「8:46」鑑賞

Netflixが突然Youtubeで公開したデイブ・シャペルのスタンダップ。

警察に窒息死させられた黒人男性ジョージ・フロイドの追悼として、シャペルが地元のオハイオで行ったものを撮影したのかな?よってスタンダップ・コメディというよりも差別に関するスピーチといったところでジョークは僅かなのだけど、そこはシャペル、絶妙なスピーチで観客の注目をグイグイ引き付けていく。

デイブ・シャペルといえばコメディ・セントラルの番組「Chappelle’s Show」で人種をネタにした際どいジョークを扱って大人気を博したコメディアンだけど、自分自身が白人スタッフに笑われてるような気がしてちょっと神経衰弱っぽくなり、人気絶頂にあったときに番組を打ち切るなど、以前から人種問題には敏感なところがあった人なのですよね。

彼のスタンダップのすごいところは何も話さなくても観客の気を散らせないところ。ベラベラ喋って客の気を引こうとするするコメディアンなんて山ほどいるけど、ステージ上で何も話さないのに客の視線を引きつけるパフォーマーは彼とジョン・スチュワートあたりがトップレベルじゃないだろうか。もちろんそれなりの知名度が必要なので今までのキャリアが重要なのだろうけど。

今回のパフォーマンスも観客との他愛ないお喋りから始まり、口数も少なめで、つかみでは90年代の地震について語っていく。カリフォルニアで経験したノースリッジ地震はシャペルにとって初めての地震で、えらく揺れて死ぬほど怖かったと。「でも揺れてたのは30秒くらいだろうな…それに比べて、あの警官はフロイドの首に8分46秒も乗っかってたんだぜ!」と突然ジョージ・フロイドに関する本題に入っていくまでの流れは鳥肌もの。

あとはジョークも控えめに、黒人を非難する保守系のコメンテーターへの罵倒や、警察によって不当に殺された黒人たちの話へと彼のスピーチはつながっていく。ここで凄いのは、差別への不満をただぶちまけるのではなく、話の流れがものすごく綿密に計算されていること。最初のほうで「8:46」というのは自分が生まれた時間でもある、と語ったあとで最後のほうでコービー・ブライアントの背番号が自分の誕生日と同じだった、とつなげるところや、ジョージ・フロイドが死ぬ間際に母親の名前を呼んだ姿は、自分の父親が死ぬときに祖母の名を呼んだのと同じだった、としたうえで最後に自分の祖先が誰だったかを語るところなど。スピーチ全体に伏線と回収があるというか、単に言いたいことをぶちまけてるのではなく、しっかり計算した上で話しているのがよくわかる、スタンダップの教科書のような内容だった。

個人的には数年前にシャペルが「サタデーナイト・ライブ」で行ったオープニングのモノローグは神がかったような出来だと思ってたけど、今回のパフォーマンスも(ジョークが少ないとはいえ)非常に力強いものだった。日本ではコメディアンが政治を語るのに顔をしかめるような人も多いけど、コメディアンが本当に上手く政治を語るとどんな見事なことができるかを証明した好例。

「STARGIRL」鑑賞

有料サービス「DC UNIVERSE」の新作シリーズ…なのだが1日後には地上波のTHE CWで放送されることになっていて、ますますDC UNIVERSEの存在意義が薄くなっているような。

90年代末のDCコミックス作品「Stars and S.T.R.I.P.E.」をベースにした番組で、第1話の脚本はコミックと同じライターのジェフ・ジョンズ。コートニー・ホイットモアは幼い時に父親が疾走したせいか少し内向的な少女で、母親がパット・デュガンという男性と結婚したことでネブラスカの田舎町ブルーバレーに引っ越してくる。そこで彼女はパットがスターマンというスーパーヒーローのサイドキック(相棒)だったことを知り、さらにスターマンの形見であるコズミック・スタッフを発見し、空を飛べるその杖を持って冒険に出かける。しかしブルーバレーには、スターマンが属していたジャスティス・ソサイエティを壊滅させたグループのメンバーが住んでいたのだった…というあらすじ。

アメコミ読んでいたほうが当然いろいろ楽しめるわけだが、初心者にも分かりやすい内容になってると思う。ジャスティス・ソサイエティというのはジャスティス・リーグに先んじるスーパーヒーローのチームで、スターマンのほかにドクター・ミッドナイトとかワイルドキャット、アワーマンといった人たちがいました。その宿敵がインジャスティス・ソサエティという悪者グループで、メンバーはアイシクルにブレインウェーブ、スポーツマスターなど。後述する「スターマン」の重要なキャラであるシェイドの存在が示唆されるシーンもありました。

コートニーが使用するコズミック・ロッドというのは星から降り注ぐパワーを溜めて、飛行やビーム発射などを可能にする杖のことでして、コミックでは90年代の傑作タイトル「スターマン」(おれ全冊持ってます)の主人公スターマンことジャック・ナイトからコートニーは譲り受けるのだが、番組ではジャックは登場せず。逆に番組のスターマンことシルベスター・ペンバートンはコミックだとスカイマンと名乗っててスターマンだったことは無いぞ…というのは野暮なツッコミですね。なおコミックと違ってコズミック・ロッドは意志があるような設定になっていて、コートニーにじゃれたりしてます。

