「SATISFACTION」鑑賞


USAネットワークの新作シリーズ。

ニールは投資信託の会社でバリバリ働くビジネスマンで、プール付きの邸宅に住み、若くして結婚した妻のグレースとの間には16歳になる娘のアニカもいて、それなりに成功した人生を送っていたものの、何かしら満たされない気分を感じるようになっていた。そして大口の顧客を得るために出張中、飛行機で長らく待たされたことから彼は突然ブチ切れ、空港でひと騒ぎ起こしてしまう。それがもとで会社でもブチ切れた彼は会社を辞め、家に帰るのだがそこでグレースが男娼と不倫しているさまを目撃してしまう。怒った彼は男娼を追いかけ、彼の携帯電話を手に入れる。そしてその電話に「注文」がかかってくることを知った彼は、自分も男娼のふりをして女性たちに会いにいくのだが…という話。

人生が嫌になったニールが、禅に興味をもって仏僧のもとを訪れたりするのがアメリカっぽいのかな?仕事中心の夫に不満を抱いてグレースが不倫に走ったことも彼女の視点できちんと描かれていた。一方ではアニカが教師の不倫を告発した歌を学校で歌って退学になるなど、家庭が崩壊する寸前までいって逆に皆が結束し、それでもニールが妻のことを疑わしく思っているなどといった家族の描写が、絶妙なバランスで描かれている。

これから先はニールが男娼を続けていくのか、グレースが不倫を続けていくのか、それともグレースの不倫相手が復讐をしてくるのか、どう話がつながっていくのか全く分からないのですが(コメディになるという説もあり)、第1話はCM入りで90分の長尺ということもあり、良く出来たTVムービーを観ているようで意外と面白かった。主人公が男娼になる番組と言えばHBOの「HUNG」があったけど、むしろ妻の不倫に悩む夫という意味では映画の「ファミリー・ツリー」に似てたかな。

ニールを演じるのは「GLADES」のマット・パスモア。真面目な役もちゃんとできるじゃん!そしてグレース役は「アイアンマン3」のステファニー・ショスタク。また最近のTVシリーズの常としてアトランタで撮影をやってます。

USAネットワークの番組としては毛色が違うのであまり長続きしないと思うけど、第一話の出来が良かったことはここに記しておく。

「THE ZERO THEOREM」鑑賞


テリー・ギリアム御大の4〜5年ぶりの新作。イギリスではもうDVD出てますが、日本では秋くらいに公開ということで、ネタバレしないように感想をざっと:

・舞台は明言されないけどおそらく近未来。主人公のコーエン・レスは、とある電話を待ち続けているために在宅勤務を上司に希望。謎めいた会社社長に会ったのちに彼は在宅勤務が認められ、「ゼロは100%」という謎の定理「ゼロ・セオレム」を解明するように命じられる。しかしコンスタントにデータのアップロードが求められるその業務にコーエンは耐えられなくなり、やがてブチ切れることに…というようなプロット。

・「未来世紀ブラジル」を彷彿とさせる近未来のセットのデザインがね、金かかってなさそうなのに独創的で素晴らしいのですよ。ペダルを漕ぐ職場とか、仮想現実スーツのデザインとか。こういうのやらせるとギリアムの右に出る人はいないですね。

・なお「ブラジル」と似ていることろが沢山あって、主人公は妄想(仮想現実)に逃避してるし、彼の上司を演じるデヴィッド・シューリスは話し方とかがまんまマイケル・ペイリン。デブとノッポの「輸送人」コンビは「ブラジル」の修理人コンビみたいで、ついでに言うなら「マインクラフト」みたいな定理解明用のプログラムも「ブラジル」の地下迷宮に似ているな。もちろんダクトチューブも出てくるぞ。

・また自分なりの信念をもって突き進み、身を破滅にさらす主人公というのは80年代〜90年代のギリアム作品に通じてますね。そういう意味では(00年代の迷走期を抜けて)ギリアムが戻ってきた!と喜びたくはなる一方で、過去のスタイルに戻ってしまったのかなという気にもなる。監視カメラやオンラインセックスというネタは非常に現代的で、時代がギリアムに追いついてしまったのかなあとも思う。

・出演者の演技はどれも素晴らしくて、クリストフ・ヴァルツが眉毛も剃ったスキンヘッドになって主人公を熱演。ヒロインはメラニー・ティエリー。あとはマット・デーモンが出てたり、ティルダ・スウィントンがラップを披露してたりします。ベン・ウィショーなんかもちょっと出てるよ。少年プログラマーを演じたルーカス・ヘッジスの演技が特に良かった。

