「Y: THE LAST MAN」鑑賞

ブライアン・K・ヴォーン&ピア・グエラによるDC/ヴァーティゴの同名コミックを元にした、HULU/FXの新シリーズ。この著作権はクリエイターに属してるので、DCコミックス作品とはいえワーナー製作ではないみたい。原作が人気作品なのでずいぶん前から映画化の話などがあったものの、TVシリーズ化は主演が変わったり(バリー・キオーガンが演じる予定だった)ショウランナーが降板したりとグダグダしていたのだが、この度やっと完成したことになる。

話のプロット自体は極めてシンプルで、ある日突然、世界中の男性および動物のオスが謎の病気にかかって死んでしまう。世界には女性だけが残されて混乱を極めるものの、なぜかヨリックという青年および彼のペットの雄ザル「アンパーサンド」だけは生き残っていた。この貴重な生き残りであるヨリックの存在はアメリカ政府内でも極秘扱いされ、ヨリックは護衛のエージェント355とともに、彼が生き残った理由を突き詰める旅に出るのだった…というあらすじ。

男性およびオスがみんな死んだ、というのはつまりY染色体を持った生物が絶滅したということで、タイトルはここから来ている。主人公の名前のYORICKもこれにかけてるんだろうな。原作はヨリックのガールフレンドがオーストラリアに留学中という設定で、ヨリックは彼女に会おうとするロードムービー的な要素があり、終盤ではコギャルが跋扈する日本に行ったりもしてたが、こっちはガールフレンドがまだオーストラリアに向かう前になっている。また原作ではヨリックの母親はワシントンDCの議員だったが、TV版では大統領の継承権を持った男性がみんな死んだために彼女が大統領に就任したという設定になっていて、政治ドラマの要素にも重きを置いているみたい。

というかコミックが原作の作品にしてはやけに話の展開が遅くて、第1話は大災厄に至るまでの各登場人物のあらましがバラバラに紹介され、第2話でヨリックが母親に再会し、第3話でやっとヨリックとエージェント355が旅に出る、という展開なので、これからロードムービーっぽくなるのか、引き続き政治ドラマが描かれるのか、よく分からんのよな。なおヨリックはアマチュアのエスケープ・アーティスト(脱出系マジシャン)で、この才能が捕まったときにいろいろ役立つのだが、TV版ではいまのところその才能を発揮するシーンがないみたい。

主人公のヨリックを演じるのはベン・シュネッツァー、って「パレードへようこそ」のマーク・アシュトン役の人か。ヒゲ面になったので分からなかったよ。しかしクレジット上では彼の母親を演じるダイアン・レインがトップになっていて、これから察するにやはりヨリックの話だけでなくアメリカ政府の話が、これからもずっと描かれていくのかな。あとは前大統領の娘役でアンバー・タンブリンが出てたりします。

コミックだとあまり気にならなかったが、出演者のほぼ全員が女性という出演ドラマって結構もの珍しさを感じますね。ついでにショウランナーや監督も女性だし。この設定を活かして、ヨリックの物語というよりも世界を再び再興させようとする女性たちの物語にしたほうが面白そうな気もするが、今のところはあまり社会的なコメンタリーはないみたい。しかし今後は原作にない、トランス男性のキャラクターも登場するそうで、ジェンダースタディー的な内容になっていくのだろうか。

プロットの脚色、というよりも映像化があまり上手にできてない印象を受けたが、ヨリックたちが旅に出たことでこれから面白くなるかもしれないのでとりあえず評価は据え置く。コミックの最終回は非常に好きなエピソードなので、あそこまで無事にたどり着いてくれることに期待します。

「FROGGER」鑑賞

地上波放送では史上最低の視聴率を叩き出した東京オリンピックに続いて米PEACOCKが送る、素人参加型のスポーツゲーム番組。日本のコナミが1981年に出したアーケードゲーム「フロッガー」をもとにしていて、あれ日米で人気が高くていろんな機種に移植されてるし、リメークも出たりしてるのでプレーしたことのある人が多いと思うが、タダでも遊べるので興味がある人はどうぞ。

