「Terry Gilliam’s Faust」鑑賞


BBC4で放送されたのをiPlayer経由で視聴。ベルリオーズの「ファウストの劫罰」をテリー・ギリアムがオペラ形式で演出したもので、今年の5月にイングリッシュ・ナショナル・オペラで公演されたものらしい。

詳しいあらすじなどはウィキペディアを参照してもらうこととして、この公演では19世紀に書かれた原作の舞台を、20世紀前半のドイツに移しているのが大きな特徴。牧歌的な光景が第一次世界大戦の戦渦を経験してナチスの台頭につながり、共産主義社が処刑されユダヤ人が逮捕されるなか、メフィストフェレス(上の写真左)に翻弄されるファウスト(写真右)の運命が描かれていく。

時代設定をナチスの頃にするのってイアン・マッケランも「リチャード3世」でやってたし、少し安直な気もしなくはないが、それでも「水晶の夜」のシーンとか、マルグリートを救うために魂を売って地獄に堕ちてカギ十字に磔にされるファウストや、強制収容所の遺体の山からマルグリートの魂が昇天することが示唆されるラストシーンなどは非常に印象的であった。冒頭のインタビューによるとギリアムはそもそもドイツの歴史に興味があったほか、ドイツ印象派のスタイルがナチスの直線的なデザインにとって代わられる流れを描きたかったらしい。全体的主義社会における悲しい愛というのは「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせるし、安易なハッピーエンドにならないところもギリアムの映画作品に通じるところがあるかな。

当然ながら映画みたいなセリフのかけ合いやシーン転換などがあるわけではないので、少し冗長に感じられるところもあったけど、それは俺がオペラの鑑賞に慣れてないからだろうな。全体的にはセットの変化とかがとても凝っていたし、映像投影の効果的な使用などもあって視覚的にも大変楽しめましたよ。またギリアム作品ではお馴染みの奇怪なクリーチャーも出てきますが、みんな生身の人間が演じて見事な振り付けをしているところに圧倒される。CGの怪物なんかよりもこっちのほうがずっと凄いって。

これ日本でもNHKあたりでやってくれないかな。イギリスでの評判も良かったらしいので、ギリアムはまた舞台を手がけることになるのかも。とはいえ往年のファンとしてはまた苦労してでも映画を撮ってほしいところです。

「BATMAN: YEAR ONE」鑑賞


言わずと知れたフランク・ミラー&デヴィッド・マズッケリの同名傑作コミックのアニメーション版。

バットマンことブルース・ウェインと、ジェームズ・ゴードン警部のゴッサム・シティにおける最初の年の活躍を描いたもので、65分という比較的短い尺ながらも原作のセリフや展開を丁寧に映像化していてなかなか楽しめる出来になっている。ラストの「メガネがないと何も見えないんだ」というところは原作以上に思わせぶりな演出になっていて良かったな。なお原作といちばん異なるのは「ゴードンがタバコを吸わない」という点でして、ここらへんはアメリカの表現規制が厳しいんだろうな。原作ではちょっとした小道具的扱いだっただけに残念。

アニメーションの出来も良いんだが、原作に忠実なぶんマズッケリの素晴らしいアートと比べると見劣りしている感があるのは否めない。アクションシーンの決めのポーズとかね。最近はヨーロッパでアートなコミックを描いてるマズッケリですが、スーパーヒーローものにまた戻ってきてくれないかなあ。

声優はゴードン役をブライアン・クランストンが勤めていて、妻子を抱えながらゴッサムの闇と闘うハードボイルドな演技はブレイキング・バッドしていて大変よろしい。それに対してバットマン役のベンジャミン・マッケンジーは滑舌があまり良くないような?バットマンの声優って全てケヴィン・コンロイに任せればいいんじゃないかと思うんですが、もっとセレブな役者を起用していのかね。他にもエリザ・ドゥシュクやケイティー・サッコフなどが声の出演をしてます。

原作コミックを片手に持ちながら鑑賞をしたわけですが、フランク・ミラーって昔はこういう男たちの心情をきちんと書ける人だったんだなあと改めて実感してしまったよ。彼って後期「シン・シティ」あたりから手がけるストーリーがずいぶん大味になってきて、さらに911テロのあとは発言とかが相当ヤバい人になってしまい、監督した映画「スピリット」が大コケしたほか、こないだ久しぶりに出したコミック「HOLY TERROR」はバットマンまがいのヒーローが「イスラム教徒はみなテロリストだ!」といった姿勢で暴力をふるうという相当ヒドい内容になっているらしく、各方面からまんべんなく叩かれているんだよな。こうして「YEAR ONE」が映像化されたり、デアデビルの「BORN AGAIN」も映像化されるという噂があるなか、ミラーが世間からとても遠い所にいってしまった感じがするのは残念なことです。

「PRIME SUSPECT」鑑賞


ヘレン・ミレンが主演したイギリスの刑事ドラマ「第一容疑者」のリメークで、主演はマリア・ベロ。彼女の上司としてエイダン・クインも出ている。

ニューヨーク市警の殺人課に配属されてきたジェーン・ティモニーは非常にタフで腕利きの警部だったが、周りの男性警官たちは女性が警部であることが気に入らず、露骨に彼女を蔑む始末。おまけに警部の1人が心臓発作で急死し、ジェーンがその後を継ぐことになったことで周囲は彼女を殆ど敵視するまでになってしまう。それでもジェーンは逆境にめげず、殺人事件の第一容疑者を捜すことに毎日奔走するのだった…というようなストーリー。

