「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」鑑賞


マシュー・ヴォーンは「キック・アス」が個人的にダメだったのでちょっと不安だったんだが、これは純粋な娯楽作品として楽しめた。60年代の007映画のパスティーシュ的なノリが良かったのかな。ただしアメコミに関する結構な知識を求められる内容になってると思うので(まさかアザゼルが出てくるとは思わなかった)、原作を知らない人には意味不明のところがあるかもしれない。

前の3部作よりも良いという意見も見かけるけど、プロフェッサーXとマグニートーとの関係に限って言えば、やはりパトリック・スチュワートとイアン・マッケランというベテラン俳優同士の対決のほうが優れていたかな。ジェームズ・マカヴォイはチビで童顔なのが災いして、指導者というよりも部活のマネージャーのように見えてしまうのが難点か。でも両者のイデオロギー違いが明確になり袂を分かつ流れはうまく描かれていたと思う。尤もこの映画にイデオロギーなどをあまり期待してはいけないわけで、「差別は良くない!」と言っときつつも黒人キャラは全く活躍しないし。あとアメリカ政府はレイ・ワイズにマイケル・アイアンサイドにオリバー・プラットといった俺好みの俳優を揃えておきながら、数人のミュータントに手玉にとられてしまうのが情けないのう。

突出してこれが良かったというような点は無いものの、ストーリーのテンポもよくて無駄がなく、見せ場もきちんと作られている快作。プリクエルであるがゆえに話が少し制限されている感じがするが(特にミスティークまわり)、いっそもう前の3部作は無視して自由に話を進めたほうが良いんじゃないのかな。フォックスは新たな3部作を作る気でいるらしいけど、ここから話はどう展開してくんだろう?次はベトナム戦争を背景にフォージが登場するとか、福島広島出身のサンファイアが出てくるとか?人類とミュータントが結束してヒッピーと戦う、なんてのもいいかもしれない。

「RUBBER」鑑賞


殺人タイヤの襲撃!というぶっとんだコンセプトのおかげで日本でも(一部で)話題になっていた作品。フランス人監督のカンタン・ドゥピューってミスター・オワゾという名義で活動してるミュージシャンらしいが、知らんなあ。

舞台となるのはアメリカの砂漠地帯で、意識を持った古タイヤがむっくりと起き上がるところから話は始まる。このタイヤ(クレジットではロバートという名前が付いている)は出会ったものを片っ端から破壊していくような気が荒い奴なのですが、いかんせんオンボロのタイヤであるために空き瓶も踏みつぶせない。しかしロバート君には秘密兵器があって、全身を震わせて意識(?)を集中させることで念動力を使うことができ、これで小動物や人間の頭を「スキャナーズ」よろしくボーンと爆発させることができるのでした。この能力をもってロバート君はモーテルや近くの町で惨劇を繰り広げていくのでした…というのが主なストーリー。

これだけ聞くと変なB級ホラーのように思えるかもしれないが、話にはもう1つメタフィジカルなコメディの要素があって、映画の冒頭から町の保安官が車のトランクから出てきて「『ET』のエイリアンはなぜ茶色なんだ?恋愛映画の登場人物はなぜ狂おしい愛に落ちるんだ?(略)それらに理由なんてありはしない。君たちがいまから観る映画にだって理由なんかないんだ。」なんてカメラに向かって語りだす次第。おまけにご丁寧にも10人くらいの「観客」がこの映画に登場していて、ロバート君の行動を双眼鏡でリアルタイムで観察しながら「いまのは念動力だぜ!」なんていらぬコメントをつけてくれたりしている。

やがて上述の保安官がロバート君の事件を担当したり、観客がひどい目にあって保安官のところに向かうなど、メインの話とメタな部分がどんどん絡み合っていくのだが、こういうのってイヨネスコあたりを意識してるんだろうか。でもこういった不条理さとB級ホラーって決して良い組み合わせではないようで、下手な楽屋オチを見せられた気分というか、話が進むにつれて誰が死のうがタイヤがどうなろうが結構どうでも良くなってくるのは否めない。あとタイヤに追いかけられるゴスのフランス娘は意外と可愛いんだが、ここはやはり金髪のスクリームクイーンが欲しかったな。

トレーラーをから真っ当なホラーを期待してると壮絶な肩すかしをくらわせられるし、劇場で金払って観るほどの作品ではないだろうけど、笑えるところは笑えるし、音楽も結構いいのでレンタルビデオとかで観るぶんには悪くない映画かと。

「探偵<スルース>」鑑賞


以前から観たかったローレンス・オリヴィエとマイケル・ケインの密室劇。何故か日本やアメリカでは長らくDVDが絶版になっており、イギリス版を買おうかと考えていたらなんとYouTubeに全編がアップされていた。これも日頃の行いのおかげ、ということにしておこう。

郊外の大邸宅に住む老推理作家(オリヴィエ)のもとに美容室を営む青年(ケイン)が招かれる。実は作家の妻と青年は不倫関係にあり、それを知っていた作家は青年を陥れるために自宅の宝石の盗難詐欺の話をもちかけるのだが…というようなストーリー。もともとは舞台芝居で、話の展開から察するに3幕ものかな?

