「PLANETARY vol.4: Spacetime Archaeology」読了


ウォーレン・エリス&ジョン・カサディの傑作コミック「プラネタリー」の最新単行本にして最終巻。刊行の歴史を見れば分かるように、最終話の#27が出るのが非常に遅れたので、前回から5年ぶりの単行本になるのか。

全体的な展開としては従来の「地球の奇妙な歴史を調査する」という話が減り、プラネタリーの宿敵である「THE FOUR」との対決に向けて盛り上がっていくところに重点が置かれている。また「THE FOUR」がファンタスティック・フォーの奇怪なパスティーシュであるのを始め、さまざまなコミックやパルプ小説の登場人物をモデルにしたキャラクターが出てくるのが「プラネタリー」の最大の特徴だったんだけど、今回はローン・レンジャーとザ・シャドウに似たキャラクターが出てくる程度で、多元宇宙やデジタル物理学(のようなもの)、ミクロコスモスといった理論に焦点をあてた、よりSF色の強い内容になっている。

ウォーレン・エリスの作品ってアイデアは抜群な一方で話が進むとすぐにダレるイメージが強かったんだが(「トランスメトロポリタン」とか)、この「プラネタリー」では年に数話というスケジュールが役立ったのかどの話も読み応えがあるし、伏線もきちんと回収されていて上出来。これに加えてジョン・カサディのアートも大変素晴らしい。こないだ邦訳が出た「アストニッシングX‐MEN」で彼のアートに興味を持った人はこちらを持った人はこちらをチェックしてみてもいいんじゃないかな。

スーパーヒーローものにSFやパルプ小説、香港映画といったさまざまな要素を絡め合わせた「プラネタリー」は唯一無二のコミックであった。もはや新刊を首を長くして待つ必要はないものの、これで終わりかと思うと少し寂しい気もするのです。

「The Kids Are All Right」鑑賞


キャスト的にあまり興味なかったんでスルーしてたんだけど、皆が褒めてるもんで。でもあまり面白くなかったかな。邦題は「キッズ・オールライト」になるの?

レズビアンのカップルであるニックとジュールズは精子銀行からの精子で妊娠して2人の子供を産み、家族4人で仲良く暮らしていた。しかし子供たちがその精子の提供者であるポールという男性を探し出したことで、4人の生活にポールが関わってくることになり…というプロット。

ストーリーの最大の特徴はもちろんカップルがレズビアンだという点だが、意外とそこはあっさりと描かれていて、差別される描写とかはないし、子供たちも結構普通にそのことを受け止めていたりする。だから内容的には普通のファミリードラマに近いかな。それでも何となく監督(レズビアン)のメッセージみたいなものがセリフのあちこちに感じられて、教育映画を見せられてるような気になってしまったよ。出てくるキャラクターがみんな真面目で、「遊び」のようなものが無いのでストーリーにもクセがなく、どうも無味乾燥な内容になってしまったような。この題材でジョン・ウォーターズが監督してたら相当面白いものが作れていただろうに。

このため役者の演技もあまり印象に残ってないなあ…ジュリアン・ムーアがすっぴんで頑張ってたことくらいですかね。あとやっぱりミア・ワシコウスカって話し方が変なような気がする。かしこまり過ぎてるというか。「アリス〜」のときはそれが合ってたんだけどね。ちなみにサントラのギターはマーク・リボーが弾いてるぞ。

無味乾燥な感じがする一方で欠点とかも特にないので、そういう意味では悪くない映画かも。「どこかやっぱり足りない」のは同性愛者だけじゃなくて、ヘテロであっても子供であっても皆そうなんだけど、それでもみんなが補いあって生活してるんだよ、ということは良く分かる作品ですよ。

「メニルモンタン」鑑賞


Dimitri Kirsanoff – Menilmontant (1925)
ロジャー・イバートが「ポーリン・ケイルが最も好きだった映画」として紹介していた、フランスの1925年のサイレント映画。40分弱の作品なのでメシを食いながら気楽に観ようとしたら、その出来の素晴らしさに仰天させられてしまったよ。

いきなり農村で少女姉妹の両親が惨殺されるシーンから始まってインパクトは抜群なんだけど、実はそのシーンは話とあまり関係がなくて、身寄りをなくした2人の姉妹がパリのメニルモンタンにやってきてけなげに暮らすところからが本編。美人の妹はある男性とねんごろな仲になってついに体を許してしまうが、それを妬んだ姉によって男性を寝取られてしまう。それを知ってショックを受ける妹だったが、彼女はすでに男性の子供を身ごもっていた。姉のところに戻るわけにもいかず、生まれた赤子を抱えて妹は通りをさまようことに…というような話。

