シンプソンズ対アルゼンチン

こないだ放送された「シンプソンズ」のエピソードで、アルゼンチンの軍事政権が70年代に行った恐怖政治について、それ以前に大統領だったファン・ペロンが行ったかのように示唆するセリフがあったとかで、アルゼンチンで非難の声があがってるそうな。

「シンプソンズ」は過去にもペルーだかどこだったかの国を侮蔑的に描いたということで抗議を受けた前歴があって、単に外国の文化をバカにして笑いをとってるようじゃ本当にネタ切れなんじゃないの、という気もしなくもない。ホーマーが天皇を投げ飛ばす「Thirty Minutes Over Tokyo」は日本で放送禁止(自粛)になったし。初期シーズンの「バート対オーストラリア」などは大傑作だったんだけどなあ。

「THE RICHES」鑑賞

 

エディ・イザードとミニー・ドライバーが主演しているFXのドラマ「THE RICHES」を初めて観た。前からこのドラマの存在は知っていたものの、エディ・イザードってあくまでもコメディアンとして好きなのであって俳優としての活躍にはあまり興味がなかったし、特に観る理由もなかったんだが、主人公一家がアイリッシュ・トラベラーだという設定を知って興味を持った次第なのです。

アイリッシュ・トラベラーというのはその名の通りアイルランドにおける流浪の民で、現地では単にトラベラー、もしくはティンカーなどと呼ばれている。彼らの起源については諸説あって、17世紀のクロムウェルの圧政とか19世紀の大飢饉で家を失った人たちの末裔などと言われているがはっきりしない。コミュニティを作って独自の隠語やしきたりを持ち、金物業や軽犯罪などで生計を立てている、いわば白人のジプシーのような存在。映画「スナッチ」でブラッド・ピットが演じた役(とその仲間たち)がそのまんまトラベラーだったりする。彼らに対する偏見というのも根強く残っていて、そこらへんは日本のサンカとか、あとまあ部落差別にも通じるところがあるのかな。

「スナッチ」のようにイギリス、あるいはヨーロッパにもアイリッシュ・トラベラーがいることは知っていたんだが、やはりアメリカにも移住してたんだなあと。どうやって海を渡ったんだろう。やはり大飢饉のときか?で「THE RICHES」における彼らの姿は、やはり詐欺や窃盗を繰り返してキャンピングカーで旅をする存在で、家族だけでなく一族のつながりやしきたりを持った連中として描かれている。アメリカにおけるトラベラーの実態というのはまるで分からんが、たぶんこの番組の姿に近いんだろう。アイルランドという狭い国における流浪の民というのはかなり特異な感じがするものの、アメリカだと土地が広すぎて流浪してても誰も文句を言わないような気がするけどね。

そして「THE RICHES」の話の内容はというと、エディ・イザードとミニー・ドライバーの夫妻および3人の子供からなる家族がトラベラーの一族の集いに合流、そこでイザードは一族の長の金を盗んでしまい、そのあと別のトラベラーといざこざを起こしてるうちにとある夫婦の車を事故に巻き込んでしまい、夫婦は死んでしまう。その夫婦が大金持ちで引っ越し先に向かう途中だったことを知ったイザードたちは、その夫婦(と子供たち)に成り済まして立派な家に住み、トラベラーとしての生活に別れを告げようとするが…。というのが第1話のおもな内容。特殊な家族が主人公という意味ではHBOの「BIG LOVE」に少し似ているかな。一家が嘘を重ねて暮らしていく点が面白いらしいが、あまり続きを観たいと思わせるような出来ではなかったかな。一家の娘を演じるシャノン・マリー・ウッドワードという女優が結構かわいいのはめっけもんでしたが。

「ZOO」鑑賞

(注:今回の話はちょっとグロいよ。俺はまったくこのような趣味がないのであしからず。)
去年のサンダンスで話題になったドキュメンタリー「ZOO」を観る。これはシアトルの郊外の農場で馬とヤっちゃった結果、大腸が破れて内出血により死亡した男性を中心に、動物との性愛行為に励む人々の姿を追ったもので、題名の「ZOO」というのも動物園のことではなく動物への愛を意味する「Zoophilia」からとられている。詳しくはこちらの記事をどうぞ。

テーマはドギツいが内容は別にゲテモノ趣味に走っているわけではなく、動物を純粋に愛の対象としてとらえる人々(出てくるのはみんな男性)を紹介するものになっており、グロテスクな映像なども登場せず、死んだ男性の仲間だった人たちのインタビューを中心に構成された作品となっている。役者を使って当時の状況などを再現するスタイルをとっていて、この手法をとるドキュメンタリーって俺は好きじゃないんだが、さすがに関係者の顔や実名を晒すわけにはいかないから仕方ないか。以前までは田舎の農場でそれぞれ行為に耽っていた人々(オヤジが多い)が、2000年代になってインターネットが普及したことにより全国の同士と連絡を取りあえるようになり、仲間うちで集まるようになったという点は興味深い。ドイツや日本の人とも連絡をとったなんて話も出てくるから、こうした行為は日本でも行われてるんだろう。

