機内で観た映画2019 その3

こないだ何故かサウジアラビアまで行ってきたので、機内で観た映画の感想をざっと。

  • 「THE ART OF SELF-DEFENSE」: 路上で暴漢に襲われたことがきっかけで空手道場に通い始める男性をジェシー・アイゼンバーグが演じるダークなコメディ。道場が健全なようでそうでもないことが明らかになるのだが、マッチョの思想にとらわれて道場の師範の言いなりになる描写が「ファイト・クラブ」に通じるものがあるな。しかし1番ヤバい人物はアイゼンバーグだったというわけで、神経質なタイプを演じさせたら巧い彼の才能が100%活かされた作品ではないでしょうか。個人的には今年ベスト級の出来だった。
  • 「STAN & OLLIE」: 邦題は「僕たちのラストステージ」。まあローレル&ハーディの知名度が低い日本だとこういう邦題になるのかな。晩年の彼らを扱った内容のため、コメディアンが主人公ながらもダウナー系の出来になっているのはいかがなものか。なおむかしコミックの「プリーチャー」で語られていた「ローレル&ハーディが船でアイルランドに着いたとき、教会の鐘が彼らのテーマ曲を鳴らして迎えた」というシーンがあった。これウィキペディアにも載ってる有名な逸話らしいが、昔は真偽のほどが分からなかったのだよ。
  • 「MISSING LINK」: みんな大好きライカ作品。人に敬遠されるクリーチャーが主人公、という点では「ボックストロールズ」に似てるかな。アニメーションの出来は相変わらず素晴らしいし、ヒュー・ジャックマンのキャラクターとかも良いのだけど、「クボ」とかに比べると脚本が凡庸なような。英語のダジャレが多いので訳すとき大変そうだな。本国では興行成績が散々だったようで、これがライカ最後の作品になったりしないかちょっと心配。
  • 「クロール 凶暴領域」:これ似たような映画なかったっけ?水没した店でサメに襲われるやつ?地下室から抜け出して救出ヘリが見えたとき、そこで屋上に登って発煙筒焚けばいいと思ったのに、父娘がボートを取りにいこうとするのでイライラしてしまった。
  • 「SWORD OF TRUST」: ちょっといい評価を目にしていたインディペンデント映画。南北戦争で実は南部が勝利した証拠だという剣を売りつけようとするカップルと質屋の店長の物語。場面転換もそんなにない会話劇だが、店長を演じるのがマーク・マロンで、個人的に彼の演技が好きなので飽きずに観れた。別れた元妻(監督のリン・シェルトンが演じる)のことをしんみり語る姿とかがね、哀愁があっていいのよ。もっと陰謀論ネタに絡んでも良かった気がするが、面白い小品でした。音楽もマロンが担当していてね、全編にわたってブルージーなギターが聴けるよ。

ちなみにサウジは思ったよりずっと開放的なところで、英語もそこそこ通じるし人々も親切で、面白いところでした。まだ観光地として開かれていないので観光するようなところもないし、移動がタクシー頼みになってしまいますが、まあ脱オイルマネーを目指しているとのことで、これからもっと外国人にオープンになっていくんじゃないですか。

「ターミネーター:ニュー・フェイト」鑑賞

なぜ原題は「ダーク・フェイト」なのに邦題は「ニュー・フェイト」なのか。まあいいや。感想をざっと書きますが、以下はネタバレがいろいろ含まれてます:

  • マッケンジー・デイビスは正義。これは最初に言っておく。
  • 冒頭から「T3」を全否定するような展開で、あーそこからやり直すのね、という感じ。
  • しかしその後の話はいつものパターンで、未来からターミネーターがやってきて、それをやっつけるために戦うというだけ。6作目ともなると流石に飽きてきますよ。
  • 前も書いたように個人的には「T1」原理主義者なので未来がコロコロ変わるのは感心しないのですが、今回はかなりご都合主義的で、「スカイネットが阻止された→新たな敵が現れた」「ジョン・コナーがいない→別のリーダーが登場する」というゴールポストを動かすようなものでは、サラ・コナーたちが戦ってる意味がないと思うんだけどね。「ターミネーター」シリーズがいかにマンネリ化しているのかを実感させられた2時間だった。
  • いや今回はジェームズ・キャメロンのもとに権利が戻ってきたとかで、密かには期待してたんですよ。それなりに新しい方向性を打ち出すんじゃないかと。そしたら過去の蒸し返しになっていたのが残念。シュワとリンダ・ハミルトンが出ているのは良いのだけど、肝心のストーリーがねえ。
  • やけにメキシコの移民問題に焦点を当てているのはキャメロンの趣味だろうか。でも実際の流れはデビッド・S・ゴイヤー風味で、あまり奥の深いものではなかったな。珍しく飛行戦なども出てきたけど、夜間のアクションシーンは見づらかったぞ。監督のティム・ミラーは「デッドプール」ではスタイリスティックなアクションが演出できたのに、これくらいの大作になるとちょっと経験不足なんだろうか。
  • ターミネーター作品としての要素はしっかり入っているものの、6作目にしてそんなベーシックなストーリーテリングをして誰が喜ぶのか、ということになると思う。
  • スタジオはこれをもってフランチャイズを再起動させたかったのだろうけど、逆に作品の限界を感じてしまう内容であった。もうこれにて「ターミネーター」シリーズは打ち止めにするのが皆のためだと思う。

