TORONTO COMIC ARTS FESTIVAL

コミック作家のコンベンションがダウンタウンであったので足を運んでみる。
小さな通りを閉鎖して作家たちのテーブルを並べる予定だったらしいけど、あいにく昼過ぎに雨が降ったので狭いテントの中で皆が作品を並べて販売していた。最終日の夕方だったので閑散とした感じだったかな。 「DC: NEW FRONTIER」(大傑作!)の作家であるダーウィン・クックが来ると聞いてたんだけど、どうも彼はテーブルをもたず、ただ単に講演を行ったらしい。でも「SEAGUY」を描いたキャメロン・スチュアートがいたのでしばらく雑談する。実は「SEAGUY」は3部作になる予定で、グラント・モリソンが現在ストーリーを書いてるとか、自分の次の作品は戦争ものになるとか、いろいろ教えてもらう。彼はカナダ人でトロントにスタジオを持ってるらしい。決して超有名ではないけれど、人気アーティストである彼が1人でコミックを売ってる姿はなんかホノボノとしたものがあった。とりあえず「HUMAN TARGET」の表紙にサインしてもらって購入してくる。

DCコミックス 新ロゴ

「スーパーマン」や「バットマン」の出版元であるDCコミックスのロゴが約30年ぶりに新調されることになるらしい(右図参照)。そんなに悪いデザインじゃないとは思うけど、20年以上も以前のロゴに親しんできた身としてはなんとなく寂しいものを感じる。 俺がDCと出会ったのは、子供の頃に住んでたイギリスのケンブリッジにあるマーケットの古本屋でコミックを漁ってたのがきっかけだった。当時はたしかマーヴェルはマーヴェルUKを運営してたはずだからマーヴェルのコミックの方が比較的入手しやすかったものの、そのどれもが白黒のリプリント版で、オリジナルのエピソードがコマ切りにされてダイジェスト版にされているような、お世辞にも出来のいいものだとは子供心にも思えなかった(但しリー&カービィの「ファンタスティック・フォー」のポケットブック版は今でも俺の宝物である。カービィのアートは白黒のほうが映えると思う)。

それに比べ、DCのコミックはすべてがアメリカからの輸入品であったから、全ページが彩色され、大抵の場合はストーリーが1冊で完結してたから、英語が分からなくてもアートを見てるだけで話が理解できたのだった。こうして俺のDCびいきは幼少時に「刷り込み」が行われ、現在にまで続いてるのだ。あと90年代初頭にあったバブル期にDCはマーヴェルほどアコギな商売をしなかったことや、イギリスの才能あるライターたちが大人向けの「ヴァーティゴ」レーベルで活躍してることなども関係してるかな。

新ロゴのもとで、これからもいい作品を出してってください。

トロント コミコン

寒波がやってきてやけに冷えきった日だったものの、ダウンタウンでコミックのコンベンションがあったので出かけてみる。

規模はそれなりに大きく、30くらいのブースがあって様々なコミックが大量に販売されていたものの、今日一日だけの開催であり、トロント最大のコミコンは7月くらいに行われるようだ。会場の奥の方では有名・無名のアーティストたちが自分たちのスケッチを披露したり、ファンにサインをしたりしていた。一番の大物は「Xメン」のクリス・クレアモントで、彼の前にはかなりの長蛇の列が出来上がっていた。個人的には「SEAGUY」を描いたキャメロン・スチュアートのサインが欲しかったのだけど、ここも列が遅々として進まない(ファンのスケッチブックにずっと絵を描いたりしてた)ので諦める。彼は5月の末にあるコンベンションにも来るらしい。

会場ではゴールドエイジやシルバーエイジのコミックから最新のものまでが販売されており、その他にも日本のアニメ関連のグッズやフィギュアなどがいろいろ扱われていた。最近はペーパーバックでいろんな作品が読めるようになったので、個人的には大枚をはたいてまで入手したいタイトルって実はあまりなかったりする。とりあえずバーゲンコーナーでウルフマン&ペレス時代の「NEW TEEN TITANS」とかハワード・チェイキンの「BLACKHAWK」が1ドルとか50セントで購入できたので良かったかなと。

