アビエイター

アカデミー賞が過ぎて久しいが、今更ながらハワード・ヒューズの伝記映画「アビエイター」を観に行く。俺の周囲では褒める人が誰もいなかったが、スコセッシ&ディカプリオの「ギャング・オブ・ニューヨーク」は個人的には佳作だと思ってます。もっともあれはダニエル・デイ=ルイスが他の役者を完全に凌駕した怪演を見せてくれたおかげで満足できる内容になってたのだが。そして今回は晴れてレオ様が主役の座に躍り出たわけだが、残念ながら作品の出来自体は「ギャング〜」の足下にも及ばないと言わざるを得ない。主人公がいちばん若くて富を持っていた時点から話が始まって、あとは3時間ずっと下り坂を落ちていくストーリーというのは、いくらなんでもキツいものがあるんじゃないでしょうか。

この映画の最大の問題点は、主人公であり当然最も多くスクリーンに登場するヒューズの頑固さやエキセントリックさを強調しすぎたあまり、観客がまるで共感できないキャラクターにしてしまったことにある。自分の直感のみを信じてハリウッドや航空業界の体制に立ち向かっていく姿は見方によっては非常にヒロイックなものになったかもしれないが、本作では周囲のまっとうな意見を押し切ってヒューズが富を失う光景が次々に映し出されるので、彼が野心家というよりも単に愚鈍なビジネスマンに見えてしまうのだ。しかもその間に彼が経験する苦悩というのは挫折感や失恋などではなく、病原菌への恐怖だけである。他人が触ったドアノブを怖くて触れないため、トイレから出て行けない主人公なんて誰も普通は共感できないだろうに。他人の意見を無視して無謀な計画に大金をつぎ込むテキサス出身の石油成金なんて現実世界で毎日のようにニュースで見せられているのだから、わざわざ映画で見なくても、ねえ。

上映時間は3時間近くあるが、カットや展開が速いので観てる分にはさほど退屈しない。しかし逆にたっぷり時間を割いたシーンが少ないため、ヒューズの人生の1コマがぱっぱと流されているような気になってしまい、彼の内面の情熱や失望をきちんと描いた場面が少ないのも問題だろう。なんで彼が映画や飛行機にあれだけの手間と財産を注いだのかきちんと説明してないから、単に気まぐれな人間にしか見えてこないのだ。もっとも試験飛行のシーンだけは見事で、ヒューズの興奮が容易に理解できる。しかしそれも大半は不時着して終わるので、彼の達成感みたいなものが作品から伝わってこないのだ(彼が達成したものが実際にあるかどうかは別として)。
あと時代の変化に合わせてフィルムの色映えを変えるというアイデアは面白いものの、最初のほうは水色ばかりが強調されてとても冷たい印象を受けるので、なかなか映画の世界に入り込みにくい感じがしたのは俺だけでしょうか。

レオナルド・ディカプリオは決して嫌いな役者ではないし、ジャック・ニコルソンばりに眉間にシワを寄せて頑張ってるのは分かるものの、年とったヒューズを演じるには若すぎた感が否めない。最後の公聴会での演技は良かったけど、あれは相手がアラン・アルダだからいいシーンになったのか?キャサリーン・ヘップバーン役のケイト・ブランシェットは上手。アカデミー賞穫っただけのことはある。役自体はつまらないけど。アラン・アルダも相変わらず上手だが、役がちょっと小さすぎたかな。この他にもジョン・C・ライリーにアレック・ボールドウィン、イアン・ホルム、ジュード・ロウ、さらにはブレント・スパイナーなどが総出演してるけど、みんな役が小さすぎてパッとしない。グゥエン・ステファニに至ってはレコード会社に金を積まれたから出演させた、って感じ。

これもダニエル・デイ=ルイスが主役やってたらいい作品になってたんじゃないか?