「HIS DARK MATERIALS」鑑賞

BBC & HBOの新シリーズ。フィリップ・プルマン原作の「ライラの冒険」シリーズの映像化で、あれって第1作「黄金の羅針盤」がすでに映画化されて大コケしたはずなのだが、それでも再映像化されるということは原作に根強い人気があるのででしょう。なお個人的には小説も映画も読んだこと観たことありません。

舞台は架空のイギリスで、空には飛行船が飛び交い、それぞれの人間にはダイモンと呼ばれる分身が動物の姿をとってつきまとっていた。世界はマジステリアムという強力な教会組織によって支配されていたが、その支配が届かないオックスフォード大学のなかで育って少女ライラは、叔父の冒険家アスリエル卿が発見した謎の粒子「ダスト」の存在を知る。さらに彼女の近辺では子供の誘拐が相次ぎ、親友までもがさらわれたライラは、事件を解決するために冷酷な女性ミズ・コールターとともにロンドンへ向かうのだった…というあらすじ。

第1シリーズで原作の1巻目をカバーする形になるのかな?いろいろ興味深いシーンも出てくる一方で、話の設定に時間を割いていることもあり、第1話は比較的地味な感じがしました。これから武装した北極クマとかが出てきて、派手な展開になるのかな?あと劇中の「教会」の描写が反キリスト教的だとして、原作や映画は批判されたようだけど、今回のシリーズ版ではどのくらい(反)宗教色を打ち出してくるのだろう。

キャストはライラ役に「ローガン」のダフネ・キーン。「ローガン」ではあまりセリフのなかった彼女がこちらではペラペラ喋ってるのに当初は違和感を感じたが、無難に役をこなしてます。あとはアスリエル卿にジェームス・マカヴォイでミズ・コールター役がルース・ウィルソン、他にもクラーク・ピーターズやリン・マニュエル・ミランダなどかなり強力な出演者が揃ってます。ダフネ・キーンの父親やマカヴォイの元妻なども出ているあたりは、イギリスの役者は血縁関係者が多すぎるだろ、という気にもなりますが。

まあ自分は原作を知らないので、今後の展開を普通に楽しめるんじゃないかと。「ゲーム・オブ・スローンズ」並のヒットになるかは分かりませんが、キャストの豪華さだけでも観る価値はあるでしょう。

「WATCHMEN」鑑賞

HBOの新シリーズで、原作はアメコミの金字塔「ウォッチメン」な。原作者のうちデイブ・ギボンズはコンサルタントとしてクレジットされてるが、アラン・ムーア御大は例によって名前も載ってません。原作とは殆ど別物になってるので作品の世界設定を箇条書きにすると:

  • アメリカはドクター・マンハッタンの助けによりベトナム戦争で勝利し、ニクソン大統領は8年以上の長期政権を樹立。それを継いだロバート・レッドフォード(役者の彼な)も長期に渡って大統領を務めている。
  • よって政権は概ねリベラルで黒人への待遇も手厚いのだが、それに反発する白人至上主義者の団体「セブンス・キャバルリー」のメンバーたちはロールシャッハのマスクを被り、テロ行為を行っている。
  • 警官たちの個人攻撃が多発したことを受けて、警官たちは顔を隠すために黄色いマスクを被っている。また独自のマスクをつけたビジランテたちも警官に協力してロールシャッハたちと戦っている。
  • ドクター・マンハッタンは火星に移住した。エイドリアン・ヴェイト(オジマンディアス)は死んだと見せかけ、田舎の城に隠居している。

…といったところ。まだ第1話の段階なので多くのことが明かされないのだが、いちおうコミックの出来事のあとの話、ということになるのかな?原作のクライマックスであるイカ状エイリアンの襲撃はあったらしく、その影響か空からイカが降ってくる謎の気象現象にも世界は見舞われているみたい。