ストーリー自体は凡庸なメロドラマのように聞こえるかもしれないが、演出と編集がとにかく素晴らしいのですよ。サイレントであるうえに字幕を一切使わず、二重露光などといった当時としては斬新なテクニックを用いてまったくの無駄なくストーリーを伝えることに成功している。たぶんセリフが無いためにかえって多くのことを短い時間で表現できたんだろうな。変に会話シーンとかがあれば2時間ドラマみたいになっていただろう。でもちょっと実験色が強すぎたのかラストの展開は意味不明なところもありましたが。

そしてナイーブな妹を演じるナディア・シビルスカヤ(監督のディミトリ・キルサノフの妻だったらしい)が美しいこと!恋人が来るのを待ちわびる姿とか、老人にパンを恵んでもらって大粒の涙をこぼしながら食べるシーンとかは本当にもの哀しくて胸を打つ。

こういうのを観ると、現代の映画製作者がサイレント映画から学ぶべきことはまだまだ多いと思わされますね。上の映像のリンクから全編が視聴可能なので、40分の時間がある方はぜひご鑑賞を。

「YOUTH IN REVOLT」鑑賞


こないだ「スコット・ピルグリム」観たばかりなのでマイケル・セラ主演の映画をまた観るのはどうかと思ったんだけど、米iTunesストアで値引き販売されてたので。

カルト人気のある小説?が原作の作品で、主人公のニックは内気なティーンで当然ながら童貞。両親が離婚したので母親とその恋人のもとで暮らしていたが、避暑地に行ったときにそこに住むシーニという女の子と出会って恋に落ちた彼は、どうにかしてシーニと一緒にいようと画策し、さらに内気な自分とは違ったフランソワ・ディリンジャーという反抗的な人格をつくって周囲の困難に立ち向かおうとするのだが…というような話。

なんか可も不可もないコメディだなあといった感じ。別に悪くはないんだけど、かといって記憶に残るようなシーンもないというか。ちょっと下ネタの多い、普通のボーイ・ミーツ・ガールもののコメディといったところか。女の子とエッチしようとして女子寮に潜入し、見つかって裸で逃げ出すなんていうガチな展開もあるし。車での移動シーンが突然人形アニメになるところは「普通じゃない」を連想したけど、あっちも微妙なコメディ映画でしたね。最大の特徴であるフランソワが出てくるシーンも結構あっさりと描かれているし、どうも話にヒネりが足りないような気がするんだよな。

マイケル・セラは相変わらずマイケル・セラだったので置いておくとして、シーニを演じるポーシャ・ダブルデイって女優が全然可愛くなくて、なんであんな娘に主人公が夢中になるのかよく分かりません。変にマセていてニックにも積極的にせまってくるくせに、肝心なところで清純になるという、どうも好きになれないタイプですね。そして脇役にはザック・ガリフィアナキスやスティーブ・ブシェミ、レイ・リオッタ、ジャスティン・ロングといった強力な面子が顔を揃えているんだが、彼らが揃いつつもこんな凡庸なコメディ映画しか出来なかったのが残念なところではある。

アメリカ版「トップ・ギア」鑑賞


いまさら言う必要もないがイギリスの自動車紹介番組「トップ・ギア」は大変素晴らしい番組で、車にまったく興味のないペーパー・ドライバーである俺のような人間でも十分に楽しめるつくりになっているわけですが、これはそのアメリカ版。すでにロシア版とかオーストラリア版とかは存在するんだっけ?

以前にもNBCがアメリカ版「トップ・ギア」の製作を試みたことがあったけど、イギリス版のホストであるジェレミー・クラークソンがパイロット版を観て「アメリカ人は車のことが分かっとらん!」と怒って企画をボツにしたことがあるんだよな。そして新たに登場したものはヒストリーチャンネル製作のもので、オリジナル譲りの車の美しいショットが披露されるほか、謎の覆面ドライバー「ザ・スティグ」もちゃんと登場しているぞ。

ただね、3人のホストが普通のカーマニアの気のいい人たちといった感じで、オリジナルにあった相当な毒気が抜けてるのですよ。本国のはホスト3人の絶妙な罵り合いとか、毎シーズン1回は倫理委員会で問題になるような暴言の数々が非常に楽しいんだけどね。それに比べると今度のやつは単なる自動車紹介番組の域を出ていないのが残念。

それでもアメリカのだだっ広い土地を利用した走行シーンなんかは見応えがあるかな。町中を走り回るダッジ・バイパーと戦闘ヘリのコブラの「ヘビ対決」なんかはGTAのようで結構面白かった。あとオリジナル恒例の「有名人カーレース」も行われてるんだが、初回のゲストはバズ・オルドリン!元宇宙飛行士のタフガイとはいえ、80歳の爺さんに運転させていいのかよ!

番組の出来自体は悪くないので、オリジナルを知らない人ならそれなりに楽しめるかも。無論オリジナルのほうがずっといいけどね。