番組では参加者がゲームにおけるカエルとなって、ステージに張られた水に落ちないように、ハスの葉やカメや岩を模したポリウレタンだかプラスチックの上を飛び移ってゴールを目指すのだが、ゲームと違ってステージは縦長でなくて四角い屋内をぐるっと回る感じだし、ステージの種類もいくつかあって宇宙ステージとか海賊ステージなんてのも存在する。それで1エピソードあたり6人の参加者が3つのステージを2人ずつ競い合い、それぞれのステージでの勝者(ゴールまで着かなくても、より遠くまで進んだほうが勝ちとなる)の3人が最終ステージで競い、勝者が賞金1万ドルをゲットするというルールみたい。

とにかく下に落ちないように足場を跳び移って進んでいくゲーム番組、という点ではNetflixの「Floor is Lava」(未見)に近いのかな?ただ参加者はゲーム同様に3つまでライフを与えられているので一発アウトのスリルがないのと、体が水に落ちても足場に手がかかってればセーフと見なされるので、参加者が二本足でテンポよく跳び移るのではなく上半身から倒れるような形で足場を移っていくのがちょっとトロいな。カエルのように跳んでいるといえばそれまでなのだが。横から水が吹き出ているコースが結構エグくて、そこで早々に脱落してる人が多いあたり、全体的な難易度の調整はまだまだ必要かと。

番組の司会/コメンテーターはデーモン・ウェイアンズJr.と、スポーツキャスター&俳優のカイル・ブラント。ウェイアンズJr.って「ニュー・ガール」とか「Happy Endings」といったシットコムで活躍してるのだから、こんなゲーム番組の司会しなくても良いと思うのだが…。まあふたりの陽気なかけあいと、編集によってそれなりに楽しめる番組にはなっているんじゃないでしょうか。失敗しても製作費はオリンピックの数億分の1くらいだろうし。

しかしオールドゲーマーとしては、ステージのゴールが1つしかなくて、ゲーム版の「左端のゴールがとてつもなく到着しにくい」設定が反映されてないのが気にくわんな。でももしこれが人気を博したら、次は風船に吊り下げられた参加者が戦いあう「バルーンファイト」、落とし穴をつくってお互いを落とそうとする「平安京エイリアン」、ステージに潜んだ猛獣と麻酔銃で戦う「トランキライザーガン」あたりがゲーム番組化しやすそうなんだが、いかがでしょう?

「Kevin Can F**k Himself」鑑賞

AMCの新シリーズ。「$h*! My Dad Says」とか「Don’t Trust the B—- in Apartment 23」とか、題名に放送禁止用語が入ったシリーズって当然ながら宣伝に支障があって短命に終わる印象があるのですが、まあこれはケーブル局の番組ということでジンクスから逃れられるかな。

舞台はマサチューセッツのウースター。酒とスポーツのことしか頭にない愚鈍な夫のケヴィンと、同様にアホなその家族と暮らすアリソンは、夫たちの面倒を見る生活に嫌気がさし、陰鬱な日常から抜け出そうとするのだが…というあらすじ。

番組の最大の特徴はそのスタイルにあって、家庭におけるケヴィンとその家族とのやりとりは典型的なシットコムのマルチカメラを模したスタイル(ラフトラック付き)で撮られていて、アリソンを主体にしたパートは通常のドラマのようなシングルカメラの撮影がされている。つまり家でもケヴィンがいるとことは愉快なコメディの番組になっていて、アリソンが一人になると急に暗い現実のパートが始まるというわけ。

これは「The Larry Sanders Show」みたいな劇中劇の設定ではなく、登場人物も自分たちがシットコムに出演していることを把握しているというメタな設定でもなくて、あくまでもシットコムとドラマの部分は同じ世界の話になっている。夫のケヴィンなんかはシットコム部分にしか登場しない一方で、シットコムとドラマの両方に登場するキャラクターはアリソンのほかにも何名かがいる。

