「M.O.D.O.K.」鑑賞

別名「Marvel’s M.O.D.O.K.」で、米HULUの新シリーズ。マーベル印のスーパーヒーローものだけどストップモーション・アニメのコメディ作品になっている。

主演はマーベル古参のヴィラン、Mental Organism Designed Only for Killing(殺害のみを目的として設計された知的生物)ことモードック。60年代にジャック・カービー御大によって創造されたキャラで、悪の科学組織A.I.M. (Advanced Idea Mechanics)のメンバーが人体実験によって超人的な知性を取得し、その知性をもってスーパーヒーローたちを長らく苦しめてきた悪役なのであります。しかしそのいかつい名前(カービーはキャラクターの命名については直球勝負の人だった)とか、でっかい頭に小さな手足がついているデザインが徐々に時代遅れになっていって、最近はコミックのほうでも面白キャラ扱いされていたような。

番組のほうはモードックのオリジンとかは明らかにされなくて、昔から科学の得意な頭でっかちの子供だった彼が、周囲に受け入れられなくて悪の道に進み、A.I.M.を設立したことになっている。A.I.M.は圧倒的な科学力を誇るものの、アイアンマンをはじめとするアベンジャーズたちには負けてばかりでついに破産し、グランブルというテック企業に身売りしてしまう。さらにモードックには妻と娘と息子がいるのだが(メキシコ系とユダヤ系のハーフ)、仕事に専念してばかりで家庭のことを気にしない夫に嫌気がさした妻に、彼は離婚をつきつけられてしまう。こうしてモードックは会社と家庭の両方を取り戻すことができるのか…というあらすじ。

https://www.youtube.com/watch?v=9UNZUCOfSjw

映像を観ればわかるが、製作は「ROBOT CHICKEN」でおなじみのセス・グリーンのStoopid Buddyスタジオ。ストップモーションなのにカメラがブレたりピンボケしたりと映像技術はどんどん巧くなってくね、あそこ。「ROBOT CHICKEN」もジャンル映画のパロディを連発する内容で知られているけど、こちらもマーベル公式の立場を利用して次々とマーベルの小ネタが登場してくるぞ。メルターとかワールウインドといったマイナーなヴィランが出てくるほか、シニスターやアルティメイト・ナルファイヤーといった、Xメンとファンタスティック・フォーのネタも登場。パーティー好きのシーグリマイトなんて宇宙人、全く知らなかったのでオリジナルキャラかと思ったら「ヘラクレス」誌に登場した連中…ってどこまで細かいネタを出してくるんだ!

このようにオタク向けのコメディ番組とはいえ、話の筋は意外としっかりしていて、家庭と職場における立場を同時に失ったモードックが、あれこれ失敗しながらもA.I.M.を取り戻し、妻子と再び仲良くなろうと奮闘する姿がきちんと描かれている。仕事に専念していて周囲に気配りをしてこなかった中年男のペーソスが滲み出ていて、やはりダメ男が主人公の作品にはおれ弱いのよね。

モードックの声優は、最近どんな番組にも出ている気がするコメディアンのパットン・オズワルド。ギークカルチャーだけでなくマイナーな映画などにも凄い博識がある人だが、この番組ではライターやプロデューサーも務め、D級ヴィランの日常生活というユニークな視点でストーリーを語ってくれます。オズワルドはマーベルでモードックのコミックも執筆してたな。他にはソニック・ザ・ヘッジホッグことベン・シュワルツなんかも出演。

深く考えずにサクサク観られる番組なので全10話を一気に観てしまったが、続きが気になる終わり方だったのでぜひシーズン2も早々に作られることに期待します。

「MONSTERS」読了

バリー・ウィンザー=スミスの10数年ぶりの新刊。寡作なためか日本での知名度はそんなに高くないコミック作家だと思うが、60年代からマーベル(UK)で活躍を始め、その緻密なアートをもって「コナン・ザ・バーバリアン」などで人気を博し、代表作の1つである「ウェポンX」はXメンのウルヴァリンの決定的なオリジン話として、後の映画版などにも大きな影響を与えた、レジェンド級の作家なのですよ。

