「THE PROPOSITION」鑑賞

このブログの名前はニック・ケイヴの詩集「キング・インク」に由来してるわけだが、そのケイヴが脚本を担当したオーストラリアン・ウェスタン「THE PROPOSITION」を観た。監督は同じくケイヴが脚本を書いた「ゴースツ・オブ・ザ・シビル・デッド」のジョン・ヒルコート。「ゴースツ」と違ってケイヴ自身は出演してないものの、ガイ・ピアースをはじめダニー・ヒューストンやエミリー・ワトソン、ジョン・ハートといったなかなか豪華な顔ぶれが出演している。 舞台となるのは1880年代のオーストラリア。殺人とレイプの罪で指名手配されていたバーンズ3兄弟のうち、次男のチャーリーと三男のマイクが逮捕されるところから話は始まる。彼らを捕らえたスタンリー隊長は、残る長男のアーサーを始末するためチャーリーに1つの条件(Proposition)をつきつける:アーサーを探し出し、自らの手で彼を殺害しろ。さもないとマイクは死刑に処せられる、と。こうしてチャーリーは兄を見つけるため、荒野へと一人旅立っていくのだった…というのが話の主な内容。美しくも過酷なオーストラリアの大自然を舞台に、兄を捜すチャーリーの姿と、彼の帰還を待つスタンリーとその妻の姿が描かれていく。

プロット自体は比較的ストレートなウェスタンで、隠れ家が蜂の巣にされる衝撃的なオープニングに比べてラストが多少弱い気がする(スタンリーがどんどん軟弱になっていく)ものの、ケイヴの歌の世界そのままの血で血を洗うバイオレンスで全編が彩られていて、見る者を飽きさせない。もちろんケイヴが担当している音楽も効果的に使用されていていい感じだ。

フィクションとはいえ時代考証はかなり詳しくやっているらしく、ウェスタンにおけるインディアンの存在はこの映画だとアボリジニにそのまま置き換えられているわけだが、先住民の隷属化や大自然の西洋化といった出来事がアメリカだけでなくオーストラリアでも起きていたことを再認識させられる点が興味深い。ちなみに4頭のラクダが引く馬車が劇中に出てくるんだけど、あんなものが昔は本当に道を走ってたのかな。

「100 BULLETS vol.9: STRYCHNINE LIVES」読了


現在続いているシリーズとしては最高の作品だと考えているコミック「100 BULLETS」のペーパーバック第9巻「STRYCHNINE LIVES」がやっと発売された。 前巻の「THE HARD WAY」でストーリーが1つのヤマ場を迎え、最重要人物の1人の死によって終わっていたことから、今回はその死が引き起こす状況の変化を描いた「過渡期」的な内容になるかなと思っていたら、その予想は見事に嬉しく裏切られた。確かに物事の移り変わりが中心的に描かれているものの、過去に登場した様々な人物たちが再び登場し、それぞれの人生が複雑に交差して、皆が1つの大きな運命に引き寄せられるかのようにストーリーがグイグイと進んでいく。途中で意外な再会をする者たちや、衝撃的な死を迎える者たちがいろいろ出てくるわけだが、話が決して唐突もしくは散漫な感じにならず、すべての裏に綿密なプロットがあるかのようなブライアン・アザレロのストーリーテリングはやはり見事。そして上流社会の美女から社会の底辺に住む人々までを生々しく、かつスタイリッシュに描くエデュアルド・リッソのアートもまた素晴らしい。彼の描く危険な男たちの世界があってこそ、この作品は成り立っていると言っても過言じゃないだろう。

スラングや隠喩の多い文章や、謎の多いストーリー展開のおかげで多少読みづらい部分もあるものの、相変わらず他のアメコミでは得られない満足感を与えてくれる傑作。次のペーパーバック発売まで、また1年近くも待たなければならないのが非常につらいのです。

