「インヒアレント・ヴァイス」鑑賞

Inherent Vice
トマス・ピンチョンの同名小説(邦題は「LAヴァイス」)を原作にした、ポール・トーマス・アンダーソンの新作。

おれピンチョンの小説って高校の時から好きで読んでるのですが、「メイスン&ディクソン」の冗長さに冒頭で挫折し、あれよりも長い「逆光」も当然ながら読んでおらず、長年彼の著作からは遠ざかっていたものの、今回の映画化にあたって原作を読んでみたのですよ。ピンチョンの小説にしては結構分かりやすい内容のものだったと思う。とはいえ話がちょっと進むたびに登場人物がどんどん増えてくるし、探偵小説のようで話があらぬ方向に進むなど、決して映像化しやすいような作品ではないけどね。

映画のプロットは原作に忠実で、舞台は1970年のカリフォルニア。ヒッピーまがいの私立探偵であるドック・スポーテッロのもとに昔の彼女が現れ、彼女のいまの愛人である不動産業の大物の失踪について調べて欲しいと依頼する。さらに別の案件も抱えたドックは調査にあたった店で何者かに殴られて昏倒。目覚めたら警察に囲まれており、しかも横に何者かの死体があって…というプロット。

でも普通の探偵ものではないからね、事件のまっとうな解決などを求めてはいけないよ。原作のマイナーなキャラクターにナレーションを行なわせてプロットの説明をしてるものの、原作をかなり端折っている部分もあるため、ストーリーを理解するのは結構厳しいと思う。小説だと登場人物について「あれこいつ誰だったっけ?」とページを戻して再確認することができるものの、映画だとどんどん話が進んでいってしまうのがデメリットだよな。

あとピンチョンの小説ってドタバタしてるようで、人知を超えた集団や組織(今回は麻薬カルテルの『黄金の牙』)が世界を乗っ取っていくことに対するペーソスと、過去の戻らぬ幸せに対する諦めのようなノスタルジア(警察に駆逐されるヒッピー文化、になるのかな)が根底にあると思っているんだが、映画版では『黄金の牙』の存在が控え目になっていることもあり、登場人物のもっとパーソナルな部分に話が終始していたような。夢が醒めたような原作ラストの文章は本当に素晴らしかったんだけど、映画の終わりはちょっと異なってましたね。

また原作は小説ながらも例によって当時の音楽やテレビ番組や映画が羅列され、音楽に至っては100曲くらい言及がされているけど、映画では版権の関係か意外と使用曲は少なめ。ニール・ヤングやカン、あとは「上を向いて歩こう」など。音楽自体はアンダーソン作品の常連であるジョニー・グリーンウッドが担当してるが、クラシックっぽくってあまり映像に合ってないような気もするのよな。

主演はホアキン・フェニックスで、ほかにジョシュ・ブローリン、リース・ウェザースプーン、ベネチオ・デル・トロなどなど。原作だと主役のドックは30手前だし、いろいろイメージが異なる役者もいたものの、みんな良い演技をしてるのではないでしょうか。マーティン・ショートが意外なくらいの怪演をしてたな。なお出てくる女性がみんなブスというか田舎臭いメークをしてるのは70年代を意識して?それとも監督の趣味?

「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」ほどの傑作ではないものの、画面の構成とか斬新だし、悪い作品ではないですよ。でもやはり個人的には原作の方が良かったな。

「iZombie」鑑賞

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The CWの新シリーズで、原作はクリス・ロバートソンとマイケル・オールレッドによるヴァーティゴの同名コミック。

若き医学生のリヴ・ムーアは頭脳明晰で婚約者もいて幸せな日々を送っていたが、たまたま同僚に誘われて参加したパーティーでゾンビの集団に襲撃され、傷を負った彼女もゾンビ化してしまう。定期的に人間の脳を食べないとまっとうに暮らせなくなった彼女は、検死医として働くことで脳ミソにありつけるようになるが、遺体の脳を食べるとその人物の生前の記憶や癖が彼女の身につくようになってしまった。そこで彼女はその能力を活かし、同僚や刑事の手を借りて、遺体ができる原因となった殺人事件を解決していく…というストーリー。

原作だと主人公の名前がグウェンだったし、職業も墓掘り人で、もっとモンスターものっぽい内容だったような?よってコミックとは殆ど別物で、プロデューサーがロブ・トーマスであることから彼の「ヴェロニカ・マーズ」にスタイルが似通っているかと。あと死体安置所で働く女の子が事件を解決する、というのは「トゥルー・コーリング」にも似てるな。あと主役のローズ・マクアイヴァーをはじめ、あまり有名な役者は出演してないみたい。

主役がゾンビゆえに無表情でゴスっぽく、脳ミソにタバスコかけて食べているというのは万人受けしないかもしれないが、基本的には女の子が逆境にめげずに奮闘する物語なので、「ヴェロニカ・マーズ」好きだった人はチェックしても良いんじゃないでしょうか。

