「Da Vinci’s Demons」鑑賞


デビッド・S・ゴイヤー原案によるStarzの新シリーズ。日本のどこかの局でも近々やるみたい。「ダ・ヴィンチ・コード」や「Da Vinci’s Inquest」(というカナダのシリーズがあるのよ)みたいな現代ものかと思いきや、レオナルド・ダ・ヴィンチが主人公の時代劇ものであった。

舞台となるのは15世紀のイタリア。ダ・ヴィンチは野心に燃える若き発明家で、発明の資金をえるために上流階級に取り入ろうとしていた。しかしミラノ公が教会において暗殺され、法王も陰謀を画策するなどして政治情勢が不穏になり、武力衝突も避けられない方向へと世の中は進んでいた。そんななかでダ・ヴィンチは謎めいたトルコ人に出会い、古から伝わるミトラ教の存在を教えられ、その秘密を記した本を探すように命じられる。しかしミトラ教に対抗する勢力もダ・ヴィンチのことを知り、彼は危険な立場に置かれることになる…というようなプロット。

ゴイヤーといえばノーラン版「バットマン」の脚本を手がけ、今年の「マン・オブ・スティール」の脚本も書くなど絶好調の脚本家というイメージがある一方で、「ジャンパー」みたいにダメダメな脚本も書いているし、監督した作品はどれも評判がイマイチで、個人的にはあまり高く評価したい人ではないんだよな。この番組で気になったのは、主人公が「空を飛ぶことに憧れて大きな翼を発明する」「幼少時に洞窟でトラウマな経験をした」「頭脳明晰でケンカも強く、謎の教団に教えを乞うた」といったあたりでして、これって「バットマン・ビギンズ」じゃん!ゴイヤーがこれをどこまで意識して書いてるのかは知らないが、ネタがかぶってることは否めないな。

とはいえ第1話を観た限りではアクションシーンなどは少なく、ダ・ヴィンチが発明に苦労する一方で、貴族たちのドロドロとした政治劇がおっぱいとともに描かれるスタイルは「スパルタカス」や「ボルジア」をそのまんま踏襲しているのでは。でもそれに秘密結社にまつわる話が絡んでくると、どういう方向に進んでいきたいのかがよく分からなくなってしまうな。

BBCが共同製作してイギリスで撮影しているとのことで、出演者は殆どがイギリス人。ダ・ヴィンチを演じるトム・ライリーってよく知りません。あとは「シャーロック」のララ・パルヴァーとかアレキサンダー・シディグなどがちょっと出てます。ヒュー・ボネヴィルは全裸になって頑張ったりしてるものの冒頭3分で暗殺される損な役。当時のセットなども凝ってはいるものの、いくつかのシーンではグリーンバック合成がバレバレであったような。

ゴイヤーって別に悪い脚本家ではないとは思うのだけど、陰謀と策略が渦巻く時代劇というスタイルが似合ってる人ではないので、ここは無難に現代のアクションものを作っておけばよかったのに、と思わずにはいられないのです。

「HANNIBAL」鑑賞


「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクター博士を扱ったNBCの新シリーズ。

時系列的には「レッド・ドラゴン」のちょっと前の頃が舞台になっていて、若い女性ばかりを狙った連続殺人犯を逮捕するためにFBIのクロフォード捜査官は現場を退いていたウィル・グレアム捜査官に助けを求め、さらに精神科医のハンニバル・レクター博士にも捜査への協力を依頼する。こうしてグレアムとレクターは殺人犯を追っていくものの、レクターには暗い秘密があって…という設定。俺は「レッド・ドラゴン」とか「ハンニバル・ライジング」を観てないので、映画の設定とどのくらい異なってるのかはよく分かりません。

題名は「ハンニバル」なんだけど主人公はむしろグレアムのほうで、アスペルガーの傾向があり人とうまく接することができない反面、殺人現場のプロファイリングを完璧に行うことができ、被害者に感情移入してしまう暗いキャラクターとして描かれている。ハンニバルはそんなグレアムを翻弄する謎の男という役回りで、当然裏では人を殺してパクパク食べちゃったりしているわけですが、第1話に出てくる殺人鬼と彼の関係がいまいち良く分からなかったような?

地上波ネットワークとはいえグロいシーンも必然的に出てくるのですが、ショッキングな映像に走ったりはせず、色調なども抑え気味で70年代のアートムービーを観てるかのよう。視聴者はハンニバルの正体を知っているのに劇中の登場人物はそれを知らない、という前日譚にありがちなまどろっこしい状況をどこまで引っ張れるかがシリーズ存続のカギになるだろうな(いまNBCを観ている人がどれだけいるのか、という問題もあるが)。ウィキペディアによるとショウランナーのブライアン・フラーは「シーズン5くらいでクラリス・スターリングとか登場させたいなー」みたいなこと言ってるようですが、あなたの手がけたシリーズでシーズン3まで続いたものってありませんから!