そしてスターマンの年長の相棒だったパットの正体はストライプシーという元B級ヒーローで、年を取ったいまはストライプという巨大ロボットに乗り込んでコートニーのサポートをすることになる。DC UNIVERSEの番組って「アローバース」の番組よりも予算があるのか、ストライプをはじめとする特殊効果はなかなか良くできていました。

第1話は典型的なオリジン話といったところで、コートーニーがスターガールの衣装を着たりもしないのだけど、上のポスターなどから察するに、彼女の他にも新たなワイルドキャットやドクター・ミッドナイトたちが登場して、新しいジャスティス・ソサイエティ(それって「インフィニティ・インク」では?)を結成することになるみたい。ほかにもセブン・ソルジャーズ・オブ・ビクトリーが登場するとかしないとか。ティーンのヒーローたちが田舎町で悪と戦うあたりは「バッフィ」を彷彿とさせ、そこらへんはTHE CWの観客と相性がいいんじゃないですか。ストーリーは意外と暗くなっていくらしいけど。

コートニー役はブレック・ベイシンガー。知らない役者だったけど20歳にして結構な数のTVシリーズに出演してるみたい。パット役がルーク・ウィルソンで、ちょっと気弱なパパ役が似合ってます。あと死んでしまったスターマンをジョエル・マクヘイルが演じていて、今後はフラッシュバックとかで登場してくるのかな。

原作者が脚本を書いているだけあって手堅いストーリー展開になっているし、コミックのファンにはいろいろ楽しめる番組になりそう。とりあえず続きも観てみます。

「スノーピアサー」鑑賞

TNTの新シリーズで、言わずと知れたポン・ジュノ監督の同名映画のTVシリーズ版。日本でもNetflixでやるのね。数年前に製作は発表されてたのだがスタッフの交代とかいろいろあって放送がえらく遅れたわけだが、結果としてその間にポン・ジュノがアカデミー賞獲ったりしてるわけで、ケガの功名になるのかな。

話の設定は映画版とほぼ同じで、地球温暖化への対抗措置が失敗して凍てつく星になってしまった地球において、永久期間によって走り続ける列車「スノーピアサー」の中で暮らす最後の人類たちの抗争を描いたものになっている。映画版は列車が15年くらい走り続けてるのに対し、こっちは7年くらいの設定なのかな?

スノーピアサーを設計した謎の人物ウィルフォード氏以外は登場人物はみんな映画版と別だが、列車の最後尾には劣悪な環境で暮らす貧民たちが収監され、先に進むにつれて住人の待遇が良くなっていくというのは映画版と同じ。

主人公のレイトンは列車の最後尾で暮らす男性で、より良い生活環境を求めて仲間たちと共謀して管理者たちに蜂起する予定だったが、なぜか彼だけが呼び出されて上層部のもとに連れて行かされる。実は彼はスノーピアサー乗車前は殺人課の刑事を務めており、列車のなかで(連続)殺人事件が起きたことから、それを調査するために抜擢されたのだ。そして彼は貧民たちの生活の向上と引き換えに、調査を引き受けるのだが…というあらすじ。

映画版は列車の後ろからただ前に行くという、ある意味ではストレートな話だったが、こちらはミステリの要素が加わって面白くなりそう。レイトンには車両のあいだを自由に行き来する権限が与えられる一方で、貧民層を抜け出した彼の元妻、さらには謎めいたウィルフォード氏なども絡んできて、スノーピアサーにまつわる謎が明かされていくみたい。

このスノーピアサーはなんと1001車両あるという設定で、移動するだけで日が暮れそうな代物なのだが、女性スタッフがヒール姿で気楽に歩き回ってるんだよな。すべて屋内で話が進む作品だが、温室の車両や水族館の車両などもあって環境のバラエティは豊か。しかしセット代を節約したのか各車両の幅が映画版に比べて狭いような?人のすれ違いとかが窮屈そうだったぞ。映画版が営団地下鉄ならばこっちは都営大江戸線の車両というか。あれで24時間通勤してたら暴動を起こしたくなる気も理解できるな。

レイトン役には「Blindspotting」のダビード・ディグス。でっかいドレッドヘアが気になるのだがずっとあの姿でいるのかな。彼に捜査を依頼するスノーピアサー上層部の管理係にジェニファー・コネリー。シーズン2の製作もすでに決まっていて、ショーン・ビーンが登場するとか?

放送されるまでのゴタゴタがいろいろ報じられた作品だけど、第1話は意外と面白かったですよ。いかんせん話の舞台が限られた内容ではあるもので、これからどうやってストーリーを引っ張っていくんだろう?

