から抜け出してくる。そして今度はジェジュン研究所と対立するというエルスウェア協会のコマンダー14と名乗る人物にコンタクトされ、彼に導かれてピーターはシモーン、ジャニス、フレッドウィンという男女に出会う。彼らもまたジェジュン研究所やエルスウェア協会の目的を知らなかったが、物事の真相を追究しようとするのだった…というあらすじ。

自分でも何を書いてるのかよく分からなくなったが、とにかくよく分からんストーリーなのですよ。男女4人が何らかのゲームか陰謀に巻き込まれ、とにかく手がかりを追っていく、という話だと思ってもらえれば。

これ「THE INSTITUTE」という2013年のドキュメンタリーを基にしているそうで、そのドキュメンタリーでまさしくジェジュン研究所が出てきて、サンフランシスコで実際に1万人もの人がゲーム?陰謀?に巻き込まれた現象があったそうな。ドキュメンタリーは未見なのでどういうオチなのかさっぱり分からないが、この番組の設定やセリフはかなりこのドキュメンタリーから流用しているらしい。

シリーズの原案者・ライター・監督・主演はジェイソン・シーゲル。コメディ作品の印象が強い彼だが、シリアスな役を好演している。彼とともに謎を追うのがサリー・フィールドとアンドレ・ベンジャミンで、あとはトランスの女性の役をイブ・リンドリーという役者が演じていて、演技が絶賛されているようです。ジェジュン研究所のトップだという人物をリチャード・E・グラントが演じているのだが、彼に敵対するエルスウェア協会のコマンダー14もグラントが演じてまして…謎が謎を呼ぶばかり。

ピーターをはじめとする登場人物はみんな何かしらの悩みを抱えているように描かれていて、そんな彼らが与えられた手がかりを使って謎を明かしていくときは生活に刺激を与えられ、生き生きとしているのがポイント。視聴者もまた、結末のことは考えずに謎解きの過程を観て楽しむべき作品なのかもしれない。

「ブレイキング・バッド」や「ウォーキング・デッド」で人気の絶頂を迎えたAMCが、まわりまわって初期の「RUBICON」のような作品をまた作ったような印象をうける。こないだの「DEVS」といい、こういう知的好奇心をくすぐるような作品は好きですよ。アティカス・ロスによる音楽も効果的だし(第1話でスタインスキーの曲を使ってなかった?)。何が起きているかよく分からないものの、観ていて面白いという珍しい作品。

「DEVS」鑑賞

アレックス・ガーランド脚本・監督のミニシリーズ。「FX on HULU」という謎の扱いになってるが要するに米HULUのオリジナルシリーズな。ディズニーはDisney+と差別化するためにHULUの方に大人向けのシリーズをまわすようになって、その結果今年のHULUはいろいろ充実しそうなのであります。以下はネタバレ注意。

舞台となるのはサンフランシスコ。リリー・チャンとセルゲイは同棲中の恋人で、ふたりともシリコンバレーの巨大テック企業「アマヤ」に勤めていた。そこでの研究が認められたセルゲイは、会社のCEOであるフォレストから直に、極秘プロジェクトである「DEVS」への参加を要請される。会社の敷地(えらくデカい)の森のなかにあるDEVSの建物はコンクリートに覆われ、中には金のメッシュの壁と真空のエリアがあり、その中に作業エリアが電磁力で浮いているという巨大なもの。その中心にあるコンピューターが打ち出したコードを見たセルゲイは気分が悪くなり、そのまま失踪する(というかフォレストの差金で殺され、自殺に見せかけられる)。そして恋人がいなくなった原因を追求するために、残されたリリーはDEVSの謎を解き明かそうとするのだったが…というあらすじ。

隔離された研究所と謎めいたCEO、という設定はガーランドの「エクス・マキナ」に似ているかな。ただしあちらはAIをテーマにしていたのに対し、こちらは「自由意志(の否定)」を主題にしているみたい。あらゆることは起きるべき原因があって起きた、というのがフォレストの口癖だし、セルゲイは神経ネットワークをシュミレートして原生動物の動きを予測する研究をしていたし。まだDEVSのコンピューターは過去の出来事を映し出す機能もあるようなのだが、そこは完全には明らかになってません。なおDEVSという名前は「開発チーム(Development)」から取ってることも示唆されているがどうなんだか。

他にもセルゲイがロシアのスパイであったらしいことも明らかにされ、エスピオナージ的な展開もあったりします。しかし前になにかの映画を観たときも思ったが、大企業のセキュリティ部長が暗殺とかを自分でやってるのは何故なのだろう。顔バレしないように闇仕事専用の部下を雇ってもいいと思うんだが。

