「Vフォー・ヴェンデッタ」鑑賞


試写会に行ってきた。いい気になってネタばらしをするわけではないが、とりあえず印象に残ったことを書いてみる: ●アメコミ原理主義者にとっては「頑張ってるのはとってもよく分かるんだけど、やはり原作には遠く及ばなかった映画」という感じ。

●ストーリーを詰め込みすぎてるために、話の展開が急でセリフばかりがやたら多く、原作のダウンビートな雰囲気はなくなっている。かといって「マトリックス」みたいにアクション満載、というわけでもない。

●”V”がやけに感情的なキャラクターになってることと、ロンドンの住民が比較的いい暮らしをしてるため、政府の圧政に対する彼の行為がどことなく軽薄に感じられ、空回りしているように見えることがある。

●ただしイヴィー(ナタリー・ポートマン)が自分の家族のことを語るところあたりから政府の横暴さがよく分かるようになるので、物語に感情移入しやすくなると思う。現実世界の出来事(イラク戦争とか、爆弾テロとか)を暗喩になってるシーンなんかは意外と心を打たれるんだけど、これをもっと露骨にやってほしかった、というのは無理な願いか。

●ジョン・ハートが演じる政府の党首と、スティーブン・フライのゴードンは原作よりも良かった。どちらも原作では薄いキャラクターだったからね。スティーブン・フライはファンなのです。スティーブン・レイも相変わらずいい感じ。

●字幕の誤訳が2つ:「フィンガーメン」は政府の手先なんだから「自警団」とするのは変。他のところで「公安部」と訳してるんだから、普通に「公安」とか「特高」とかにすればいいのに。あと「給与が20万ドル〜」とかいうセリフは、もちろん「20万ポンド」が正解。

●全然関係ないけど、「ブレイブストーリー」とかいうアニメの予告編を見せられたので一言。アニメを作るなら声優にまっとうな役者を起用しろ。セリフをかんでるアイドルを使うな。

製作側の原作に対する愛情はちゃんと伝わってくるものの、映画化にあたり加えたアレンジが役に立ってないのが残念なところです。でもそんじょそこらの映画とは一風変わった作品であることは間違いないから、一見の価値はあるかもしれない。

ちなみに原作者のクレジットは「デビッド・ロイド画に基づく」となっていた(笑)。アラン・ムーアは意地でも自分の名前を出したくなかったんだろう。1年くらい前のムーアのインタビューをこないだ読んだんだけど、自分の作品が映画になって改悪されるのに嫌気がさしたので、今後は映画の利益をすべてアーティストにあげることに決めたら、たてつづけに「コンスタンティン」や「ヴェンデッタ」の映画化の話が舞い込んできて、その大金は魅力的だったんだけど信条にもとづいてみんなアーティストにあげた、みたいなことが書いてあった。誰もあなたを咎めたりしないから、印税くらいもらっときましょうよムーア先生。

ABDUCTED BY THE DALEKS!!

ドクター・フーの宿敵で宇宙最強の種族であるダーレクが地球人のおねーちゃんたちを誘拐して、あんなことやこんなことをしてしまうC級ポルノ映画「ABDUCTED BY THE DALEKS」というものがハンガリーで作られたたしいぞ。しかも当然のことながらBBCから抗議が来て、訴訟にまで発展しかねないとか。そりゃそうだろう。 でもダーレクって、とっても性的に威圧的でないデザインだと思うんだけど、誰がこんなの観るんだろう。やっぱり「ドクター・フー」のコアなファンかな。

