「BOSS LEVEL」鑑賞

米HULUのオリジナルムービー。主人公が同じ日を何度も繰り返すという「恋はデジャ・ブ」もので、HULUは昨年も同じ設定の「パーム・スプリングス」を出していたので、我々は1日ループものが毎年発表される壮大なループに陥ってるのかもしれない。以下はネタバレ注意。

話の主人公は元特殊部隊員のロイ。彼は別れた妻に会いにいった次の日から、自分が同じ1日を何度も繰り返していることに気づく。さらに何故か彼のもとには殺し屋が何人も送り込まれており、朝から次々と刺客に狙われてしまう。殺されても生き返って同じ日を迎えるので、徐々に刺客たちのパターンを読み切って少しずつ生きれる時間を伸ばしていくものの、常にどこかで殺されてしまうために自暴自棄になっていた。しかし彼の境遇の原因が、科学者である妻にあると気づいた彼は、なんとしてでも刺客たちを倒して妻と息子に会おうとするのだった…というあらすじ。

自分が何度も殺される、という点では「パーム・スプリングス」よりも「ハッピー・デス・デイ」に似ているかな。いちばん近いのは「グランド・セフト・オート」みたいなゲームの「成功するまでミッションを何度も繰り返す」という感覚で、これは製作側も意識しているようで劇中に出てくるテロップとかがゲームっぽいし、そもそもの題名が「ボスステージ」という意味で、主人公がトライアル&エラーでボス戦にまで辿り着くのがテーマになっている。

ただそれってゲームでは良くても映画で機能するかというのは別問題で、同じアクションシーンが何度も繰り返されるし、主人公はチートな能力を持っているので無敵でないにしろ強すぎるために、主人公がピンチに陥るというスリルが抜けた内容になっている。「ジュマンジ」だってゲームで死ねるのは3回までよ、という制限を設けていたじゃん。あとループの説明をするためにSF的要素も詰め込んだことでアクション映画として中途半端なものになっていたかな。

出演者は豪華でロイ役にフランク・グリロ。50代半ばでも筋肉ムキムキしてます。その妻役がナオミ・ワッツで、最近はB級アクション映画でウザいオヤジを演じることが増えたメル・ギブソンがここでもウザいオヤジを演じてます。さらにはケン・チョンとかミシェル・ヨーなんかも出ているぞ。監督は「特攻野郎Aチーム」のジョー・カーナハン。「リーアム・ニーソンなんて偽のアクションスターだぜ!」なんて内輪ネタのセリフも出てきます。

まあ深いことを考えずに観るぶんには十分楽しめるアクション映画かと。「パーム・スプリングス」もそうだったけど、主人公が行き詰まったときに有り余ってる時間を使って勉強/訓練するシーンは面白かった。勉強って大事。

「IRRESISTIBLE」鑑賞

「ROSEWATER」に続く、元「デイリーショー」のジョン・スチュワートによる監督&脚本作品。プロデューサーにブラッド・ピット。これ日本でも公開されるらしい。

ゲリー・ジマーは2016年の大統領選挙で民主党側のコンサルタントだったが、本人の自信とは裏腹にドナルド・トランプが当選したことで彼はメディアで笑い者にされ、失意の日々を送っていた。そんな彼はウィスコンシンの小さな街で市長に立候補したヘイスティングスという男性の映像を見かける。レッドネックのようで移民の権利を主張するヘイスティングスを見たゲリーは、彼こそが農村地帯に民主党の人気を取り戻せる期待の星だと感じ、自ら街に赴いてヘイスティングスを民主党の候補に祭りあげる。そしてゲリーの活動を察知したライバルの共和党側のコンサルタントも街にやってきて、小さな街の市長選は多額の資金が流れ込む争いへと転じていく…というあらすじ。

政治を風刺したコメディ、ということで前作よりもずっと監督の得意分野ですね。田舎の他愛ない選挙が、都市部のエリートがスピンすることでアホみたいに大げさになっていく様が描かれている。必ずしも細かい政治ネタを知っておく必要はないが、選挙活動とは関係ないという建前で無尽蔵に献金を募れる「スーパーPAC」のことは知っておいたほうが良いかと。まあ俺もなんであんな制度が許されてるのかは理解できないのですが。

