「SOMETHING IN THE DIRT」鑑賞

SPRING(モンスター)」「THE ENDLESS (アルカディア)」「シンクロニック」など、ちょっとオカルトっぽいSF映画ばかり作っているジャスティン・ベンソン&アーロン・ムーアヘッドのコンビによる最新作。

舞台はロサンゼルスの安アパート。そこに引っ越してきたばかりのリーヴァイは、長年住んでいるというジョンに家具運びの手伝いなどをしてもらう。その際にリーヴァイのクオーツの灰皿が勝手に動き謎の光を出していることに気づいたジョンは、その怪現象についてドキュメンタリーを撮影しようとリーヴァイに持ちかける。しかし撮影時にふたりのカメラは故障し、さらに謎の地震や記号などが現れ、ふたりのドキュメンタリー撮影は意図しなかった展開を迎えるのだった…というあらすじ。

「アルカディア」同様に主人公ふたりを監督たちが演じていて、ベンソン演じるリーヴァイはモリ突き漁が趣味のバーテンダーで、ムーアヘッド演じるジョンは元数学教師のウェディング・カメラマンという設定。ふたりともお互いに言えない秘密を抱えており、「信頼できない語り手」の役を担ってもいる。

「アルカディア」は田舎のカルト集団の土地で男性ふたりが奇妙な現象に出会う話だったが、今回はロサンゼルスという大都市において怪現象に見舞われる内容になっている。空中浮遊から怪電波からシンクロニシティまで、いろんなオカルトというか陰謀論がわんさか詰まっていて、そういうのが好きな人は相当楽しめるんじゃないですか。ちゃっかりテルミンも出てくるぞ。LAを舞台にした謎の陰謀論の話、という意味では「アンダー・ザ・シルバーレイク」に似ているかもしれない。あれよりもっとホラーっぽいけど。

難点があるとすればやはりラストで、それまではいろんな怪現象が出てきていろいろ面白いのだけど、話のまとめ方がどうもそっけないというか。この監督たち、どの作品も話のまとめ方がなんか残念なんだよな。

なおラストといえば、これ米HULUで観たのだけどエンドクレジットのあとにテキストレス・マテリアルの映像が数分流れるんですよ。海外向けに、英語のテロップや字幕が出てきた部分だけ抜粋した白素材で、代わりに英語以外の言語テロップを載せて本編中に差し替えるやつ。普通の映画だったら、あー配信業者がここカットせずに最後の部分をあわせてエンコードしてしまったのかな、と考えるけど、この映画に関しては内容がメタっぽいところもあり、わざと最後の白素材を残したのかと思ってしまった。実際はどうなんだろう。

この監督ふたりの作品としては、今までやってきたことの集大成的な内容で結構楽しめた。次はどんなアイデアで勝負するか期待してます。

「デイリーショー」ゲストホスト所感(その1)

昨年末にトレバー・ノアが7年間務めた「デイリーショー」のホストを降板したのは知ってる人も多いと思う。やはり前代のジョン・スチュワートの域に達することはできなかったものの、長年お疲れ様でした。そのスチュワートよりも最近では「デイリーショー」門下生のジョン・オリバーのほうが人気があるのかな。

4代目(そう、スチュワートの前にクレイグ・キルボーンがいるのです)のホストはノアのもとで「特派員」と呼ばれるレギュラー出演者の一人だったロイ・ウッドJr.が有力視されているようだけど、コメディ・セントラルは後任を未だに発表せず、今年に入ってからは週ごとに異なるホストをゲストとして招いて司会を行わせている。政治ネタを扱った番組なのに司会者の観点が定まらないのはどうなのよ、とは思うもののゲストが有名なコメディアンばかりで、同じ司会者役でも芸風がいろいろ違うんだな、というのは勉強になったので最初の5人の所感をざっと書いておく:

1週目:レスリー・ジョーンズ

日本だと「ゴーストバスターズ」のリブート版で有名なコメディエンヌですね。こないだまで「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラーだったこともあり、SNLの同じく時事ネタを扱うセグメント「ウィークエンド・アップデート」に全体的なノリは近かったかな。自分から騒ぎ立てるタイプの芸風なので、社会の出来事をいったん受け止めてコメントする司会には向いてないかも。

2週目:ワンダ・サイクス

カミングアウトしてるベテランのコメディエンヌですね。短命に終わった自身のトークショーも持ってた人だけど、特にこれといった特徴もなく淡々とホストをやっていた感じ。あまり印象に残ってない。

3週目:D・L・ヒューグリー

Hughleyと書いてヒューグリーと読む。ヒューリーじゃないよ。今回唯一の男性ホスト。あまり政治ネタは扱わないコメディアンだったかな?と思ったけど、警察の暴行や銃乱射事件などといった深刻なテーマについても正面から取り組み、自分の意見をしっかり述べるなど、一番適任と思えるようなホストであった。

