「WORLD’S GREATEST DAD」鑑賞

とても真っ黒なコメディだったよ。リチャード・ケリーがプロデューサーに名を連ねているけど、むしろウェス・アンダーソンの作品をさらに意地悪にして、サントラをブリティッシュ・ロックからAORに差し替えたらこうなるかな、といった感じの作品だった。

主人公のランスは人気作家になることを夢見る高校教師だったが今まで書いた小説はすべて出版社に拒絶され、高校で担当する詩のクラスも人気がなくて生徒がほとんどいないという有様だった。おまけに彼が一人で育てている息子のカイルは口の汚い問題児でランスに反抗的な態度をとってばかりで、病気といっていいくらいに性的なものに興味を持っていた。いちおうランスは同僚の教師とつきあっているものの、彼よりずっと人気のある別の教師に彼女をとられそうになり、自分のクラスは廃止されそうになり、カイルは特殊学級に入れられそうになるという最悪の状況になっていたある日、カイルが不慮の恥ずかしい事故で死亡してしまう。彼の死因を隠そうとしたランスは息子が自殺したことに見せかけ、即興で彼の遺書を書き上げる。ところがその遺書が公表されたことで高校ではカイルへの同情と人気が高まり、まるでカルト崇拝のようになってしまう。そして周囲にせがまれたランスは、カイルの「日記」を新たに書いて公表するのだが…というような話。

ランスを演じるロビン・ウィリアムズって映画では失敗作のほうが多い気がするけど、「フィッシャー・キング」とか「インソムニア」とかでたまに見事な演技を見せてくれてるわけで、この作品でもウソを心に抱えて生きる主人公を好演している。顔をクシャクシャにゆがめて嘆く姿とかは実のところキモいのだが、それがかえって役に深みを与えているかと。息子のカイルを演じるダリル・サバラは、「スパイキッズ」の弟がいつの間にか小太りのティーンになってたことに驚いたけど、変態のクソガキを熱演しているぞ。親に反抗的とはいえ学校で皆に人気があるわけでもなく、親と同様にルーザーであるところがポイント。この親子以外の登場人物は典型的なメガネっ娘やゴス娘とかで、みんな薄っぺらな性格しか持ってないんだけど、歌を多用した大げさな演出のおかげで、あくまでもサタイアの道具であることが明確にされるので物足りなさはなし。

監督のボブキャット・ゴールドスウェイトはウィリアムズとつきあいの長いコメディアンで、ニルヴァーナのカート・コベインとも親友だったそうな。それを知って理解したんだけど、この映画ってコベインとかマイケル・ジャクソンとかの有名人が死んだあとのカルト人気に対する痛烈な皮肉になってるんだよな。彼らが死んでから「彼は心が純粋な人だった」とか「俺は彼の1番のファンだぜ!」とか言っている人がいるけど、お前ら本当に彼らのこと分かってんのかよ、という皮肉が込められているという。ニルヴァーナのベースだったクリス・ノヴォセリックがチョイ役で出ているのもこれと関係しているのではないかと。

題材が題材だけにちょっと後味の悪いコメディではあるものの、笑えるところは笑えるし、上記のような皮肉も込められていてなかなか興味深い映画であった。

「Frazetta: Painting with Fire」鑑賞

追悼記念としてフランク・フラゼッタのドキュメンタリーを観る。ブルックリンのタフな界隈で育ったフラゼッタは幼い時から天性の画力を発揮し、当初はコミック・アーティストとして動物漫画を描いたりアル・キャップのアシスタントを勤めたりしたのだが、50年代のコミックの衰退とともに業界を離れ、「マッド」誌に描いたリンゴ・スターの似顔絵がきっかけとなってハリウッド映画のポスターを手がけるようになり(この頃はカリカチュアが多かった)、それから「ターザン」や「コナン」などのペーパーバックの表紙を描くようになって多くのアーティストに影響を与える存在となっていく。彼って意外と多くのコミックを描いてるんですね。ペイント画も十分に躍動感があるけど、コミックではさらに動きが強調されていて俺はそっちのほうが好きかも。

若い頃はロバート・ミッチャムのごとき端正なルックスを誇り、その体は筋骨隆々としていて空手は黒帯、野球ではニューヨーク時代のジャイアンツから2度もスカウトを受け、でっかいバイクを乗り回し、カメラを500個も持っているカメラマンで、彫刻も手がけたというとにかく超人のような人物だったわけですよ。その一方では妻と子供たちを深く愛した家族思いの人であったことが語られていく(90歳を越えた母親も登場するぞ)。1990年代には病魔に襲われて鬱になったりしたらしいが、心臓発作により右手に痺れが残ったため左手で描くことを習得したという話には脱帽するしかない。作品は締め切り日の前夜に短時間で一気に描き上げるなんて話も面白かった。