・なお主人公が訳あって自分のことを複数形で呼んでいて(「I」でなく「We」)、そこらへん日本語訳は面倒くさそう。さらに主人公が務める会社の名前が「MANCOM」というのも、日本語字幕にしたらちょっと恥ずかしそうだな。

・話の結末がちょっと弱い気もするが(レディオヘッドねえ…)、ギリアムのファンなら十分楽しめる作品であった。例によって配給会社がなかなか見つからないらしく、カナダでは劇場公開されない憂き目にあっているそうなので、日本で公開されたときは金を払って観に行きましょうや。

「UNDER THE SKIN」鑑賞


日本では「アンダー・ザ・スキン 種の捕食」の題で10月に公開だそうな。

何もない宇宙から何もないスコットランドにやってきた、スカーレット・ヨハンソン型の宇宙人。彼女は死んだ少女の服を身にまとい、バンを乗り回しながら道を尋ねるふりをして通りの男性たちに声をかけて車内に誘う。彼女とねんごろな関係になれると期待した男たちはいそいそと彼女に従うのですが、彼女の家で服を脱ぎだしたところで暗闇にズブズブと沈んでいき、中身を吸われて哀れ皮だけの存在に…というようなストーリー。

お色気宇宙人に男が餌食になる「スペース・バンパイア」とか「スピーシーズ」を思わせるような設定ですが、中身は全く似てなくて、何の説明もなく断片化された話が続く、コテコテのアートフィルムになっている。70年代のアートなSF映画、特にニコラス・ローグの「地球に落ちてきた男 」に雰囲気は似ているかな。

不安をかきたてるような音楽にのせて描かれる、スコットランドの夜景とか男たちが餌食になるシーンはとても美しくて、批評家たちに絶賛されたのは分かるのですが、じゃあ観てて面白いかというとそうでもなく…。正直なところ結構しんどかったな。

でも寡黙な宇宙人の役に、ビッチな雰囲気のスカヨハはよく似合っている。あとはライダースーツを着た、セブン上司のような宇宙人も出てくるのですが、演技力よりもバイクのスキルが求められたということでプロのレーサーが演じてるそうな。またスカヨハに車で誘われる男性たちはみんな素人で、実際に声をかけられるシーンを隠しカメラで撮影していたのだとか。でも普通だったら「あなた、『アベンジャーズ』に出てませんでした?」とか言われそうなものなんだがなあ。彼らスッポンポンになって頑張ってます。顔に障害がある男性も、メークではなく実際にそういう人がキャスティングされたのだとか。

例によってメディアでは「スカヨハがフルヌードに初挑戦!」なんて煽られてますが、どのくらい裸が拝めるのかはここでは書きません。スカヨハの裸を期待した男たちが哀れな目に遭う映画に対して、スカヨハの裸を期待して映画館にやってきた男たちが哀れな目に遭うというメタな展開が繰り広げられるのではないかと、今から勝手に期待しておきます。

「The Strain」鑑賞


ギレルモ・デル・トロ とチャック・ホーガンの小説(邦題は「沈黙のエクリプス」)が原作の、FXの新シリーズ。これミニシリーズだよね?第1話はデル・トロが監督していた。アメリカでは上のイメージのビルボードが悪趣味だと抗議が殺到して撤去する騒ぎになったらしいが、まあ仕方ないわな。

ニューヨークのJFK空港に着陸したドイツからのジャンボ機。しかし機内からは何の反応もなく、周囲に警戒態勢が敷かれる。機内に入ったCDC(疾病対策センター)のイーフリアムたちが目にしたのは、席に座ったまま外傷もなく死亡している200人以上の乗客の姿だった。紫外線のライトには粘液のようなものが映し出され、機内の貨物室からは謎の巨大な棺桶と、線虫のような生物が発見される。一方ではマンハッタンの大富豪がその棺桶を手に入れる画策を始め、スパニッシュ・ハーレムではホロコーストの生存者である老人が事件のことを知り、再び「その時」がやってきたことを感じていた。そして棺桶を格納した倉庫には巨大な怪物が現われ、乗客の死体を置いた安置所では死体が動き出していた…というプロット。

いちおうヴァンパイアものらしいのだが、もっとモンスターパニック的な内容になっていて、犠牲者の喉を割いて血を吸い取る吸血鬼のような怪物が、線虫を使って仲間を増やしていくという展開になるみたい。ナチス・ドイツのときにもこの怪物が現われたらしく、ここらへんの設定は「ヘルボーイ」っぽいですな。