4週目:チェルシー・ハンドラー

彼女も以前に自分のトークショーを持ってた人。いかにもプロンプターに書かれたことを読んでるような司会っぷりだったし、レギュラーでない外部のコメディアンたちを呼んできて座談会をやったりと、それもう「デイリーショー」じゃなくない?という感じだったよ。しかし彼女の「子供がいないほうが人生を楽しめる」というネタにFOXニュースなどが噛み付いたため場外乱闘に発展し、皮肉にもメディアでは彼女のホストがいちばん話題になっていた。

5週目:サラ・シルバーマン

彼女もベテランになったよな。あまり政治ネタを扱わない人という印象があったけど、下ネタを交えながら緩急をつけたジョークをポンポンと出してきて、カーブと直球を巧みに使い分けるデリバリーはお見事でした。

というわけでヒューグリーが一番よくて次にシルバーマン、あとの3人は似たり寄ったりといった印象だった。まあコメディアンとしての力量はまた別なんだろうけどね。番組は来週休止で、そのあとはハッサン・ミンハジやアル・フランケン、カル・ペンといった人たちがゲストホストを務めることが公表されている。個人的には上院議員も務めたフランケンに期待していて、あの人すごく頭のいい人だからね。

というわけでアメリカのコメディアンの芸風を比較するという意味ではいろいろ勉強になったのだが、そろそろ恒久的なホストを決定しても良いと思うのです。おそらくゲストたちの中から選ばれることはなく、ロイ・ウッドJr.をはじめとするレギュラー陣から選ばれるのではないかな?

「アントマン&ワスプ:クアントマニア」鑑賞

感想をざっと。ネタバレ注意。

  • ペイトン・リードによるアントマン3作目ということで、さすがにもう「当初の予定通りエドガー・ライトが撮ってたらどうなってたか?」と思うことはなくなったものの、今回はマーベル映画よりもディズニーのファンタジー映画のような内容であった。
  • MCU映画のフェーズ3は「エンドゲーム」のクライマックスの余韻にずっと引きずられていたというか、全体的な明確な脅威がないままヒーローたちが各々のトラブルに対処していたような印象があったけど、今回も(少なくとも冒頭は)世界的な危機が起きるわけでもなく、単に主人公の娘が発明した装置によってみんなが騒動に巻き込まれるというほのぼの(?)したものだったし。
  • この危機感のなさが最近のマーベル映画にありがちな、アクションは多いもののストーリーの起伏に乏しく、最後はとにかく大人数の派手なバトルをやって締めくくるパターンに陥ってた気がする。
  • それでやはりアントマンって大作映画の主役を飾るにはちょっとインパクトが弱いキャラクターなのですよね。戦闘に特化した能力があるわけでもなく、今回は縮小するよりも巨大化してサイズにものをいわせたアクションが多かったな。そのため前作まであった「巨大化するとえらく疲労する」という設定がうやむやになっていた。
  • それとマーベル映画の全体的なルールになっているのではと思うけど、例によって「中の人が話すたびにヘルメットが外れる」のが気になって仕方なくて…アントマンやワスプのヘルメットのデザインは好きだし、被ったまま会話したって構わんのだが。
  • MODOKもマスクつけてましたね。まああれは中の人の正体を隠しておく理由もあったのだろうけど。これであのキャラクターに興味を持った人は、妻子持ちの男性の悲喜劇を描いた傑作であるTVシリーズのほうもチェックしてください。
  • アリたちが活躍するが、女王アリはどこにいたのだろう。あとアリ社会は女王もいるし社会主義じゃないと思うぞピム博士。
  • 出演者はね、やはり話が凡庸でもポール・ラッドの魅力が全体に貢献しているなあと。これからマーベル映画のメイン・ヴィランになるらしきカーンも、サノスなどに比べると扱いが難しいキャラだろうが、ジョナサン・メイジャーズが好演していた。一方でもはや伝統になった「あの意外な役者がMCU映画に出演!」枠はストーリー的にあまり貢献しなくなってるので、もう止めてもいいんじゃないの。
  • 今回からMCU映画のフェーズ4の開始ということで、まだ序盤戦的な立ち位置とはいえ映画としての出来はあまり良くないものであった。これからカーンを軸とした展開をしっかり盛り上げていかないと、さすがにファンの間でもMCU疲れが深刻化してくるのではないかと勝手に思ってしまうのです。

