「BATMAN: YEAR ONE」鑑賞


言わずと知れたフランク・ミラー&デヴィッド・マズッケリの同名傑作コミックのアニメーション版。

バットマンことブルース・ウェインと、ジェームズ・ゴードン警部のゴッサム・シティにおける最初の年の活躍を描いたもので、65分という比較的短い尺ながらも原作のセリフや展開を丁寧に映像化していてなかなか楽しめる出来になっている。ラストの「メガネがないと何も見えないんだ」というところは原作以上に思わせぶりな演出になっていて良かったな。なお原作といちばん異なるのは「ゴードンがタバコを吸わない」という点でして、ここらへんはアメリカの表現規制が厳しいんだろうな。原作ではちょっとした小道具的扱いだっただけに残念。

アニメーションの出来も良いんだが、原作に忠実なぶんマズッケリの素晴らしいアートと比べると見劣りしている感があるのは否めない。アクションシーンの決めのポーズとかね。最近はヨーロッパでアートなコミックを描いてるマズッケリですが、スーパーヒーローものにまた戻ってきてくれないかなあ。

声優はゴードン役をブライアン・クランストンが勤めていて、妻子を抱えながらゴッサムの闇と闘うハードボイルドな演技はブレイキング・バッドしていて大変よろしい。それに対してバットマン役のベンジャミン・マッケンジーは滑舌があまり良くないような?バットマンの声優って全てケヴィン・コンロイに任せればいいんじゃないかと思うんですが、もっとセレブな役者を起用していのかね。他にもエリザ・ドゥシュクやケイティー・サッコフなどが声の出演をしてます。

原作コミックを片手に持ちながら鑑賞をしたわけですが、フランク・ミラーって昔はこういう男たちの心情をきちんと書ける人だったんだなあと改めて実感してしまったよ。彼って後期「シン・シティ」あたりから手がけるストーリーがずいぶん大味になってきて、さらに911テロのあとは発言とかが相当ヤバい人になってしまい、監督した映画「スピリット」が大コケしたほか、こないだ久しぶりに出したコミック「HOLY TERROR」はバットマンまがいのヒーローが「イスラム教徒はみなテロリストだ!」といった姿勢で暴力をふるうという相当ヒドい内容になっているらしく、各方面からまんべんなく叩かれているんだよな。こうして「YEAR ONE」が映像化されたり、デアデビルの「BORN AGAIN」も映像化されるという噂があるなか、ミラーが世間からとても遠い所にいってしまった感じがするのは残念なことです。

機内で見た映画

週末から昨日まで海外出張に行ってたので、機内で観た映画の感想をざっと。眠かったんで行き帰りで合計4本しか観てないです。

「カーズ2」
車のディテールなんかは大変美しいと思うんだけどね。やはりストーリーの凡庸さが気になる。ドリームワークスやフォックスの作品だったら許容できたかもしれないが、ピクサーにはそれ以上のものを求めてしまうわけで。スパイアクションに友情の話とかを絡めても何だかなあ、といった感じ。これからピクサーは続編をいろいろ作ってくようだけど、ちょっと不安にさせられるな。

「ブルー 初めての空へ」
それでこっちはフォックスのCGアニメ。人間のデザインが「くもりときどきミートボール」に似てない?飛ぶことを学ぶ鳥の物語なのに肝心の飛翔シーンに躍動感が無いのはどういうことよ。製作者は「ヒックとドラゴン」を100回見直しなさい。ストーリーもおざなりで、いつものブルースカイ作品といったところか。とはいえ日本では全国公開されないのは勿体ないと思う。

「CEDAR RAPIDS」
コメディとして観ると笑えるところとかはあんまり無いんだけど、田舎の保険業界の裏側とか中年の挫折感を描いたドラマとして観るとそこそこ楽しめた。エド・ヘルムズは愚直な若造の役がよく似合うな。とはいえ映画を支えてるのはジョン・C・ライリーの演技力ですが。あとアン・ヘッシュが男好きの役を演じるのにはいまだに違和感を抱いてしまうな。

「SUBMARINE」
「IT CROWD」のモスことリチャード・アヨエイドの初監督作品。火遊びが好きな奇抜な女の子に恋をしたり、両親の不仲を修復しようとするウェールズの15歳の少年の姿を描いたもので、ものすごく美しい映像と絶妙なユーモアで語られていく物語が大変素晴らしい。多感な年頃の不安定な雰囲気がとてもうまく描かれた傑作。飛行機の小さな画面で観たのが勿体ないくらい。

あとは「ワイルド・スピード MEGA MAX」に何度か挑戦したが話のノリにまったくついていけず断念。予告編に出てくる「崖から落ちる車」というシーンのオチが「そのまま川に突っ込んで助かる」というのはズルいんでないかと。「Mr. Popper’s Penguins」も観たけど途中で寝る。過密スケジュールで疲れてたんだよ!

下は「SUBMARINE」の予告編。

「グリーン・ランタン」鑑賞


字幕版3Dにて。3Dの意味なし。というか字幕のエッジが赤くなる現象がたまに起きてたんだけど、あれ何だろう?

