「HARD SUN」鑑賞


「刑事ジョン・ルーサー」のニール・クロスによるBBCの新作ドラマ。以降はネタバレ注意。

ロンドンで働く刑事のチャーリー・ヒックスは、新しく自分の部署に異動してきたエレイン・レンコとともに、団地で起きた自殺の調査を始める。最初は普通の飛び降り自殺のように思われたが、死亡したのがNASAにもハッキングしたという敏腕のハッカーだったことから、何か重要なデータを彼が入手し、それを彼のパートナーが奪って彼を殺した疑いが強まり、ヒックスとレンコはそのパートナーを追跡する。そのデータが取引される現場でパートナーとその取引相手を逮捕した二人だが、その直後にMI5らしきグループの襲撃を受け、逮捕した二人は殺されてしまう。ヒックスとレンコはどうにか襲撃から逃れ、回収したデータを確認すると、「ハード・サン」と名付けられたそのプログラムには、今から5年後に壮絶な災害が地球を襲い、人類は絶滅するという衝撃的な予測データが記されていた。その内容にショックを受けるヒックスとレンコだったが、そのデータを狙う一味の魔の手はヒックスの家族にも迫り…というあらすじ。

「マッド・マックス」みたいな「ポスト・アポカリプティック(大災害のあと)」の話じゃなくて、「プリ・アポカリプティック(大災害のまえ)」のドラマ、と巷では紹介されてたりするが、何じゃそりゃ、という印象は否めない。「フラッシュフォワード」みたいなSF風味はなくて、基本的には犯罪サスペンスのドラマといった感じ。データをめぐる話に加えて、レンコが以前に息子に殺されかけた話とか、ヒックスの前の同僚が謎の死を遂げており、実はレンコがそれについて探っているとか、いろいろ伏線は張られているものの、それらが「ハード・サン」とどのように関わっていくかは現時点では全くわかりません。

主演はレンコ役にモデルのアギネス・ディーン、ヒックス役にジム・スタージェス。どちらもあまりよく知らない役者だな。スタージェスってホワイトウィッシュだと叩かれた「ラスベガスをぶっつぶせ」に出てた人か。ディーンはモデル出身とはいえいい演技をしています。

まあこれからどういう展開になっていくのか、第1話を観ただけでは何とも分からんねー。「トーチウッド」みたいなダークなSFになるのか、それとも犯罪サスペンスで押していくのか?そもそも5年後に人類破滅が待ち受けているなか、どこまで話を引っ張れるのか?あまりにも話の設定が漠然としていて、次回も観たくなるほどではなかったものの、まあ海外のレビューサイトなどであらすじは追うようにします。

「9-1-1」鑑賞


FOXの運命を握るのはルパート・マードックであろうとも、ネットワークの顔となるのはライアン・マーフィーだ!ということで今年もたくさん出てくるであろうライアン・マーフィーの新作ドラマ。他にもプロデューサーとしてブラッド・ファルチャックやティム・マイナーが関わっている。

LAを舞台に、事故の現場に急行する救命士や警察(ファースト・レスポンダーと呼ばれる)の活躍を描いたもので、第1話では下水管に詰まった新生児の救助とか、強盗に押し入られた家の子供の救助など、まあいろんな事件が次から次へと起きています。

出演人物は緊急通報(アメリカでは「911」番)の電話に対応するオペレーターをはじめ、ベテラン消防士とその血気盛んな部下、冷静沈着な女性警官などが登場する。単に仕事での姿だけでなく彼らの私生活の様子も描かれ、オペレーターは痴呆症の母親の介護をしているし、ベテラン消防士は元アル中で、女性警官の夫はゲイとしてカミングアウトしたばかり、と皆が様々な悩みを抱えている。

出演者は結構豪華で、オペレーター役にコニー・ブリットン、消防士役にピーター・クラウザや俺の好きなケネス・チョイ、女性警官役にアンジェラ・バセットなどなど。アンジェラ・バセットってもうすぐ60歳なのにアクション多めの役を演じているのか。

まあ次から次へと緊迫した事件が続くので見てて飽きないし、役者もいい人たちが揃っているのだけど、これって20年近く前に「サード・ウォッチ」がやったことと内容は全く同じではないのか…?単に事件の一部始終を映すのではなく、もうちょっと捻りがあってもいいのでは。ケーブル局のFXではなく地上波のFOXの番組であるせいか、ライアン・マーフィーの作品にしては大味な印象を受けた。

なおディズニーによるFOX買収にあたって、マーフィーはディズニーCEOのボブ・アイガーから電話をもらって話し(それだけ彼は力を持っているのだ)、当面はFOXに残ることを決めたらしいが、この「9-1-1」は彼の作品にしては比較的凡庸かな、と思いました。

「TWICE UPON A TIME」鑑賞


というわけで今年もやってきました「ドクター・フー」のクリスマス特番。これがないと俺のクリスマスは始まらんのよ(もう終わったけど)。今回は12代目ドクターを演じるピーター・カパルディの登場する最後の回、さらには長らくショウランナーを努めてきたスティーブン・モファットも降板する回ということもあり(脚本は当然モファット)、「記憶」をテーマにした今までのシリーズを回顧するような話であった。以降はネタバレ注意。

