「Weird: The Al Yankovic Story」鑑賞

先日の「SLUGFEST」など、微妙に尖ったコメディ番組を打ち出してくるROKUチャンネルのオリジナルムービーで、パロディ・ソングの王様ウィアード・アル・ヤンコビックの(偽)伝記映画。これ9年前にFUNNY OR DIEでフェイクの予告編だけ作られて話題になったものが、今になって本編が作られたものみたい。主役のアーロン・ポールをはじめ役者はみんな交代しているが監督のエリック・アペルは予告編と一緒か。

ヤンコビックが子供のときにセールスマンから買ったアコーディオンを学び、ノベルティ・ソングのDJであるドクター・ディメント(って知ってる?日本でもFENで彼の番組やってたんよ)に見出されるまではまあまあ史実に基づいているものの、ミュージシャンになることを親が理解してくれなかったとか、マドンナと恋仲になって酒に溺れるといった展開はみんなウソ。彼のパロディ・ソングと同じく、ロックンローラー映画のパロディとして観て楽しむのが良いでしょう。

2分弱の予告編として完成していた作品を2時間弱の長尺にしたわけだが、変に水増ししたような部分もなく、彼がミュージシャンとして目覚める過程や南米での冒険といった話が詰め込まれていて面白い内容になっている。主演のダニエル・ラドクリフ、同じ伝記映画の「The Gamechangers」ではパッとしなかったがここではヤンコビック役を熱演(歌は吹き替え)。バッキバキになった腹筋も見せつけてくれるが、あれが本物なら次のウルヴァリン役に噂されるのも理解できるな。エヴァン・レイチェル・ウッド演じるマドンナもマンガみたいなキャラクターで大変面白かった。

有名コメディアンや俳優が大量にカメオ出演しているのも特徴的で、ドクター・ディメントをレイン・ウィルソンが演じているほか、ジャック・ブラック、コナン・オブライエン、リン=マヌエル・ミランダ、パットン・オズワルドなどといった有名どころがセレブや一般人を演じている。タイニー・ティムとピー・ウィー・ハーマンとディヴァインが並ぶ映画ってこれくらいのものじゃないのか。ヤンコビック自身もレコード会社の重役として出演してるよ。

なお劇中で何度も言及されるもののマイケル・ジャクソンは登場しなくて、あれ遺族が肖像権とか厳しく管理してるのかな。IMDBのトリビアによるとフレディ・マーキュリーを出したいとザ・クイーンに打診したところ断られて、代わりにジョン・ディーコンならOKということになったらしいが、ああいうのどういう承認手続きが必要なんだろう(しかもディーコンは劇中でジョークのネタにされているし)。

ヤンコビックって、特に日本ではイロモノとして見なされてるようなところがあって、まあ実際にイロモノだから仕方ないのだけど、彼の創作過程やコンサートを追ったNYタイムズのポッドキャストを聴けばわかるように、とても真摯に曲作りを行う人だし、彼のファンも熱心にコンサートに足を運んだりして大きなファンダムを形成してるんですよ。劇中の描写と違って彼の活動を当初から支援してくれた両親が、一酸化炭素中毒で事故死したショックから彼が立ち直った話とかも結構感動的なんだけど、この映画ではそれでいいのかというオチで1985年で話が終わってしまってるのが勿体ない。まあいずれヤンコビックのもっと真面目な伝記映画を作る人が現れるのではないかと勝手に期待しておく。

「The Unbearable Weight of Massive Talent」鑑賞

ニコラス・ケイジが本人を演じる、というギミックめいた設定で日本でも話題になっていた覚えのある作品。日本では「マッシブ・タレント」の邦題で来年公開?ハリウッドの内輪ネタばかりの陳腐な作品になっていたら嫌だな…と思っていたら普通に楽しめる痛快アクションコメディであったよ。

主役のニコラス・ケイジは過去に「フェイス/オフ」とか「コン・エアー」などヒット作に出ていたが、最近は望んだ役をゲットできずに借金が募り、妻や娘とも疎遠になっている中年役者という設定。本物のケイジには娘がいないので、ここらへんフィクションが入ってることがよく分かりますね。失望したケイジは役者を辞めることを決意し、借金を返すためマヨルカの大金持ちであるハビという男性の誕生パーティにゲストとして呼ばれることにする。ハビはケイジの熱心なファンで、自らも脚本を執筆するほどの映画ファンでありケイジも彼に打ち解けるのだが、実はハビがギャングのボスで、大統領の娘を誘拐しているらしいことをケイジは知るのだった…というあらすじ。