主人公のリリーを演じるのはガーランド作品の常連のソノヤ・ミズノ。通常のイギリス訛りはなくして、少しアジア訛りを加えたアメリカ英語を話してる感じ?まだ序盤で物事に困惑している状態だが、これからどんどん主役っぽい行動をしていくのでしょう。そしてアマヤの謎めいたCEO役にニック・オファーマン。コメディ番組の印象が強いが、もともとはアメリカで歌舞伎とか学んでた人だし、いい役者だよねぇ。あとは彼の秘書?役をアリソン・ピルが演じています。

全8話のうち2話を観たところだが、速いペースで話は進んでいくし、DEVS内部の映像は美しいし、いろいろ興味深くて面白い作品ですよ。あとはもう謎の展開にかかっているわけで、ガックリするようなオチが待っていないことだけを期待するしか。

「HIGH FIDELITY」鑑賞

米HULUのオリジナルシリーズで、映画化もミュージカル化もされたニック・ホーンビィの人気小説をシリーズ化したもの。

おれ原作小説はすんごく好きでして、レコード屋の店長のロブが音楽について蘊蓄を語りながらも、女性関係については自信がなくてオロオロする姿が他人事とは思えなくて、初めて読んだときに衝撃を受けてすぐに読み返し、当時好きだった女の子にも買って渡したら読んでもらえなかった、思い入れの深い作品なのであります。

そういう意味では原作の原理主義者でもありまして、ロンドンで店を営むロブが、郊外でセックス・ピストルズのA&M盤(えらく希少)を見つけてドキドキする描写とかが好きなので、世間では評判のいいジョン・キューザック主演の映画版も舞台をシカゴに移してしまったという点は好きではないのですよね。

そして今回のHULU版では店がニューヨークに移り、さらに主人公ロブは女性(本名ロビン)に変わってしまっている。ホーンビィの描くオタク男の心情が好きだった者としては、ずいぶん遠いところまで来たなあという感じ。話の展開自体は原作に比較的忠実で、店員ふたりと共にレコード屋を営むロブが、別れたばかりの恋人のことでウジウジしながら、過去の自分の恋人たちのことを回想していくもの。ロブがバイセクシュアルで、昔の恋人には女性がいるのが現代的なアレンジですかね。

「ハイ・フィデリティ」の特徴といえばロブがすぐ挙げる「トップ5リスト」と「ミックス(オムニバス)・テープ」ですが、前者は第4の壁を破ってロブが視聴者に直接「〇〇のトップ5は〜」と語りかける演出になっていて、これは映画版もそうだったな。そのリストの要となるのが「今まで付き合ってきた人トップ5」で、まだ数話しか観てないけどここから過去の恋人を再訪する展開が始まるのかな?

一方のミックス・テープのほうは「プレイリスト」と称して、店にはアナログレコードしか置いてないロブがパソコンでのほほんと「恋人に贈る最強の選曲リスト」をまとめていく。しかしなあ、ミックス・テープってのはそんなんじゃないんだよ!カセットテープに入れられる分数(当時は46分が主流だった)を綿密に計算し、ちゃんとA面とB面で盛り上がりがあるように曲を選び、カセットレーベルも手書きでカッコつけて、好きだった女の子に渡して、あまり聴いてもらえないまでがミックス・テープなんだよ!とオッサンの自分は主張したいのです。

なお劇中で使われてる曲は、ミュージック・プロデューサーをザ・ルーツのクエストラブが勤めていることもあるせいか、クラシック・ロックから最近の曲に至るまで多岐に渡っていてなかなか興味深いし、勉強になります。Spotifyのリストはこちら。少しニューウェーブ系の音楽に偏重しているかな?第3話ではロブの妄想としてデボラ・ハリー様ご自身が登場されておりました。

主役のロブを演じるのはゾーイ・クラヴィッツ。どう見ても男には不足しそうのない、モデル並みの外見を持ってるロブというのは原作のイメージとかけ離れてるけど、まあそういうものなのでしょう。映画版では彼女の母親のリサ・ボネットが出演してたので、奇妙な縁があるな。それ以外はそんなに著名な役者は出ていないみたい。

というわけで原作小説とはかなり違う形になってしまった(ニック・ホーンビィの別の小説よりはマシだが)ものの、やはり凝った音楽の趣味を持つレコード店員たちのやりとりは軽妙だし、ロブの恋愛がどういう展開を経るのか見たい気もするので、当面は視聴し続けることにします。しかし米HULUのオリジナル番組って、今後は日本で視聴できる機会は出てくるんだろうか?

https://www.youtube.com/watch?v=r5bkbfdVzbI

「Awkwafina Is Nora from Queens」鑑賞

「クレイジー・リッチ!」「ジュマンジ」「フェアウェル」と出演する映画はみんなヒットして破竹の勢いを誇るオークワフィナ嬢が、弱小ネットワークのコメディ・セントラルでシットコムの主役を務めることになったのだよ。

内容はタイトルそのまんまで、クイーンズに住むノーラという20代の女性を演じるのがオークワフィナ。ノーラは父親と祖母と同居してるのだが定職につかず、UBERのドライバーとかやりながらのらくらと暮らしている毎日。決して悪い人間ではないのだが、自分のズボラさなどが災いしていろいろトラブルに巻き込まれ…というような話。