ミステリー仕掛けなのでいろいろドンデン返しなどもあったりするのだけど、あまり謎解きの要素などは強くなくて、邦題にあるような「探偵」も出てこなかったりする。オリヴィエとケインの巧妙かつ辛辣な会話を楽しむ作品といったところか。女性問題からはじまった対決が、いつの間にか階級闘争につながっていくあたりがイギリス映画らしいですね。最初はオリヴィエに手玉にとられていたケインが、徐々に彼に復讐していく流れが巧い。いまでは賢い老人を演じることが多いケインだが、不遜な若者を演じていたこの頃の演技も俺は好きです。

主演の2人以外は出演者が全くおらず、ロケーションも非常に限られている作品だが、オリヴィエが蒐集している人形のショットなどが効果的に絡められ、観ていて飽きない出来になっている。それでも2時間ちょっとという尺は長いと思うけどね。最近ケネス・ブラナーがリメークしたものは89分という出来らしいが、どういう演出がされてるんだろう。あと話の最後に出てくる赤いレインコートの意味を誰か知っていたら教えてください。

ちなみに「This Charming Man」の「A jumped-up pantry boy who never knew his place」ってこの映画からの引用だったのか。

「Cave of Forgotten Dreams」鑑賞


ヴェルナー・ヘルツォークが3D映画を作った!ということで話題になった作品。でも俺が観に行った映画館では2D上映だったよ。

フランスのショーヴェ洞窟を扱ったドキュメンタリーで、そこで発見された3万年以上前の壁画についての解説がずっと行われていく。落盤により入り口が長い間封鎖されていた洞窟のはるか奥の壁に浮かび上がる壁画の数々はどれもが神秘的で、現代人が見ても一目で馬や牛などが分かるその画力には感嘆を禁じえない。動物の動きを表すために8本の足が描かれた絵があるとか、特定の個人の手形が洞窟のあちこちに見受けられるとか、絵によっては5000年の間をおいて描かれてるものもあるとか、近年の調査によって明らかになった驚異の事実がいろいろ語られていく。それとこの洞窟に対するさまざま研究の成果や、保存に対する取り組みなどの解説もされるんだが、一般客向けに公開してるわけでもないのに様々な技術を導入して調査をしているフランス政府は偉いよな。

ただし従来のヘルツォークの優れたドキュメンタリーでは、「グリズリー・マン」のように大いなる自然とそれに対する人間の対比が効果的に描かれていたのに比べ、今回は人間が不在というか遠い昔にいなくなってしまっているため、ちょっと話の盛り上がりに欠けるところがあるかな。よってテレビの科学番組のようなノリになってしまっているところもあり、ついウトウトしてしまったよ。でも洞窟を調査する現代の科学者にはユニークな人もいて、もともとサーカスの大道芸人だったけど科学にあこがれて科学者になったなんて人が出てきたのは面白かったな。

あと3Dの効果については何も言えないが、洞窟の中の撮影は機材が最小限に限られていたため映像がお世辞にも奇麗とは言い難く、どれだけ3Dでとった意味があったんだろう?むしろ洞窟の外の光景をリモコン式の小型飛行機(ヘリ?)で撮ったショットのほうが印象的だった。

そして個人的にギョッとしたのが、映画の終盤にポストスクリプトとして語られる話で、洞窟のすぐ近くには原子力発電所が建っていて、そこでは発電所からの温水によりワニの飼育所があるという件。3万年前には氷河で覆われていたところに、いまでは熱帯の動物が棲むようになっているというオチなんだが、むしろ原発に深刻な事故が起きたら3万年どころか10万年も洞窟がまた立ち入れない場所になるんじゃないかと心配してしまった。放射能とはたぶん関係ないんだろうが、アルビノのワニが飼われていたのもちょっと不気味だったな。

映画四本

出張帰りの飛行機のなかでは映画を4つ観たのだよ:

「ガリバー旅行記」
ジャック・ブラックは嫌いじゃないんだけどね。こういう凡作でありきたりな役ばかり演じてるとそろそろ飽きられるんじゃないかと。意中の人がアマンダ・ピートだってのもいいかげん無理があるよな。せっかく脇役にクリス・オダウドとかキャサリン・テイトとか使ってんのにこの出来とは勿体ない。特に後者は殆どセリフがなかったような。あとジェイソン・シーゲルはもうちょっと痩せたほうがいいと思う。

「ファースター 怒りの銃弾」
むかし銀行強盗をしたあとに襲撃され、兄を殺され金を奪われたザ・ロック様が、出所後に自分を襲撃した連中に復讐していくアクション。でも主人公はあまり復讐心に燃えてなくて困惑した顔で人を殺してるし、復讐される側もみんな「あーついにこの時がきたかー。」といった感じで半ば諦めてて、まっとうなバトルは展開されない。というか主人公、刺し殺したはずの相手が蘇生したので病院まで行ってさらに撃ち殺すというのはなんか情けないぞ。これに定年間近の警部とか動機不明の殺し屋とかが加わり、伏線もないまま腹の立つような展開が待つラストを迎えていた。何も観る価値がない駄作。

「ナルニア国物語/第3章」
おれ小中学生のときに原作を全部読んだはずなのだけど、この話の内容は完全に忘れてしまっていたよ。マイケル・アプテッドが監督してるのに子供たちよりもCGにばかり焦点が当てられてしまっているのが残念。キリスト教徒をターゲットにした映画なので、アスランが話したりするたびに「これはキリストのどういうアレゴリーなんだ?」と変に穿った見方をしてしまった。

「デビルクエスト」
ニコラス・ケイジがまた女性に暴力を振るう映画。こないだDV容疑で逮捕されたことを考えるとあまり笑えんな。中世の騎士が魔女を檻に入れて運ぶだけの内容で、照明は単調だしCGはゲームなみだし何もいいところなし。こんなの日本で劇場公開するんだったら他にもっといい映画が山ほどあるだろうに!ケイジはもう真面目な映画に出ない方がいいんじゃないだろか。

半ば寝ながらでも話を追っていける映画ばかり選んだら、結局のところダメ映画ばかりになってしまった。こんなんだったら「ブルー・バレンタイン」でも観とけばよかったな。