「アレステッド・ディベロップメント」暫定最終回


いま現在この世で一番面白いコメディ番組「ARRESTED DEVELOPMENT」がこんど日本でも放送されるそうだけど、アメリカではこないだ最終回(?)が2時間にわたって放送された。といっても別に2時間スペシャルとかじゃなく、単に残りのエピソードを立て続けに4本流しただけで、しかもトリノ五輪の開幕式の裏番組として(涙)。この番組がいかにフォックスに軽んじられてるかがよく分かりますね。 いちおうフォックスはまだ正式な打ち切りを発表してないけど、製作本数が大幅に減らされたことや、視聴率が決して高くないことを考えると、シーズン4がフォックスで放送されることはまずないだろう。不幸中の幸いとしては、これが最終シーズンになることを製作側が知り、どうにか話をまとめられる時間があったことで、特にこないだ放送された4話では最終回に向けて怒濤のように話が進行していった。もともと話の濃さと暴走っぷりが半端じゃない番組だったけど、もうこの4話では禁断の愛あり、出生の秘密の暴露あり、イラク旅行あり、意外な黒幕の登場あり(これすげえ笑った)と、もう凄いのなんのって。また番組の特徴である有名人のカメオ出演も、ジェフ・ガーリンやリチャード・ベルザー、そしてもちろんロン・ハワードなどと豪華。ジャッジ・ラインホルドを使って「ジャッジ・ジュディ」のパクリ番組を作る、なんてとってもベタなことを本当にやってしまうのも見事。他の凡庸なシットコムなら1シーズンでやりそうなことを4話でやってしまうものだから、全てのジョークを理解するのにかなり集中力が必要だったのも確かだけど。あまりにも凝りすぎた番組だから、視聴率を稼げなかったんだろうなあ。

打ち切りが正式に決まれば、ショウタイムがシーズン4を製作・放送するという噂もずいぶん出てるけど、どうなるんだろう。最高の番組とはいえ、ここまで立派に最終回をやってしまうと、もうあとは皆の思い出に残しときましょうよ、と少し思わずにはいられないのです。

アメコミ・最近のお勧め

最近読んだアメコミの中で、非常によかったものを3つほど紹介…SGT. ROCK: THE PROPHECY #1 (DC)
アメコミ界の生ける伝説のひとりジョー・キューバートが40年以上にわたって描き続けている、第二次大戦を舞台にしたサージェント・ロックとイージー・カンパニーの冒険の最新作。真夜中のパラシュート降下から市街地での戦車との戦闘にいたるまで、もう構図の取り方や雰囲気の醸し出し方がハンパじゃなく見事。全6巻のうちの#1ということでストーリーは比較的シンプルなものの、これからの展開がとても期待できる内容になっている。大ベテランが手慣れたキャラクターを扱えば、ここまで立派なものが出来るんだよという好例。キューバート先生、今度はぜひ「ENEMY ACE」を再びやってください。

PLASTIC MAN #20 (DC)
天才アーティスト、カイル・ベイカーがプラスティック・マンを手がけたシリーズの最新刊。ベイカーの作品(特にカラーのやつ)はどれも大好きなのだけど、この話もシリアスあり、スラップスティックあり、カリカチュアありといろんな要素が凝縮された、非常に楽しいものになっている。ドタバタ活劇でありながら、現在のDCのコンティニュイティー(「Infinite Crisis」周りのやつ)をしっかり押さえているのも面白い。この人のアートは眺めてるだけで楽しいですね。しかしこれだけ優れた作品でありながら、売れ行きは決してよくなかったらしく、この#20でシリーズは終わってしまうんだとか。なんてこった。賞とかもいっぱい穫ってんのに。残念。

NEXTWAVE #1 (MARVEL)
作ウォーレン・エリス、画スチュアート・イモネン。これすげー楽しい。マシンマンやフォトンといったマーヴェルのC級ヒーローたちがHATEという組織に加わって世界への脅威と戦うという内容なんだけど、話はもう完全にコメディ。エリスが担当してた頃の「AUTHORITY」をさらにブラックにしたというか、スーパーヒーローたちを絶妙にパロっているのがとにかく笑える。ここ最近のエリスってなんか不調になった感じがあったけど(「アイアンマン」とか)、やっぱり才能あるライターなんだと再確認。今になって思えば、「AUTHORITY」もエリスが抜けて、マーク・ミラーが担当するようになってからつまらなくなってったんだよな…。イモネンも以前はアダム・ヒューズのような柔らかい絵を描く人という印象があったけど、今回は結構トンガった感じのアートをこなし、話にうまくマッチさせている。早く次が読みたい。