グレアムを演じるのはヒュー・ダンシー…ってクレア・デーンズの旦那か。そしてハンニバルを演じるのが「カジノ・ロワイヤル」のマッツ・ミケルセンで、主役2人をイギリス人とデンマーク人を演じてるあたりが、アメリカ人が主役はれない最近のアメリカのテレビ業界を象徴しているような。ただミケルセンは英語がちょっと拙いような気がするんだけど、どうなんだろうね。そんな2人をまとめるクロフォード捜査官を演じるのがローレンス・フィッシュバーン。TVシリーズ出るのが嫌で「CSI」を降板したような印象があったんだけど、そうでもなかったのかな。

殺人鬼ものとしては「フォロウィング」や「BATES MOTEL」などよりもサスペンスを丁寧に描いていてよく出来ていると思うのですが、今のところ視聴率もそこそこという感じらしいので、どのくらい長続きできるかは何ともいえない作品だな。

「John Dies At The End」鑑賞


『ファンタズム』シリーズや『プレスリーVSミイラ男』のドン・コスカレリによる新作。原作はCracked.comでいろいろ面白い記事を書いているデビッド・ウォンことジェイソン・パージンの小説。

内容がぶっ飛んでて、話の時系列もかなり入り乱れてるのであらすじを説明するのが難しいのだが、とりあえず劇中の出来事を箇条書きにすると:

・主人公のデビッドが怪しい中華料理屋で記者の取材を受ける。
・デビッドは謎のドラッグ「ソイ・ソース」を服用しており、その副作用で超人的な感覚を備えていたため超自然的な怪物を探知することができ、友人のジョンとゴーストバスターズ的な仕事をしていた。
・デビッドとジョンはあるパーティーで知り合ったのだが、その晩にデビッドは謎の男に車中で襲われ、誤って「ソイ・ソース」を自分に打ち込んでしまう。
・その直後に警察に逮捕されるデビッド。彼らによるとパーティーの参加者がみんな死亡するという事件が起きており、それとの関与を疑われてデビッドは逮捕されたのだ。
・さらにジョンまでもが死亡したと警察に伝えられるデビッド。愕然とする彼だったが、携帯電話にジョンからの電話がかかってきて…。

という内容に加えて、片腕のガールフレンドとか空とぶ口ヒゲとか生体コンピューターなどが出てきて、クリーチャーもたくさん出てきます。ドラッグや幻覚(?)による意味不明な展開はリンチやクローネンバーグ的でもあるのだが、基本的には悪趣味コメディに徹していて、裸のランチっぽく始まったかと思いきや「ゴーストハンターズ」みたいになり、「キャプテン・スーパーマーケット」になったかと思ったらオチは「ビル&テッド」だった、というような映画。

そもそも「ソイ・ソース」って一体何よ、という疑問から始まり、観終わったあとでも話の整合性が全然理解できなかったりするわけだが、こまけーことはいいんだよ!という気分で先の読めないドタバタな展開を楽しみましょう。個人的にはかなり面白かったよ。そんなに予算かかってないと思うがクリーチャーもCGも結構効果的に使われており、もっとハードSFっぽい映画を作ろうと思えば作れたかもしれんな(別にその必要はないとはいえ)。

デビッドとジョンを演じる役者たちはよく知らないけど、有名どころとしてはデビッドを取材する記者をポール・ジアマッティが演じている。それなりに怪演をしているのだけど、それでもこの映画では他のキャラに喰われてしまっているという。

日本で公開するかどうかは分かりませんが(追記:『クリーチャーズ 異次元からの侵略者』という題で6月にDVD出るらしい)、マグネット・リリーシングの他の作品(「RUBBER」や「タッカーとデイル」とか)に比べてもかなり楽しめる作品なので、ハイになって鑑賞することをお勧めします。

ちなみにジョンは最後に…。

カーマイン・インファンティーノ死去


アメコミのシルバーエイジを代表するアーティストのひとり、カーマイン・インファンティーノが亡くなってしまった。87歳。

ティーンのときからコミックを描き始め、40年代から活躍していた彼は1956年に「ショーケース」誌で2代目ザ・フラッシュを描き、スーパーヒーロー・コミックの新たな時代であるシルバーエイジの幕を開けた人であるほか、初代フラッシュと2代目フラッシュがパラレルワールドで共演する「アース2」のコンセプトが登場したコミックを手がけたりと、その後のDCコミックスの設定に大きな影響を与えたアーティストであったわけですよ。

さらに60年代から70年代にかけてはDCの編集長を務め、ジャック・カービーやディック・ジョルダーノといった大物アーティストをDCに引っ張ってきたほか、デニス・オニールにニール・アダムスといった新人ライターやアーティストを育てるなど、経営面でも腕をふるった人であった(すべてが成功したとは言い難いが)。