おれニコラス・ケイジの映画って(いかんせん数が多いので)それなりに観ているのですが、最近は「マッド・ダディ」みたいなサイコな役ばかりで流石にウンザリしていたところに、昨年の「PIG」が出てきて役者としての原点回帰なるか?と考えてたのです。それが今作では本人役を演じるということで、その自己主張の強い題名とあわせて本人の悪趣味なカリカチュアを演じるのかと思っていたら、意外と家族思いのパパという役でいい感じ。若かりし頃の自分と幻想で対面しつつ、過去の出演作へのオマージュをうまく散りばめながらケイジの自分探しの話が展開される。最後のクライマックスでまたサイコな演技をしている…と思わせてうまく着地するあたりは見事でした。

どこまでもケイジ印の作品である一方で、ハリウッド映画(というかニコラス・ケイジ映画)に憧れるハビが実にいい役で、実質的にケイジとハビのバディ・ムービーにもなっている。ペドロ・パスカルが好演しているが、ケイジ自身もニコラス・ケイジ役でなくハビ役を希望したほどだとIMDBに書いてあった。あとの出演者はティファニー・ハディッシュなど。奥さん役はコニー・ブリットンだと思ってずっと観てたらシャロン・ホーガンという人だった。顔が似てるよね?

主演男優が本人役を演じる、という設定で敬遠する人もいるかもしれないが、普通に楽しめるよくできた娯楽作品であった。監督&脚本のトム・ゴーミカンって過去に手がけた作品はそんなに多くない人のようだけど、こういうのは脚本の勝利ですね。

ドクター・フー「The Power Of The Doctor」鑑賞

というわけで13代目ドクター最終回だよ。以降はネタバレ注意。

4年にわたる13代目の冒険は、コロナ禍や予算削減によるエピソード減などがあったはずで必ずしも順風満帆ではなかったものの、ジョディ・ウィテカーの演技は歴代のドクターに匹敵する素晴らしいもので面白かったと思う。その一方で問題だったのはやはりショウランナーのクリス・チブナルの脚本で、番組の方向性が最後まではっきりしないためにドクターの活躍もずいぶん制限されたものになっていたのでは。ラッセル・T・デイビスの脚本はウェールズ万歳の冒険活劇風で、スティーブン・モファットは伏線をばら撒きする傾向はあったものの回収できたときの完成度は非常に高かったのに、チブナルのは面白そうな展開を出すだけ出しておいて後につなげることができなかったというか。ジャック・ハークネスとか未来のドクターとか登場させておいて、そのプロットをきちんと閉じることができなかったのが不完全燃焼であった。

今回のスペシャルもその傾向があって、冒頭の冒険のあと、前シーズンでコンパニオンになったダンがいきなり退出。そのあと、現代でマスターがダーレクたちと組んで世界中の火山を噴火させようとする計画が、20世紀初頭のロシアと関係していることが判明してドクターが両方の時代を行き来するものの、なんで2つの時代が関係しているのかよく分からず…裏切り者のダーレクによってドクターが彼らの計画を知るという展開もちょっと雑だったな。

その一方で見応えは間違いなくあるんですよ。敵はマスターとダーレクとサイバーメンとてんこ盛りだし、5代目〜8代目のドクターたちが(みんな老けてるけど)登場するし、過去のコンパニオンたちも登場するし、90分の長尺のなかでファンサービスを詰め込こもうとした意気込みは感じられるのですね。ただそうした要素の1つ1つが物語の全体的な完成度を高めているかというと微妙なのがチブナル脚本だなあと。

俺と違って7代目のシーズンやコンパニオンとかに思い入れのある人が観たら、もっと楽しめるのかな。往年のファンが楽しめるように配慮した一方で、13代目にあたるべき焦点が甘くなったような内容だった。個人的には前シーズンまでさんざん煽っていた、コンパニオンのヤズのドクターに対する恋愛感情にあまり重きを置かれず、比較的さらっとした別れになってたのが残念。まあドクターはアセクシュアルな存在なので、そこらへんの描き方は難しいんだろうけど。

次のエピソードは、え、なに、1年後の11月の予定なの?放送直後からネタバレされてたが次のドクターはデビッド・テナントの10代目が復帰するとかで、ショウランナーとして復帰するラッセル・T・デイビスの腕ならし的なものになるのかな。そのあと既に発表されているチュティ・ガトゥが新ドクターに就くそうで。ディズニー資本が入ってイギリス以外ではディズニー+で配信開始になるそうだが、変にアメリカナイズされた内容にならないことを願います。

「THE WANTING MARE」鑑賞

UPSTREAM COLOR」のシェーン・カルースが関わっているということで興味のあった2021年の作品。カルースはもともとエグゼクティブ・プロデューサー扱いだったそうだが、恋人に対するDV容疑で逮捕されたことで名前を消されたそうで、何やってんだか。

