「CHI-RAQ」鑑賞

Chi-Raq
スパイク・リーの新作映画。彼の作品を観たのって10年ぶりくらいだな。

「シャイ・ラク」という題名はシカゴとイラクの名前を掛け合わせたもので、シカゴで銃による犯罪が急増したことから市民の犠牲者がイラク以上に多くなったという状況を比喩したもの。また劇中に登場するギャングスタ・ラッパーの名前でもある。劇中でも説明されるが古代ギリシアの戯曲「女の平和」を翻案したもので、トロージャンズとスパルタンズという2大ギャングの抗争に巻き込まれ、幼い子供を含む一般市民が命を落としていることに業を煮やしたリューシストラテーという女性が「セックス・ストライキ」を起こし、男たちが抗争を止めない限りはセックスの相手をしないことにする。彼女の周りの女性たちもこれに同意し、さらにはこの運動が世界中(日本も含む)に広がったことにより、世の中の男性たちは抗争を続けるか女性に従うかの選択を迫られるのだが…というあらすじ。

まあ風刺だからね、セックス・ストライキの効果とかを真面目に論じてはいけませんよ(リベリアとかで実際に行われたらしいが)。女性たちに蜂起されてあたふたする男たちの姿を描いたコメディだと思えば良いかと。歌や踊りのシーンがあったり、(ここネタバレ)最後はエロ漫画のごとく「ベッドで勝負だぁ!」となる悪趣味な展開があったりするものの、その一方では銃による被害を真面目に描いていたりして、コメディとしてもドラマとしても中途半端な印象を抱いてしまうことは否めない。どうも説教くさくなってしまうのがスパイク・リーの問題というか。意外とタイラー・ペリーあたりが監督したほうが面白くなったんじゃね?

またトレイヴォン・マーティンとかベン・カーソンとかブラック・ライブズ・マターといった黒人に関する時事ネタがわんさか盛り込まれているほか、戯曲っぽい演出を意識しているためセリフの6割くらいが韻を踏んでいるという。これ日本語に訳すの難しそうだな…。

サミュエル・L・ジャクソンが観客に直接語りかける狂言回しを演じているほか、ニック・キャノンやジェニファー・ハドソン、ウェズリー・スナイプスにアンジェラ・バセットなどといった有名どころの黒人俳優がいろいろ出演してます。黒人だらけの教会で説教する牧師をジョン・キューザックが演じているが、あれは実際にああいう白人の牧師がいるみたい。あとは市長役のD・B・スウィーニーが結構いい演技やってます。デイブ・シャペルが久しぶりに演技をしてるのだけど、声が低くなった?あと驚いたのは「ザ・ワイヤー」のフェリシティ・ピアーソンがチョイ役で出てたことで、こないだ麻薬の取引で逮捕されてなかったっけ?

映画としては明らかに破綻しているんだけど、いろいろ詰め込んだために破綻したのだと肯定的に考えるようにしましょう。作られる価値があって、観られる価値のある作品かと。

「LUCIFER」鑑賞

Lucifer, Season 1
いちおうヴァーティゴ・コミックスの作品を原作にした、FOXの新シリーズ。

原作はヴァーティゴの金字塔「ザ・サンドマン」からスピンオフしたコミックで、マイク・ケリーによるストーリーが高く評価されて、「ザ・サンドマン」同様に75巻まで続いた、意外と人気のあった作品なんだよな。俺はあまり読んだことがないのだけど、「ザ・サンドマン」において地獄の統治を放棄し、ツーフェイスみたいな女悪魔とともに地獄を去って地球にやってきた寡黙な堕天使ルシファーを主人公したファンタジー作品だったはず。

それがこのTVシリーズ化においてはルシファーはもっと軽薄なキャラクターになっていて、LAのナイトクラブを経営するチャラ男といった感じ。そのクラブで働いていたシンガーが目の前で撃ち殺されたことから、その事件を捜査する女刑事とコンビを組むことになるという、なんと刑事ドラマの設定になってしまっている。ここまで設定を変えるなら、別にあの原作を使わなくても良かったのではと思うが、おそらく製作のワーナーがコミックとの相乗効果を狙ったのでしょう。

