「The League of Extraordinary Gentlemen, Vol. 3: Century, No. 1: 1910」読了

The League of Extraordinary Gentlemenの待望の新刊!前にも書いたように20世紀初頭から21世紀にかけた「リーグ」の冒険を描いた3部作の第1部で、舞台は1910年のロンドン。ミナ・マーレイ、アラン・クォーターメイン(・ジュニア)に加え紳士泥棒A・J・ラッフルズ、幽霊狩人カーナッキ、そして両性具有のオーランドーからなる新生「リーグ」が、世紀の初めにロンドンで起きるという大惨事を防ぐために、この世に災いをもたらすムーンチャイルドの誕生を阻止しようとするのが大まかなストーリー。

前作「THE BLACK DOSSIER」がメチャクチャ難解なカタログ的書物だったのに対し、今回のは比較的ストレートな冒険譚になっている。でもそこはLoEG、様々な登場人物とプロットが何層にも積み重ねられていて、ストーリーに隠されたさまざな情報を読み解くのが大きな醍醐味になっている。例によって注釈のページが立ち上がっているので、ここを参照しながら読んでいくのもいいかもしれない。

今回のストーリーのベースとしていちばん顕著なのがベルトルト・ブレヒトの「三文オペラ」で、あの劇からの歌が全編にわたって使われるほか、匕首のマックと海賊ジェニーが(ちょっとヒネった形で)登場したりする。ブレヒトの歌は3部にわたって使われるんだとか。これに加えてネモ船長の娘や切り裂きジャック、マイクロフト・ホームズに謎のタイム・トラベラーなどが登場して話に深みを与えている。第1部ということもありキャラクターの紹介や伏線を張るのに時間が割かれて若干プロットが薄くなっている気がしなくもないが、後の話でそれらが大きな意味を持ってくるんでしょう。あと巻末には例によって連続小説が付けられており、今回は月に関する様々なキャラクターが登場するものになるんだとか。

これの発刊に合わせてアラン・ムーアのインタビューをいろいろ読んでるんだけど、何と言うか奇抜なアイデアが沸々と彼の頭のなかに湧いてくるところが非常に楽しいんですよ。我々凡人はその全てを理解することはできないんだけど、ストーリーテリングに対する彼の熱意を体験するだけでも面白いというか。例えば上記の月に関する物語にしても「この時代は既に多くの国が月面に領土を持っていて、アメリカの領土はジュール・ベルヌの小説で月面ロケットを打ち上げたボルチモア・ガン・クラブが管轄しているとしよう。そしてボルチモアときたら『ザ・ワイヤー』や『ホミサイド』のキャラクターを登場させられるかもしれない!」みたいなことを語っているんだけど、ジュール・ベルヌと「ザ・ワイヤー」を結びつけられる人というのは世界広しといえどもムーアくらいのものだろう。またケヴィン・オニールのアートもさらに洗練され、さまざまな細かい情報が画のなかに巧妙に入れられているのも見事である。

そして第2部は60年代のカウンターカルチャーを背景に、ジェリー・コーネリアスたちが登場する話になるそうな。ああ早く読みたい。年内に出てくれたりすると嬉しいんだけど。

メビウスの講演会

バンドデシネ(フランス圏のマンガ)は必ずしも大ファンではないのですが、その第一人者であるアーティストのメビウスことジャン・ジローが来日して講演を行うということなので明治大学まで行ってくる。

1200人入るという講堂はほぼ満席。メビウスの作品って日本では殆ど翻訳されてないのにこれだけ知名度があるというのは、大友克洋をはじめとする人気マンガ家たちが影響を受けたことを公言しているからなんだろうな。講演では自分の経歴や日本のマンガの印象について語ってたりしたけど、正直あまり目新しいことは語ってなくて、むしろゲストとして招かれた浦沢直樹と夏目房之介による、日本のマンガ家がいかにメビウスの影響を受けたかというトークのほうが面白かったかも。70年代から80年代前半にかけての頃って、SFというジャンルに対する熱気が今とは違ってたんだよな。その頃に登場してきたマンガ家たちがメビウスの独創的なスタイルに影響を受けたわけで。

講演会の司会進行とかはちょっとグダグダ気味で、竹熊健太郎氏のブログを観る限りでは精華大学での講演会のほうが面白そうだった感じもするけど、無料の講演会だったし良かったんじゃないでしょうか。