ちなみに客層は若者も当然いるものの、中年の男性なんかもずいぶん多かった。アメコミの購読層は30代の男性(含む俺)が多いという事実を考えれば別に驚くことではないけど、日本の客層とはずいぶん違うのかな。
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「HELLBLAZER」概説

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ここ数日「コンスタンティン」関連のヒットが多発していて、このページを多くの人たちに読んでもらえるのは嬉しいことなのだけれども、「原作と違うダメ映画じゃーん」と書いておきながら原作がどんな作品なのか説明してないのはちょっと無責任かなと思い、原作となったコミック「HELLBLAZER」の紹介を簡単にさせてもらいます。

ただ以前にアメコミ紹介のサイトを運営してたときに痛感したのが、アメコミって基本的に人気さえあれば延々とシリーズが続くので、長いストーリーの過程で登場人物の設定がコロコロ変わったり、過去にあった話が「なかったこと」にされてしまうのがザラに起きるということ。おかげで例えば「コンスタンティンは金髪である」と解説しても、翌月には「彼は生まれつき黒髪だった」なんて設定に変えられるかもしれないのだ。こればっかりはどうにもならないので、とりあえず自分が一番よく読んだ、ガース・エニスがライターを担当してた頃(#41ー83)のストーリーを参考にします。映画版もここらへんのストーリーをベースにしてるので問題ないかと。現在の「HELLBLAZER」は#200を超えているので、後のストーリーと矛盾があるような場合は御免。

主人公のジョン・コンスタンティンはリバプール生まれのイギリス人で、生年は一応1953年とされているが正確な年齢は不明(コミックのキャラなので)。母親は彼を出産中に死亡し、酒飲みの父親のもとで姉のチェリルとともに育った。

コンスタンティンの家系は何世紀にもわたり魔術師を生み出してきた家系で(ただし由緒あるものではない)、コンスタンティンも10代の頃からオカルトに興味を抱くようになる。父親に反発して家出した彼はロンドンに向かい、生涯の親友となるチャズに出会う。またパンク・ロックのムーブメントにも影響されてバンドを結成、レコードを1枚発表する。この頃のコンスタンティンは、オカルトかぶれの自意識過剰な青年だったようだ。


そして彼は自分の力量も知らずに、ニューキャッスルでバンド仲間たちと悪魔祓いを試みるが、これは最悪の方向に向かい、ある幼い少女が地獄に堕ちる結果となる。この件で発狂寸前となったコンスタンティンは精神病院に入れられてしまう。ちなみにこの精神病院の名前「レイヴンスカー」は映画版の病院の名前でもある。

数年後に精神状態を回復し病院から解放されたコンスタンティンは、以前に比べて少しは落ち着きのある人物になったものの、相変わらず人の気に障るような奴としてロンドンに住んでいる。そして文字通り過去の過ちの亡霊に悩まされながら、彼はオカルトにまつわる出来事にいつも巻き込まれていくのだ…。

上記が「HELLBLAZER」の一応の非常に大まかな設定。ものすごく極論すると映画版のように「悪魔との戦い」が主流のストーリーであるものの、オカルトとは直接関係ないギャングの抗争や監獄での暴動などに巻き込まれることもある。なお原作のコンスタンティンは基本的に「口の達者なイヤな奴」であってヒーローではない。しかも悪魔などとの戦い方の手際が悪いというか、大抵の場合は身近な人間が犠牲になってやっと勝利を得るような状態で、後になって犠牲者の亡霊(多数)が彼の目の前に現れることもある。長年続いてるシリーズなのに昔からの登場人物が意外と少ないのは、実は大半が死んでしまっているからなのだ。ふざけた奴のように見えながらも、実は暗い運命を抱えているコンスタンティンの姿こそが人気の理由だろう。