ただしマーベルやDCなどの大企業のための雇われ作家として働くことに反発し、90年代はイメージとヴァリアント・コミックスといった小さめの出版社での仕事をいくつか手掛けたものの、コミック業界に幻滅したのか非常に寡作になり、00年代は殆ど消息不明になっていたと言っても過言ではないだろう。いちおう公式サイトもあるのだけど全く更新されておらず、「消えた作家」になっていたのですね。

そんな彼が10数年ぶりに新作を出すらしい、という話が聞こえてきたのが昨年の話で、そして今年ファンタグラフィックス社から発売されたのがこの「MONSTERS」。ハードカバーで365ページという分厚いボリュームで、すべてのページにわたって緻密に描きこまれたアートが展開されており、そりゃ完成に何年もかかるわな、という代物(自分が入手したのはUK版で、装丁がちょっと違うらしい)。以下はネタバレ注意

物語は1949年、オハイオの民家において戦争帰りの父親トム・ベイリーが息子のボビー・ベイリーを襲い、彼の左目を失明させるというショッキングなシーンから始まる。すんでのところで母親のジャネットに救われたボビーだが、その14年後にはホームレス同然の暮らしをしており、カリフォルニアで軍隊への入隊を志願する。しかし身寄りのない彼は格好の対象と見なされ、政府の極秘の人体改造プロジェクト「プロメテウス計画」の実験体にされてしまう。本人の意思を無視してボビーには手術が施され、彼は巨大で醜く、僅かな知性をもった怪物にされてしまう…というあらすじ。

これ元々はマーベルの「ハルク」のストーリーとして考案されたものらしく、軍に追われる寡黙な巨大クリーチャー、という点はハルクに通じるものがあるな。また男性が意に反して極秘プロジェクトで人体改造を施され、実験体として科学者に屈辱的な人間以下の扱いを受ける、というプロットは「ウェポンX」とかなり似ているところがあった。これ最近の作家インタビューによると「ウェポンX」と同じ時期にアイデアを思いついたので似通ったのだろう、と語っているが、たぶん人体改造フェチの人なんだと思う。

しかし全くセリフを発しない怪物となったボビー・ベイリーは実のところ話の主人公ではなくて、彼をとりまく人々の描写を中心にして物語は進んでいく。ボビーを軍に受け入れたマクファーランド軍曹とその家族、ボビーの両親であるトムとジャネット、そしてオハイオの警察官ジャックなどの人生が綿密に絡みあって、20年近くに渡る「プロメテウス計画」の影響が語られていく。また科学だけでなく超常現象的な設定もあり、それがストーリーの1つの軸になっているが、話の根本を成すのは家族ドラマなんだろうな。

ストーリーは概ね過去に遡っていく流れになっていて、ボビーが受けている扱いに気づいたマクファーランド軍曹が彼を助け出そうとするのが1964年、戦争からやっと帰ってきた夫のトムが別人のようになっており、彼のDVに妻のジャネットが悩むのが1949年、ジャネットと警察官のジャックの逢引が描かれるのが1947年、そしてドイツにおいて従軍中のトムが「プロメテウス計画」を知る1945年、と物事の発端が過去に進むにつれて徐々に明らかにされていく。幸せになる登場人物など皆無で、グロテスクな描写も多々あり、読んでて結構気が滅入る内容ですよ。題名が「MONSTERS」と複数形になっているように、ボビー以外の、人の形をした怪物たちがいろいろ出てきます。

300ページ超の大作ながらストーリーの流れが非常に巧みで、グイグイ読み進んでしまう(ジャネットの日記が筆記体なので読むのしんどいし、さすがにドイツ語のセリフは読めなかったが)。 またアートがとにかく素晴らしいのですよ。ウィンザー=スミスは自分でもカラーリングをする人で、上記の「ウェポンX」のようなカラフルな色使いも好きなのですが、今回はとにかく細かい白黒のアートが展開され、髪の毛や衣服の質感も描きこまれ、影やグレーの部分は緻密なハッチングが施されて光の明暗が非常に見事に表現されている。これ英語が分からなくてもアート眺めるだけで買う価値のある本ではないかと。