いろいろ金かけてるはずなのに残念な出来の映画であったよ。必然的に主人公のオリジンを描いた内容になってるんだが、GLのオリジンなら傑作「エメラルド・ドーン」とか最近のジェフ・ジョンズのやつとか「ニュー・フロンティアー」とかコミックからいくらでも引っ張ってこれるはずなのに、どうも凡庸なものになってしまっている。imdbによるといちおうジョンズがコンサルタントとして関わったり「エメラルド・ドーン」も参考にされたらしいけど、本当かなあ?どうも80年代の特撮映画を観ているというか、あまりコミックに詳しくない人が脚本を書いているような印象を受けたけどね。

出演者はライアン・レイノルズが思ったよりもそんなに悪くなくて、いちばん演技が巧いのは当然ながらピーター・サースガード。完全なミスキャストはキャロル・フェリス役のブレイク・ライブリーで、コミックだと自由奔放に空を飛び回るハル・ジョーダンを地上から見守る大人びた社長令嬢という設定がよかったのに、戦闘機を乗り回す小娘なんかにしてどうするんだよ。あとティム・ロビンスはこうした大作の脇役ばかりやってないで、またインディー映画で主役とかやるべきではないかと思う。それとアマンダ・ウォーラーという(コミックでは)強烈なキャラが出てきたので「これはスーサイド・スクワッドへのスピンオフの布石か?」と一瞬期待したけど、ただのヘタレな役人でしたな。

せっかく大空や大宇宙を自在に飛び回れるヒーローの話なのに、飛行場のまわりをウロウロしてたり、CGのハリボテみたいな惑星が出てきたりと、どうも全体的にショボい作りになっているのも残念。「アイアンマン」くらいの飛翔シーンはやって欲しかった。ハルの父親は離陸時に事故死するし、最後もパララックスと地面に立って勝負するなど、どうもダイナミックさに欠けるんだよな。あとパララックスのデザインがカッコ悪すぎ。黄色いタコみたいだったぞ。ガーディアンズもCGでなく人間の役者を使えば良かったのに。

企画の段階で右往左往してたらこんなの出来ちゃいました、というダメ作品の好例。批評的にも興行的にも失敗してるのは製作側も分かってるはずなので、続編を作るとしたらもっと本腰を入れて作って欲しいところです。

「ライフ いのちをつなぐ物語」鑑賞


なんか公式サイトがとても読みづらいですね、この映画。

何を期待していいのか分からずとりあえず観に行って、とりあえず予想していたものを観せられた、といった感じ。極地のアザラシの親子やアフリカの象の群れ、地面の昆虫や大空の鳥たちといった世界中の動物の映像を紹介し、彼らが生き延びるためにどのような行動をしているのかを描いたドキュメンタリーで、映像はBBCだけあって大変に美しい。氷の下を泳ぐアザラシとか、アリの巣の内部なんてどうやって撮影したのか不思議なくらい。ただし以前にどこかで観たことのある映像も使われてたな。

それと「いのち」という漠然としたくくりの下でいろんな動物の映像が次々と紹介されるだけなので、85分という短い尺ながらも終盤は結構飽きるかも。そういう点ではもっと細かいテーマでくくったBBCアースのテレビ番組の方が観てためになるかもしれない。

松親子によるナレーションは可も不可もなし。「祈る」とか「情熱」といった言葉が用いられてたが、これってどこまでオリジナルのナレーションに忠実なんだろう?動物たちの生き様を観ていると擬人化してわれわれ人間の生活と重ね合わせたくなる衝動はどうしても起きるのですが、それってどこまで正しいんだろうね?イルカがxboxで遊んだりダチョウがアニメにうつつを抜かすことも無いわけで、人間と動物の生き様は大きく離れたものだと思うのですよ(どちらが上というわけではなく)。とはいえ「猿の惑星」の予告編を観たあとに、道具を使ってヤシの実を割る猿の姿を観せられたりすると、いずれ人間は彼らにとって代わられるのではないかという気にもなりましたが。

「カンフー・パンダ2」鑑賞


吹替え版を2Dで。吹替えって別に嫌いではないのですが、プロの声優ではない芸能人、特に今回のようなジャニタレに主役やらせる傾向は大嫌いでして、芸能人って続編が出る頃には人気が無くなってたり、今回みたいに不祥事を起こしたりするから起用は避けるべきだと切に願うのです。とはいえ山口達也の吹替えは思ってたよりも良かったけどね。

アニメーションの出来は非常に素晴らしくて、特に花火の描写などはとても美しい限り。しかしやはりストーリーが弱いなあ。欠点は前作とまったく同じで、予言で「選ばれし者が来る!」とか「あなたは○○に倒される!」と言われると最後には当然その通りになってしまうので、話の展開が読めてしまうんだよな。ご存知のように映画やゲームの世界では予言がみんな当たってしまうわけですが、それってネタバレを話のなかでやってしまうようなものかと。

そして結局のところこの予言の成就に向けて話が進んでいくため、どうもストーリーが予定調和気味な感じは否めない。去年の「ヒックとドラゴン」はあれだけストーリーが王道の展開を見せながらも主人公の成長を丁寧に描くことで大傑作となっていたのに、今回は主人公がいつまでもヘタレ気質のままだからどうも感情移入できないんだよな。「ランゴ」なんかは主人公のぶっとび具合が完全に常識を逸していて楽しかったのに、この作品は主人公のボンクラさが単に頭に来るというか。でも節々に挿入されてる細かいジョークはそれなりに面白かったけどね。

前作同様に、平凡なドリームワークスのアニメ作品といった感じ。これだったら「メガマインド」のほうが楽しめたぞ。