んでルシファーは当然ながら人知を超えた能力を備えているわけだが、それは「不死身」であり「人に真実を語らせることができる」というもの。つまり悪人にどれだけ撃たれても動じないし、彼が尋問する相手は自ら情報をベラベラ話してしまう!それって捜査とアクションという刑事ドラマの2つの醍醐味を完全に奪ってしまっているのだけど、いいのかそれ。しかもルシファー自身は捜査にあまり興味がないため、肝心の謎解きは相棒の刑事がやってる始末だし。

製作はジェリー・ブラッカイマーの会社で、第1話の監督はレン・ワイズマン。主演のトム・エリスって一昨年は「RUSH」という医療ドラマで殆ど同じようなチャラ男の主人公を演じていたような。あれ1シーズンですぐ打ち切りになったけど、よくまた主役につくことができたな。

女刑事に何か謎がありそうなことが示唆されるし、ルシファーを地獄に戻したい天使なんてのも登場するけど、次回も観たいと思うような作品ではなし。映画にしろテレビにしろ、チートなくらいに強力な能力を持った人物が主人公をやってしまっては何の面白みもないのよな。例によって保守系の団体から「悪魔を美化した番組を作るな!」なんて抗議を受けてるらしいが、そんなのがなくてもたぶん長続きしないだろう。

ヴァーティゴのコミックだったら、これよりも「サンドマン・ミステリー・シアター」とか「デッド・ボーイ・ディテクティブス」なんかをそのまんま映像化したほうが面白そうだと思うんだがなあ。

「DC’s Legends of Tomorrow」鑑賞

DC's Legends of Tomorrow, Season 1
「Marvel’s Agents of S.H.I.E.L.D.」に並んで長ったらしい名前を持ったアメコミ原作の新シリーズで、「アロー」と「フラッシュ」のスピンオフにあたる作品。

2166年の未来において、世界は永遠の命を持つ悪者ヴァンダル・サヴェジによって支配されようとしていた。時間と歴史を監視するタイム・マスターズの一員であるリップ・ハンターはこの事態を重く受け止め、歴史には干渉しないというタイム・マスターズの掟に背き、タイムマシーン「ウェイブライダー」(そう、この作品ではウェイブライダーは人物でなく乗り物なのだ)を駆って、50年前の2016年の世界へとやってくる。そこで彼は未来で「伝説」として崇められるという8人のスーパーヒーローとヴィランを集め、彼らの助けを借りることにする。そして彼らはまずサヴェジの消息を知るために1975年の世界へと向かうのだが…というあらすじ。

リップ・ハンターが現代で召集するのは、ファイヤーストームに合体する二人と、ホークマンとホークガール、ホワイト・カナリー、アトム、そしてキャプテン・コールドとヒートウェイブの8人。みんな既に「アロー」や「フラッシュ」に登場したことあるんだっけ?アメコミや他の番組を知らないと、話についていくのは結構しんどいかも。グリーン・アローやブラック・カナリーもちょっと出てきます。

第1話はパイロット版の前編ということで明確な結末があるわけでもなく、チームの結成までの描写に多くの時間がとられている。というか登場人物がいかんせん多いだけに、チームに加わる動機を各キャラクターごとにいちいち描くだけでかなり長ったらしく感じられるのよな。劇中でもチームが二手に分かれたりしてたけど、やはり登場人物が多すぎるんじゃないだろうか。そのくせ彼らを追いかけてきた、レーザー銃を持ったヴィラン(クロノス)一人に大苦戦してやんの。8対1で手こずるスーパーヒーローって弱すぎるだろ。

タイムトラベルを前面に出した内容なので、ちょっと「ドクター・フー」っぽいところもあり。そもそもリップ・ハンター役を11代目ドクターのコンパニオンだったアーサー・ダーヴィルに演じさせてるあたり、作り手もDWを意識してるんじゃないかと。今後は西部時代にも行って、ジョナ・ヘックスが出てくるんだとか?

タイムマシーンや派手なドンパチが出てきて、前の2番組よりもさらにSF番組っぽい作りになっているわけだが、地上波ネットワーク作品なので特殊効果などはそれなりに立派ですよ。アメリカはこういうのをゴールデンタイムに放送してしまうのだなあ。日本でも早々にDVDが出ることが決まってるみたいだけど、どこまで人気が出ますかね?