ボビーの内面がほとんど語られない(特に軍に志願するまでのいきさつ)とか、ボビーをプロメテウス計画に薦めたマクファーランド軍曹が後悔するのが早すぎるだろとか、最後の10ページのアートが突然変わる(半分は演出、半分は執筆時期によるもの?)とか、ちょっと気になる点もあるものの、全体としてはとにかく読み応えのある傑作であった。10数年待っただけの価値がある作品ですが、今度はもっと早く次作が出ることを期待しております。

「BUTT BOY」鑑賞

ジョン・ウォーターズ御大が昨年のベスト映画だと称賛していた作品。主人公は中年なので明らかにボーイではなくてマンなのだが、「バット・マン」という題名はいろいろ法的に問題があったのでしょう。以下はネタバレ注意。

小さなオフィスでIT係として黙々と働くチップ・ガッチェルはしがない中年男性で、妻との仲もうまく行っていなかった。そんなある日、彼は前立腺の検診を受けたことで肛門への異物挿入に目覚め、小さな文房具から始まりテレビのリモコン、さらには子犬といった大きなサイズのものまで彼の肛門は飲み込んでしまう。しまいに彼は公園にいた子供さえも飲み込んでしまうが、罪の意識に駆られて自殺を試みて失敗する。その9年後、挿入断ちをしていた彼はAAの集いでラッセルという男性と出会う。ラッセルが語るアルコールへの誘惑を聞いたチップは、再び異物挿入の魅力に取り憑かれて様々な物を飲み込み、同僚の子供までも手に(尻に?)かけてしまう。しかし偶然にもラッセルは刑事であり、ラッセルが起こした一連の事件の捜査をしていくうちにチップが怪しいと考えるのだったが…というあらすじ。

設定を聞くと下ネタB級コメディのように思われるだろうがコメディ要素は皆無で、あくまでも真面目なサスペンスとして作られている。エロ・グロ描写もほとんどなし。低予算作品ではあるものの役者のわざとらしい演技もなく、撮影や音楽も臨場感があって意外なくらいに手堅い出来になっていた。とはいえ内容が内容なので真剣にとらえることは難しいのだが、「RUBBER」のカンタン・デュピューの一連の作品に雰囲気はよく似ているかと。アホな設定を真面目に撮ってるというやつ。

チップが異物挿入の誘惑に逆らえずにあらゆるものに手を出す一方で、刑事のラッセルはアルコールの誘惑を断ち切ろうと努力しているわけで、これは「レクイエム・フォー・ドリーム」のごとく中毒性をテーマにした映画でもある。話が進むにつれてチップの肛門は絶大な力を持つようになり、ブラックホールのごとく周囲のものを引き寄せて飲み込むことができ、クライマックスはそれに飲み込まれてしまったラッセルの逃亡劇が描かれるのだが(いや本当に)、それはもはやクローネンバーグのボディ・ホラーのよう。つまりこの作品はSFでもありホラーでもあり、刑事ドラマそして中毒を扱ったサスペンスでもあり、まあ結局のところは全部中途半端になっているわけだが、この設定でこういう映画を作れてしまうのは凄いことかと。

チップを演じるタイラー・コーナックって監督も務めていて、さらに脚本と音楽も担当している。この人のこと全く知らなかったけど他の作品もチェックしてみたいな。ラッセルを演じるタイラー・ライスという役者も、自分流を貫く刑事を好演している。

どうしてもその設定のためにイロモノ扱いされるのは免れないが(デートや食事中には観ないほうがいいよ)、普通によくできた映画でした。アイデアの勝利。

「Shadow in the Cloud」鑑賞

クロエ・グレース・モレッツ主演のB級アクションホラー。アメリカとニュージーランドの合作になるのかな?