話の設定はディストピアSFもしくは異世界ものといったところで、アナメーアと呼ばれる世界においては2つの都市があり、北のウィズレンは暑くて馬たちが駆け回り、この馬たちは毎年、南にある寒いレヴィセンに船で輸出されていた。ウィズレンの住民たちはレヴィセンに渡ることを渇望しているが、船のチケットは非常に貴重なものだった…というもの。

設定は壮大なのだけど低予算映画だから内容はもっと小ぢんまりしていて、このような世界設定は冒頭で説明されるだけ。あとはウィズレンに住む人々の話が語られていく。人物の背景が全く説明されないので推測するしかないのだが、過去の世界を夢見ることができる少女モイラが、重傷を負って目のまえに現れたローレンスという男性を介護しているうちに彼と恋に落ちる。そしてローレンスは海辺で赤ん坊を拾い、それをモイラに託して彼女のもとを去る、というのが前半の流れかな?そこから話は突然24年間とんで、今度はその赤ん坊だった少女エイラの物語になる…といった感じで結構分かりにくいのよ。

被写界深度を徹底的に浅くして背後の映像をボカし、レンズフレアを多用して荘厳な音楽を流し、ストーリーについては全く説明しない…というのがまんま「UPSTREAM COLOR」と同じで、シェーン・カルースは製作にかなり関わってたんだろうな。内容が意味不明の雰囲気だけの映画、と言ってしまえばそれまでなのだけど、映像は美しいし、ノバスコシアで撮影されたらしいウィズレンの外観もセンス・オブ・ワンダー感があって嫌いじゃないよこういうの。監督のニコラス・エイシュ・ベイトマンってスペシャル・エフェクツ出身の人のようで、それがこの独特の映像美につながってるのかな。

本国でもあまり評判は良くないようで、まあ分からなくもないのだが、今やゲーム業界のほうが主流になった、オリジナルの世界設定を掲げて作品を作っていく姿勢は応援したくなるのよな。シェーン・カルース、もう1本くらい映画製作に関わらないかな…。

「Hot Take: The Depp/Heard Trial」鑑賞

人生でこれに関わってはいけないな、と個人的に思うものがいくつかありまして、台風で切れた電線とかヨダレを垂らした狂犬とか学生ローンとかそんなものですが、先日あったジョニー・デップとアンバー・ハードの離婚裁判もその1つでして、ハリウッドセレブのどうでもいい痴話喧嘩のニュースは意図的にシャットアウトするように努めていたのです。デップにDVをくらったと訴えたハードが実は自身でもえげつないことをやっていて、男性だって被害者になるんだと一部の男性陣が溜飲を下げているのを見たような気がするがよく分かりません。

とはいえ一連の過程が取るに足らないものであったにも関わらず、あるいは取るに足らないものであった故か、世間の注目度は非常に高くて、世の中の多くのスキャンダルと同様にこのような実録映画が早くも作られてしまった。製作したのは極小配信プラットフォームのTUBI。日本でもこないだ安倍元首相の暗殺事件がすぐ映画化されてたようですが、アメリカもこういうスキャンダルものは映像化されるのが早いですね。

内容はあってないようなもので、デップとハードが出会って恋に落ちるものの、すぐに関係が悪化してお互いに手を出すようになり…というだけの話。裁判に対する独自の見解とか、DVにまつわる男女の心理の深掘りなどはなーんにもなし。どちらかの肩を持つようなこともなく、ただ淡々と一連の出来事が描写されていく。裁判に対するインフルエンサーのリアクションが時たま挿入されるけど、風刺にもなってないしウザいだけなのよ。セットがチープな一方で豪華な空撮ショットが入るのはストック映像かな?

ジョニー・デップを演じるマーク・ハプカという役者はデップというよりもヒース・レジャーに似てるかな?アンバー・ハード役はメーガン・デイビスだが、そもそもアンバー・ハードの映画ってそんなに観てないので何とも言えません。脚本家がどうも「デイリーショー」やコナン・オブライエンの番組でライターを務めていた人のようで、これもしかしてコメディとして撮影される予定だったのかね?デップに殴られて床に転がったハードがモノローグを語り始める場面とか、真面目に書いたのか判断がつきかねる箇所がいくつかあったような。

もちろんDV問題なんて笑ってすませられるような事ではないわけで、単なるセレブのスキャンダル実録もので済ませずにもうちょっと深みのある内容にできなかったのか。90分もない作品だが観るだけ時間のムダ。おそらく来年はブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの愛憎劇がどこかで映画化されると思うけど観ないことにします。