このドキュメンタリー自体は彼らを糾弾したり好奇の目でとらえるようなことはせず、あくまでも同情的にとらえているものの、なんか彼らの文化(?)の表面をなぞっているだけで、なぜ彼らがこのような行為に耽るのかという内面に迫っていないのがダメ。彼らの自己弁護が淡々と語られるだけで、60分ちょっとという短い尺なのにどうも冗長に感じられてしまう。死んだ男性もそれなりに倒錯した経歴があったらしく、上記の記事にあるように「防衛プロジェクトの仕事や離婚、バイク事故による後遺症など」に影響されていたらしいが、ドキュメンタリー内ではそうしたことに殆ど触れられていない。ドキュメンタリーの対象に優しく接するあまり、深く接することができなかった典型的な失敗例ですかね。テーマ自体は間違いなく人目をひくものの、ドキュメンタリーとしてはかなり出来が悪い作品。

ちなみにこの男性の事件が起きるまで、ワシントン州ではこのような行為が非合法とされておらず、事件がきっかけで罰則が設けられることになったそうな。日本だとどうなってるんだろう。

「ロイヒター・レポート」のウソ



こないだエロール・モリスのことを書いたときに、ロイヒター・レポートについて検索してみたら、未だにあんなのを本物だと思ってる人が多数いるらしくて驚いた次第なのですよ。あれを書いたフレッド・A・ロイヒターに関するモリスのドキュメンタリー「死神博士の栄光と没落(Mr. Death: The Rise and Fall of Fred A. Leuchter, Jr.)」を観れば、レポートの内容がまったくのウソであることはすぐ分かるんだけどね。

ロイヒターの経歴を簡単にまとめるとこんな感じ:

・刑務所の近所に住んでいたロイヒターは電気椅子の修理を目撃したことがきっかけで、より「人道的な」処刑が行えるような電気椅子の設計にとりかかる。
           ↓
・「電気椅子が設計できるなら絞首台も設計できるだろう」ということで別の刑務所から絞首台の設計を任される。
           ↓
・「電気椅子と絞首台が設計できるならガス室も設計できるだろう」ということで別の刑務所からガス室の設計を任される。(ここらへんの流れは非常に官僚的でバカみたいだが、本当にあったことなのだ)
           ↓
・「ガス室が設計できるなら毒ガスの専門家だろう」ということでホロコースト否定派に依頼され、アウシュビッツの跡地に潜り込んでガス室の壁のサンプルを入手。そこから毒ガスの痕跡が発見されなかったことから「アウシュビッツに毒ガス室はなかった」というレポートをまとめる。

もちろん実際のロイヒターは毒ガスの専門家でも何でもないから、彼の毒ガス鑑定は誤ったものであり(壁のごく薄い表面だけを調べなければいけなかったのに、壁の大きな破片を採取して鑑定した)、ロイヒター・レポートなんて何の信憑性もないわけだが、彼はこれでホロコースト否定派のアイドルとなり、日本でもこの評判だけが一人歩きして「ホロコーストは無かった!」なんて言っている奴がいるわけ。もちろんホロコーストについてはいろんな意見があるんだろうが、少なくともこのロイヒター・レポートを引き合いに引き合いに出す奴というのは俺は信用しないね。

ちなみにこの「死神博士の栄光と没落」、ロイヒターの強烈なキャラも相まって非常に面白い作品なのに、日本では山形のドキュメンタリー祭で公開されたくらいでDVDとかが出てないのが残念なところです。

「Young@Heart」なる映画

アメリカでは今週末に「ヤング・アット・ハート」というドキュメンタリーが公開されるらしくて、これは平均年齢が81歳という老人だらけのコーラスグループが、ソニック・ユースやラモーンズ、クラッシュにコールドプレイといったヤングでナウなバンドの曲をカバーするさまを撮影した作品らしい…。

批評家の評判はいいみたいだし、imdbのコメント欄でも「素晴らしい!」とか「感動した!」なんて意見が寄せられてるのでそれなりに優れた作品なんだろうけど、個人的にはジジババが「I Wanna Be Sedated」とかを合唱する光景には引いてしまうなあ…。ラモーンズの面々やジョー・ストラマーが(比較的)若くして死んだのはやはり正しかったのだと思うことしきり。