新作シットコム雑感

アメリカでは秋の新作ドラマシーズンが始まったようで、新しいシットコムの第1話をいくつか観たので感想を書きます:

・SUNNYSIDE (NBC)

素行不良で落選したクイーンズの元議員が、アメリカの市民権テストを通過するために勉強する移民たちを助けることになるというもの。落ちこぼれの教師と型破りな生徒たち、という構図が「COMMUNITY」っぽいな。オバマ政権でスタッフとして働いていたカル・ペンが主演&脚本ということもあり、ちょっと説教くさい箇所がなくもないが、多様な人種の役者たちが揃って話を盛り上げてるのは応援したいところです。カメラが微妙にグラグラ揺れてるのが気になったが。

・PERFECT HARMONY (NBC)

これも「COMMUNITY」っぽい内容。妻を亡くして自暴自棄になった元音楽教授が、町の合唱団を指揮することになる物語。さまざまなバックグラウンドを抱えた男女が、歌うことで力を合わせていく…って「グリー」やんけ。主演はブラッドリー・ウイットフォードで、おれこの人はシリアスな役のほうが似合うと思うのだが…?

・CAROL’S SECOND ACT (CBS)

教師だった女性がセカンド・キャリアとして医師になることを決意し、自分の子供くらいに若い他のインターンたちとともに奮闘するという内容。最近は少なくなった、ラフトラックの入りマルチカメラのシットコムで、このスタイルが好きな人は気にいるんじゃないですか。主演は「ザ・ミドル」のパトリシア・ヒートン。白髪のカイル・マクラクランが間の抜けたベテラン医師を演じてるのですが、「ツイン・ピークス」の印象が強いのでなんか不気味に見える。

・MIXED-ISH (ABC)

日本では知名度が皆無だがアメリカでは大きな人気を誇る、黒人家庭のコメディ「BLACK-ISH」のなんと2つめのスピンオフ。トレイシー・エリス・ロス演じるママさんの少女時代を描いた内容で、コミューン育ちの少女が一般の学校に通うことになり、白人と黒人の混血である自分のアイデンティティに悩むというもの。80年代には混血の子が少なかったことが強調されるのだが、そうだったっけ?ママさんのナレーションも入りまくりで、なんか説教くさい「それいけ!ゴールドバーグ家」のような出来。

・THE UNICORN (CBS)

妻を亡くして娘ふたりを単身で育てている男性が、周囲に勧められてデートアプリに登録してみたところ、家事ができることなどが評価されて大モテに…という話。問題は主演がウォルトン・ゴギンズということでして、あのひと絶対に悪人顔だと思うのですが、そんなにモテるのでしょうか?ロブ・コドリーも共演してるよ。

「STUMPTOWN」鑑賞

ABCの新作シリーズ。おれ原作のことを知らなかったのだが、「バットマン」などで知られるグレッグ・ルッカによるオニ・プレス刊のコミックの映像化なのですね。

題名の「スタンプタウン」とはオレゴン州ポートランドの愛称らしくて、舞台も当然ながらそこ。主人公のデックス・パリオスはアフガン帰りの元兵士で、PTSDに悩まされつつも、ダウン症の弟の面倒を見ながら暮らしていた。しかし彼女はギャンブル狂でもあり、アメリカ原住民が経営するカジノでの借金を帳消しにする代わりに、行方不明になったカジノのオーナーの娘を探すように依頼される。持ち前の推理力を活かして、オーナーの娘が恋人とモーテルに潜んでいることを突き止めたデックスだが、目の前で娘を別の男たちに誘拐されてしまい…というあらすじ。

まあ典型的な地上波ネットワークの刑事番組、という出来ではあるのだが、デックスが車のトランクに閉じ込められて拉致される冒頭から、テンポが良くて観ていて飽きない内容にはなっている。デックスのオンボロ車からクラシック・ロックが流れまくってるのも往年のコップショーっぽいというか。ただ第1話のせいか登場人物を少し多めに出しすぎて、せわしない展開になっているような?途中の高級車を盗むシーンの必要性が分からなかった。

