ドクター・フー「Eve of the Daleks」鑑賞

「ドクター・フー」の新年特番でございます。

2021年には「FLUX」と名付けられた全6話のミニシリーズ的なシリーズ13も放送されて、このブログでは取り上げなかったが全てのエピソードを観ましたよ。でもね、これ欧米のメディアでも言われている話だが、13代目ドクターの話って、なんか面白くないのよ。とはいえ初の女性ドクターを演じるジョディ・ウィテカーの演技は普通に素晴らしくって、ずっとドクターを演じていても構わないくらい。問題はショウランナーも兼ねるクリス・チブナルの脚本にあるわけで、番組をどういう方向に持っていきたいのかよく分からんのよな。決して悪いエピソードがある訳ではないものの、未来の女性ドクターが登場したりキャプテン・ジャック・ハークネスが再登場したりする一方で、そこらへんの伏線が全く回収されないままドクターにまつわる新しい設定が紹介されたりするのでどうも消化不良の感が強いのです。

昨年の「FLUX」も、ドクターを狙う新しい敵・星を喰らい尽くす謎の現象・嘆きの天使たち、という興味深い設定を持ち出してきたのに、なんか相乗効果が出たわけでもなく登場人物だけやけに多いままごちゃごちゃになって話が終わり、ファンのあいだでも不評を買っていたな。新コンパニオンのジョン・ビショップもただ突っ立ってるだけだし。

そんでもって今回の新年スペシャルですが、ドクター・フーでは禁じ手とされてきた「タイムループ」の設定を上手く使ったのは面白かった。大晦日の夜、マンチェスターにある貸し倉庫を舞台に、謎のタイムループに囚われたドクターと仲間たちが、同じ倉庫に出現したダーレクたちに何度も殺されながらも、タイムループから抜け出そうとする話。ドクターたちもダーレクもタイムループに囚われていることを把握していてお互いを出し抜こうとするのに加えて、ループされる時間がどんどん短くなっているという設定も良かった。その一方で話のオチの付け方がなんか説明不足で、そこらへんがチブナルの技量不足なのかなあ、という感じ。過去のショウランナーの場合、スティーブン・モファットはもっとSFっぽい不思議なヒネリを加えてきただろうし、ラッセル・T・デイビスは特番ならではの冒険活劇に仕立ててたと思う。

何にせよ今年あと特番ふたつをもってウィテカーはドクター役を降板し、クリス・チブナルもショウランナーから外れることになる。チブナルの後任は「ドクター・フー」のリブートの立役者であるラッセル・T・デイビスの復帰がすでに発表されており、いわゆる「ニュ・フー」もリブートから15年以上が経ち、そろそろ原点に帰る時期がきたと言うことなのですかね。デイビスの復帰により、番組としてはおそらく:

  • 登場人物がゲイかバイセクシャルの人ばかりになる(キャプテン・ジャックも戻ってくるだろうな)
  • スペシャル番組のたびにロンドンが襲撃を受ける
  • ウェールズが文化・モラル・その他すべての中心地となる

という内容になるのかな。ジョディ・ウィテカーでなくても引き続き女性がドクターを演じても良いとも思うけどね。とりあえず残りの2話、チブナルが良い脚本を書いてくれることに期待しましょう。なお次のエピソードはすんごく懐かしいクリーチャーが登場するそうで、これはちょっと感激してしまったよ。

「LANDSCAPERS」鑑賞

HBO/SKYのミニシリーズ。

現実にあった殺人事件をベースにしたもので、スーザンとジョージ・エドワーズはフランスに15年住んでいたものの貯金が底を尽きかけていた。そしてクリストファーが彼の養母に電話でふと漏らした情報から、実はふたりが15年前にスーザンの両親を射殺し、庭に埋めていたらしいことが判明する。こうしてイギリス警察の要請により帰国したスーザンとジョージはすぐに逮捕され、警察の尋問を受けるのだった…というあらすじ。

現実のスーザンとジョージは今でも罪状を否認しているそうだけど、そういう人たちの映像化権をどうやって獲得したのかはよく分からん。いわゆる流行りの犯罪実録ものというよりも、どことなく浮世離れした夫婦が主人公のブラックコメディーになっていて、素人による犯罪がテーマという点では「ファーゴ」に似てるかな。スーザンは映画のメモラビアにお金を浪費するのが好きで、ジェラルド・ドパルデューと友人だと信じ込んでいる不思議ちゃんタイプ。ジョージは金のことで神経をすり減らしているがスーザンには頭があがらない。そんな彼らから事件の真実を聞き出そうとする警察も間の抜けたスタッフが多くて捜査が進まないという内容になっている。

