「BROCKMIRE」鑑賞


ハンク・アザリア主演のIFCの新シリーズ。元々はFunny or dieのために作られたキャラクターを主人公にしたもの。

ジミー・ブロックマイアはメジャーリーグの名物実況アナウンサーであり、その表現豊かな実況にはファンも多かった。しかしある日妻の浮気現場を目撃してしまったことから、やけになって酔っ払った彼は実況中に暴言を撒き散らす失態を犯し、さらにその釈明会見でも暴走したことで職を追われることになる。それから10年は海外を放浪していた彼だが、その会見の映像はyoutubeにアップされてカルト人気を誇っていた。そしてアメリカに戻った彼はマイナーリーグでの求人をうけて田舎町にやってくるが、そこの球場はボロボロで、彼の実況は地元のラジオにも流れず球場だけで流されるという境遇だった…というあらすじ。

アザリアといえばエメリッヒ版「ゴジラ」とか「HUFF〜ドクターは中年症候群」とかで日本でも知られた役者だが、やはり一番有名なのは「シンプソンズ」でアプーとかモーといった多数のキャラクターを演じ分けている声優としてなのですね。声帯模写でも非凡な才能を発揮している彼が、クセのある声を持った実況アナウンサー(声も格好も実在の有名アナウンサーを真似たらしい)を演じるというのは実に適役なのではないかと。

共演はマイナーリーグ球団のオーナーにアマンダ・ピート。一回ヘマをして挫折した男が田舎町で再起しようとするという展開は決して目新しいものではないし、今後の展開がどうなるのかいまいちわからない点はあるのだけど、早くもシーズン2の製作が決まったということなので、今後面白くなってくることに期待しましょう。

「Feud」鑑賞


最近いちばんトンガった番組を作り続けている放送局であるFXの新作シリーズ。「アメリカン・ホラー・ストーリー」や「アメリカン・クライム・ストーリー」のようなアンソロジー作品で、ということはつまりクリエーターはライアン・マーフィー。

名前の通り歴史上のイザコザをテーマにしたもので、第1シーズンは「Bette and Joan」と称して、1962年の映画「何がジェーンに起こったか?」の撮影時における主演のジョーン・クロフォードとベティ・デイビスのあいだの諍いに焦点をあてたものになっている。

かつてはハリウッドで絶大な人気を誇り高額のギャラを手にしていたクロフォードも、年をとるにつれてスタジオから声がかからなくなり、出演作は激減していた。ペプシコの社長の未亡人という立場であったもののペプシコから支払われる年金は乏しく、庭師たちに給料が払えない有様であった。そんなとき彼女は「何がジェーンに起こったか?」の原作小説に目をつけ、映画化を画策する。まずはロバート・アルドリッチに監督の話をもちかけ、そしてベティ・デイビスに共演を頼みこむ。彼女との仲は悪かったのだが、彼女との共演が大きな話題になることをクロフォードは狙っていたのだ。クロフォード同様に出演作に恵まれていなかったデイビスは共演を渋々受け入れる。こうして撮影が始まったものの、お互いに脚光を浴びたがる女優ふたりの共演がスムースに行くわけもなく…というあらすじ。

クロフォードはアル中でデイビスはチェーンスモーカーと、どちらもいい感じに壊れてます。グラマラスなハリウッドの世界を舞台に女性二人がイヤミを言いながら反目しあうところはキャンプ趣味たっぷりで、ここらへんはゲイ冥利につきるんだろうなあ。しかし最近のライアン・マーフィーは単に悪趣味の人ではなく「アメリカン・クライム・ストーリー」の鋭い描写が大絶賛を受けてるような人であるわけで、あちらがO.J.シンプソン事件をもとにアメリカの人種差別を描いたものだとすれば、こちらはハリウッドにおける年齢差別を扱っている感じ。女優が中年になっただけでスターの座から落とされ、仕事がまわってこなくなる光景を描写しています。なおFXはケーブル局なので放送禁止用語などの規制が緩く、こないだの「Atlanta」では(おそらく初めて)F wordがピー音なしに用いられていたが、こちらではC wordまでもが使われ、話題になってるみたい。

ジョーン・クロフォードを演じるのがジェシカ・ラング。映画を成功させるために苦心する役なんだけど、最近では「アメリカン・ホラー・ストーリー」の常連ということもありでホラーっぽい印象も受けます。一方で無愛想なベティ・デイビスを演じるのがスーザン・サランドン。劇中の白塗りメイクで登場するところが一つの見せ場な。ふたりの間で四苦八苦するアルドリッチ監督役にアルフレッド・モリーナ。あと当時の状況を往年の女優が回想するという形をとっており、オリビア・デ・ハビランドをキャサリン・ゼタ=ジョーンズが演じたり、キャシー・ベイツが出てたりします。

「何がジェーンに起こったか?」を観てないと十分に楽しめないかもしれないけど、ベテラン女優たちがハリウッド黄金期の女優たちを演じているという点で観る価値はあるかと。アメリカでの評判も良いらしいし、FXにおけるライアン・マーフィーの天下は続くので早くも第2シーズンの製作が決まってるのだが、そちらはイギリスのチャールズ皇太子とダイアナ妃のイザコザの物語になるとか!

