「スーパー!」鑑賞


うむ。やはり「キック・アス」よりこちらだよな。

まず驚くのがキャストがやけに豪華なことで、神の声に啓示を受けてスーパーヒーロー稼業に目覚めるクリスチャンの主人公を演じるレイン・ウィルソン(でも実生活ではバハーイー教徒)は監督のジェームズ・ガンの元嫁と「THE OFFICE」で共演してるのでそこから起用されたのだろうし、たぶんギャラも高くなかったんだろうが、脇を固めるのがエレン・ペイジにケヴィン・ベーコン、リヴ・タイラー、ネイサン・フィリオンといった主役級の俳優ばかり。これって監督のトロマ人脈とは関係ないよな?あとはアンドレ・ローヨとかリンダ・カーデリーニといった俺好みの役者も出ています。後者は1シーンしか出てなかったけどね。しかしケヴィン・ベーコンはいつの間にか悪役が似合うようになったなあ。

話の流れをおおまかに3つに分けるとすると、最初は主人公がスーパーヒーローとなっていろんな人を痛めつけていくサイコぶりが良かったのですが、第二幕になってエレン・ペイジ扮するサイドキックのより過激なサイコぶりに主人公が圧倒されてしゅるしゅると凡人に戻っていく展開にはちょっと難を感じたよ。彼女のキャラを好きな人も多いだろうけど、主人公をドン引きさせたのはどうなんだろうね。そして第三幕では比較的ストレートなアクション・ムービーとなってしまって、そのまま終わるのかと思いきやエピローグではうまく主人公のサイコぶりが表現されて、きちんと着地したなあ、といった感想。

目の前で行列に割り込んだ奴を撲殺したいという願望は誰でも抱いてるわけで(抱いてるよね?)、それをちゃんと描いているという点では下手なスーパーヒーロー映画よりもはるかにカタルシスを与えてくれる佳作であった。

「PAUL」鑑賞


邦題はもう決まってるんだっけ?劇場公開版より6分長いというUnratedバージョンを観たのですが、当然ながらどこがどう長いのかは分からず。

憧れのコミコン会場に来ていたイギリス人のオタク友達であるグレアムとクライブは、キャンピングカーを借りてエリア51とかロズウェルといったUFOオタクの聖地めぐりに出るのですが、途中で政府から逃げてきたというエイリアンのポールと遭遇。さらに泊まったモーテルではルースというキリスト教原理主義者の女性とも出会って4人の珍道中が続くのですが、そんな彼らを政府のエージェントやルースの父親が追いかけてきて…というようなお話。

SF的なテイストが多分にあるとはいえ、基本的には男3人のブロマンス・ロードムービーといった感じ。そこらへんは同じ監督(グレッグ・モットーラ)の「デイトリッパー」とか「スーパーバッド」に通じるものがあるかな。また脚本をサイモン・ペグとニック・フロストという主演のイギリス人2人が書いていることから、アメリカ南部の閉鎖性とかキリスト教原理主義を風刺した内容にもなっているが、日本の観客には分かりにくい部分があるかも。また「スター・ウォーズ」をはじめとするSF映画のパロディがわんさか盛り込まれていて、特にラストの「Someone who loves you」は絶妙だったなあ。ウィルヘルム・スクリームも使われてるので探してみよう。

ただしストーリーが比較的ストレートすぎる気もしたので、もう少しヒネリがあっても良かったかもしれない。ポールが万能すぎるの話のテンションを削いでいるかと。主演の2人が出ている「ショーン・オブ・ザ・デッド」や「ホット・ファズ」に比べるとテンポの良さには欠けるので、そっちを期待する人はエドガー・ライトの「スコット・ピルグリム」を観ましょう。

「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン 」鑑賞


実は前2作をまっとうに観てませんでして、マイケル・ベイの映画を観るのって「パール・ハーバー」以来になるのです。

観てて実感したのは、マイケル・ベイって根本的に「溜め」が作れない人だなということ。せいぜいアクションシーンにスローモーションをかけるくらいで、話の流れに緩急がつけられないから話が盛り上がるべきところで盛り上がらず、ただただ同じペースで話が進んでしまうんだよな。悪役のディセプティコンが「オートボットどもを地球から追い出せ!」と命じ、人類がそれにすぐ従ってオートボットを追放する一連の流れもさらっと描かれてるから違和感を感じてしまうし、このためオートボットが戻ってきたときも抑揚感がまるで感じられないのですよ。重要なキャラクターが裏切るシーンなんかもきちんとした前振り的な演出がされてないから、ものすごく唐突な印象があったし。こんな演出でもアクションシーンはまだ観てて飽きないところがあるものの、人間同士のドラマのシーンになったりすると目も当てられない状態になっていて、みんな大声で叫ぶだけで感情の盛り上がりなどが徹底的に欠けておりました。