スーザン役にオリビア・コールマンで、ジョージ役にデヴィッド・シューリス。オリビア・コールマンって年に20本くらいイギリスのテレビ番組に出てるような気がするが、今作は脚本を夫のエド・シンクレアが執筆しているということで家内工業のような雰囲気があるのです。シューリスは「ファーゴ」シーズン3でも見せたキモいおっさんぶりを怪演しているが、若い頃のジョージをきちんと好青年っぽく演じたりもしていて演技が巧いのよ。

これ当初はアレキサンダー・ペインが監督を務める予定だったそうだが、都合により降板して役者のウィル・シャープ(日系人の彼ね)が監督することになったそうな。そしたらセットやアーカイブ映像などを実に効果的に用いた実にユーモラスな演出になっていて、彼にこんな監督としての才能があったのかと驚いてしまったよ。古いハリウッド映画の映像を挿入するような編集はクドく感じられるかもしれないが、たぶんアレキサンダー・ペインが監督やってもここまで面白い映像にはならなかったのでは。

実際の裁判に関わった人たちからはスーザンとジョージを美化しているという批判もあるそうだけど、あくまでもフィクションとして観れば結構楽しめるのでは。とりあえず全4話の半分まで観たので残りも観てみます。

「Hit-Monkey」鑑賞

米HULUのオリジナルアニメシリーズ。マーベルのコミックを原作にしたもので、主人公のヒットモンキーはダニエル・ウェイとDalibor Talajićが生み出したキャラクターらしいが、恥ずかしながら全く知らんでした。自分のミニシリーズのほかに「デッドプール」なんかのコミックに登場してたそうな。

舞台は日本。陽気なアメリカ人ヒットマンのブライスは何者かに依頼されて、選挙への出馬を控えていた高原という革新派の政治家の暗殺を依頼される。暗殺自体は上手く行ったものの、ブライスは雇い主に裏切られて襲撃され、傷ついた身で山奥へと逃げ込む。そこの温泉に浸かる猿たちに看病された彼は、彼に特に興味を持った若い猿と親密になるものの、ブライスの追手たちが山にやってきて彼と猿たちを皆殺しにしてしまう。唯一残った若い猿はブライスの銃を手にして追手たちに復讐を遂げ、そして突然彼の前に現れたブライスの幽霊とともに、物事の真相を明かそうと山を降りて東京に向かうのだった…というあらすじ。

宣伝用写真とかを見るとスーツを来たモンキーが銃を手に暴れまくるような印象を受けるが、劇中のモンキーはもっと繊細な性格で、自分の投げ込まれた状況に困惑している感じ。しかしさまざまな悪人に出くわして痛めつけられるため、結局はブチ切れて暴れまくるのだが。足でも物を掴めるというのが彼の強みらしい。

モンキーは人語を話さない(ほかの動物と話す時はコミックみたいに文字が出る)のだけどブライスとだけは意思疎通ができるという設定。また幽霊となったブライスは他の人間の目には見えず、モンキーと不思議な絆で結ばれていて彼と離れることができない。そして事件の黒幕を追う彼らは、高原の代わりに出馬することになった老政治家の横浜シンジ、その姪のアキコ、警官のハルカなどに出会っていく。マーベルのシリーズだけどほかのコミックから登場する有名キャラはレディ・ブルズアイとシルバー・サムライくらいかな。

日本人としては舞台となる日本の描写が気になるところで、高尾山の麓に城があったり、ヤクザが銃を気軽に使いすぎだろといった誇張された部分ももちろんある。しかしその一方では背景に使われている漢字が意外と正確だったり、街中の雰囲気がよく描かれていたりと、大半のハリウッド映画なぞよりも描写は的確だった。これはスタッフライターのケン・コバヤシという人に負うものが大きいのかな。マイナーな日本語ラップ曲が綺麗なアニメーションにのせて流れる演出とかもスタイリッシュで良かったよ。

声優はアキコ役にオリビア・マン、シンジ役にジョージ・タケイと、日系でなくともアジア系で揃えている。モンキー役のフレッド・タタショアも人語を一切話さない役で頑張ってるなあ。ブライス役は「テッド・ラッソ」で日本でも知名度の上がったジェイソン・サダイキス(スーデイキス)が演じてるが、モラルが欠如していて口の達者なヒットマン、というキャラクターが同じHULUの「ARCHER」とモロに被っていてそこは損しているな。

基本的にはハイパーバイオレントなアクションを売りにしたコメディだけど、こないだの「MODOK」同様、キャラクターの悲哀もきちんと描いてるのが上手いね。ブライスの悲しい過去を描いたエピソードとかは特に良かった。別に日本を侮辱してるような内容でもないし(つうかそもそもコメディだしぃ)、これ日本のDISNEY STARでもいずれやらないかな。