コメディ・セントラルの番組らしい緩さがあるというか、ちょっとスケッチ・ショウ的なノリもあるかな。パイロット版がYoutubeで公開されているほか、先行公開された第6話を観たのだけど、父親と祖母の設定が少し変わってて、どちらも本編では少し真面目なタイプになっているみたい。下ネタもいろいろ出てきまして、第6話は股間を蹴られたノーラが四六時中QUEEFすることになってさあ大変…という話でした。おかげでQUEEFなんて言葉を覚えてしまったよ。

ちょっとボケた祖母を演じるのが「オレンジ・イズ・ニュー・ブラック」のロリー・タン・チン。ノーラに手を焼く父親を演じるのがBD・ウォン(老けない)。第6話ではゲストとしてみんなのミン・ナ様(若返ってる)が叔母役で登場してました。

パイロットでは少し中国語の会話が出てきたり、中華料理屋で食事してたりしたけど、それ以外はアジア系アメリカ人としてのアイデンティティを強調するような描写は何もなし。みんな普通に白人や黒人やヒスパニックと交流して、ドタバタしてます。ここらへんも最近のハリウッドにおけるアジア系の台頭が反映されてるんだろうな。決して抱腹絶倒するような番組ではないけど、早くもシーズン2の製作が決まったらしいので、オークワフィナのさらなる人気拡大に貢献してほしいところです。

https://www.youtube.com/watch?v=iftQNDmcetY

「DRACULA」鑑賞

BBCのミニシリーズ。Netflixでもすぐ配信されるそうなので、日本でもやるかな?タイトルの通りブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」を「SHERLOCK」のスティーブン・モファット&マーク・ゲイティスが脚色したもので、90分3話というフォーマットも「SHERLOCK」っぽいな。

話の序盤は原作に比較的忠実で、トランシルバニアの古城に招かれたイギリス人弁護士のジョナサン・ハーカーはそこでドラキュラ伯爵に出会う。ドラキュラは夜にしか姿を表さないものの、ハーカーは城に実質的に幽閉され、そこで数々のおぞましいものを目にする。そして最初は老人の姿をしていたドラキュラは日増しに若くなっていき、代わりにハーカーは生気を失っていく。ドラキュラがただならぬ存在であることに気づいたハーカーは、どうにか城を脱出しようとするのだが…というあらすじ。

原作ではハーカーの脱出劇って全体の5分の1くらいの長さだが、ここではまるまる1話が彼の話に費やされ、ハンガリーで保護されたハーカーが、ふたりの修道女を前に、城で何が起きたのかをフラッシュバックで語っていく形式になっている。ここらへんから番組オリジナルの脚色が入ってきて、「SHERLOCK」のごとき謎解きの要素も加わってくる。あとついでに言うと登場するクリーチャーは「ドクター・フー」っぽいかな。

原作はドラキュラが徹底した悪として描かれ、その悪巧みが書簡や手記の形式でだんだん明らかになっていき、最後のイギリスからトランシルバニアまでの怒涛の追跡劇につながる流れが手に汗握る展開になっていて大変面白いのだが、これにおいてもドラキュラは不敵な存在として登場し、ハーカーを愚弄し、彼に立ち塞がる者たちを翻弄しながら、自分の望むものを手に入れようとする。尤も彼の目的が「イギリス人は知的なのでイギリスに行って血をたくさん吸いたい」だというのが、最近のブレグジット騒動とか見てると、ホントかよ?とも思うがまあいい。フランシス・フォード・コッポラの劇場版なんかは原作に忠実なようで、最後はドラキュラが「愛のためなら死ねる男」みたいになっててえらく興醒めだったが、今回のドラキュラは狡猾かつ大胆不敵で怖いっすよ。バイセクシャルだということが示唆されるのがちょっと論議を呼んでるみたい。

そんなドラキュラに比べてジョナサン・ハーカーはいろいろヒドい目に遭って、すごく可哀想なキャラクター。当然彼のフィアンセのミナ・マーレイが登場するほか、ハンガリーの修道女シスター・アガサが原作以上に大きな役回りになっている。

ドラキュラを演じるのは「ザ・スクエア 思いやりの聖域」のクレス・バング。体じゅう血まみれになってオオカミから変身したりと、体をはって熱演しています。あとはそんなに有名な俳優は出ていないかな?

かなり血なまぐさいシーンもあったりして、ここらへんはホラー好きのマーク・ゲイティスの本領発揮なのだろうが、決して安直なスプラッター描写などにはならず、ストーリーを引き締めるためのものになっているのが流石。第1話は、え、そこで終わるの?という結末だったので、あとの2話がどういう展開になるのかは全く予想がつかないのですが、期待以上に楽しめる娯楽作品だったので残りを観るのが待ちきれない。