「ザ・ファイター」鑑賞


雑記的な感想をいくつか。マーク・ウォールバーグって他の主演映画を観れば分かるように1人できちんと映画を支えられるほどの技量を持った人ではないけれど、今回はクリスチャン・ベールとメリッサ・レオの怪演がそれを十分に補っていることで楽しめる映画になっている。むしろ役者としてのカリスマのなさが、兄と母のエゴに翻弄される主人公の役に今回はうまくはまっている感じか。

一方のクリスチャン・ベールは以前にも何度も減量して痩せ男を演じているので今回の役作りはそんなに驚くほどでもないが、むしろ後頭部にちゃんとハゲをつくっているところにプロの根性を感じましたよ。ただしあまりにも外見的な役作りのインパクトが強いため、いつ画面に出てきてもそれは「痩せたクリスチャン・ベール」であって「ディッキー・エクランド」には見えないのが残念。彼は実在の人物を演じるのには向いてないタイプなのかもしれない。彼らの母親を演じるメリッサ・レオは、ジョン・ウォーターズの映画に出てきそうな格好で、同じ姿の娘たちを何人も引き連れて歩く姿が圧巻。それに比べるとエイミー・アダムスが至極まっとうな人物に見えてしまうせいか、レオがアカデミー賞穫ったことは理解できるものの、アダムスがノミネートされたのはちょっとどうなんだろうとも思ったな。

実際の話を追った脚本はうまく随所にクライマックスを練りこんで退屈させない出来になっているものの、主人公たちの目指すものがいまいち分かりにくいところが難点。主人公がマイナーな試合に勝って小銭を稼ぎたいのか、世界的なボクサーを目指してるのかが読みにくいというか。また肝心のボクシングの試合はパンチの音がみんな同じに聞こえるし、最後のクライマックスでスローモーションになるタイミングもなんかずれていたような?すべてのボクシング映画が「レイジング・ブル」のようにスタイリッシュであるべきでもないだろうが、試合中のボクサーの心境をもっと映し出しても良かったんじゃないかと。

とまあいろいろ書いたけど、ベールの怪演はやはり見ものだし、欠点はあるけれど悪くはない映画ですかね。

「MEGAMIND」鑑賞


個人的に「ヒックとドラゴン」で大きく株を上げたドリームワークス・アニメーションの新作。これ日本では劇場公開されないんだよな。勿体ない。

崩壊する惑星から赤ん坊のときに両親によって脱出させられ、地球に辿り着いた異星人メガマインド。彼は到着した先が刑務所だったことから囚人たちに悪の道を教え込まれ、さらにその青色の肌とハゲ頭という外見が災いして学校で仲間はずれにされたことなどから心がひねくれ、史上最強の悪党になることを決心する。しかしその野望は同じく他の星からやってきた正義のヒーロー、メトロマンによって常に打ち砕かれ、いつもメガマインドは刑務所送りになっていた。しかしある日、メガマインドの立てた計画のなかでメトロマンの意外な弱点が明らかになり、なんとメトロマンは死亡してしまう。こうしてメガマインドは世界(というか舞台となる街)を支配することが出来たのだが、いざ目的を果たしてしまった後の生活は彼にとって空しいものだった。そんななか彼は意中のTVレポーターであるロクサーヌに変装して近づくのだったが…というような話。

映画のコンセプトが「もしレックス・ルーサーがスーパーマンに勝ったら?」というものであることからも分かるように、スーパーマンの物語をうまく裏返して悪党の視点からとらえた内容になっている。よってスーパーマンに関する最低限の知識がないと十分に楽しめないかも。マーロン・ブランドーのパロディも出てくるぞ。主人公のメガマインドは悪党なんだけどその動機は非常に純真で、疎外感と劣等感を抱いていて女の子の口説き方も知らない童貞のダメ男というその姿には同情を禁じ得ないなあ。ストーリーもスーパーヒーローものの決まり事をををうまく脱構築しているというか、いい感じにヒネリがきいているといった具合。

明らかに3Dを意識した演出が多いのは置いとくにしても、アニメーションの出来もいいしアクションシーンも満載で気軽に楽しめる出来になっている。夜の街の風景とかが特に奇麗だったな。ただし有名ロック・ソングを多用してそれに合わせた演出をしてるのは何となくチープで好きじゃないな。また最後のバトルももうちょっと長くても良かったかも。そうういう意味では「ヒックとドラゴン」ほどの出来ではないけど、「カンフー・パンダ」くらいのものではあると思う。大スクリーンで観ればもっと楽しいと思うんだけどね。ホント勿体ないよね。

「FOUR LIONS」鑑賞


以前にも何度か紹介した、ドジで愉快なテロリストたちのドタバタを描いたクリス・モリスの風刺映画をやっと観たのですよ。

映画のコンセプトについてはここに書いたが、要するに一見すると不気味で怖いイスラムのテロリストたちも実は間の抜けた普通の人たちなんですよ、というような内容。話の主人公となるのはシェフィールドに住む4人のイスラム過激派の若者たちで、彼らはカッコつけてテロのメッセージを撮影し、いつか自爆テロを起こして英雄扱いされることを夢見ているものの、何を爆破すればいいのかも思いつかないような呑気な連中で、パキスタンのテロリスト養成所に召還されてもあまりの役立たなさにすぐ追い出されるほどだった。それでも彼らはめげずに昼夜せっせと爆弾作りに励み、新メンバーを迎え入れたりするものの、メンバーの1人が爆弾を抱えて転んで爆死したりと災難続き。そしてついに彼らはロンドン・マラソンで自爆テロを起こそうと決意し、ロンドンに向かうのだが…というようなストーリー。

