「HIT MAN」鑑賞

リチャード・リンクレーターの新作だよ。以下はネタバレ注意。

ニューオリンズの大学で哲学を教えるゲーリー・ジョンソンは、電気技師として地元の警察をアシストするバイトもしており、ある張り込みの現場で警察の担当者が参加できなくなったことから代わりに潜入操作を実施するように命じられる。彼の任務は殺し屋に扮し、彼を雇いたい人物に会って動機を聞き出すことだった。ゲーリーは度胸とハッタリで依頼人との打ち合わせをすませ、彼の録音した会話が証拠となって依頼人は逮捕される。その手腕が評価されたゲーリーは引き続き潜入操作に関わることになり、彼自身も別の人格を演じることで今までなかった自信を持つようになるのだが、虐待する夫の殺害を相談してきた女性と恋仲になってしまい…というあらすじ。

題名からはアクションっぽい内容を連想するがそういうシーンは皆無で、もっとコメディに近い出来になっている。ジョンソンは実在した人物だそうで、実際に80年代後半に潜入捜査に関わってたらしいが、作品の時代設定は現代になっているし結構な脚色が含まれているんだろう。そもそも警察の張り込みにバイトで参加できるのか?と思うけど、驚いたのは逮捕された「依頼人」たちの裁判にジョンソンが身分を明かしたうえで証言に立っているところで、あれだと潜入捜査官であることが世間にバレてしまうと思うんだが、そこらへんの司法制度ってどうなってるんだろう。

自分の任務に自信を持ったジョンソンが悪ノリして、いろんな変装をしながら依頼人と会っていくのが見どころ。それと並行して彼が大学の授業でエゴとかイドとか別人格とかについて講義するのは、ちょっとクドすぎる気もしたが。口の達者なハッタリ男の犯罪コメディという点ではリンクレーターの「バーニー」によく似ていると思ったけど(スキップ・ホランズワースの雑誌記事を原作にしているのも一緒)、捜査官がもう一人の自分を捜査することになる展開は意外にも「スキャナー・ダークリー」に通じるところがあったな。

ジョンソンを演じるのが最近ヒット作に次々と出ているグレン・パウエルで、脚本も彼がリンクレーターと共同執筆している。いろんなヒットマンを演じながら口先だけで状況を乗り切る演技が上手くて、彼に支えられてる映画ですな。あとは「モービウス」のアドリア・アルホナなどが出演している。

コメディとしてもサスペンスとしてもやや薄味というか、話の起伏に欠けるところがあるものの、ストーリーの先が読めないという点では面白かった。これ映画祭でも評判は良かったのに映画スタジオが手をあげずにネットフリックスが購入した作品で、こういうオリジナル作品が配給されないのが最近の興行成績の落ち込みの原因なんだろうか。ただし日本のネットフリックスでは配信されてない(はず)なので、日本ではどこかの配給会社が購入して公開するのかもしれない。