ただやはり作品としては演出に難があって、ゲイリーが田舎町に来てカルチャーギャップを感じるさまはクリーシェ満載だし、悪ノリをしがちなゲイリーと、無口なヘイスティングスの相性がどうも悪くて、観ていてどうも楽しめないのよな。風刺としてもあまり現代社会に鋭く切り込んだものではなくて、ここらへんはジョン・スチュワートの人の良さが出てるのかなあ。ストーリー自体は悪くなくて、最後のオチも楽しめたので、スチュワートは脚本に徹して監督は別の人に任せた方が良かったのかもしれない。

ゲリーを演じるのが同じく「デイリーショー」出身のスティーブ・カレルで、ヘイスティングス役にクリス・クーパー、あとはローズ・バーンやマッケンジー・デイビス、トファー・グレイスなど結構豪華なメンツが出演しています。

もうちょっと手を加えればずっと面白くなった気がするので、なんか残念な作品。ジョン・スチュワートは早くテレビ司会の世界に戻ってください。

「ノマドランド」鑑賞

米HULU経由で視聴、日本では3月後半公開。

2011年にネバダ州のエンパイアという町にあった鉱山がリーマンショックの余波を受けて閉鎖され、ほかに収入源がなかった町自体が無くなってしまう。そこの住民だった初老の女性ファーンは夫を最近亡くしており、家も無くなった彼女は「ノマド」としてバンに寝泊りしながら職を探してアメリカ各地を彷徨うことになる。当初はアマゾンの工場で箱詰めなどを行うものの、期間限定の仕事だったためまた彼女は次の仕事を探して冬の大地をさまようことに…というあらすじ。

明確なプロットがあるわけではなくて、ファーンが職から職・土地から土地へと転々とするさまがずっと映されていく感じ。日本でも最近は車中泊ブームとかで、地方の道の駅とか温泉付近の駐車場に行くと車に寝泊まりしてそうなオッサン(大抵マナーが悪い)をよく見かけますが、ファーンの場合は帰る家のないホームレス(本人いわく「ハウスレス」)なので物事は深刻で、車が故障したら財産が底をつくどころか命の危険にも関わってくるわけで。

しかしその一方でファーンは公園の管理やったりファストフード店で働いたりとあまり仕事にあぶれないし、困ったときに助けてくれるノマド仲間もいるし、行った土地で観光する余裕もあったりと、意外とノマド生活は楽しいのでは?と思わせるような描写があるのも事実だったりする。もっとジョン・フォードの「怒りの葡萄」のような虐げられた人々の話かと思ったけど、ちょっと違った。移動の風景を叙情的に撮ったり、ルドヴィコ・エイナウディの音楽をかぶせるあたり、制作側もかなり意図的にエモーショナルな演出をしてるのでは。

これもともとノマド労働者を追ったノンフィクションの原作があるらしくて、劇中に出てくるノマドの人たちはほぼ本人役らしい。毎年ノマドの集いを運営しているボブ・ウェルズという人も本人役で出演していて、やってることは助け合い運動のようなものなのだろうけど、ちょっと彼のニューエイジ思想というかノマドのライフスタイル推奨に監督が協調しているような雰囲気があったのが気になりました。一方で社会批判の要素は薄くて、不動産業を営む義理の弟に対してファーンが「相手に借金させてまで家を買わせるんじゃないわよ!」と憤るシーンがあったくらい。

ファーンを演じるのはフランシス・マクドーマンドで、まあまたアカデミー賞候補になるでしょう。あと有名どころではデビッド・ストラザーンが出演している。1日に1時間もないマジックアワーのシーンがふんだんに出てくるので、これ撮影期間長かったんだろうなと思ったらやはり3〜4ヶ月かけて実際にアメリカ各地を放浪していたらしい。監督のクロエ・ジャオは前作の「ザ・ライダー」観てないのですが、あれもバッドランズが舞台ということで本作に通じるものがあるのかな。むしろこういう作風の監督が、次はマーベルで「エターナルズ」を撮ったということが驚きだが、いったいどんな作品になってるのだろう。