「Baskets」鑑賞

Baskets, Season 1
ザック・ガリフィアナキス主演のFXの新シリーズ。なお「clown」の訳として「ピエロ」を使うのは好きではないので、以下では「道化師」とします(ピエロは道化師のひとつ)。

主人公のスキップ・バスケッツはプロの道化師になるという情熱をもってフランスの道化師学校へと留学するものの、フランス語が一切できないという根本的な問題のため授業から脱落し、失意のもとに故郷であるカリフォルニアの片田舎ベーカーズフィールドへと戻ってくる。グリーンカード目当てで結婚してくれたフランス人の妻には金をせびられ、町のロデオ会場で道化師として働くことになるのだが、観客は彼の芸などには興味を示さず、暴れ牛に追いかけられる彼の姿を嘲笑するだけだった。そんななかバイク事故で知り合った保健員のマーサだけが彼に好意を持って接してくれるのだが…といったあらすじ。

主人公がいろいろ惨めな目に遭うという、いわゆるダウナー系のコメディです。原案者にルイCKが名を連ねているが、「Louie」以上に主人公が恵まれてないんじゃないかな。スキップの周囲の人間もみんな不幸せな感じで、マーサは頭の回転が遅くてスキップにもぞんざいに扱われているし、スキップの母親(ルイ・アンダーソンが女装して演じている)は典型的なホライトトラッシュといったところ。せいぜいスキップの双子の兄弟のデール(ガリフィアナキスが二役を演じてる)だけが怪しげなキャリア学校を経営して少し金をもっているくらいだし。

笑えるブラックジョークがある一方で、観ていてかなり気が滅入る内容だし、観る人を選ぶコメディだと思う。個人的にはダメ男の主人公にはやはり共感せざるを得なかったわけだが。しかし今後はどういう展開になっていくんだろう?

「COP CAR」鑑賞

Cop Car
ケビン・ベーコン主演のサスペンス。

舞台となるのはアメリカのど田舎で、家を離れて草原を歩いていたトラビスとハリソンの少年ふたりは、誰も乗っていない警察車両を発見する。その中に入って遊んでいた二人は車のキーを発見し、エンジンをかけてドライブに繰り出すことに。しかしその車両は汚職警官のクレッツアー(ベーコン)のものであり、車に入った「ブツ」を取り返したいクレッツアーによって少年二人は恐ろしい目に遭うのであった…というあらすじ。

尺は90分もないし、あらすじも上記のようにいたってシンプル。予告編を観れば話の8割が分かってしまうので、車で遊ぶ少年たちとか、彼らを追いかけるために別の車を奪うベーコンのシーンが余計に長く感じられるのよな。決して間延びしているわけではないのだけど、サスペンスの盛り上げ方が物足りないというか。こういう話って無邪気に楽しんでいた少年たちの気持ちががだんだん恐怖にとって代わられる描写がキモになるべきなのだが、少年たちの怖がり方が中途半端だったな。ここらへん芥川龍之介の「トロッコ」とか読んで勉強すべし。

あらゆる手を用いて盗まれた車の場所を探し出す悪徳警官(保安官か)のケビン・ベーコンの演技が最大の取り柄ではあるものの、ベーコンっていままでいろんな悪役を演じてきたので、意外性が無いといえば無いかもしれない。あとは俺の好きなカムリン・マンハイムが出ています。

まあ悪くはない低予算映画と言ってしまえばそれだけなのだが、この監督のジョン・ワッツって次は「スパイダーマン」の新作を撮ることが決まっているわけで、この作品を観る限りではちょっと大丈夫かな…?と思ってしまったよ。次のピーター・パーカーはさらに若くなる設定だが、特に少年の描写が上手いとも思えなかったし。例えば「アメイジング・スパイダーマン」を撮ったマーク・ウェブは男女の恋愛描写は非常に上手かったし、低予算映画「彼女はパートタイムトラベラー」のあとにいきなり「ジュラシック・ワールド」撮ったコリン・トレボロウも「トラベラー」は結構面白かったわけですが、この監督からはあまり光るものを感じないのよな。この不安が杞憂に終わると良いのですが…。