これアメリカのシットコム文化で長らく使用していた「幼稚な夫とそれに我慢する妻」という夫婦像に対する風刺なんでしょうね。またタイトルから察するに、ケヴィン・ジェイムズ主演のシットコム「KEVIN CAN WAIT」へのあてこすりがあるんじゃないのか。シーズン2で人気女優を妻役に起用するために、シーズン1で別の女優が演じていた奥さんをしれっと死んだことにしたシットコムな。こないだパットン・オズワルトも「シットコムの世界でなければ『シンプソンズ』のマージはとっくにホーマーと離婚してただろう」みたいなことを言ってたし、シットコムの主婦の姿が変わるべき時期に来ているのかもしれない。

主役のアリソンを演じるのは「シッツ・クリーク」のアニー・マーフィー。俺あのシリーズあまり観てないな…あとの出演者は知らない人ばかり。「ゴッサム」のロビン・ロード・テイラーが後から登場するのかな?シットコムとドラマでの演技を難なく切り替えることができる役者さんたちは見事ですね。役者の演技や撮影のスタイルが、シットコムとドラマではいかに違うのかが学べる教材になっているかも。

第2話ではケヴィンを殺すためにアリソンが薬物を入手しようとするなど、早くも「ブレイキング・バッド」みたいな展開になるのだが、今後は明るいコメディと暗いドラマの微妙なバランスをいかに保っていけるかが成功のカギになるでしょう。

「M.O.D.O.K.」鑑賞

別名「Marvel’s M.O.D.O.K.」で、米HULUの新シリーズ。マーベル印のスーパーヒーローものだけどストップモーション・アニメのコメディ作品になっている。

主演はマーベル古参のヴィラン、Mental Organism Designed Only for Killing(殺害のみを目的として設計された知的生物)ことモードック。60年代にジャック・カービー御大によって創造されたキャラで、悪の科学組織A.I.M. (Advanced Idea Mechanics)のメンバーが人体実験によって超人的な知性を取得し、その知性をもってスーパーヒーローたちを長らく苦しめてきた悪役なのであります。しかしそのいかつい名前(カービーはキャラクターの命名については直球勝負の人だった)とか、でっかい頭に小さな手足がついているデザインが徐々に時代遅れになっていって、最近はコミックのほうでも面白キャラ扱いされていたような。

番組のほうはモードックのオリジンとかは明らかにされなくて、昔から科学の得意な頭でっかちの子供だった彼が、周囲に受け入れられなくて悪の道に進み、A.I.M.を設立したことになっている。A.I.M.は圧倒的な科学力を誇るものの、アイアンマンをはじめとするアベンジャーズたちには負けてばかりでついに破産し、グランブルというテック企業に身売りしてしまう。さらにモードックには妻と娘と息子がいるのだが(メキシコ系とユダヤ系のハーフ)、仕事に専念してばかりで家庭のことを気にしない夫に嫌気がさした妻に、彼は離婚をつきつけられてしまう。こうしてモードックは会社と家庭の両方を取り戻すことができるのか…というあらすじ。

映像を観ればわかるが、製作は「ROBOT CHICKEN」でおなじみのセス・グリーンのStoopid Buddyスタジオ。ストップモーションなのにカメラがブレたりピンボケしたりと映像技術はどんどん巧くなってくね、あそこ。「ROBOT CHICKEN」もジャンル映画のパロディを連発する内容で知られているけど、こちらもマーベル公式の立場を利用して次々とマーベルの小ネタが登場してくるぞ。メルターとかワールウインドといったマイナーなヴィランが出てくるほか、シニスターやアルティメイト・ナルファイヤーといった、Xメンとファンタスティック・フォーのネタも登場。パーティー好きのシーグリマイトなんて宇宙人、全く知らなかったのでオリジナルキャラかと思ったら「ヘラクレス」誌に登場した連中…ってどこまで細かいネタを出してくるんだ!