CDCの職員であるイーフリアムが何でも調査しすぎだろとか、大富豪の手配が用意周到すぎるだろといったパニック映画のクリーシェが少なくはないのですが、何かヤバそうな荷物がマンハッタンに運び出される展開はスリルがあってなかなか面白かったぞ。

出演者はあまり良く知らない人たちばかりで、ちょっとした脇役をショーン・アスティンが演じてるみたい。あとナレーションをランス・ヘンリクセンが担当していた。

当然ながらグロい描写も出てくるので、万人向けの作品ではないですが、次も観たいなと思わせるような作品。似たような内容の「Helix」よりも良い出来かと。

「ザ・レイド GOKUDO」鑑賞


邦題どうにかならなかったのか。普通に「ザ・レイド2」で良かっただろうに。11月に日本公開ということで感想を簡潔に述べます:

・すんばらしい出来。前作はアクションシーンのカメラワークが見事だったが、今回はドラマのシーンのカメラの動きも冴え、登場人物の心境などを如実に表している。演出は前作に比べて格段にあがってるのではないか。

・前作は前半が銃撃戦がメインで、爆破シーンとかでCGを使ってるのが明らかだったが、今回は全体的に銃の使用は控え目で格闘シーンが満載。敵も律儀に素手で襲いかかってきます。最初の30分はアクションが控え目だけど、あとからどんどん勢いがついてくるぞ。

・右往左往するカメラワークはどれも凄いんだけど、「走ってくる車を外から撮る → そのまま車内にカメラが入る → 車の反対側の窓から出て、その横から走ってくる車を撮る」というシーンをワンショットで撮ってるのが信じられなくて何度も観てしまった。あれ車のシートのなかにカメラマンが隠れていて、車内でカメラを手渡ししてるらしい!

・物語は前作のラストから2時間後、主人公の兄が殺されるシーンから始まる。よって兄貴の顔と、前作で誰が生き残ったのかを復習しておくとよろし。

・イコ・ウワイスと並んでギャレス・エヴァンス作品の常連であるヤヤン・ルヒアンがまた出演してるのだが、彼のキャラクターって前作で死んでるので、「あんなやられ方をした奴が復活したのか!」と驚愕したが、今回はどうも違うキャラクターらしい。ここちょっと紛らわしいね。

・建物の中が舞台だった前作と異なり、今回はジャカルタ市街が舞台で、主人公の偽名が「ユダ」で、シラットの小鎌を使ったアクションが出てくるあたりは前々作の「タイガーキッド」に似てるなと思ったんだけど、そもそも今回の脚本って「ザ・レイド」よりも前に書かれていたのか。

・ジャカルタって雪が降るのか?あと牢屋のメシがうまそう。

・主人公が潜入捜査をするジャカルタのギャング、そのライバルである日本のヤクザ、両者を対立させようとする第三勢力による三つどもえ(警察が入ると四つどもえ)の展開が繰り広げられるのだけど、説明的なセリフは徹底的に省かれてるので話が分かりにくいかも。あまり言いたくないがジャカルタの人たちってみんな顔が一緒に見えて…。

・寡黙な主人公に代わって、ギャングのボスの息子を演じるアリフィン・プトラが裏の主人公のような存在になっていて、ボンクラなようで野心と忠誠心のあいだで揺れ動く若者を見事に演じている。

・日本のヤクザさんたちはあまり登場シーンないよ。遠藤憲一の演技は良かった。

・インドネシア語なぞ当然分からないので英文字幕で観ていたが、ギャングが日本語を話すところと、松田龍平が英語を話すシーンはわざとらしくて興醒めする。アリフィン・プトラが完璧な英語を話してるだけに、松田龍平の拙さが目立ってしまうんだよな。

・トンカチガールと野球少年という「男塾」ばりのキャラクターを出しておきながら、笑いを狙ったシーンも皆無で、2時間半の尺の最初から最後までテンションを張りつめさせているところが凄い。格闘技映画の常として、あとから考えると整合性のつかないシーンもあったりするんだけど、いいんだよそんなのは!

・第3作目の製作も決まっているらしいが、その前にギャレス・エヴァンスは非アクション映画を1本撮るつもりらしい。今作で見せつけた演技力とカメラワークがあれば、普通のドラマでも立派なものが撮れるはずなので大いに期待。