話は前のシリーズ10からそのまま続いていて、リジェネレーションの時期が間近に迫っていることを悟ったドクターは、それでも肉体の再生を拒んで南極へと到着する。そしてそこで出会った老人こそが、誰であろう初代ドクターであった。彼もまた(初の)リジェネレーションを拒んでターディスで南極に来ていたのだ。さらに二人は第一次世界大戦の戦場から迷い込んできた一人のイギリス兵に遭遇する。彼ら3人の出会いは時間の異常な乱れによって生じたものであり、その乱れを感知した巨大な宇宙船に彼らは捕獲される。その宇宙船で元コンパニオンのビルと再会するドクター。彼らを捕獲したのは人々の記憶を管理する存在「テスティモニー」であり、ドクターたちが兵士を元の戦地へ返すことを要求するが、彼を死地に戻すわけにはいかないとドクターはそれを拒み、宇宙船から脱走してテスティモニーの正体を探ろうとするが…というあらすじ。

初代ドクターを演じるのは故ウィリアム・ハートネル…では当然なくて、「An Adventure in Space and Time」でも同じ役を演じたデイビッド・ブラッドリー。昔ながらの頑固親父というノリの初代ドクターに対して、もっとモダンな12代目がいい凸凹コンビ感を出していまして、初代の女性に対する「政治的に正しくない」発言に慌てる12代目がいいぞ。彼らに出会うイギリス人兵士を演じるのが、裏方としても役者としても常連のマーク・ゲイティス。彼もモファットともに番組を去るという話があるので、ここで最後のお勤めでしょう。元コンパニオンのビルとしてパール・マッキーが再登場するほか、サプライズゲストも出てきます。

まあこのようにモフェット・フーの集大成というか同窓会のような内容なので、サスペンスとかはあまりなし。テスティモニーも悪役というわけでもないし。前のシリーズでXXしたビルを再登場させた手段が、50周年でローズを再登場させた方法の使い回しのような気もしたけど。あと俺が年をとっただけかもしれないが、数年前のプロットとか覚えてないのよ…。「宇宙最大のデータベース」として登場した彼とか、誰だったっけという感じだったし。そういう過去のプロットは、よくも悪くも新しいショウランナーが就任することで一掃されるのかな。あと毎度のことながらCGのキャラクターがショボいような。BBCそこらへんにもうちょっとお金かけようよ。

というわけで全体的にまったりしたエピソードであったが、ドクターが過去の自分と話し合い、自分の存在意義を再認識してリジェネレーションを受け入れる流れはよく描かれてましたよ。ラストのモノローグはウルっとくるほどの出来でございました。

こうして12代目は去り、次にやってくるのは13代目!初の女性ドクターだよ!ジョディ・ウィテカー演じる13代目は例によって最後にちょっと出てくるだけだが、多くの視聴者に好意的に迎えられているみたい(ヨークシャー訛りがキツいが)。また今までとは違った新たなドクターが楽しめそうなので、来年の秋まで待つのが残念ですが、期待しておきましょう。

「HAPPY!」鑑賞


グラント・モリソンがライターのイメージ・コミックスの作品を原作にした、SYFYの新シリーズ。

ニック・サックスはカタブツで有能な刑事だったが、汚職事件に巻き込まれて屈辱的な退職に追い込まれた過去をもち、今はヒットマンとなって自暴自棄な生活をしていた。それでも腕の立つ彼はクリスマスの近づいた晩に殺しの依頼を片付けるものの、その際に狙撃されて救急車に担ぎ込まれる。精神が朦朧とするなかで彼の前に現れたのは、青くて翼を持った陽気なユニコーン、ハッピーだった。ニックにだけ見えて、彼に語りかけてくるハッピーを幻覚の産物だと見なそうとしたニックだったが、ハッピーは彼の知らないことも知っているふしがある。ハッピー曰く、彼はヘイリーという少女のイマジナリーフレンドであり、サンタに扮したサイコ野郎にヘイリーが誘拐されてしまったため、訳あってニックに助けを求めてきたのだという。そんなハッピーはやはり幻覚なのではないかという疑念を抱きながらも、病院から脱出しようとするニック。しかし彼が殺しの相手から聞かされた、財産にアクセルするパスワードを狙って、別の殺し屋たちがニックの命を狙うことになり…というあらすじ。

原作コミックのアートを担当したのが「トランスメトロポリタン」や「ボーイズ」で知られるダリック・ロバートソン。なんつうか下品で暴力的なスタイルを特徴とした人でして、コミックも小汚い格好のニックが人をブン殴っていくという、グラント・モリソン作品にしては比較的異質な内容であったのを記憶している。

その一方でモリソン自身が第1話の脚本を共同執筆していることもあり、話の展開はかなりコミックに沿ったものになっていた。病院でニックを狙う殺し屋なんかはうまく脚色がされて話に厚みが出ているし、「ハードコア・ヘンリー」を彷彿とさせる過激なカメラワークも話の内容によくマッチしている。第1話で原作の4分の1以上を消化しているので、これからはどんどんオリジナルの展開になっていくのかな?