「Yellowjackets」鑑賞

米SHOWTIMEの新作シリーズ。日本でもU-Nextでやるそうで。

2つの時代の物語が錯綜する内容になっていて、1つは1996年、もう1つは2021年の現代。1996年にニュージャージーの高校の女子サッカーチームが全国大会に出場するために遠征するものの、乗った飛行機が墜落して選手たちはオンタリオの雪に覆われた原野で19ヶ月ものあいだサバイバル生活を強いられることになる。そして2021年、大人になった彼女たちは平凡な生活を送っているように見えたが、原野で行われたことについて彼女たちは大きな秘密を抱えていたのだった…というのが大まかなあらすじ。

あらすじは「LOST」っぽいけどレビューとかでは「蝿の王」と比較されていて、文明から隔絶された原野において少女たちが蛮族のように振る舞い、反乱者を殺して食べていたことが示唆されている。救助されて文明に戻ったあとも彼女たちは原野で行ったことを秘密にしていたものの、それを詮索するレポーターが現れたり、更生施設に入っていた仲間が戻ってきたことでいろいろ秘密が明かされていくという展開になるのかな。

女子版「蝿の王」って数年前から映画化の話があって、あれ結局どうなったんだろう。当時はそのニュースに対して「女の子は平和に共存できるから蛮族になったりしない」なんていうツッコミもあったが、この番組では野生化した少女たちの衣装とかがなかなかスタイリッシュでカッコいいですよ。余談だけど60年代にトンガで6人の少年が無人島に漂着して15ヶ月暮らした出来事があったのを最近知りまして、意外と男たちも仲良く暮らせるじゃん!と思った次第です。

第1話の監督は「ジェニファーズ・ボディ」のカリン・クサマ。96年の学生生活が多めに描写されていて、原野での不気味な儀式などは少ししか出てこないのがちょっと残念。選手のあいだでも微妙に不和があって、それが後に原野でエスカレートすることが暗示されている。96年の少女たちを演じる役者はよく知らないけど、大人になった彼女たちを演じるのはメラニー・リンスキー、ジュリエット・ルイス、クリスティーナ・リッチなど有名どころが揃っている。仏頂面のルイスが更生施設帰りのトラブルを起こしそうなキャラで、リッチは選手でなく大人しいマネージャーだったものの、原野において大きく性格がひねくれた(らしい)キャラを演じている。

正直なところ第1話の時点では明かされる内容がごく僅かなので、これがどういう展開になっていくのかはよく分からない。でも話の設定がかなり独創的であることは確かなので、もしかしたら大化けするかもしれない番組ですな。

https://www.youtube.com/watch?v=mX22D65TqAs

「THE OUTLAWS」鑑賞

THE OFFICE」のスティーブン・マーチャントが脚本・監督のBBCの新シリーズ。

舞台はブリストル。万引きや詐欺、買春といった軽罪で逮捕された7人の老若男女が懲罰として社会奉仕活動を行うように命じられ、廃屋の清掃を行なわされる。様々な経歴を持った彼らは最初はよそよそしかったものの、やがて徐々に打ち解けていく。しかしそのなかの少年がギャングから奪った大金をそこに隠し、それを他の人たちが見つけたことから、彼らは知らぬ間にギャングに狙われることになり…というあらすじ。

題名こそ「アウトロー」だが、主人公の男女7人はみんな軽微な罪で逮捕されたので収監されずに自宅に住み、仕事にも行くことができるという設定。冴えない弁護士や父親から会社を継いだ2代目社長、セレブのインフルエンサー、厳格な両親のもとで育ったためストレスで万引き癖がついた少女など、多様な悩みをもった主人公たちのやりとりや、彼らの家族の話などが語られていく。マーチャントの作品にしてはコメディ色は意外と薄めで、家族ドラマっぽい感じもするが前述したようにギャングも絡んでくるのでサスペンスの雰囲気もあり、これからどういう展開になっていくのですかね。

主役はマーチャント演じる弁護士ではなく、リアン・ブレトー演じる万引き癖のある少女になるのかな。彼女がグループの少年と親密になっていく一方で、少年が抱えているギャングとのトラブルに彼女が巻き込まれていくのが大きなプロットになっている。あとは「ドラキュラ」のドリー・ウェルズが出ているほか、ギャングの大物役にクレス・バング、さらにはリチャード・E・グラントも登場するそうでなかなか豪華な役者が揃ってますね。

しかしこの番組の最大の飛び道具はやはり、クリストファー・ウォーケンが出演していることだろう。ウォーケンがTVシリーズにレギュラー出演したのって初めてじゃないだろうか。よくイギリスまで連れてこれたな。なおベトナム戦争の徴兵を逃れてイギリスにやってきたアメリカ人という設定なので、イギリス訛りの英語は話していないです。彼はただ立ってるだけでも絵になる役者だが、登場人物が多いため必ずしも彼に十分な時間が割かれてないのが残念といえば残念。あとさすがに歳取ったのか声が出てないような。

これからサスペンスとドラマとコメディのバランスを、どうとっていくのかがカギだろうが、第2シーズンの製作もすでに決まってるようなので話はいろいろ続くのでしょう。とりあえず観るのを続けることにする。