そして話の舞台になるのはオクラホマのタルサという都市で、1921年に人種暴動が起き、アメリカ政府が自国民に空爆をしたという過去を持つところ。そこに住むアンジェラはベトナム育ちの元警官だが、夜にはシスター・ナイトというイジランテになって警察署長のクロウフォードに協力してロールシャッハたちと戦っている。

タルサの暴動のシーンで幕を開け、白人至上主義者との話を中心に持ってきているあたり、最近のBlack Lives Matterのような社会運動をテーマにしているのはわかるのだが、意外にも警察は黒人にもビジランテにも協力的な存在になっていて、上司の承認がなければ銃も使用できないという立場。それに対してロールシャッハたちは人種差別を唱えるテロリスト団体なのだが、ここらへんは話が進むにつれていろいろ入り組んでくるのでしょう。

脚本およびクリエーターは「LOST」のデイモン・リンロフ。原作とはまったく別の代物になっているけど、ザック・スナイダーの劇場版が原作に変に忠実になろうとして結局ダメダメだったことを考えると、むしろ同じくムーア原作の「リーグ・オブ・レジェンド」みたいに好き勝手やったほうが面白くなるんじゃないかと。とはいえ原作コミックにインスパイアされたシーンは多数出てきて、自殺用の青酸カリとか、使用人と乾杯するエイドリアンとか、原作を知ってる人ならニヤリとする箇所はいろいろあります。

コミック同様に人が読んでる新聞の見出しなどに重要な情報が示されているし、2枚並べた皿がフクロウの顔のようになっていて、そこに落とされた卵の黄身がスマイルマークのようになる…といった演出も非常に凝っている。アクションシーンもHBOならではの予算をかけたものになっているほか、トレント・レズナーとアティカス・ロスによる音楽も雰囲気を醸し出すのに大きく貢献している。

出演はシスター・ナイト役にレジーナ・キング。結構年配だけどアクションもこなしています。エイドリアン・ヴェイトがジェレミー・アイアンズで、クロウフォード署長にドン・ジョンソン、ルッキング・グラスというビジランテ役にティム・ブレイク・ネルソン。そして謎の老人としてルイス・ゴセット・ジュニア。

本国の評価では「西部劇のようだ」というのがちらほらあって、無法者の一味と闘う保安官たち、という構成がそう見えるのかな。まあこれからドクター・マンハッタンとかオジマンディアスが徐々に関わってくるわけで、どこに話が向かっていくのかは楽しみである。

機内で観た映画2019 その2

こないだヨーロッパに出張に行ってきたので、機内で観た映画の感想をざっくりと:

  • 「トイ・ストーリー4」:野良アプリならぬ野良トイ、というか浪人トイがテーマになった今回、前半のフォーキーのアイデンティティ・クライシスの話と後半のアクション主体の部分がうまく噛み合ってないような?前作よりは面白かったけど、もうこれ以上続編作るのは難しいだろうなあ。ウッディとバズの声優の格差を反映してか、殆どウッディの話になってましたね。
  • 「イエスタディ」:ビートルズのいない世界ではラットルズが王になるのでは、と思ったけどオアシスもいないようなので、彼らも存在しないのでしょう。リチャード・カーティスの脚本にダニー・ボイルの映像が加わった王道の出来なので、細かいこと考えずに観れば十分楽しめる作品じゃないですかね。字幕で「cider」を「ソーダ」と訳してたのは気になったが。
  • 「ジョン・ウィック:パラベラム」:アクションはスタイリッシュですごいと思うのですが、いかんせんストーリーが単調というか何というか。主人公が遠方まではるばる旅をした意味はあったんかい?続編もしっかり作られる予定みたいですが、もういいよお。
  • 「BOOKSMART」:機内上映版は10分くらいカットされてる…?オリヴィア・ワイルドが監督に挑んだ作品で、手堅い演出もいいが脚本(執筆はワイルドでない)が非常に素晴らしい。ガリ勉の少女ふたりがパーティーに繰り出すという、よくある青春映画かな…と思いきや前半はコメディ要素が強く、「コミ・カレ!」みたい。青春映画のステレオタイプが揃ってそうで、そうでもなく、ティーンの儚さなどもうまく盛り込んだよく出来た作品。これは面白かった。
  • 「STUBER」:クメール・ナンジアーニとデイブ・バウティスタに加えて、イコ・ウワイスとかカレン・ギランとかナタリー・モラレスとかいい役者使ってるのに、まあ内容はFOX定番のB級コメディ。イコ・ウワイスの完全な無駄遣いですな。FOXは頑張ってこういう作品を引き続き製作して、ディズニーの株価の下落に貢献すべきだろう。