「Wrestling Isn’t Wrestling」鑑賞

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最近は映画製作者というよりもメディア・パーソナリティみたいになってきたマックス・ランディスによる新たな短編。彼のWWE愛を延々と綴ったもので、特に長年にわたって第一線で活躍し、WWEの幹部にまで登り詰めたトリプルHの立身伝のような内容になっている。

最初は貴族ギミックで登場したものの大成せず、ショーン・マイケルズなんかと組んだりD-ジェネレーションXを結成して名を成していくものの、やがて若手に立場を脅かされるようになって…といったストーリーはいちおうあるが、まあ全部ブック(シナリオ)で仕組まれてるわけだし…WWEの常としてまっとうな結末は存在せず、24分もあるうちの後半はかなりグデグデなのだが、「プロレスは本物じゃないって?プロレスはレスリング以外の全てのものさ!」と言い切るラストがファンボーイっぽいな。

男性レスラーをみんな女優が演じて、逆にチャイナみたいな女性レスラーを男性が演じてるのだが、当然ながら似てないのでナレーションなしでは誰が誰か分からず。また前の「The Death and Return of Superman」ほどではないのものの有名人がチョイ役で出ていて、マコーレー・カルキンやセス・グリーン、デビッド・アーケットなど、たぶんヒマそうな人たちが登場してます。

おれがWWE観てたのって2000年代初頭くらいまでなので、ランディ・オートンあたりが出てくる頃から話についてけなくなるのですが、ファンの方は余興で観てみるのもよりかと。

「POWERS」鑑賞

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アメリカのプレイステーション・ネットワークのオリジナル番組。こないだHBOも独自のVODサービスを発表してたけど、最近はVODプラットフォームの乱立が進んでいると言うか、どこも独自の番組を製作して客を呼ぼうとしているような。でも数年後にはそれなりの数のサービスが淘汰されてるんだろうな。やっぱり。

原作はブライアン・マイケル・ベンディスとマイケル・エイヴォン・オーミングの同名のコミック。おれベンディスって積極的に嫌いなライターのひとりでして、スーパーヒーローものを書いてるのに「悪役の描写にやたら力を入れる」「マイナーなヒーローにばかり焦点を当てる」「主人公のヒーローがろくに活躍しない」というカタルシスの感じられないストーリーの作り方がすんごく嫌いなのよね。

この「POWERS」はベンディスがマーベル・コミックスでスーパーヒーローものをいろいろ書く前の作品だが、テーマとしてはスーパーヒーローを扱っていて、超人的な能力をもったヒーローや犯罪者(「パワーズ」と呼ばれる)が数多く存在する世界において、かつて自身もヒーローだったが能力を失ってしまった主人公がシカゴ市警に加わり、相棒とともにパワーズ絡みの事件を解決していくという刑事ものの要素が強い作品。

俺も原作はそんなに詳しくないんだけど、第1話で死体となって発見されるパワーズのレトロ・ガールが番組では普通に生きているあたり、原作とは違う話になっていくのかな?主人公のクリスチャン・ウォーカーを演じるのは「第9地区」のシャルート・コプリー。原作だともっと熱血漢のマッチョのようなイメージがあるけど、番組では影のあるアンチヒーローっぽい感じ。彼の相棒のディーナ・ピルグリムは最近のトレンドに沿って白人から黒人のキャラクターへと変更されてます。あとはエディ・イザードやミシェル・フォーブスなどが出ていて、それなりに知名度の高い役者が出ているような。

第1話を観た限りでは、やはり低予算の作りがちらほら露呈しているような感じ。ウェブ・シリーズなどに比べれば凝っているんだけど、Syfyチャンネルあたりの番組には少し劣っているクオリティというか。そのプレイステーション・ネットワークというプラットフォームの特殊性から、多くの人々にリーチできるような作品ではないと思うけど、今後もこういうVODサービスにに特化した作品が増えてくるんだろうな。

「WHIPLASH」鑑賞

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センスない邦題は「セッション」。4月公開で、これ何の前知識もないまま観た方が楽しめると思うので、簡単な感想をざっくりと:

・音楽の師弟愛などではなく、あくまでも教師と生徒のガチな戦いに最後まで徹しているところが素晴らしい。教師の一線を越えたスパルタ的な教え方はブラック企業みたいなのですが、主人公がそれに迎合したりせず反撃するところが巧いなあと。

・しかし主人公もけっこう性格に難がある奴だというのがポイント。議論を呼びそうな終り方(意図的にああしたらしい)も含め、安直な感動作にしてないところがいいですね。

・でもタイミングよく起きる事件とか事故がちょっとクサいところもある。話のベースとなった短編映画はインターネット上から削除されてて視聴できないんだけど、どのくらい簡潔にまとめられてたんだろう。

・J.K.シモンズのアカデミー賞受賞は当然ですな。マイルズ・テラーは琴欧州に似ている。

・控え目ながら効果的なカメラワークも賞賛されるべきであろう。監督のダミアン・チェズルは音楽ものというニッチな分野を得意としてるみたいだけど、とりあえず今後の作品にも期待。