ちなみにバンドデシネといえば20年くらい前にHEAVY METAL誌で連載されていた「The Waters Of DeadMoon」という作品を長らく再読したと思っているのですが、あれって英語版は単行本化されてないのかなあ。

「アクション・コミックス」#1の競売

スーパーマンが初登場した号として知られる「アクション・コミックス」の第1号がこないだ競売に出され、システム・オブ・ア・ダウンのドラマーが約3100万円という記録的な額で競り落としたんだとか。あのコミックにこの値がついたことよりも、あのバンドのドラマーにそんな金があったことに驚き。全米1位をとるようなバンドはやはり儲かってんですね。

ちなみに「アクション・コミックス」#1ってむかしニコラス・ケイジが売りに出してなかったっけ?リサ・マリー・プレスリーと結婚した直後だったんで彼女がケイジのコミック・コレクションを処分させたという噂が立って、それに対し「単に俺の趣味が変わっただけ」みたいな言い訳をしていたような覚えがあるけど、その後再婚して息子の名前に「カル=エル(スーパーマンの本名)」なんてつけてるんだから、全然趣味が変わってないじゃん!旦那のマンガを処分させるような嫁とはとっとと別れるのが正解だよな。やはり。

「WONDER WOMAN」鑑賞

DCコミックスのアニメムービー最新作。ワンダーウーマンって個人的にあまり思い入れのないキャラクターなんだけど、この作品は予想以上に面白かった。

基本的には1つの大きなオリジン・ストーリーになっていて、女神ヒッポリタの統治のもと女性だけのアマゾン族が暮らす平和な島に、ある日アメリカ軍のパイロットのスティーブ・トレヴォーが乗った戦闘機が不時着。彼を本国に帰すためにヒッポリタの娘ダイアナがワンダー・ウーマンとなって一緒にアメリカに渡るものの、男性が支配する世界に彼女はショックを受ける。それと同時期に、島に幽閉されていた戦争の神アレスが脱出に成功し、世界に戦渦をもたらそうとしていた…というような内容。

当然ながら戦闘シーンも多分に展開され、おかげでこの手のアニメには珍しくPG-13のレーティングがついているものの、単なるアクション作品にはならず、フェミニスト的な要素が盛り込まれているのがポイント。女性アメコミ作家としていまいちばん勢いのあるゲイル・シモーンが共同執筆した脚本においては、男性は暴力が好きでトラブルを起こしてばかりの頼りない存在になっており、われわれ男性にとっては耳の痛いセリフもでてくるものの決して説教的なストーリーにはなっていない。ダイアナは繊細でこそあるもののか弱い女性としては描かれておらず、トレヴォーが彼女を酔わせようとして逆に自分が酔いつぶれるあたりはハリウッドのステレオタイプの逆をうまく突いているようでニヤリとさせられる。

アニメーションの出来とストーリーに多少荒削りなところがあるものの、女性スーパーヒーローをうまく描いた佳作かと。ただしワンダーウーマンの最大の矛盾点である「平和の使者なのに戦闘ばかりしている」という点は言及されるものの答えは出されてませんが。あと難があるとしたらアルフレッド・モリーナによるアレスの声にドスがきいてなくて軽々しく感じられることと、スティーブ・トレヴォーのデザインが「イーオン・フラックス」(もちろんアニメ版だよ)のキモ男トレヴァー・グッドチャイルドに似ているところかな。

ちなみにDCはこのあと「グリーン・ランタン」のアニメムービーを製作し、そのあとは「スーパーマン/バットマン」を作る予定なんだとか。ずっと前から製作が発表されてる「THE NEW TEEN TITANS: THE JUDAS CONTRACT」の話はどこに行ってしまったんだろう…。

「ウォッチメン」と「アウター・リミッツ」

このブログからもリンクを貼ってある町山智浩氏のブログで、ザック・スナイダーが劇場版「ウォッチメン」で「アウター・リミッツ」の1エピソード「The Architects of Fear」にオマージュを捧げていると書かれているんだけど、実はあれって原作の段階で既にオマージュが捧げられていて、そのエピソード(の音声)が登場しているんだよね。

これは「ウォッチメン」を執筆していたムーアが、途中になってこのエピソードと「ウォッチメン」のプロットが偶然似ていることに気づき、このオマージュを最終話に挿入したということらしい。些細なことかもしれないけど、ムーアが「アウター・リミッツ」をパクったわけではないらしいので念のため。

しかしやはりイカは出ないのか…。