「SS-GB」鑑賞


BBCの新作ミニシリーズで、レン・デイトンによる同名小説を原作にしたもの。邦訳もあるらしいですが読んでません。

いわゆる歴史改変もので、舞台は1941年のイギリス。この世界では約1年前にイギリス軍がバトル・オブ・ブリテンに敗北して、イングランドとウェールズの大半はナチスドイツに征服されていた。一部ではレジスタンスによる抵抗が続いているものの、大半のイギリス人はドイツ政権のもとで粛々と暮らしていた。そして主人公のダグラス・アーチャーはロンドン警視庁の警部であり、相棒とともにとある殺人事件を調査することになる。闇市場に絡んだ殺人だと見なされた事件だったが、ベルリンから連隊指揮官が謎の目的をもって警視庁にやってきたことから、アーチャーは国をゆるがす大きな陰謀に巻き込まれていく…といったあらすじ。

第1話を見た限りでは、パラレルワールドにおける刑事ものといった感じで、SFの要素はなし。似たような設定の作品には「高い城の男」があるが、あちらがどちらかといえばロードムービーっぽいのに対し、こちらは狭いロンドンを舞台にした陰謀ものといったところか。ドイツ軍の上司たちが何かを企むなか、アーチャーが捜査を続けるにつれ、レジスタンスの運動や謎の化学兵器の存在が示唆されるものの、まだまだ話は序盤なのでよく分かりません。

主人公のアーチャーは妻を大戦で亡くし、息子とともに暮らしている人物。ドイツ軍の上司に協力している一方で、レジスタンスにも理解を示しており、恋人のシルビアがドイツ軍により反抗的な態度を示したとき、自分の忠誠心が揺らぐのを感じている。また彼の前にアメリカのジャーナリストだというバーバラという女性が現れ、彼女が何かを企んでいることが話の大きなプロットになっていくみたい。

アーチャーを演じるのがサム・ライリーで、バーバラをケイト・ボスワースが演じている。サム・ライリーがダミ声でぶっきらぼうな感じで話すので、警部というよりも私立探偵のような雰囲気を持っているのだが、本国ではみんなのセリフがもそもそして聞き取れないということで、クレームが殺到したらしい。俺が見た感じではそんなにひどくはないけど、会話にドイツ語などが入り混じるので結構集中しないと話についていくのが難しいかも。

まだ話が始まったばかりなので何とも言い難いが、そんなに悪い作品ではないと思う。これから先に謎の展開がどうなっていくのだろう、というのが気にはなるくらいの出来であった。

「レギオン」鑑賞


「LEGION」と書いてリージョンと読む。でもなぜか邦題は「レギオン」。

いちおうマーベルのコミックが原作で、原作だとリージョンことデビッド・ホーラーはプロフェッサーXの息子で多重人格障害を持ち、それぞれの人格が独自のスーパーパワーを持つという結構凄そうな能力を誇るミュータントなのだけど、やはり精神障害者という設定が災いしてか、いまいち活躍していないキャラクターなんだよな(昨年あたりマーベルから出てたシリーズは悪くなかったけど)。

でもこの番組についてそんなことはどうでもよくて、重要なのはTVシリーズ版「ファーゴ」を作ったノア・ホーリーによる新番組だということ。「ファーゴ」でも空飛ぶ円盤が登場して話が暴走しつつも、あくまでもノワールの枠に収まっていたが、こっちはSFテイストの作品ということでストーリーが自在に吹っ飛んでいます。

主人公のデビッドは幼少の頃こそ優秀な少年だったものの、青年になったときに多数の人の声が頭のなかで聞こえるようになり、精神に異常をきたして自殺未遂を行い、精神病院へと送り込まれる。そこで彼はシドニーという少女に出会い、二人は恋に落ちる。しかしシドニーは退院することになり、別れることを望まなかったデビッドが衝動的に彼女にキスをすると、なんと二人の精神は入れ替わってしまう。こうして彼女に替わって病院を出て、体も元に戻ったデビッドだったが、今度は謎の男たちに誘拐され、「世界で最も強力なミュータント」として奇妙な尋問を受けることになる…といったあらすじ。

