「ボラット」に見る市場調査の無意味さ

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先週末の全米映画興行収入はサシャ・バロン・コーエンの異色コメディ「ボラート」が初登場1位に輝いたとか。ホリデーシーズン前で2640万ドルという数字は決して悪いもんじゃないだろう。まずはめでたしめでたし。

でもさ、実はこの映画って公開の直前に上映館を半分に減らされてるんだよね。配給会社の市場調査により「この映画はアメリカ人にはウケないだろう」という結果が出されたからなんだけど、その調査は見事にハズれたわけだ。後になって配給会社の人は「少ない館で公開することによって話題性が高まった」みたいなことを言ってるらしいが、ホントかね。単館系のアートシネマじゃあるまいし。いずれにせよ事前の市場調査が当たらなかったということは事実だと思っておいていいだろう。

そしてこれは映画ビジネスというものが、いかに予想もつかない動きをするかを端的に表している。スタジオが自信を持って送り出した作品が大コケするのは年に幾度となく目にする光景だし、その逆に意外なヒットを飛ばす作品も少なからずあるわけで、正直言って映画なんてバクチですよあんた。極端な話、公開日に天変地異(テロとかハリケーンとか)が起きて客足が鈍るような可能性もあるわけだし。

だから変に市場調査とかに時間と労力をかけなくても、とにかく優れた映画を作って、それをちゃんと公開して、コケたら「まー仕方ないねー」で笑ってすませるようなスタイルが望ましいと思うんだが、そういうのはビジネスと呼ばないか。まあ数字に疎い俺のやっかみもあるのかもしれないが、あんまり統計とか眺めててもヒット作なんて生まれんよ、と思ってしまうのです。

ちなみにボラットってネタの使い回しがやけに多くないか?キャラクターの性格に統一性を持たせるためとはいえ、「ジョージ・ウォルター・ブッシュの父親はバーバラ!」というネタをここ1週間で3回は聞かされたぞ。

<追記>
上記の件は「AVクラブ」が相変わらず簡潔にうまくコメントしていた。さすが。下の表にあるように、どの映画サイトも「ボラート」がここまで成功するとは思ってなかったというわけだ。
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エイドリアン・シェリー他界

ハル・ハートリーの初期の傑作「トラスト・ミー」で、妊娠して家を追い出される少女を演じたエイドリアン・シェリーが亡くなったそうな。しかもシャワーから首を吊ってる姿で発見され、自殺か他殺かはっきりしない状況らしい。うわー。

決して有名な女優ではなかったけど、「トラスト・ミー」で見せた健気な演技は非常に印象的だったのであります。合掌。

<追記>
19歳の労働者による他殺だと判明したとか。あーあ。悲しいことです。

ホラー映画のリメイクはもういいよぉ

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数ヶ月前に「ウィッカーマン」とか「オーメン」とかのリメイクって別にやる意味ないじゃん、とかいったことを書いたけど、案の定どちらの作品も酷評されて何の話題にもならないまま姿を消していったようだ。ホラー映画ってストーリーとかキャラクターを流用しやすいからリメイクが頻発するんじゃないかと思うけど、とりあえずこういう失敗作が続いたことで映画会社もちょっとはリメイクに二の足を踏むようになるんじゃないかと勝手に思ってたら、いまアメリカでは「呪怨」の7番目くらいのリメイクと、「悪魔のいけにえ」のこれまた5番目くらいのリメイク(いちおう「前編」らしいけど)が公開されてるそうな。最近は週に一本にペースでこんな作品が公開されてるような気がする。もうホラーのリメイクやめようよぉ。

んでこの「呪怨」のリメイク「THE GRUDGE 2」はありとあらゆる方面から酷評されているわけで、こいつもまた失敗作になるんじゃないかと思ってたら、何とスコセッシの「THE DEPARTED」を差しおいて興行成績1位になってしまった。いったい誰が観に行ってんだ?「アメリカの映画観衆の知性を過小評価することはできない」とそのむかし「オニオン」に書かれてたけどまさしくそんな感じか。でも他に観るものたくさんあるだろうに。

俺も前に理由あって「呪怨」の劇場版を観たことあるけど、前半はそれなりに怖いものの、後半になると悪霊があまりにも理不尽な強さを持ってることと登場人物の薄っぺらさが目立ってかなりダメダメだったなあ。清水崇監督って何本おなじコンセプトで映画をとり続けるんだろう?オリジナルのホラー作品だって駄作はたくさんあるけど、映画会社が安易なリメイクで目先の金を追うよりは、もうちょっと独創性のありそうな作品に投資してもいいと思うんだけどね。でもスコセッシの最近の最高傑作だと評されている「THE DEPARTED」もよくよく考えてみればリメイクなわけで、要するにリメイクであろうとなかろうと、出来がよければすべてよしってことなんだろうか。

ちなみにスコセッシはハリウッドを離れて小さな作品に取りかかりたいらしく、遠藤周作の「沈黙」を映画化したいんだとか。日本人監督がハリウッド化していく一方で、ハリウッドの監督が日本の映画を撮りたがるってのは何か皮肉だね。

あと動物もののCGアニメもいいかげんやめい!今年だけで何本公開されてんだよ!

飯を喰わせてくれれば監督しよう

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テリー・ギリアム御大が、新作「TIDELAND」の宣伝もかねて「デイリーショー」の収録スタジオの外に出現して、ファンと楽しいひとときを過ごしたらしい(番組に出演したわけではない)。

段ボールに書かれた「スタジオに見放された映画監督。家族を支える必要あり。飯をくれれば監督する」というメッセージが涙を誘わずにはいられない。彼に平穏の日々はやってくるんだろうか。ちなみに「TIDELAND」って日本だと既に公開されたんだっけ?俺はまだ「ブラザーズ・グリム」も観てないんだけどね。

ギリアムといえば、そのむかしインタビューで言ってた「映画スタジオは大作をヒットさせるような監督には予算をつぎこむし、インディペンデント映画の監督にも期待を込めて金を出すけど、僕みたいな中規模の映画をつくる監督には何の手助けもしてくれない」という言葉が非常に印象に残ってるのです。

「300」トレーラー(slight return)

こっちが公式版。こないだのとはちょっと違ってた。

前にも書いたけど、コミックだと1つのコマで淡々と出来事を描写してても読者の想像力によっていかにでもドラマチックになれるのに対し、映画だとどうしても演出がクドくなって目障りになるのではないかと…。具体的に何を言いたいかというと、ペルシャの使者を蹴落とすシーンは原作だとレオニダスが「これがスパルタだ」と言って無表情に蹴落とすのが非常にクールだったんだが、映画だと彼が絶叫してるのが過剰というか何というか。どのくらいの出来の映画になるんすかね。