またデックスはあくまでも普通の市民という立場なので、悪人と対峙しても銃を撃ったり逮捕できるわけではないのが、観ていてちょっとまどろっこしく感じるかも。いちおう警察には大目に見られているようなので、今後は私立探偵ものっぽい内容になっていくのかな。あとウィキペディア情報では原作のデックスはバイセクシュアルらしいですが、こちらではその要素は完全に無くなってました。

デックスを演じるのはマリア・ヒル長官ことコビー・スマルダーズ。テレビだと最近までシットコムに出てましたが、アクション映画の人というイメージも強いのでタフなデックスに似合ってるのではないでしょうか。彼女の親友のバーテンダー役に「New Girl」のジェイク・ジョンソン、ポートランド市警の刑事役にマイケル・イーリー、その上司役にカムリン・マンハイムなどなど、役者はいいところが揃ってます。

原作もそんなに話数が多くないようだし、テレビ番組として独自の展開を遂げていくのだろうけど、第1話を見た限りではどういう方向性になるのかはよく分からんな。でも悪い作品ではなかったので面白くなることに期待。

「アド・アストラ」鑑賞

なんか日本では評判がイマイチのようですが、個人的には大変楽しめた作品だった。「EUROPA REPORT」とか「THE WILD BLUE YONDER」とか「VIRTUALITY」など、ホラーからアート映画からTV番組まで、おれ宇宙探索ものが好きだということを改めて実感しました。公開中なのでざっと感想を書くけど、結末についても書きたいので、以降はネタバレ注意。

  • 海王星にて消息を絶ったけど生きているらしい父親を探しに、遠路はるばると旅をして道中いろんな危険に見舞われる息子の話だが、話のプロット的には「地獄の黙示録」によく似ている。主人公のモノローグで心境が語られるところも。あるいはさらに、監督の前作「ロスト・シティZ」にも似ているところがあったな。父親の執念に付き合わされる息子の姿を、あちらは父親の観点から描いていたが、こっちでは息子の観点になっているというか。
  • ハードSFっぽい内容のようで、基本的に焦点が当てられるのは主人公の内面であり、いわゆるインナースペースSFというのはこういうのを指すの?
  • 撮影監督が同じホイテ・ヴァン・ホイテマなので、「インターステラー」っぽく見えるのは仕方ないかと。
  • トミー・リー・ジョーンズやドナルド・サザーランドといったいい顔のおっさんたちが出ている一方で、話の要となるのはやはりブラッド・ピットの抑えた演技でして、こないだ「ワンス・アポン〜」でもっとチャラい役を演ってたのと見比べても、いい演技ができる役者になったと思うことしきり。
  • ラストはね、戻ってくるところまで映さなくても、余韻をもたせてその前で切ってしまっても良かったと思うが、これは人の好みそれぞれでしょうね。
  • そして、監督は非常にリアリスティクな科学描写をしたかったらしいけど、劇中の宇宙船って反物質を燃料にした駆動装置で、79日で火星から海王星から行ける代物なんでしょ?それって燃料ロケットなどに頼らない、スター・トレックなみのスラスターとか開発できなかったのか。宇宙ステーションでサルを研究しているようなレベルの技術じゃないだろ。
  • 「オデッセイ」もそうだったが、火星や月面での低重力の描写を完全に無視してましたね。リマ・プロジェクトの宇宙船もしっかり重力があったような。

まあ細かいツッコミは野暮だから置いとくにしても、個人的には大変良かった作品でした。

「BRIGHTBURN」鑑賞

ジェームズ・ガンがプロデュースしたSFホラー。脚本がガンの従兄弟ふたりで、監督も「ガーディアンズ」にチョイ役で出演した人という、ジェームズ・ガン人脈で作られた小品になっている。日本では映画配給に乗り出した楽天が公開するらしいですが、いつになることやら。以降は思いっきりネタバレしてるので注意。

プロットは、まあ予告編見ればわかるのですが、一行で説明すると:

もしスーパーマンが悪人だったら?