SLASHER

ジョン・ランディス初のドキュメンタリー作品「SLASHER」をDVDで観る。劇場用ではなくテレビ用のものらしい。かつては「アニマル・ハウス」や「ブルース・ブラザース」などの傑作を作っていたランディスも最近は失敗作続きで、しまいにはドクター・オクトパスに惨殺されてたりするわけだが、なんかこの作品も監督の意欲と実際の出来がズレたものになってしまっていた。
タイトルの「スラッシャー」とは別に猟奇犯とかのことではなく、車のセールで客との値段交渉を行う販売員のこと。最初にワザと高い値段を設定しておき、そこから値段を切り下げる(=スラッシュ)ことで客に割安感を与えて車を買わせるのが彼の仕事である。この作品ではカリフォルニアに住むフリーのスラッシャーであるマイケル・ベネットがメンフィスで3日間のセールを委託され、いろいろ手を尽くして車を売りさばいていくさまが紹介されていく。(値段について)ウソをつくことが商売である彼の生き様と、アメリカの歴代大統領がついてきた数々のウソを重ね合わせるのがランディスの当初の目的だったらしいが、大統領の映像クリップの使用料がバカ高いことから断念したとか。一応ちょっとだけ冒頭にニクソンとかの映像が使われてるのだけど、それが実に余計というか、作品の内容とまったく関係ない程度に使われてるものだから困ってしまう。あと舞台となるメンフィスの貧しさ(フェデックス以外にまっとうな産業がない)にもランディスは驚嘆したらしいが、そんなことを表すような映像はまるで挿入されない。とりあえず田舎の人たちが中古車を買いに来て、十分に値下げがされてないとボヤく光景が淡々と紹介されるだけである。BGMにデルタ・ブルースがガンガン流れてるのは「ブルース・ブラザース」を彷彿とさせたが。

とにかく話に起伏がないというか、ひたすらセールの光景が映し出されるのが退屈でしょうがない。主人公のベネットはひたすら喋るハゲオヤジで、川崎あたりの安酒場でクダをまいてそうな奴だが2児のよきパパだし、言ってることはそれなりに真面目で自分の仕事に誇りをもったセールスマンである。客の要求に臨機応変に対応しながら巧みに車を売りつけるのだけど、その行為は至ってまっとうなものだ。思うにこのドキュメンタリーには、観る人の興味を引きつけるような「裏社会の真実」とか「商売の裏事情」といった要素がかなり欠けてるんじゃないだろうか。値段交渉でゴネまくる客もいるものの決して不条理な要求はないし、ベネットを雇った販売店の人たちも気の良さそうな人たちばかりである。88ドルまで値段が下がる車(もちろん廃車寸前)が1つだけあると宣伝して客を呼んだり、値段交渉のテクニックなどの小ネタが紹介されるものの、全体としては小さな販売店が貧しい人々を相手にセコセコと商売をしてるような、非常にこじんまりとした印象しか残らない。こんなんだったら数年前に日本で観た、パチンコ屋の開店にまつわるドキュメンタリーのほうが面白かったぞ。セールの最終日には客がほとんど集まらずベネットが焦るなか、販売店が「それなりに車はさばけたし、よしとしようか」といった感じでセールが普通に終了するラストが、この作品の凡庸さを物語っている。

もうこうなったら、ランディスの人気回復には「ビバリーヒルズ・コップ4」しかあるまい。

セント・パトリックズ・デーのパレード

アイルランド系の人々が1年に1回だけ自分たちの存在意義を大っぴらに証明できる日であるセント・パトリックズ・デーが近づいて来たというわけで、今日はダウンタウンで大規模なパレードが行われた。伝統的にアイルランド系が多い警察官や消防士のほか、アイルランドの各郡を代表した人たちが緑色に身をつつんで通りを行進していった。なぜかフィリピン系移民の団体なども参加してたけど。

10年近く前に本場ダブリンでもパレードを見たことがあるが、さすがにあれよりかは格段に規模が小さかった。基本的に名産品などが極めて少ない国なので、皆が田舎者の格好をして歩いてる以外はあまり特徴のないパレードだったりする。千葉県民がピーナッツのコスプレをして延々と道を練り歩いてるような感じか。

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ロボッツ

「アイス・エイジ」が大ヒットしたクリス・ウェッジ監督&ブルー・スカイ製作の新作CGアニメ「ロボッツ」を観にいく。IMAXでも公開してたらしいがとりあえず一般館へ。冒頭には現在製作中の「アイス・エイジ2」のティーザーとして、スクラット(例の珍動物)の登場する短編がくっついてた。

ストーリーの内容は発明家になることを目指して田舎から大都市にやってきたロドニー君が、憧れの大発明家であるビッグウェルドの会社の門を叩くものの、ロボットの修理に欠かせないスペア・パーツの製造を打ち切りボディのアップグレードを促すことで利益を得ようとする悪役ラチェットに会社は支配され、ビッグウェルドは消息不明になっていた。失意のロドニー君は偶然知り合ったフェンダーや彼の仲間のところで貧しいロボットたちのために修理業を行うものの、スペア・パーツの供給の必要性を感じた彼はビッグウェルドの探索を開始する。しかしそこにラチェットの悪の手が伸びて…。といったもの。これだけで大体話の展開が読めると思うが、要するに、まあ、ありがちな勧善懲悪ものとなってます。