ちなみに職業は「無職」(笑)。金持ちではないものの、常にどこかから金を入手してきてタバコ(愛用はシルクカット)と酒につぎ込んでいる。またオカルトの知識に精通しているだけでなく、輸血によって体内に悪魔の血が混じってたり、簡単な催眠術を使うことができるものの、彼の具体的な能力は明確には説明されていない。映画版みたいに悪魔と正面切って戦うことはなく、ウソとハッタリで場を切り抜けるようなタイプである。未だに謎めいた部分のあるキャラクターであり、そういう意味では主人公を張ってる「HELLBLAZER」よりも他のコミックに脇役で出てきたほうが、さらに謎めいた感じがして面白かったりする。

あとコミックでの初登場はアラン・ムーアの執筆していた「SWAMP THING」にて、スワンプ・シングに自らの能力を自覚させる謎めいた人物として登場したのが始まり。よって実は「HELLBLAZER」は「SWAMP THING」のスピンオフ・シリーズだったりする。ムーアをはじめジョン・トットルベンやリック・ヴィーチといった当時の「SWAMP THING」の作家たち6名が共同でコンスタンティンの創作者として認識されている(はず)。ムーアはこの後「ウォッチメン」に続くミニシリーズ「TWILIGHT」にてコンスタンティンを主役的存在として使うはずだったが、「ウォッチメン」の著作権に関してDCコミックスとケンカしたため、このシリーズはお流れとなり、ジェイミー・デラーノがライターとなって「HELLBLAZER」が始まった…ということらしい。デラーノの後はガース・エニスやポール・ジェンキンズ、ブライアン・アザレロといったライターたちがストーリーを執筆している。

ダラダラと長い文章になったけど、こんな説明で原作の内容が分かっていただけたでしょうか?確かに原作のコンスタンティンってハリウッド大作の主人公とは縁遠いタイプなんだけど、だからってあんなに原作を無視した映画にしなくても…。

「REINVENTING COMICS」書評

コミックの持つ豊かな歴史や独特のスタイル、情報の伝え方などを実に分かりやすく分析してコミック業界外でも大絶賛を得た「UNDERSTANDING COMICS」(邦訳があるんだって?)の著者スコット・マクラウドによる続編「REINVENTING COMICS」を読む。前作ではエジプトの壁画から現在のグラフィック・ノベルに至るまでのコミックの歴史やスタイルの変化などを斬新な観点から地道に語っていったのに対し、本著では現在のコミック業界が抱える問題点や、デジタル時代を迎えたコミックの今後のありかたなどについて語っている。前作が「事実の検証」だったとしたら、今作は「理想の表明」といった感じが近いかもしれない。刊行は2000年。

本の内容は2部に分かれており、第1部はいかに現代社会でコミックが軽視されているかを簡単に述べたあと、現在のコミック・ビジネスがいかに利益をもたらさない構造になっているかを著者自身の経験を例に挙げながら説明している。そして著者は「作家の権利」や「ジャンルの多様性」「コミックのイメージ向上」といったさまざまな要素を挙げながら、作家や出版社がまんべんなく利益を得るにはどのような革新が望まれているのかということを解説していく。

第2部はデジタルの時代におけるコミックの立場、特にパソコンの普及およびインターネットの拡大とコミックとの関連性について解説している。パソコンの黎明期からインターネットの生い立ちまでを詳しく説明している前半部分はそれなりに有益な情報が含まれているものの、コミックとはあまり関係ない。しかもコンピューターの進歩はコミック業界を遥かにしのぐ速度で進んでいるため、2000年に出た本を現在読むとかなり古くさく感じてしまう。そして後半、作品を作家から読者へ直接届けることのできるインターネットの利点を活かした、低額(25セントとか)のオンライン購読システムにコミックの将来があると著者は提案する。ここは後のiTunesミュージックストアの出現と成功を予言してるようで興味深い。ただ音楽と違ってコミックはやはり「紙」という媒体があってこその芸術表現であり、スクリーン上で読むとコミックの魅力が半減してしまうと思うのだが。オンライン・コミックスについてはマクラウドのホームページでいろいろ例が載っているので見てみてください。

「UNDERSTANDING COMICS」ほどの傑作ではないが、コミックに関するビジネス本としてはいろいろ参考になる一冊。