このようにオタク向けのコメディ番組とはいえ、話の筋は意外としっかりしていて、家庭と職場における立場を同時に失ったモードックが、あれこれ失敗しながらもA.I.M.を取り戻し、妻子と再び仲良くなろうと奮闘する姿がきちんと描かれている。仕事に専念していて周囲に気配りをしてこなかった中年男のペーソスが滲み出ていて、やはりダメ男が主人公の作品にはおれ弱いのよね。

モードックの声優は、最近どんな番組にも出ている気がするコメディアンのパットン・オズワルド。ギークカルチャーだけでなくマイナーな映画などにも凄い博識がある人だが、この番組ではライターやプロデューサーも務め、D級ヴィランの日常生活というユニークな視点でストーリーを語ってくれます。オズワルドはマーベルでモードックのコミックも執筆してたな。他にはソニック・ザ・ヘッジホッグことベン・シュワルツなんかも出演。

深く考えずにサクサク観られる番組なので全10話を一気に観てしまったが、続きが気になる終わり方だったのでぜひシーズン2も早々に作られることに期待します。

「THE NEVERS」鑑賞

HBO (MAX) の新作シリーズ。クリエイターがジョス・ウィードンで第1話の監督も彼なのだが、まあご存知の通りここ最近はハラスメント疑惑でウィードンはいろいろ叩かれてまして、ショウランナーとしては降板することになったそうな。宣伝でもメイキング映像でもウィードンへの言及は無くなってるみたい。起訴されてるわけでもないのに、最近のウィードン叩きはちょっと行きすぎてる気がするのだが、どうなんでしょうね。

舞台は19世紀末、ヴィクトリア朝のロンドン。数年前から特殊な能力を身につけた人々が出現するようになり、彼らは「Touched(触れられた)」人々として大衆の不安の対象となっていた。資産家のビドロウ女史は彼らを保護するための孤児院を作り、彼女のもとでアマリア・トゥルーやペナンス・アデアーといった女性たちが新たなTouched探しを行なっていた。その一方では狂信的なTouchedであるマラディーが連続殺人を繰り広げており、さらにはTouchedを誘拐する謎の勢力が暗躍していた…というあらすじ。

そもそもなぜ一部の人たちが特殊な能力を身につけることになったのか?というオリジン話は劇中で紹介されていて、あれはあれで面白くなりそうな伏線ではある。男女ともに能力を得ているのだが劇中のTouchedは女性のほうが圧倒的に多くて、闘う少女、というのはウィードンの「バッフィー」っぽいなと。さらに言うとスーパーパワーを持ったチームが偏見に苦しみながら同胞のために戦うさまは、「アベンジャーズ」よりも「Xメン」によく似ているな。彼らのリーダーであるビドロウ女史が車椅子に乗っているのはまんまプロフェッサーXだし、彼らを狩る一味もヘルファイア・クラブによく似ている。おれウィードンがマーベルで執筆した一連の「Xメン」は好きなのでちょっと期待。

Touchedの人々が持つ能力は「Turn」と呼ばれ、例えばアマリアはケンカと酒に強いのに加えて未来を幻視する能力を持っており、ペナンスは天才的な発明家。あとは炎を自在に操ったり、他人の傷を治癒したりと多種多様。巨大な少女なんてのもいるぞ。これはXメンだとフォージの能力だよね、これはパイロであっちはカリストかな、とか勝手に脳内変換して観るのもオツかと。なお劇中では「Nevers」という言葉は一切出てきません。

出演はアマリア役にローラ・ドネリー、ペナンス役にアン・スケリー、って知らんなあ…。知ってるところではオリヴィア・ウィリアムズ、ジェームズ・ノートン、そしてニック・フロストなんかが出ています。役者の大半がイギリス人やアイルランド人というのが「ゲーム・オブ・スローンズ」っぽいかも。

70分以上ある第1話は長尺ながらいろいろ詰め込みすぎで、特に悪役の伏線が張られすぎだろという印象は受けたものの、こういうスチームパンクの冒険活劇って好きなので頑張って欲しいところです。ジョス・ウィードンの評判がどれだけ影響してくるかは微妙だが、第1話の視聴数は高かったそうなので第2シーズンも作られるかな?

https://www.youtube.com/watch?v=gs-ODufnJ8Y