舞台は1943年のニュージーランドの空軍基地。日本軍との戦火が激しくなるなか、サモアに向けて飛び立とうとする爆撃機に一人の女性隊員が乗り込んでくる。モードという名の彼女は司令官に極秘任務を命じられたということで、謎めいた荷物とともに同行することになった。しかし女性の隊員はまだ珍しく、他の男性クルーたちは彼女を侮蔑的に扱って胴体下部の銃座に押し込んでしまう。荷物を運ぶためその仕打ちにも耐えるモードだったが、その爆撃機には機体を分解していまうという怪物グレムリンも乗り込んでいたのだった…というあらすじ。

飛行中の航空機におけるグレムリンとの戦い、というと「トワイライト・ゾーン」の「2万フィートの戦慄」が有名だが、こちらは主人公が爆撃機の銃座にいることから「世にも不思議なアメージング・ストーリー」の「最後のミッション」にも似ているところがあるかな。特に前半は銃座に閉じ込められたモードと他のクルーが無線で話す密室劇(?)が延々と続き、製作費お安いんでしょうねーと思ってしまった。

後半になってモードの持ち込んだ荷物の謎が明かされ、日本軍の戦闘機が攻めてくるなかでグレムリンとも戦わなければならない状況になってくるとそれなりに面白くなってくるものの、いろんな要素が微妙に噛み合ってない印象があって、ちょっと工夫すればもっと面白くなったんじゃないかと思う。BGMも実に場違いなシンセ音楽が多用されてて、なんか80年代のB級サスペンスみたいなノリになってるのだが、あれ狙ってやってるのかな。

モレッツ以外の役者や監督はよく知らない人たちばかり。脚本はマックス・ランディスが書いていて、あいつハラスメントで叩かれてるのによく起用されたな、と思ったらプロデューサーからは外されて、脚本も監督がそれなりに書き直しを加えたみたい。冒頭でモードに投げかけられる侮蔑的な言葉のどのくらいをランディスが書いたのかはちょっと興味あるな。

決して出来のいい作品ではないもののアクション部分はそれなりに楽しめるし、90分もなくてサクッと観られる作品なので、ビールでも飲みながら何も考えずに観るには適してる作品でしょう。

「プロミシング・ヤング・ウーマン」鑑賞

アカデミー賞にもいろいろノミネートされて話題の作品。日本は7月公開かな。以下はネタバレ注意。

30歳になるキャシーはかつて医大にも通っていた前途有望な女性だったが、ドロップアウトしていまは実家で暮らし、コーヒーショップでダラダラ働いていた。しかし彼女には裏の顔があり、それはナイトクラブで酔った振りをして、彼女に言い寄って部屋に連れ込む男たちを逆に痛い目に遭わせることだった。周到な準備をして男たちに仕置きをしていくキャシー。いったい何が彼女にそのような行為をさせるのか…というあらすじ。

話が進むうちにキャシー自身でなく幼なじみの親友が大学で性的暴行を加えられたことが示唆され、それに対する復讐としてキャシーがビジランテ的行動をとっていることが明らかになってくるのだが、「Ms.45(天使の復讐)」みたいなバイオレンスものではなくて、武器も使わずにもっと個人的な辱めを加えていくといった感じ。彼女の復讐の対象は男性に限らなくて、事件を揉み消した学長や同級生たちにも及んでいく。

ここ最近のMeTooムーブメントを強く反映しているような内容で、まあ男性が観るといろいろ気まずい思いを抱くんじゃないだろうか。キャシーはいい年してパステルカラーのギャルっぽいファッションをしている人で、実家の部屋もお屋敷みたいな内装になってるわけだが、これ若い頃で彼女の時間が止まっていて、そのときから今まで彼女が物事を明らかにできなかったことを象徴してるのでしょうね。セットデザインといえば弁護士の家の花が枯れてるところも印象的だった。

監督のエメラルド・フィネルってこれが監督デビュー作だが、イギリスでは役者やってるほかに「キリング・イヴ」のショウランナーもやってた人だそうで、この作品の雰囲気もイギリスのドラマっぽかったかな。銃が出てこないところとか、キャシーと両親の小ぢんまりとした関係とか。

キャシー役のキャリー・マリガンはいま35歳だそうだが、キャシーの痛々しいファッションがよく似合っております。最初は観ていてドン引きするものの、やがて孤独な仕置人のコスチュームみたいに見えてくるから不思議。共演者がやけに豪華で、クランシー・ブラウンやアルフレッド・モリーナ、アリソン・ブリー、コニー・ブリトン、モリー・シャノンなんかが出ています。プロデューサーはマーゴ・ロビーだぞ。

観てスッキリするかというと全くそんなことはない作品なのだけど、時代をうまく反映した作品だなとは思う。モヤモヤは残るけどね。