「BLACK DOSSIER」読書メモ その3

・逃避行を続けるミナとクォーターメインは、”M”の正体を探るために、彼が通ったとされる男子校へ足を運ぶ。そこで彼の元同級生に出会った2人は、”M”の意外な真実を知るのだった。ここはどうもチャールズ・ハミルトンなる作家がフランク・リチャーズ名義で書いた少年向け小説をベースにしてるらしいんだが、元ネタをまるで知らないのであまり楽しめなかった。
・海辺の宿屋に泊まった2人はさっそく一発やります。最近のムーアはこんなんばっか。すっきりした2人は「黒本」の続きを読むことに。
・ここからまた「黒本」の中身に移り、お馴染みのミナ・マーレイの第一次「リーグ」の結成の過程が、カンピオン・ボンドの手記によって明かされる。この「リーグ」はモリアーティ教授によって構想され、ボンドとミナの出会い、そして南海の孤島におけるミナとネモの出会いの光景などが描写されている。
・ノーチラス号のクロスセクション図。
・ロンドンの観光案内。この世界ではネルソン像の代わりにホーンブロワーの像が建てられているのだ。
・ミナとクォーターメインが世界各地を旅したときの絵葉書が紹介される。インスマウスとかチベットの秘境とか。このころクォーターメインが若返り、ミナと一緒にオーランドーに出会ったらしい。
・ミナ・マーレイの第二次「リーグ」の冒険が紹介される。このときのメンバーはミナとクォーターメイン、オーランドーに幽霊狩人カーナッキ、そして紳士泥棒A・J・ラッフルズだそうな。そして世界大戦の影が忍び寄るなか、フランス政府はイギリスに負けじと独自の「リーグ」として「Les Hommes Mysterieux」を結成。メンバーはジュール・ベルヌの征服者ロビュール、アルセーヌ・ルパン、怪盗ファントマ、そしてMonsieur ZenithにNyctalope…って誰だこの2人。この2つの「リーグ」はオペラ座で対決することになるのだが、その背後で暗躍するのはドイツの「リーグ」である「Der Zwielichthelden」だった…。この対決については続編で詳しく描かれるらしいぞ。ちなみに「Der Zwielichthelden」のメンバーはドクトル・マブゼにカリガリ博士、および「メトロポリス」のロトワングとマリアというなかなか豪華な面々。やはりマリアは美女に化けたりするんだろうか。
・次はP・G・ウッドハウスのコメディ小説「ジーブスとウースター」シリーズ(フライ&ローリー主演でドラマ化されたあれだ)をベースにクトゥルフ神話を混ぜ合わせた短編。ウースターはジーブスと友人を連れて叔母の家にやってくるものの、そこの庭師がアレな人だったために異星の怪物が出現して大変なことに。そこにミナたちが救援に駆けつけて…といった内容の話。コメディ・タッチで書かれてるんだけど結末はやたらブラックだったりする。

これで2回目の「黒本」部分は終了。これでやっと全体の半分を越えたくらいかな。

「In Search of Steve Ditko」鑑賞

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BBC Fourのドキュメンタリー番組「In Search of Steve Ditko」を鑑賞。スティーヴ・ディッコ(ディトコ)といえばスパイダーマンの原作者の一人として日本でもそれなりに知られたコミック作家だが、昔から大のプレス嫌いでインタビューは一切行わなかったし、彼の写真も4〜5枚しか存在せず、当然コンベンションにも顔を見せたことがないという徹底的に謎めいた、ピンチョンやサリンジャーのような存在なんだよね。この番組はコミック・ファンとして知られるジョナサン・ロスがディッコの業績や影響について語り、業界の有名人にインタビューしながら彼の素性を追求していくというもの。ジョナサン・ロスといえばもはやベテランの域に達したTVパーソナリティーだが、こうした番組を作ってくれるのは嬉しいよな。

そしてロス自身がインタビューしていく面子がなかなか凄い。ジョー・ケサダにマーク・ミラー、アラン・ムーアにニール・ゲイマン、ジョン・ロミタ、ジェリー・ロビンソン(ディッコの師匠だったのか!)、そしてもちろんスタン・リーなどなど。彼らの証言によって、スパイダーマンやドクター・ストレンジ、ミスターA、クリーパー、ホーク&ダヴといった人気キャラクターの誕生の裏側が明かされていくほか、突然マーヴェルを去った理由や、アイン・ランドのオブジェクティヴィズムへの傾倒、スパイダーマンにまつわるスタン・リーとの葛藤などが語られるのは非常に興味深い。

さらにロスはディッコの住所をつきとめ、ニール・ゲイマンとともにニューヨークに渡ってディッコのアパートに押しかけてしまう!さすがにカメラを持ち込むことはできなかったが、20分くらい話して結果的にはいい友達になれたんだとか。すげえ。我々視聴者がディッコの姿を見ることができなかったのは残念だが、彼の偉大さについてうまく解説した良質の番組だったと言えよう。