というもの。カンサスの農家に赤ん坊を乗せた宇宙船が墜落し、ちょうど子供を欲しがっていた農家の夫妻がそのまま赤ん坊を養子として育てることに。ブランドンと名付けられた少年は、しかし12歳になると超人的な能力を見せつけるようになり、それと同時に奇怪な言動をとるようになり、周囲の人々を不安がらせるようになる…というのがおおまかなあらすじ。

ブランドンの能力は怪力・飛行・ヒートビジョンといったところで、スーパーマンそのまんま。あとちょっと電気器具を操れるみたい。赤ん坊のときに乗ってきた宇宙船が納屋に隠されているところなんかも、明らかにスーパーマンを意識してますな。DCコミックスにキャラクター使用料を払ったほうがいいレベル。まあドリームワークスの「メガマインド」も設定が似てましたが。

ブランドンを育てた夫妻はいい人たちであるものの、悲しいことにブランドン君はそんな両親の愛情を無下にしてヒネくれたクソガキとなり、変なエリート思想を抱いて自分の気に食わない連中を痛い目に遭わせていく。12歳ということで日本の中学二年生より年下だが、言動はいわゆる中二病そのものでして、クラスメートの女の子にストーカー行為をしたり、「ブランドンマーク」を考案して事件の現場に残していくものだから、周囲にすぐ疑われてやんの。

予告編を見れば話の内容が大体わかってしまうから、最初の30分くらいは話の展開が読めるので結構しんどい。後半になってからもブランドンが悪に目覚めて暴走する展開はかなり想定通りというか。終わり方がちょっと意外だったのと、エンドクレジット中の映像でかなり強烈なネタをかましてくる(左下のキャラクターに注目)ところは面白かったけど。

劇中にノートパソコンと携帯電話がちょっと登場するほかは、田舎が舞台ということもあり全体的にレトロな感じがあって、「オーメン」みたいな70年代のホラーっぽい雰囲気もあったかな。それなりにグロ描写もあるし。

「マン・オブ・スティール」はスーパーマンの宇宙人としての側面を強く描いていたけど、こちらはそれにホラーの要素を加えたもの。あまり怖くないけど。いかんせん脚本が稚拙で、それこそ中学二年生が考えたような内容の映画でした。このままDCユニバースの映画とクロスオーバーとかしたら非常に面白いのでしょうが、まあ有り得ないでしょうね。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」鑑賞

公開中なので感想をざっくりと。ネタバレ注意。

  • ブラッド・ピット主演というわけではないが、タランティーノ作品としては雰囲気的には「イングロリアス・バスターズ」に似ていた。あっちはタランティーノの戦争映画の趣味が詰め込まれていたのに対し、こっちは60年代のエクスプロイテーション映画とかマカロニ・ウェスタンの趣味が詰め込まれているというか。
  • 「バスターズ」ではヒットラーが歴史改変の憂き目に遭っていたので、こっちもそんなオチになるんじゃね?と思ってたら本当にそうだった。よってラストの展開はそんなに驚きはなし。
  • あとブラピのキャラがブルース・リーと戦う展開も、リーの娘がクレームを入れたことで結果を知ってしまったので、意外性はなし。
  • というわけで話の展開がなんとなく分かっていたし、そもそもの脚本がファーストアクトにセカンドアクトにサードアクトときっちり組まれているような構成ではないし、ただ当時のハリウッドの雰囲気を眺めるような、そんな内容になっていた。
  • つまりタランティーノの趣味の世界に2時間以上も付き合わされるわけだが、いろいろ小ネタは多いし、ブラピの車の飛ばし方とかに爽快感があるので、観ていて飽きることはない。尺が短く感じられたな。
  • 小ネタといえばラジオのニュースとかもいろいろ言ってるのだけど、日本語字幕がさすがに追えていなかったのが残念。
  • タランティーノ映画の常連も「ザ・ギャング」としてたくさん出てきて、シーンがカットされたティム・ロスまでもがクレジットされてて、なんかタランティーノの集大成みたいでしたな。
  • 常連以外でいうと、ダミアン・ルイスのマックイーンが微妙に似てなくていい感じ。ティモシー・オリファントの役って実在した役者なんすね。エミール・ハーシュは暴行事件でホサれたかと思ってたがバリバリ出演してるな。
  • 観た後に心に何か残るのか、というと何も残らない作品かもしれないけど、観ていて普通に楽しめるものでした。タランティーノはこのまま60年代のノリで「スター・トレック」撮ってしまえば良いのでは。