そんな演出がされている出演者たちですが、主人公の小僧は奇声をあげているだけでカッコよさはまるでなし。ヒロインのクチビルオバケ(演技経験なし)は2度と映画に出るベきではないだろう。脇役にはフランシス・マクドーマンドやジョン・タトゥーロ、ジョン・マルコヴィッチ、ケン・チョンなどといったいい俳優を揃えてるのに、とても適当な演技しかしてないのが残念なところ。というかマルコヴィッチとチョンって出る意味なかったんじゃないか?あのストーリーに無縁なキャラクターがいなければ尺も20分くらいは削れたんじゃないかと。そして悪役を演じるマクドリーミーはいつ見ても殴りたくなる顔をしている。

こういう映画に大金がかけられて製作されるのって何かおかしいと思うよ。うーん。

「ランゴ」鑑賞


実はゴア・ヴァービンスキーの映画観るのってこれが初めてだったりする。彼が監督してジョニー・デップが主役の声を演じたCGアニメ。

演技好きなペットのカメレオンが、飼い主の車から放り出されて砂漠をさまよっているうちに動物たちの暮らす町に辿り着く。そこで彼は自らを「ランゴ」と名乗り、持ち前のハッタリと運の良さに助けられて町の保安官に任命され、町の貴重な水の蓄えを盗んだ連中を追跡するのだが…というような話。

最初はリアルに人間が出てくるものの、いつの間にか動物たちが人間のように暮らす町が出てくるわけだが、そういう細かいところにいちいち突っ込んでられないほど話が奇妙というかぶっ飛んだ映画だったよ。主人公のランゴの性格からして何かヤバいくらいに天然だし、話の展開も荒唐無稽。プロット自体はシンプルなのでストーリーが破綻しないで済んでいるものの、ピクサーやドリームワークスのアニメとは明らかに違った出来のものになっている。あの2社の作品のルーツがディズニー作品にあるとしたら、こっちのはもっとブラックなルーニー・チューンズやハンナ・バーベラ、あるいはもしかしたらラルフ・バクシの作品にあるんじゃないかと。

そしてプロットは「チャイナタウン」やマカロニ・ウェスタンをベースにしているし、「ラスベガスをやっつけろ」とか「地獄の黙示録」とかのパロディもあって、対象年齢は40代以上か?といった感じ。ランゴ以外のキャラクターの造形も結構グロテスクで、ヒロインにいたっては日野日出志のキャラクターみたいだったぞ。よって子供向けだとかジョニー・デップのオサレな映画だと思って観にいくとドン引きすることになるかもしれない。

でもアニメ映画としては比較的長尺ながら話のテンポも良いし、アクションシーンもすごくスピーディーであるほか、アニメーションの出来も夜や夕方のシーンが素晴らしかった。個人的にはかなり楽しめる作品でしたよ。今までのアニメ映画とは異なったところを突いていて、これを作ったILMはピクサー/ディズニーとドリームワークスに次ぐ第三の勢力になるかも(まあ他にもブルースカイとかもありますが)。

カメレオンのランゴになんでヘソがあるのかとか、「西部の精神」がなぜあんな格好をしてるのかとかいろいろ意味不明のところもありますが、それを補ってありあまる勢いを持った怪作。

「Grant Morrison: Talking With Gods」鑑賞


スーパーヒーローの歴史と存在意義を説いた著作「Supergods」がこないだ刊行され、9月のDCコミックスのリブートでは中心的役割を務め、ハリウッド映画の脚本も執筆中ということで最近絶好調のコミック・ライターであるグラント・モリソンに関するドキュメンタリー。

彼の生い立ちとコミック業界での経歴を追った内容になっていて、反戦活動家の父親のもとで冷戦の脅威を感じながらグラスゴーで育ち、その恐れを吹き飛ばす存在としてのスーパーヒーローに出会った幼少時代から話は始まる(ここらへんの経験は、こんどやっとペーパーバック化される「FLEX MENTALLO」に反映されてるらしい)。そしてアートスクールを落第になったあとにライターを目指し、それと同時にサイケデリック・バンドで活動し、「2000AD」などで執筆したあとにDCコミックスにスカウトされて「アーカム・アサイラム」で大ヒットを飛ばし、それからさまざまなコミックを手がけていった経歴が説明されていく。

また彼の趣味であるケイオス・マジックにも多くの言及がされ、カトマンズで神秘体験をした話とか、いかにコミックの出来事と現実の生活がシンクロされているかなどについても語られていく。かつてはとてもシャイな若者だった彼が、やがて自分自身を変えていき、ピリっとした服をきてアルコールやドラッグを服用し、コミックのキャラクターと自身を重ね合わせていき、ついにはコミックのなかに自分の分身を登場させてしまうくだりも面白かったな。

相変わらず破壊的なグラスゴー訛りで話すモリソンだが、言ってることはおおかた理解できた。彼以外にもフランク・クワイトリーやフィル・ヒメネス、マーク・ウェイド、カレン・バーガーなどといった業界関係者によってモリソンのことが語られていくんだが、元弟子のマーク・ミラーは出ていなかった。どうも不仲説は本当らしい。

あくまでもコミックに重点を置いているので「The Mindscape of Alan Moore」ほど哲学的ではなく、今までのモリソンの作品とそれに対する彼の考えをまとめた(現時点での)集大成的な内容になっているかな。ただし彼の作品に詳しくないと、語られることはまったく理解できないだろうから入門的なドキュメンタリーではないかな。

さて、次は「Supergods」を読まねば。