話の流れが錯綜していて、フラッシュバックが多用されて時系列が乱れているほか、デビッド自身が信用ならない語り手であること、そしてそもそも何が現実で何が虚構なのか?という線が曖昧なため、なかなか複雑な内容になっております。でも決して意味不明で退屈になることはなく、ビジュアルも刺激的だし話の展開も速くて飽きさせない。初期のクローネンバーグというか、70年代のSF映画みたいな雰囲気がいいな。

いちおう話の舞台は現代のようだけど、携帯電話などのガジェットは登場せず、人々の服装も「ファーゴ」シーズン2のようにレトロ気味で、時代錯誤の雰囲気を醸し出している。初期のクローネンバーグというか、70年代のSF映画っぽいというか。流れる曲もザ・フーとかストーンズの60’sロックだし、シドニーの名前がシドニー・バレットだというのはピンク・フロイドへのオマージュですね。

デビッドを演じるのはイギリス出身のダン・スティーブンス。青年かと思いきや30代半ばなんですね。シドニー役のレイチェル・ケラーは「ファーゴ」シーズン2にも出てたな。あとはデビッドの病院仲間をオーブリー・プラザが演じていて、安定のメンタルっぷり。第1話にはハミッシュ・リンクレーターがゲスト出演していた。

クレジットにはクリス・クレアモントやビル・シェンキビッチをはじめとするコミック関係者の名前が並んでいるし、話の最後には他のミュータントたちが出てくるので「Xメン」っぽいところもあるのだけど、コミックが原案のキャラクターは今のところデビッドだけかな?彼が幻視する悪魔のような太った男はシャドウ・キングか?

今後の展開がどうなるかは全くわかりませんが、アメリカでは批評家に絶賛されているし、ノア・ホーリーの作品ということで今後も見続けるつもり。日本でももう放送始まってるので観ましょう。

「POWERLESS」鑑賞


NBCの新作コメディシリーズ。DCコミックスの世界を舞台にした内容だが、「アロー」や「スーパーガール」みたいなThe CWの番組とは別のユニバースという設定らしい。

舞台となるのは大都市チャーム・シティ。そこではスーパーヒーローとスーパーヴィランの戦いが恒常的に行われ、交通機関の破壊などで一般市民に影響が出ることは日常茶飯事だった。田舎町出身のエミリーは、ブルース・ウェイン率いるウェインテックの子会社であるウェイン・セキュリティーズの開発部門のチーフとして働くことになり、胸をときめかせて会社にやってくるものの、開発チームは変人ばかりでろくな製品の開発ができず、レックスコープの後塵を拝している始末。社長のヴァン・ウェインもとっとと会社をたたみ、いとこのブルースの住むゴッサムシティへと移りたがっていた。それを目にして気落ちするエミリーだったが、やる気を出して開発部門を奮起させようと試みる…といったあらすじ。

DCコミックス作品とはいえ、スーパーマンやバットマンといった有名どころは言及されるだけで登場するわけではない。当然ブルース・ウェインの登場も(今のところは)なし。代わりに第1話で出てくるのはクリムゾン・フォックス!とてもマイナーなヒーローです!あとヴィランのジャックオーランタンって番組のオリジナルキャラかな?スターロがちょこっと出てるのは面白かったし、DCの小ネタをいろいろ詰め込んでくれればオタク的には面白いのだろうけど、NBCの視聴者ってアメコミ詳しくなさそうだし(RIP「コンスタンティン」)、コミックファンと一般視聴者のあいだのバランスをとるのが難しそうだな。

まあ基本的には一般向けのシットコムになっていて、無難なオフィスコメディといった感じ。「スーパーガール」のオフィスの部分を切り出したような作りといったところか(あちらの眼鏡っ娘という最強の要素が欠けてるが)。アホな開発部門が舞台ということで、誰も知らないシットコム「Better Off Ted」を連想したりもしました。

主演のヴァネッサ・ハジェンズって歌手のイメージが強いのでどのくらいコメディができるか良く知らないのだけど、頑張るエミリーを好演していていい感じ。あとはヴァン・ウェインがアラン・テュディックで開発部門のメンバーにダニー・プディと、コメディ的には鉄板の役者が出演しているので、ここは応援したいですね。クリストファー・リーヴ版の「スーパーマン」でジミー・オルセンを演じたマーク・マクルーアがエミリーの父親を演じたりもしているぞ。

DCコミックスの要素を抜かせば、凡庸な出来であることは否めないが、おカタいスーパーヒーロー作品がたくさんあるなかで、「デッドプール」なんかとはまた違った方向性でコメディに徹した作品があることは貴重だと思うのですよ。どうもストーリー上はレックス・ルーサーが次期大統領という設定みたいで、トランプ政権の風刺とか絡めたら面白くなるんじゃないかと。今後の展開に期待。