「BONE TOMAHAWK」鑑賞

Bone Tomahawk
新人監督によるホラー・ウェスタン。

舞台となるのは西部開拓時代の小さな町。町に流れ着いたならず者の足を保安官が撃ったことで、女医が保安官の事務所に呼ばれてならず者の治療をすることとなる。しかし翌朝、ならず者と女医、そして保安官の助手の姿は消えていた。現場に残された矢から、彼らを誘拐したのは洞穴に住む人食いの原住民であることを知った保安官は、老人の保安官補佐、足を骨折している女医の夫、そして女たらしだが銃の腕は確かな男性とともに、女医たちを救出するために荒野へと向かうのだが…というあらすじ。

原住民(いわゆるアメリカン・インディアンとは違うという説明がされており、穴居人みたいな存在)にさらわれた女性を救いに行く男たち、なんて設定は「捜索者」みたいな骨太なウェスタンを期待してしまうが、実際はもっと「ヒルズ・ハブ・アイズ」みたいなグロ系のホラーであった。女医の夫の足の傷がどんどん目も当てられない状態になっていくほか、えげつない人体破壊の描写がいろいろ出てくるぞ。洞窟にいる敵と戦うあたりは「カウボーイ&エイリアン」に似ているが、あれをもっとR指定にしたような感じ。白塗りの人食い穴居人が怖いのよ。

低予算映画ながらキャストは豪華で、主演は「ヘイトフル・エイト」の格好そのまんまのカート・ラッセル。でもストーリー的においしい役は女医の夫を演じるパトリック・ウィルソンがとっちゃってます。あとはマシュー・フォックスやデビッド・アークエットなどなど。またクレジット見るまで気づかなかったけど、懐かしのショーン・ヤングがちょっとだけ出てたりします。

あまり個人的には好きなジャンルではないけど、いろいろ高い評価を得ているようだし、監督のS・クレイグ・ザーラーって今後も活躍してくんじゃないでしょうか。とりあえず正統派のウェスタンを期待してはいけないよ。

「オデッセイ」鑑賞

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原作は読んでない。公開されたばかりなので感想を簡潔に:

・邦題が例によってダサいと叩かれている作品だが、冒頭に流れる製作会社のTSGエンターテイメントのモーションロゴが奇しくもオデッセウスなわけで、題名もこれにあやかった…わけではないよなあ、やっぱり。

・冒頭からアクションが始まり、主人公とNASAの人々がプロフェッショナルとして次々と難題を解決していくさまがテンポ良く描かれ、2時間20分以上の長尺ながら飽きさせない娯楽大作になっている。不屈の主人公もさることながら、地球で策を練るNASAのクルーがカッコよかったな。結束してないから次々とやられてった「プロメテウス」のクルーとは大違いで。ショーン・ビーンさえも最後まで生き残ってますからね。

・でも個人的には「プロメテウス」も「悪の法則」も全然オッケーの人なので、これでリドリー・スコットが調子を取り戻したとは特に思わないですが、彼にとっては久々の大ヒット娯楽大作なわけで、今後の企画(たくさんある)にも期待できそうではないですか。

・天才科学者を演じることで知られるマット・デーモンがまた天才科学者を演じていて、じゃあ天才科学者に見えるかというと全くそうではないのだが、まあ今回はフィジカルさが求められる役だったので良しとしましょう。地球のNASAおよび宇宙船のクルーの数がずいぶん多かったが、各人がきちんと活躍する場面があったのも巧みであった。コメディ畑のクリスティン・ウィッグやドナルド・グローバーなんかも真面目な役をやってて上手かったかと。

・本国ではキウェテル・イジョフォーの役が原作ではアジア人だったのに黒人に代わったことを非難する声もあるようだけど、アジア系のベネディクト・ウォン演じるエンジニアが活躍してたし別にいいんじゃね?中国政府も大活躍だったし。

・サントラは劇中でヒドいと言われるための曲が使われているので確かにヒドいものの、デビッド・ボウイの「スターマン」が流れるところはグっときましたね。

・科学的考証は、そもそも火星であんな激しい嵐って起きないんじゃないかという件は原作者も承知してるらしいが、まあ大目に見るべきかと。でも火星の低重力の描写はきちんとされるべきだったと思うが。あと酸素をどうやって作ったかという説明ってあったっけ?あとNASAってあそこまで情報開示が徹底してるのか?もし火星人が発見されても、24時間後にはその情報が自動的に発表されるわけ?

・主人公たちがあまりにもグイグイと難問を解決していくので、逆にメリハリに欠けてる気もしたので、もう一度くらい主人公が窮地に陥っても良いような気がしたが(原作ではあるらしい)、贅沢な注文ですかね。万人が楽しめる作品かと。

「CARTEL LAND」鑑賞

Cartel Land
今度のアカデミー賞にノミネートされてるドキュメンタリー。

メキシコの麻薬カルテルに対して、法の手を借りずに自分たちで対処することにした人々を追ったもので、アメリカのアリゾナではティム・ホーリーという男性が、メキシコではホセ・ミレレスという医師がそれぞれ自警団を結成し、カルテルの撲滅および麻薬の密輸の阻止のために活動するさまが紹介されていく。

ホーリーは崩壊家庭の出身で、自らも酒とドラッグに溺れていたが子供ができたことで更生し、きちんと職に就こうとするもののメキシコからの不法移民に職をとられ、やがて彼らが移民した背景にはカルテルの横暴があることに気づき、国境を守るために自警団を結成したというもの。決してレイシストのようには描かれていないし、夜中に荒野をパトロールしてたりするものの、カルテルのギャングに遭遇するわけでもなく、彼の行動にどこまで効果があるのかは微妙なところだったな。

対してメキシコのミレレスたちの状況は遥かに深刻で、麻薬カルテル(なぜか「テンプル騎士団」と名乗っている)が地元のビジネスを牛耳り、みかじめ料を払えない者は幼い子供も含めて一家皆殺しにされるという環境のなか、何もしてくれない政府を頼らずにミレレスたちは銃を手にして、ギャングたちと激しい銃撃戦を繰りひろげていく。捕まったギャングのメンバーが「叔父さんの仇だ!」とか言われて頭をボコボコ殴られているのが印象的であった。

また麻薬を製造しているカルテルのメンバーへのインタビューも行われているが、メンバーが自警団のなかに潜入しているとか、カルテルと政府がズブズブだとか、しまいには自警団の活動資金はカルテルが出しているなどといった、メキシコの深い闇を示唆するような話が語られていく。ミレレスたちの自警団も市民の人気を集めていく一方で政府には疎んじられ、ギャングなのかどうか不明な人々を拷問したり、仲間割れをしたりするほか、ミレレスも決して公明正大な人間ではないところが映されていき、最後に皮肉な結末を迎えることになる。

この作品の評価って概ね「アメリカ側のシーンって不要じゃね?」というもので、確かに命がけで銃撃戦を繰り広げてる自警団と、山のなかをうろついてる連中を同等に比べるのは無理があるかな。とはいえメキシコのシーンだけあればいい、というわけでもないので難しいところである。アメリカとメキシコの対比という点では「皆殺しのバラッド」のほうが優れてたかと。