「イニシェリン島の精霊」鑑賞

感想をざっと。

  • 今までのマーティン・マクドナーの作品って過度なバイオレンスとブラック・ユーモアが特徴的で、同じくアイルランドにルーツのあるガース・エニスのコミックに通じるものがあるなと思ってたが、今回は(没になった)舞台劇がベースになってるとかで、従来の作品以上に舞台劇っぽさがあって、特にサミュエル・ベケットの不条理演劇に通じるものがあるかな、と思った次第です。作品の冒頭からコルムがパードリックを説明もなく無視して、観客もなんだこれ?といった気にさせるところとか、ベケットっぽくない?
  • まあそのあとにコルムからもそれなりの説明があるし、老いや創造性の減衰に対する危機感とか、人間関係における乖離とか、いろいろな見方はできるのだろうけど、あまり深掘りせずに不条理演劇として観るのが良いのではと思った次第です。
  • マクドナーの作品としては意外にも、初期短編の「SIX SHOOTER」以来のアイルランドを舞台にした作品になるのか。個人的に90年代にアイルランドに住んだこともあり、イニシェリン島の姿がゴールウェイやドニゴールとかでこんな風景あったよねー、と思い出しながら見ていて面白かったです。時代設定にあるアイルランド内戦って、ブレンダン・グリーソンも出ていた「マイケル・コリンズ」で描かれたように首都ダブリンとかでは大規模な戦闘が行われた印象だが、イニシェリン島のある西部でも爆音が聞こえるくらいの戦闘があったのかな。
  • なお今までアイルランドを舞台にした映画って、封鎖的な環境に嫌気がさした若者が東のイギリスに渡るという内容が多かったので(「シング・ストリート」とか)、さらに西にある孤島の若者が、進展を求めて東のアイルランド本土に渡るという展開はちょっと衝撃的だった。あそこ小さな国だから、どこ行っても同じような感覚があったので。
  • 出演者はブレンダン・グリーソンもコリン・ファレルもマクドナー映画の常連だから特に言うことないわな。バリー・コーガン キオーガンの演技も悪くないけどアカデミー賞にノミネートされるほどかな?という印象。「トロピック・サンダー」の教えに沿ってFull Retardにならなかったのが票を集めたのでしょう。彼よりもパードリックの妹役のケリー・コンドンのほうが演技はずっと良かったな。
  • というわけで万人向けではないにしろ、硬派なブラックユーモアが味わえる作品。個人的にはマクドナーの前作「スリー・ビルボード」よりも良かった。あの青いセーターが暖かそうで欲しいな。

「POKER FACE」鑑賞

「ナイブズ・アウト」「グラス・オニオン」でミステリー映画の雄となった感のあるライアン・ジョンソンが、続いて送る米Peacockのミステリー・シリーズ。

事の発端はとある街のカジノで始まる。そこの上客の部屋を掃除していたメイドが、客のノートPCに非常にいかがわしい画像があるのを見つけ、そのことをカジノのオーナーに報告する。しかし上客が法的トラブルに巻き込まれるのを恐れたオーナーは、逆にカジノの警備長に命じて、メイドとその夫を殺害してしまう。警察も夫婦喧嘩による事件と見なしてろくに調査をしないなか、メイドの友人であったウェイトレスのチャーリー・ケイルは何かがおかしいことを見抜くのだった…というあらすじ。

「ナイブズ・アウト」が真犯人を見つけ出すフーダニット形式だったのに対し、こちらは「刑事コロンボ」に代表される、冒頭から犯人とその犯行が明かされ、そのアリバイをチャーリーが崩していく倒叙ミステリ(英語だと「ハウキャッチエム」と言うんだ?)のスタイルを取っているのが特徴。予告編を見れば分かるが映像の雰囲気とかテロップの色とかがレトロ風味で、「コロンボ」や「私立探偵マグナム」といった往年の刑事ドラマにオマージュが捧げられた内容になっている。主人公が町から町に旅して事件に遭遇するのは「超人ハルク」にも通じるところがあるな。

主人公のチャーリーは、人がウソをついているかどうかを完璧に見抜くことができるという超人的な能力の持ち主で、その能力を発揮して犯人のアリバイを崩していく。いちおう頭脳明晰なんだけど性格はズボラで、トレーラーハウスに住んで朝からビールをグビグビ飲んでいるような女性。言いたい言葉が出てこないシーンが何度もあるのには笑った。その能力を活かしてカジノで荒稼ぎしていたためにブラックリスト入りしてしまい、カジノでウェイトレスとして働くことになったらしい。第1話で事件を解決した代償として追われる身になってしまい、エピソードごとに異なる町に流れ着いて犯罪に遭遇することになるのだが、刑事でも探偵でもないので何の後ろ盾もないまま犯人と対決するのが大きなポイント。

ライアン・ジョンソンはいくつかのエピソードの監督と脚本を担当しており、主人公のチャーリーを演じるのは「ロシアン・ドール」のナターシャ・リオン。倒叙ミステリの売りとして、エピソードごとに豪華なゲストが登場し、ジョンソン作品の常連であるジョセフ・ゴードン=レビットをはじめエイドリアン・ブロディ、ベンジャミン・ブラット、ロン・パールマン、ホン・チョウ、ノック・ノルティ、ティム・ブレイク・ネルソンといった錚々たる役者が登場するみたい。

「グラス・オニオン」同様に批評家からは高い評価をえてまして、第1話をみた限りでは確かに痛快で面白いミステリ作品であった。Peacockの有料プランに入ることも検討するくらいの出来。