「THE GREAT」鑑賞

米HULUの新作ミニシリーズ。ロシア皇帝ピョートル3世とその妻キャサリン・ザ・グレートことエカチェリーナ2世の仲違いを描いたコメディ風味の作品で、「*ときどき事実に基づいた話」とタイトル画面に出てくるように、必ずしも歴史に忠実ではなくて脚色が多分にされてるみたい。

ストーリーはキャサリンの生い立ちとかを全部すっとばして彼女がピョートルに嫁ぐところから始まる。ロシアの王妃になれると心をときめかせて宮殿に向かった彼女だったが、ピョートルは飲んだくれの遊び人でキャサリンのことなどろくに気もかけず、ただ後継ぎがほしいために初夜もさっさと済ませるようなズボラ男だった。宮廷社会もピョートルの機嫌を伺って遊び戯れる貴族ばかりで、哲学書を愛読するキャサリンは疎外感を感じるばかり。女性向けの学校を作ろうとした彼女の試みも阻害され、さらにはピョートルに殺されかけたことでキャサリンと彼の仲は急激に悪化。彼が亡くなれば自分が女帝になれることを知ったキャサリンはクーデーターを模索するのだった…というあらすじ。

個人的にはロシアの歴史などまったく明るくないので、話がどこまで史実に基づいているのか分からないのですが、先日もヘレン・ミレン主演でエカチェリーナ2世のドラマが作られていたことからも、彼女って欧米ではネタにしやすい題材なのだろうな。

脚本は「女王陛下のお気に入り」のトニー・マクナマラ。宮廷社会で陰謀を画策する女性の話、というのが得意なんでしょうね。「お気に入り」はヨルゴス・ランティモス作品としてはずいぶん平凡な気がしてそんなに良いとは思わなかったものの、こちらの番組の方はエゲツない下ネタとかも散りばめられていて面白いですよ。

キャサリンを演じるのがエル・ファニングで、自分の理想がすぐさま打ち砕かれる女性を好演。対するピョートル役がニコラス・ホルトで、自分の置かれている環境とかを理解せずに本能のままに振る舞うさまは「マッド・マックス」のウォーボーイを彷彿とさせますな。あとはキャサリンの味方/愛人になるオルロフ役に「ドクター・フー」のサッシャ・ダーワン。当然ロシアの貴族にインド系などいたわけないので、キャスティングにはずいぶん脚色が入ってます。あと侍女役のフィービー・フォックスって綺麗な人ですね。

約55分のエピソードが10話と比較的ボリュームの多いシリーズで、とりあえず2話まで観たけど、このあとは宮廷ドラマが続くだけではなく、キャサリンによるクーデターが実際に描かれたりするのかな?時間があれば残りの話も観てみます。

https://www.youtube.com/watch?v=hJGedvRfHYg

「Mrs. America」鑑賞

米HULUの新ミニシリーズ。いわゆるFX ON HULUの1つな。

反フェミニズム運動で知られるアメリカの保守活動家フィリス・シュラフリーを主人公にしたもので、大統領選挙を翌年に控えた1971年から話は始まる。前年に下院議員選に出馬して敗退したシュラフリーは、当時高まっていたウーマンズリブ運動を真っ向から否定、男女平等憲法修正条項(ERA)の批准にも反対し、多くの女性を敵に回しながら活動を続けていく…というようなあらすじ。

第1話でシュラフリーが行うスピーチは「女性が社会に進出したら、彼女たちは仕事と家事を両立させなければならなくなる。いずれ彼女たちは子供をつくることを諦めてしまうんじゃないですか?」というもので、これって現在においても反フェミニズムの人たちが使うレトリックだよな。この論争は50年前から変わってないわけで。

そんな彼女の活動が功を奏してかERAは必要な数の州の承認を得ることができず現在になっても批准されていないし、シュラフリーって亡くなるまで保守の重鎮であり続けたらしいので、リベラルからすれば悪がのさばる話になるのだろうが、そこらへんはドラマとしてどう着地させるんだろう。

皮肉なのはシュラフリーは当然ながら保守的な家庭の出身なわけで、彼女が政治活動に力を入れて家を留守にすることを夫は好ましく思っていない。ワシントンにおいても彼女は女性ということで秘書まがいの仕事をさせられて男性と対等に扱ってもらえなかったりする。つまり彼女もまた男性の固定概念を打ち破って自立した女性なわけなのですが、向いていたベクトルがウーマンリブとは180度違っていたということか。

クリエイターは「マッドメン」とかのライターをやっていたダーヴィ・ウォーラー。シュラフリーを演じるのがケイト・ブランシェットで、個人的には彼女って悪役顔だと思うので(失礼)、不敵なシュラフリーの役は似合ってるんじゃないですか。彼女の敵役になるウーマンリブの旗手グロリア・スタイネム役にローズ・バーン。他にもエリザベス・バンクスやサラ・ポールソン、トレイシー・ウルマン、マーゴ・マーティンデールといった主役級の女性陣が出演していて結構すごい。男優ではジョン・スラッテリーやジェームズ・マースデンなんかが出演してます。

70年代の雰囲気を醸し出すためにセットはずいぶん凝っていて、グッゲンハイム美術館でのパーティーのシーンとか現地で撮影したんだろうか?当時の音楽もバリバリ使われてていい感じなのだが、セリフの量でどんどん話を進めていくような感じで、演出自体は凡庸かなあ。本国では評判が良いようだけど、現実でなにが起きたのかを知ってしまってるため、このまま観続けるべきかちょっと考える作品。