映像のインターネット配信について

アメリカのiTMSでフォックスの番組が販売されるようになった。とりあえず提供されているのは「24」「PRISON BREAK」「STACKED」「UNAN1MOUS」など、実にまあ食指の動かない作品ばかり。フォックスが力を入れてる作品て、どうしてあんなツマらなそうなんだろう。「クラシック」のカテゴリに「ファイヤーフライ」があるのはちょっとだけ興味あるけど。せめて「アレステッド・ディベロップメント」なんかも提供して欲しいなあ。 そしてこれと似た話で、ワーナーがビットトレントを通じて映画を提供するようになるとか。作品DVDと同じ頃に販売開始され、DVDと同じくらいの値段なんだけれども、DVDより画質が悪くて、DVDなどに焼けないDRMがくっついてくるらしい…ってロクなメリットがないじゃん。アマゾンとかでDVDを買ったほうがずっと良いような気がするけど?まあiTMSも当初は「CD買ったほうが全然いいじゃん」みたいなことを言われててあそこまで成長したわけで、今後の映像配信ビジネスはどんなものになるかとんと予想がつかないのです。

このようにメジャー・スタジオがインターネットでの金儲けに力を入れてきた一方、草の根的な運動も行われているわけで、こないだ紹介した「Star Wreck: In the Pirkinning」の製作者たちが、皆が自由にアドバイスを交換できる映画製作用のサイトを立ち上げようとしてるんだとか。そのうちに世界各地のスタッフがネット上で共同作業して作った映画、なんてものが出来たりして。

誕生日

32歳だぁ。 頭の中はろくに成長してないのですが、もう「いい年」に近づいている(なってしまった)んだろうか。とりあえずこの1年は帰国したり就職したりといろいろあったんで、まあよしとしよう。相変わらず映画観たりアメコミ読んだりしてダラダラ生活してるだけで、別に生きてて楽しいことなんて1つもないわけですが。

でも世間並みに結婚の心配をしたり、心の癒しを求めたりするのも何かツマらない気がするので、ここは一発アラン・ムーア先生やグラント・モリソン先生を見習って魔法(特にカオス・マジック)を勉強してみようかなと思うのです。あれはなかなか体に良いものらしいので。

魔法といえば前にモリソンがアルファベットを加工したシジル(魔法の印)の作り方を説明してたんだけど、あれって日本語ではどうやって作るんだろう。

「CIVIL WAR」開始

マーヴェル・コミックスの大イベント的ミニ・シリーズ「CIVIL WAR」の#1を読む。ストーリーはマーク・ミラーでアートはスティーブ・マクニーブン。 話のおおまかな内容は、B級ヒーロー・チームであるニュー・ウォリアーズと、これまたB級のヴィラン(悪党)チームが市街地で戦った結果巨大な爆発が生じ、数百人もの犠牲者が出る大惨事となってしまう。これにより世間ではスーパーヒーローに対する風当たりが強くなり、彼らを規制するための法案が国会に提出されようとしていた。そしてヒーローたちの間でも、この法案に賛成するアイアン・マンたちと反対するキャプテン・アメリカたちのあいだで軋轢が生じ、やがてタイトル通りの「内乱」へとつながっていくのだった…というようなもの。普通はヒーローたちを規制する前に、ヴィランたちへの規制や罰則を強化するもんなんじゃないの?という気がするけどね。

ここ数年のミラーの作品って「アルティメイツ」や「オーソリティー」のように過度に政治的かつ暴力的なものが多く、しかも師匠のグラント・モリソンのようにストーリーをユーモアや奇抜なアイデアでカバーする技量に欠けてるものだから、なんか話がギトギトして嫌だったのです。昔に「スワンプ・シング」を書いてた頃は良かったんだけどなあ。んでこのミニ・シリーズもまた、現実世界のアメリカにおけるパラノイア(パトリオット・アクトとか)が結構露骨に反映されている。でも一読した限りでは、そんなに悪くはなかったかな。確かに内容は政治的なんだけど、ストレートなヒーローものとしてもそれなりに楽しめることと、まだ全7話中の第1話なので、あまり話が深いところまで行ってないというのが主な理由だろう。少なくとも「次もぜひ読みたい」と思わせてくれるくらいの作品。あとスティーブ・マクニーブンのアートは非常にいい。

あと6話でどのような展開になるかまるで分からないけど、ダメダメだったこないだのミニ・シリーズ「HOUSE OF M」よりかはマシなものになるんじゃないだろうか。