映画三本

いま出張でアメリカに来てるわけですが、行きの飛行機の中で観た映画の感想をざっと:

「THE MECHANIC」
オリジナルは未見。なんかものすごく平凡なアクション映画。ジェイソン・ステイサムってもっと幅の広い演技ができる人なんじゃないかと思うんだけどね。殺し屋がボンクラを弟子として育てるんだけど、ボンクラはやはりボンクラでしかなかった、というような話。殺し屋の主人公が毒殺を好むのがカッコ悪いといえばカッコ悪いな。

「THE COMPANY MEN」
これって監督はジョン・ウェルズだったのか。長年勤めた会社をクビになった男たちの悲哀を描いているのはいいんだけど、いままでゴルフ三昧だったブルジョアが職を失って肉体労働をするようになり、素朴にお金を稼ぐことの喜びを知る、というような演出はちょっとクサい。人がどんどんクビになっていく一方で企業のトップが金持ちになっていく状況への言及とかはあるものの、社会批判の色が薄いのが個人的には残念。あとクリス・クーパーのキャラクターの扱いが尻切れトンボになってない?

「NEXT THREE DAYS」
殺人の容疑で収監されてしまった奥さんを救うため、夫がYouTubeでテクニックを学んで彼女の脱獄を試みるという話。どうも行き当たりばったりの展開が多く、偽パスポートを用意する男のキャラがやたら立ってるのにすぐ消えてしまったり、脱獄を入念に計画してるようで夫は意外と力技に頼るし、そもそもそんな計画を立てるヒマがあったら、奥さんが無罪であることを頑張って証明するのが先じゃないのか?ウジウジ悩む主人公に無骨なラッセル・クロウはミスキャストだよな。ポール・ハギスの映画ってどれも主人公がウジウジ悩んでるような気がする。

「英国王のスピーチ」鑑賞


遅ればせながら。なんかとても無難な映画だなあという感じ。「事実に基づいた物語」「英国皇室のドラマ」「ハンディキャップに打ち勝つ主人公」といういかにもアカデミー賞向けの題材に、エグいキャンペーンを行うことで知られるワインシュタイン・カンパニーが加わればオスカー映画のいっちょあがり〜といったところか。

世界で最も演技が巧い役者だと思うジェフリー・ラッシュとコリン・ファースのやりとりが面白いことに救われて、彼らの会話シーンが大半という構成にも関わらず中だるみしない出来になっているものの、どうも話の展開にメリハリが無いような?主人公の吃音症のもとになった幼少時のトラウマ的経験についても会話のなかでさらっと説明されるだけだし、戦争を目前にして国民に訴えかける義務をもった彼の決意とか、彼の症状の改善に向けたブレイクスルー的発見みたいなものもあまり描かれていなくて、比較的淡白な内容になっていたような。

特に兄のエドワード8世は後にナチスと組んで王位の奪還を画策したほどの稀代のボンクラであることは周知の事実であるわけで、兄との確執をもっと深く描いても良かったような気がする。また献身的な妻を演じるヘレナ・ボナム=カーターもいい演技をしてるのだけど、我々にとってのクイーン・マザーというのはハイヒールと厚化粧をして130歳くらいまで生きたオバさんというイメージが強いので、頭のなかでそのイメージとボナム=カーターの姿が錯綜してしまったよ。

アカデミー賞を穫ったこと自体は驚かないけど、これが昨年ベストの映画かといったらそうではないわな、といった作品。

「Fight For Your Right Revisited」鑑賞


言わずと知れたビースティ・ボーイズの新譜にあわせて作られた短編映画。監督はメンバーの1人であるアダム・ヤウク。

ストーリーはあって無いようなもので、イライジャ・ウッドとダニー・マクブライドとセス・ローゲンが演じるビースティ・ボーイズがビール飲みながらニューヨークの路上で乱痴気騒ぎを広げているうちに、ウィル・フェレルとジャック・ブラックとジョン・C・ライリー演じる未来の彼らと遭遇し、ダンス・バトルを繰り広げるというもの。いつの間にか小便のかけ合いになってしまう展開がアレですが。