「BLACK DOSSIER」読書メモ その2

・「黒本」の紹介が続き、「TRUMP」なる子供向けコミック雑誌(BEANOみたいなやつ)が登場。表紙は「何がジェーンに起こったか?」の1ページマンガになっている。
・それから数ページは(ヴァージニア・ウルフの)オーランドーの絵物語が続く。古代エジプトに生まれたオーランドーは、性別を変えながら何千年ものあいだ世界各地を放浪し、歴史の生き証人となってさまざまな経験をしていく。彼は「リーグ」の設立にも深く関わっており、「黒本」の陰の主人公と言えるかもしれない。
・次は「Færie’s Fortunes Founded」という、シェイクスピアの幻の遺稿が紹介される。戯曲の形式をとりながら、オーランドーとプロスペローが妖精の血を引く女王グロリアナの命を受けて、「リーグ」を結成するまでが描かれている。シェイクスピアの文体を真似て、ムーアが悪ノリで書いてるのがよく分かる。
・それからファニー・ヒルの独白の形をとった絵物語が登場。ここだけ紙の材質が違うという凝りよう。性に奔放なファニーがいろいろエッチな目にあいながら、ガリバー率いる第2次「リーグ」と冒険をともにしていく。ここがいちばんアダルトな部分だな。
・ジョージ3世の風刺画が紹介されて、最初の小説部分は終了。
・ここから話はコミック部分に戻り、「黒本」を手にしたミナ・マーレイとクォーターメインが下宿を出て逃避行を続ける。
・一方、”M”は「黒本」を取り戻すため、ジェームズ・ボンド、エマ・ピール、ブルドッグ・ドラモンド(著作権の関係から名前が微妙に違っている)の3人を刺客として送り出す。「おしゃれ(マル秘)探偵」のエマ・ピールの登場からも分かるように、小説だけでなく映画やTVシリーズのキャラクターが登場するのが本書の特徴になっている。

ちなみにジェス・ネヴィンズによる注釈のページはこちら。前2作のときと同様に、いずれ本にまとめられて出版されるらしい。

「The League of Extraordinary Gentlemen: The Black Dossier」解読中

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アラン・ムーア&ケビン・オニールによる「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」の最新作「The League of Extraordinary Gentlemen: The Black Dossier」がこないだついに発売された。前2作が6冊ずつのミニ・シリーズだったのに対し、今回は1冊のハードカバーになっている。それなりに知名度の高い作品であるにも関わらず、ずいぶんひっそりと発売された感があるのはやはりムーアとDCの確執の影響なんだろうか。何にせよさっそく入手したので読んで感想を書こうとしたのですが…

筆舌に尽くせない難解さ。

ムーアが自分の趣味に走って走って走りまくって暴走した結果にこうなりました、というのが如実に感じられる作品。前2作は基本的に冒険活劇が中心で、そのなかに19世紀末の小説や文化に関するリファレンスが散りばめられていたのが楽しかったのですが、今回はシェイクスピアから20世紀前半の映画に至るまで様々な歴史・文化・教養に関するリファレンスがてんこ盛りになっていて、それが完全にメインのストーリーを喰ってしまっている。

例えば冒頭で主人公たちが泊まっている下宿に口の悪い大家さんが出てくるんだけど、あれはどうもジェリー・コーネリアスの母親だそうな。普通そんなの絶対分からないって!例によって有志による注釈のページも立ち上がっているのですが、「フロム・ヘル」のようなムーアによる公式の注釈がないため、すべてのリファレンスが解読されたとは言い難い。まるで登場人物のセリフや背景に描かれた小道具の殆どが何かしらについて言及しているようで、意味不明、もしくは作者の意図したことを十分に理解できていないという感を抱きながら本を読み進めていくことになるんだよね。あと最近のムーアの作品に顕著なことだけど、ポルノ的描写が多すぎ。「ロスト・ガールズ」同様に女性蔑視というよりも性に開放的な表現がされているけど、別にここまで多くしなくてもいいんじゃなかったのか?

本の装丁もかなり暴走していて、「本のなかの本」という形で途中に3カ所ほど小説(散文)が挿入されていたり、ティファナ・バイブル(ちゃんと紙のサイズが違う)が挟み込まれていたり、終盤では話がどんどんメタフィジカルになるのに合わせて赤と青の3D処理がされ、それを見るための専用メガネがついていたりと、もうやりたい放題。噂ではSPレコードをつけるという話もあったそうな。

とまあ、こんな感じであらゆる方向へ常識を逸脱している作品なので、これについてきちんと感想をまとめることはできそうにないです。まだ小説の部分とかは読み切れてないし。だから自分の読書メモのような感じで、各箇所の説明や、読み進んでいって感じたことを箇条書きで何回かに分けて挙げていくことにします。

まずは第1回目:

・主人公となるのは年をとっていないミナ・マーレイと、若返ったアラン・クォーターメイン。キャプテン・ネモなどは登場せず(言及はされる)。
・舞台は1958年のイギリス。第二次大戦のあとに「1984年」のビッグ・ブラザーによる統治が行われ、その統治が終わった(覆された)頃という設定になっている。ビッグ・ブラザーの影響でニュースピークが随所で使用されている。
・ビッグ・ブラザーに代わってイギリスを実質的に支配しているのが「007」シリーズの”M”。彼の正体は何か?というのが大きなプロットになっている。
・かつては国のために活動していたミナとアランは政府との関係を断絶し、今はむしろ追われる身になっている。
・冒頭でミナはジェームズ・ボンドをかどわかして”M”の本拠地に潜入。過去から現在に至る様々な「リーグ」の歴史が綴られた「黒本(Black Dossier)」の入手に成功。
・ミナはクォーターメインとともに下宿に帰り、「黒本」を読む。ここから「黒本」の中身がしばらく紹介される。黒本は基本的に内容が歴史順に並んでいて、太古の昔から20世紀までのことが書かれている。
・まずは「ON THE DESCENT OF THE GODS」という、古の神々がいかに人間と関わってきたかを記した散文。クトゥルフ神話の神々が登場して、それからメル二ボネ帝国が勃興して…といった感じでなかなか楽しい偽史が語られていく。

とりあえず今回はここまで。まだまだ先は長いぞ!