評判ほど素晴らしいとは思わなかったけど、美しい映像とあわせ、いろいろ考えさせられる作品であった。

「Judas And The Black Messiah」鑑賞

アレをアレしてゴニョゴニョすることでHBO MAXに加入できたので、話題の新作を鑑賞。

60年代後半にブラックパンサー党のリーダーであったフレッド・ハンプトンを扱った伝記映画で、マーティン・ルーサー・キングやマルコムXが暗殺されたあとの時期において、ハンプトンはその持ち前の雄弁さとカリスマ性を活かしてブラックパンサーの主導者として頭角を現し、ほかの黒人グループはおろかヒスパニックのグループや白人至上主義者たちとも組み、反権力・反警察を訴えていく。ハンプトンの台頭に危機感を抱いたFBIは、しがないチンピラのビル・オニールを逮捕し、ブラックパンサーに内偵として送り込む。FBIに情報を流しつつも、ハンプトンのそばにいることで彼に感銘を受けるオニール。ハンプトンが収監された際にパンサー党の役職にまで就いた彼は内偵を辞めようとするものの、FBIに今までのことをバラすと脅されてしまう。そしてFBIはオニールにあることを命じるのだった…というあらすじ。

ハンプトンを演じるのがダニエル・カルーヤで、オニール役がラキース・スタンフィールド。フレッド・ハンプトンって亡くなったのがなんと若干21歳のときだそうで、そのときオニールに至っては17歳ほどだったとか。よって役者たちは10歳くらいモデルと年が離れていることになるが、実際のハンプトンってやはり貫禄があったようで、変に若い役者に演じさせるよりも良かったのでは。ダニエル・カルーヤは「WIDOWS」のときもそうだったが、ドスの効いた怖い演技のほうが似合いますね。一方のスタンフィールドは例の泣きそうな目が、オニールの不安な心情を表していて良い感じ。

あとはFBIの職員をジェシー・プレモンズが演じているほか、マーティン・シーンがルディ・ジュリアーニみたいなメークをしてエドガー・フーバーを演じています。プロデューサーにライアン・クーグラー。監督のシャカ・キングはこれ以前にコメディを1本撮っただけの人のようだが、この作品における演出は大変良かったですよ。

プロット自体は比較的シンプルかもしれないが、ハンプトンのカッコいいスピーチとブラックパンサー党の抗争が全編に渡って描かれ、かなり熱い内容になっている。主役ふたりの演技が大変素晴らしくて見応えのある作品だった。

「DEAD PIGS」鑑賞

中国語名は「海上浮城」で、「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey」を監督したキャシー・ヤンの2018年のデビュー作。

2時間にわたる群像劇になっていて、話の中心になるのは投資に失敗して借金取りに追われている豚農家と、その姉(妹?)で美容院を経営しており、自宅が高級マンションの建設予定地域にあっても唯一立ち退かず、建設会社の地上げ攻勢を受けている女性。彼らの住む地域から少し離れた上海では豚農家の息子がバーの従業員を務めており、そこに通う金持ちの娘に彼は恋慕している。そして豚農家が飼育している豚たちが謎の原因で次々と死んでしまったことから、処分に困った彼は豚の死骸を上海の上流にある川に投げ捨てるのだが…というあらすじ。

上海を流れる黄浦江に豚の死骸が不法投棄された、2013年の事件をモチーフにしているが、社会派作品というよりもコメディっぽく現代の中国を風刺した内容になっている。地上げ問題をはじめ、都市と田舎の貧富の差とか、文化の西洋化などがテーマかな。中国の映画公開における当局の検閲基準って本当に謎で、個人的にも胃がキリキリした経験があるのですが、こういう社会風刺は容認されるのですね。その反面、あまり鋭く切り込んでない部分もあって、最後はちょっと焦点が定まらないまま中途半端に終わってしまった印象を受けた。

格闘シーンこそ無いものの、夜の上海のネオンの光景とか、タフな女性の描き方あたりが「ハーレイ・クイン」に通じるところがあるかな。美容院経営の女性を演じるのがヴィヴィアン・ウーで、ザジー・ビーツなんかもちょっと出演してます。

プロデューサーとしてジャ・ジャンクーが関わっていて、中国企業の資本もバックについてるのだろうけど、デビュー作からいろんな場所でロケ撮影してハリウッドスターを起用してるのってスゲえな。ついでに言うとエンドロールの曲は「時の流れに身をまかせ」の中国語バージョンだぞ。デビュー作がサンダンスで披露された程度でハリウッドのアクション大作の監督に抜擢されたのは運なのか実力なのか。とりあえず個人的には「ハーレイ・クイン」よりも面白かったです。