とにかく出演者が豪華で、上記の6人のほかにウィル・アーネットやテッド・ダンソン、キルステン・ダンスト、スーザン・サランドンなどといった有名俳優がわんさかとカメオ出演している。たぶん近くのスタジオで撮影している人たちに片っ端から声をかけたんだろう。知ってる顔がどれだけいるかを数えながら観るのもいいかも。カウベルを叩くウィル・フェレルなんていう懐かしいネタも入ってるぞ。

「トゥルー・グリット」鑑賞


やはりコーエン兄弟はコメディでなく真面目な作品を撮ったほうがずっと面白いことを再確認。この時代にこの映画をリメークする意義はよく分からんが、変なギミックも無いストレートなウェスタンで大変楽しめたのでありますよ。「ノーカントリー」のように無慈悲で暗いシーンを描きつつ、会話のあちこちにドライなユーモアを混ぜる手腕も円熟さが感じられますね。父親を亡くして復讐の旅に出た娘が、やがて老保安官のなかに父親像を見いだす過程もさりげなく描かれていて巧いなあと。

演出だけでなく役者の演技もみな素晴らしく、特にジェフ・ブリッジスは「クレイジー・ハート」なんかよりもずっといい演技だったんじゃないの。腹の底から捻り出すような声での演技が実に渋い。話の要となるヘイリー・スタインフェルドも非常に良い。難点があるとすれば親の仇であるジョシュ・ブローリンの役が意外とヘタレであることか。バリー・ペッパー演じる悪役のほうが凄みがあったような。

これだけの作品なのに東京でも公開館が少ないのが惜しい。ウェスタン好きな人には観ることをおすすめします。

「ブラック・スワン」鑑賞


ダーレン・アロノフスキーって「ファウンテン」や「レスラー」と続いてちょっとは明るい人になったかな?と思ってたのですが(あくまでも以前の作風に比べてだけど)、これは「レクイエム・フォー・ドリーム」の悪夢路線を踏襲する内容になっていた。

独特の雰囲気を持った非常によく出来た作品ではあるんだが、少女マンガを読んだり昼メロを観たあとにどっと疲れが出るのと同じで、観てていろいろしんどいところがある映画であった。「レクイエム」もしんどかったけど、あちらは最強の原作に支えられていたのに対し、こちらはやはり話が少女マンガの域を出ていないような。ドロドロした雰囲気はよく出ているので、そういうのが好きな人にはたまらんでしょうが、そういう人たちってアロノフスキーの映画は観ないよな。

役者はナタリー・ポートマンが文字通り体を張った演技を見せつけていて、アカデミー賞を穫ったのも納得できる。表情が硬いのは役のせいなので仕方ないけど、暗黒面に堕ちたさまをもう少し見たかった気もする。彼女と対照的なキャラを演じるミラ・キュニスは奔放でいい感じ。どの映画でも同じような役を演じている気もするけどね。個人的にいちばん良かったのはバレエのコーチを演じるヴァンサン・カッセルで、高圧的なエロ親父の役がハマりすぎ。ウィノナ・ライダーは「スター・トレック」並みのチョイ役だったので何とも言えんな。むしろ主人公の母親を演じるバーバラ・ハーシーのほうがずっと怖い女性を演じていた。

しかしどうもうまく説明できないんだが、今までのアロノフスキーの作品と比べて何かが足りない気がするのは何故だろう?主人公がその役柄ゆえに観る人も拒絶して感情移入させてくれないせいなのかな、あるいはクリント・マンセルの音楽がチャイコフスキーの「白鳥の湖」に遠慮してるせいか?ここはぜひ女性の感想を聞いてみたいところです。