実はイギリスのオリジナル版を観たことがありませんでして、あっちと比べてどうなのかはよく分かりませんが、女性だからといって差別されながらも自己流の捜査で犯人を挙げていく主人公の姿はなかなかカッコいい。マリア・ベロはこうした役には最適かと。夜になるとメゲて恋人に泣きついたりしているけどね。しかし実際の警察があんなに差別的だったら嫌だなあ。

最初からレイプされて惨殺された被害者が出てくるなど、犯罪の描写とかは結構キツくて、気軽に観られる刑事ドラマというわけではないな。製作と第1話の監督はピーター・バーグが勤めているが、同じく彼が手がけたシリーズで、パイロットから傑作だった「FRIDAY NIGHT LIGHTS」に比べると見劣りすることは否めない。視聴率も苦戦しているらしいが、オリジナル版の人気のせいか海外セールスは好調らしいのでそれなりに長続きはするんじゃないかなあ。あるいは「FNL」みたいに地上波以外の局に移って放送されるとか?

「LAST MAN STANDING」鑑賞


ティム・アレン主演のABCの新シットコム。「ティム・アレンが帰ってきた!」なんて上の写真には書いてあるけど、要するに90年代の人気シットコム「Home Improvement」の成功後に「トイ・ストーリー」とか「ギャラクシー・クエスト」のような優れた映画に出演したものの、その後が続かなくて結局シットコムに戻ってきたんだなあ、という感が否めない。

話の設定も「Home Improvement」に似ていて、ティム・アレンが演じるのは3人の娘たちのパパ。アウトドアグッズのメーカーに勤める彼は男らしいタフな生活を送りたいと思うものの、家では娘たちと妻という4人の女性に囲まれて、男としての威厳を保つのに苦労する…というようなもの。主人公の上司役をヘクター・エリゾンドが演じてるが、「シカゴ・ホープ」のイメージが強いのでコメディがなんか似合わないような?

まあ内容は非常に典型的なマルチカメラのシットコムといった感じで、気の抜けたパパさんに対して頭の回転の早いティーンがシャレた文句を言うたんびにラフトラックが過剰気味に入る展開がずっと続いてく。ここまで典型的なシットコムはむしろ最近珍しいかも。主人公がもっと男性至上主義で銃や狩猟が大好きなティーパーティーの人だったらもっと面白くなったかもしれないが、そこまで過激な内容にはできなかったか。でも娘の1人がシングルマザーだってのは時代を反映してるのかもしれんな。

今シーズンはタフな男になろうとするヤワ男を描いたシットコム「How To Be A Gentleman」が速攻で打ち切りになったりしてるわけで、文字通り「最後の男」となってしまったこの番組はいつまで続くことやら?

「テラ・ノヴァ」鑑賞


鳴り物入りで始まったフォックスのSFドラマ。世間的には「スティーブン・スピルバーグ製作のドラマ」として宣伝されてるけど、実際のショウランナーは「スター・トレックをダメにした男」ことブラノン・ブラガであることにご留意。主演はアメリカ版「ライフ・オン・マーズ」のジェイソン・オマラで、他には「アバター」のスティーヴン・ラングが「アバター」そのまんまのタフなリーダー役で出演している。

2149年の地球は人口増加による環境汚染により人がまっとうに住める星ではなくなっており、食料が足りず出産制限が設けられる状態であった。そんななか8500万年前の白亜紀の時代に通じるタイムポータルが発見され、人類は生存の望みをかけて白亜紀への移住を行い、新たな地球である『テラ・ノヴァ』の設立を計画する。そして元警官で3人目の子供を持ったために投獄されていたジムは、妻で医師のエリザベスがテラ・ノヴァへの移住者に選ばれたことから監獄を脱走し、家族とともに8500年前の地球へと向かうが、そこは恐竜たちが跋扈する、さまざまな危険に満ちた世界だった…というようなストーリー。

普通に考えればタイムポータルで19世紀くらいに戻ってその時代の人たちに「お前ら資源の無駄遣いはヤメろよ」と説教すればいいんじゃないかとか、白亜紀で恐竜を殺したりすると「いかずちの音」みたいに未来が変わってしまうんじゃないかとか思うんだけど、タイムポータルは「行き先は8500年前のみ、しかも一方通行」という設定で、しかも未来の地球とテラ・ノヴァは異なる時間軸に存在しているらしい!それでもどうやら過去から未来にメッセージは送れるようなので、どうも強引な設定だよなあ。

製作には相当な費用がつぎ込まれたようだけど、なんか全体的に安っぽいんですよ、これ。未来の地球で新鮮なオレンジを入手して喜ぶ家族とか、子供が3人いるために当局の捜査を受けるところとか、クリーシェ満載でまるでジュブナイルSFを読んでいるような感じ。地上波ネットワークの作品とはいえ、もっとハードSFの要素を入れても良かったと思うんだけどね。さらにファミリードラマやティーンドラマの要素も入ってるんだけど、どうもそれらがプラスになってるとは言い難いな。恐竜もCGであることがバレバレだし。

この手のドラマって、主人公たちが立ち向かう脅威や謎の存在が重要だと思いまして(サイロンやドミニオン、LOSTの島など)、いちおう居住者の反乱分子とか謎の落書きとかが出てくるんだけど、反乱分子の連中はなんかヘタレだし落書きについても殆ど言及がないので、「次はどんな冒険が待ち受けてるんだろう」というようなワクワク感がどうも抱きにくいんだよな。アメリカでも視聴者の評判はあまり良くないみたい。とはいえ大きなセットとかを作ってしまったために最初の13話くらいは意地でも放送されるんでしょうが、そのあともちゃんと続くことができるのかな?