テロリストたちをステロタイプ化して馬鹿にした内容だったら単なる差別映画になってたろうが、クリス・モリスってもっと頭のいい人なので、しっかり時間をかけてさまざまなテロリストの生活などについて調べあげ、結局のところ彼らは普通の人間なんだよということを描いている。過激な思想を持っている一方で彼らはラップやダンスを愛し、メンバーのリーダーは良き夫で父親なのだ(自爆テロを切望する夫に理解を示す妻というのはちょっと不気味だったが)。テロ計画を成功させようと無い知恵を必死に絞るその姿は、うまいオレオレ詐欺を考えつこうと努力する日本のDQN青年たちのようであったよ。

なおモリス本人は出演してないこともあり、あの傑作シリーズ「BRASS EYE」などとはちょっと違ったタイプのブラックコメディーになってるかな。あっちがシュールで極悪なジョークを連発していたのに対し、こちらは当然ながらストーリー重視になっているというか。会話のあちこちに挿入されてるジョークには腹をかかえて笑ったけど、終盤になって人がどんどん自爆するようになると少し現実味に欠けてきて、ややハリウッド的な展開になってしまったかもしれない。でも意外とペーソスに満ちた終わり方は良かったな。

内容が内容だけにこの映画が日本で公開されるとは思えないが、こういうテロリストのイメージと実情のギャップって、日本のネトウヨにとっての在日とか中国人のそれと通じるものがあるんじゃないの。いずれ外国人が一斉に蜂起して日本を侵略すると怯えてる人がいたらこの映画を見せて、怖そうな人たちも実は愉快な連中なんですよと教えてあげるのもいいかもしれない。

「恋とニュースのつくり方」鑑賞


震災のあとに観て楽しめるかなと思いつつ映画館に行ったんだけど、いい気分転換になった。皆さんもこういう息抜きをおすすめします。

内容はレイチェル・マクアダムス演じるTVプロデューサーの主人公が念願の全国ネットワークに就職して早朝番組を担当するものの、その番組の視聴率は最低でキャスターもやる気なし。そこで彼女は大ナタをふるって男性キャスターを解雇し、ハリソン・フォード演じるベテランニュースキャスターを夜の番組から連れてくるが、彼は堅気なニュースにこだわる頑固者で…というようなもので、働く女性ものの映画としてはまあベタな出来かな。

でも話のテンポが速くて観てて飽きないうえ、登場人物のやりとりもなかなか巧妙で面白い。風刺というわけではないけどテレビにおけるニュースと娯楽のバランスについて語られたり、頑固オヤジが徐々に心を開いていくあたりもうまく描けてるかな。ハリソン・フォードってご存知の通り演技の幅がとても狭い人で、本人ももはや演技に対する情熱があまり残ってなさそうなので主役として映画を抱えるのはしんどいところにきてたんだが、この作品では脇役にまわり、彼がいま唯一ちゃんと演じられる役であろう頑固オヤジを好演している。キャスターとして彼とタッグを組むダイアン・キートンは、ここ最近お馴染みとなった「変人だけど寛容なオールドミス」という役柄で、もうちょっと他の役も演じようよと思うけど、まあ似合ってるからいいや。主人公のボーイフレンドを演じるパトリック・ウィルソンだけがとってつけたような役柄の気がしたけど、どうも働く女性ものの映画って彼氏の存在がおろそかになるようで。もちろん主人公のマクアダムスはいい感じですよ。

映画館まで観に行くほどの作品ではないかもしれないけど、DVDやテレビでさらっと観るなら十分に楽しめるであろう佳作。

「127時間」鑑賞


最初に言っとくとグロ注意。切断シーンはやはり痛いよ痛いよ痛いよ。デートで観たりするとちょっとしんどいことになるかも。

これを観る人の殆どがストーリーの展開および結末を事前に知っているだろうし、場所の移動などは皆無に等しい内容でありながら(だって人が5日間岩のあいだに閉じ込められる話だぜ?)、映画としてここまで楽しめる出来にしてしまった手腕はやはり凄いなあと。普通だったらどこかのケーブル局がTVムービー化する程度だったろうに。

以前にも書いたがダニー・ボイルっていま活躍中の映画監督のなかでも抜群の映像センスを持った人で、ミュージック・クリップ出身の監督たちとも違った独特のスタイルを誇っていると思うんだけど、前作「スラムドッグ・ミリオネア」ではその映像美が行き着くところまで行ってしまったような気がしたんだよな。そして今作も基本的にはそのスタイルが踏襲されているんだけど、話の展開自体はとても地味なので、それを映像美が補うことでいい感じの相乗効果が生まれている。自分の尿を飲むシーンをスタイリッシュに描ける監督というのはそういないだろう。

自分の腕を岩に挟まれて身動きできなくなった主人公の苦境と、彼の回想や妄想がカットバックする作りは「トレインスポッティング」でレントン君がベッドで寝込んでるシーンの雰囲気に近いかな。狭い岩間と、そこから見える頭上の青い空との対比などが非常に効果的。話を通じて主人公が大きく成長するような話ではないので「スラムドッグ」に比べると弱冠物足りない感じもするが、とても良く出来た作品ですよ。