そのあとはマーヴェルで「スター・ウォーズ」や「スパイダー・ウーマン」のアートを手がけたりもしたが、俺自身がインファンティーノの作品に初めて触れたのは80年代初頭の「ザ・フラッシュ」誌であった。その頃の彼のアートは完熟期に達しており、ものすごい数の効果線を使ってフラッシュの超人的なスピードを表すスタイルは唯一無二のものであったと思う。

さらにシルバーエイジのザ・フラッシュといえば主人公が科捜研の人ということもあり、科学的かつ奇抜なストーリーで有名だが、俺が読んでいた作品もフラッシュがシェイドの暗黒光線とレインボー・レイダーの七色光線を同時に浴びて苦しんだり、カーネル・コンピュートロンによってコンピューターのなかに取り込まれて手足がもげたりと、とにかく奇想天外な展開のコミックばかりで、英語が分からない小学生にとってもそのアートは大変衝撃的であり、正直なところ「怖い」くらいの内容であった。事故死した悪役ザ・トップの霊にフラッシュの父親が操られ、夜中に不気味に笑う父親の姿などはいまだにトラウマとなっています。

個人的に彼の作品のなかでいちばん好きなのは、「シークレット・オリジン」誌のアニュアルで88年に描かれた、ザ・フラッシュのオリジン話かな。アンチモニターの兵器を破壊するためにタキオンを追って走るうちに過去の光景を走り抜け、やがて最初にフラッシュを産み出した一筋の稲妻になってしまう話は実に感動的であります。

晩年はキャラクターの権利を求めてDCに無茶な訴訟を起こしたりしたが、それについては多くを語るまい。また1人、アメコミの歴史を走り続けた人が亡くなってしまうのは残念なことです。

「リンカーン」鑑賞


スピルバーグの映画を観るのはかなり久しぶりだったりする。リンカーンは黒人を解放した一方でインディアンたちは虐殺してた、なんてことを事前にウィキペディアで読んでしまったためについヒネくれた見方をしてしまったが、まあそれはそれで。

南北戦争の勝利を目前にしつつも、勝ってしまえば自分が戦争に対して唱えた奴隷解放宣言が破棄されてしまうことを危惧し、奴隷の所有を禁じた憲法修正第13条を議会で可決させようと努力するリンカーンの姿を描いた作品だが、登場するリンカーンは決して威風堂々としているわけではなく、その長駆を弱々しく曲げ、ひしゃげた声でしゃべる小話好きな老人として表されている。

そして第13条を可決するためには野党の民主党の票が必要であることを悟った彼は、小汚いロビイストたちを雇い、レームダックとなって次の選挙の心配をする必要のない民主党の議員たちを1人ずつ狙っていく。ロビイストたちのやり方は非合法スレスレであり、リンカーン自身も議会で虚偽の証言まがいのことを行ってしまうわけだが、決してリンカーンの行為はダーティなものとしては描かれず、正しい目的のためには多少の汚い手段を用いるのもやむを得ない、とういう趣旨がそこには含まれている。文章で書くとひどく偏向してそうだが、映像では演出の巧みさによって、そうは感じさせない内容になっていた。これを同性愛者の結婚の可決を目指すオバマに対するスピルバーグなりのメッセージとして見なす人もいるようだけど、実際はどうなんだろうね。

とはいえ南北戦争について初歩的な知識しか持ってないので、前半はなかなか話の流れがつかめず、ヒゲ面の登場人物も誰が誰だかよく分からないし、フランシス・ プレストン・ブレアって誰よ、という感じであった。しかし後半になって票集めに焦点があてられるうちに話が面白くなっていき、評決のシーンは結果が分かっていても見事なカタルシスを感じさせる出来になっていたよ。そこらへんで話を終わらせず、残りの時間で暗殺までを淡々と描いていくクドさも相変わらずのスピルバーグですね。ただ個人的にはやはりヤヌス・カミンスキーの色調を抑えたシネマトグラフィーって好きじゃないんだよな。

役者陣はやはりダニエル・デイ・ルイスが圧巻。他のキャストは「あ、あの役者が演じてるな」と分かるのに対し、デイ・ルイスはリンカーン本人にしか見えない。そんな彼を支える(もしくは振り回される)周囲の人々も他の映画なら主役をはれる一流どころが揃っていて、トミー・リー・ジョーンズも圧倒的な存在感を放っているし、JGLやデビッド・ストラザーンなども巧い。個人的には上記のロビイストたちを演じるジェームズ・スペイダーにティム・ブレイク・ネルソンとジョン・ホークスという実に濃い3人組が好きでした。「ジャンゴ」のウォルトン・ゴギンズもいい役で出てるよ。あと日本ではあまり知られていないがデヴィッド・コスタビルがかなり目立つ役を演じていて、この人は「ザ・ワイヤー」や「ブレイキング・バッド」などでも印象的な役を演じているので今後のブレイクに期待。

日本の観客に通じるものがある内容かというと微妙ではあるのだが、巨匠が丹念に作った佳作ということで観て損はないかと。