主役のニックを演じるのはクリストファー・メローニ。「ロー&オーダー:SVU」のシリアスな刑事役で知られる役者だが、もともとはコメディ畑の出身ということもあり自堕落なニックがよく似合っている。そんな彼を翻弄するCGのユニコーン、ハッピーの声を務めるのがパットン・オズワルドで、まあオズワルドの出てる作品にハズレはないよな。あとは別の殺し屋役でパトリック・フィッシュラーなども出ています。

まあこの高いテンションをどこまで保持できるかがシリーズ存続のカギなんだろうが、第1話は結構面白かったですよ。これをきっかけにグラント・モリソンの作品の映像化がもっと進まないかな。ロバート・カークマンくらいの扱いは受けてもいいと思うんだが。

「The Problem With Apu」鑑賞


アメリカのtruTVで放送された50分ほどのドキュメンタリー番組。

ニューヨーク出身のコメディアンであるハリ・コンダバルーはインド系移民の息子で、人気アニメ「シンプソンズ」のファンであったが、そこに登場するインド系のキャラクターであるアプー・ナハサピーマペティロンについては以前から不快に感じていた。インド訛りの英語を喋りインドの風習に忠実なアプーはインド系アメリカ人の象徴ではなくカリカチュアであり、インド系をバカにしている。さらに悪いことに、彼の声をあてているのはハンク・アザリア、白人だ!コンダバルーはアプーに対するこうした不満を、ライターをやっていたw・カマウ・ベルの番組のスケッチでぶちまけたところ、その動画がバイラルヒット。この成功に勇気付けられたコンダバルーはこのドキュメンタリーを作り、アプーが生まれた経歴や、インド系の役者がハリウッドでいかにステレオタイプ化されているかなどを探っていく。さらに彼は問題の元凶であるハンク・アザリアへのインタビューも試みるが…という内容。

コンダバルーが自分のバックグラウンドについて語るのと並行して、いかにアプーというキャラクターがインド系への偏見を培うことになったかが説明されていく。シンプソンズのファンなら誰もが知ってるアプーのセリフ「サンキュー、カムアゲイン」はシリーズ中で8回しか使われていないにもかかわらず、彼のキャッチフレーズとなり、コンビニの店員をやってるのはインド系という偏見を生み出すことになったのだ。

またカル・ペンやハッサン・ミナージ、アーシフ・マンドヴィ、アジズ・アンサリといったハリウッドで活躍するインド系の役者たちにもインタビューがされ、彼らがいかにステレオタイプ的な役を押し付けられ、インド訛りのアクセントで演技することを求められていたかが語られていく。黒人差別のメモラビリアを収集しているというウーピー・ゴールドバーグも登場して、こうした人種によるカリカチュアは黒人も同様であったことを述べていた。

さらに「シンプソンズ」のライターであったダナ・ゴールドにもインタビューをして、アプーが誕生した経緯なども語られるのだが、彼のスタンスはまず「ユーモアが全てに優先する」といったものなので、アプーについて謝罪するようなことはなく、コンダバルーの意向とは微妙な平行線を辿っていたな。コンダバルーはアプーが嫌いであっても未だに「シンプソンズ」のファンではあるのであまりキツいことも言えず、どことなくドキュメンタリーとしての焦点がボケていた印象は否めない。

そんでもってネタバレすると、ずっとコンダバルーが面会を希望していたハンク・アザリアは、悪役のように扱われることを懸念してインタビューを拒否。結局彼には会えずじまいで終わるのですが、こういうの見るとまずパフォーマンスで問題提起をして、狙った相手にはアポなしで突撃するマイケル・ムーアのドキュメンタリー手法ってあれはあれで正解なんだなというのがよく分かりますね。

個人的にはこれを観るまでアプーってむしろ画期的なキャラクターだと思ってまして、変人だらけの「シンプソンズ」のなかでは比較的「良い人」として描かれているし、彼が登場するまでアメリカのアニメ界どころかテレビ界においてインド系のキャラクターなんて殆どいなかったわけで(「ジョニー・クエスト」のハジなんてもっとカリカチュアじゃん)、南アジア人の存在を知らしめた重要なキャラクターだと考えていたのですね。でもやはり実際のインド系にとっては偏見を助長する存在だったのだなあ。

まあでもここ数年でインド系の役者とかをたくさんテレビや映画で見るようになったし、変なアクセントで話しているケースも少なくなってきたし(ゼロではない)、こうしたドキュメンタリーの影響で偏見は打ち消されていくものだと考えたいですな。日本人や中国人や韓国人のような東アジア人も、まだまだハリウッドではカリカチュア扱いを受けているので(Fuck you, “2 Broke Girls”)、こうしたドキュメンタリーなどを用いて偏見と戦っていくべきだと思うのです。