「インクレディブルズ」が同じく勧善懲悪のストーリーでありながら最後まで「次はどうなるんだろう」という期待感を観客に与えていたのに対し、こちらは主人公と仲間と悪役の図式がハッキリしてしまうと、あとは「主人公が失望」「主人公が元気を与えられる」「悪役をやっつける」という話の流れが予定調和で進んでいくような感じが否めない。「アイス・エイジ」もストーリーは決して奥の深いものではなかったが、動物と子供という可愛いキャラクターが話を支えていたのに対し、こちらはブサイクなロボットばかりなのでちょっとアピールに欠けるかな。何の必要性もないドミノ倒しとか、突然改心するビッグウェルドとか、ストーリーの弱さはあちこちで目についた。もっともCGは立派だし(特に街の造形は見事)、細かいギャグも多く話の展開も速いので、観てて退屈はしないだろう。

ロボットたちの声優はユアン・マクレガーをはじめロビン・ウィリアムスにハリー・ベリー、メル・ブルックス、果てはジェイ・レノやポール・ジアマッティなどやたら豪華。でもメル・ブルックス以外は特徴のある声ではないので、あまり豪華である必要は感じられなかった。ジェームズ・アール・ジョーンズが「あの役」の声をやってたのには笑ったが(でもクレジット見るまで気づかなかった)。ちなみにキャラクターの性格設定は文字通り機械人形なみ。主人公が典型的な熱血漢なのは許すとして、ヒロインは政治的に正しいだけの存在で、悪役は悪事を働く動機が弱く、ロビン・ウィリアムスのキャラクターはただ見苦しいだけだった。ロビン・ウィリアムスって、素のままで喋ってるときなんかは非常に面白いんだけど…。

あと「シュレック」を観た時にも感じたことだが、一時的なヒット作でなく古典的なアニメの傑作を作る気があるのならば、とりあえず下ネタと芸能人ネタは削っといた方がいいんじゃないでしょうか。今でさえ既に時代遅れのブリトニー・スピアーズのジョークなんて見せられても、非常に気まずくなるだけなんだが。とりあえず大団円で終わっとけ、というのも「シュレック」に似てるな。ピクサーという輝かしい前例があるんだから、もっとストーリーそのものを重視しなさい。CG技術がこれ以上進歩しても、肝心なのはストーリーでしょ。

ちなみに「アイス・エイジ」でも感じたけど、この監督は「滑りもの」フェチか?

India, U.S. Moviegoers Pay Least -New Costs Index

各国の人々の給料と映画のチケット代を比較すると、インドでは16分労働しただけで映画が1本観れるのに対し、ブルガリアでは123分労働しないといけない、という調査結果が出たそうな

それで肝心の日本はどうかというと、48分労働すればいいらしい。でも日本のチケットって1500円くらいするわけだから、普通に考えると約50分で1500円稼ぐということは時給1800円の仕事に就いてないといけないわけで、これって庶民の感覚からしてみれば実に一般的じゃない高給じゃないか?すくなくとも俺はこんな時給もらったことないぞ。
どうもエコノミスト誌の「ビッグマック指数」をもとに算出したそうだが、ちょっと調べてみれば日本のチケット代がどれだかバカ高いか分かりそうなものだけどねえ。

ちなみに欧米では平日昼間なら割引になる「マチネー料金」が一般的なので、俺もその恩恵をうけて最近はよく4.25ドル(400円弱)で映画を観に行っている。日本に帰ったら金払って映画を観に行くのがバカバカしくなるような値段である。何で日本のチケット代があんな高いのかというのはいろんな原因があるんだろうけど、1つ理解できないのは館外からの飲食物持ち込みをなぜ容認してるのかな、ということだ。アメリカではポップコーンなどによる売上の方がチケット代よりも大きい、というような話を聞いた覚えがあるが、日本の映画館も持ち込みは一切禁止して館内で(割安の)飲食物を売ればもっと儲かると思うんだが。まあ客のバッグを調べるわけにもいかないし、全ての館で一斉に禁止しないと効果はないだろうけど。俺もよく100円ハンバーガーを持ち込んでパクついてた過去があるので偉そうなことは言えません。