ドキュメンタリーとしての作りは凡庸で、キャラクターを切り抜いたり後光を当てたりするようなエフェクトのかけかたには少し疑問が残るが、フラゼッタ本人および彼のアートが非常に魅力的であるために観ていて飽きがこない。またニール・アダムスやバーニー・ライトソン、ラルフ・バクシ、ジョン・ミリアス、ボー・デレクなどといった様々な分野の人たちにインタビューをしていて、フラゼッタのアートがいかに多くの人々に影響を与えたかがよく分かる内容になっている。あらためて彼の凄さを実感させてくれる作品であった。

「クレイジー・ハート」鑑賞

思ってたよりもずっとホンワカした映画だった。

ジェフ・ブリッジス演じるバッド・ブレイクは名の知れたカントリー・シンガーだったが酒で身を持ち崩し、今ではボーリング場の片隅でライブを行うようなドサ回りをして日銭を稼ぐような生活を続けていた。そんなある日、彼はバンドのキーボーディストの姪である新聞記者のジーンと知り合いになり、すぐに2人は恋仲になる。そしてバッドの元弟子であり、今では彼を凌ぐ元スターとなったトミーの前座をやらないかという話がやってきて…というような話。

ミュージシャンの映画というと、ステージでの栄光と挫折とか仲間や恋人との怒鳴りあいとか突然のハプニングなどといった展開が定石になっているもんだが、この映画もそうした展開があるものの、どれもまったりとしてるんだよな。バッドは自分の子供くらいの年齢であるジーンと何の障害もなくすぐに恋仲になるし、疎遠になっていたトミーとも簡単に打ち解けてステージ上でデュエットしたりするし。後半でバッドとジーンがケンカする理由も、「それってバッドの責任じゃないんじゃない?」と思うようなせせこましいものだったような。

かといって話に盛り上がりが欠けているというわけではなくて、バッドの過ごす日々についてはきちんと描かれている。要するに盛りを過ぎたジイさんが、周囲の暖かい行為によって身を持ち直す映画、として観るのがいいのかも。

この比較的凡庸なストーリーにも関わらず映画を優れたものにしているのが明らかにジェフ・ブリッジスの演技であり、もともと大統領からグータラ男まで演じ分けられる名優であったわけだが、今回は曲のボーカルも自らこなしてバッドの役を完全に演じきっている。でもアカデミーの主演男優賞というのは今までの功労賞的な意味合いが強かったと思うけどね。ジーン役のマギー・ジレンホールは相変わらず幸の薄い女性を演じていて、まあ可も不可もなし。むしろトミー役のコリン・ファレルがブリッジス同様にボーカルをこなして見事だった。彼っていつの間にか普通のハリウッド・スターからアートハウス・シネマの役者へと転身を遂げましたね。あとプロデューサーも務めるロバート・デュヴァルがそこそこおいしい役で出演してるぞ。

カントリー・ミュージックという題材については懸念してたんだが、T=ボーン・バーネットによる曲はどれも秀逸で、音楽映画としても見応えがある内容になっている。まず日本ではヒットしないだろうけど、DVDとかで観る分には楽しめる映画じゃないでしょうか。

「ウルフマン」鑑賞

近年では珍しいくらいに何のヒネリもない映画。イギリスの片田舎で怪物による襲撃があって、どうも主人公の親父が怪しくて、そんなうちに主人公も怪物に襲われて狼男になってしまって…という先の読める展開が淡々と語られるだけで、話の盛り上がりがとても欠けてるんだよな。最後は「サンダ対ガイラ」みたいになってたし。

そもそもこういう物語って恐ろしい呪いをかけられた主人公の苦悩を描かないといけないんだが、ベニチオ・デル・トロは仏頂面して悶々としてるだけだから、自分の境遇を甘受してるかのように見えてしまうんだよな。そもそもデル・トロは元の顔が怪物っぽいので、狼男になってもあまり違和感が無いのはどうかと。彼の親父を演じるアンソニー・ホプキンスも露骨に手を抜いて演技してるのがバレバレで、まあギャラがもらえれば良かったんじゃないの。

特殊メイクにリック・ベイカーを起用したことは賞賛できるが、肝心の狼男も半分くらいのシーンはCGなので彼がどのくらい関わったのかはよく分からず。ストーリー自体は全然怖くないのに、血なまぐさい描写を増やしたことでR15指定になって観客を減らす結果になったのも失敗じゃないですか。とにかくCGに頼りすぎというか、今の観客はCGに対して目が肥えているから、CGは抑えめに使わないと逆にチャチっぽく見えてしまうと思うんだけどね。

もし続編があるとすれば「切り裂きジャック 対 狼男」のような展開が期待できたわけで、たぶんそっちのほうが今作よりも面白くなったんだろうけど、興行的に失敗してるから続きは無いだろうなあ。過去のユニバーサル・ホラーをリメイクするなら、特殊効果だけでなくストーリーもちゃんと練り込みなさいよ、ということを教えてくれる一本だろう。

あと音声で「ジプシー」って言ってるのがはっきり聞こえるんだから、変に気をつかって字幕を全て「流浪民」とする必要もないだろうに!「あまり適切でない言葉があったけど、物語の都合で使いましたよ」といった断り書きを最後に入れるのではダメなんだろうか。

「The Men Who Stare at Goats」鑑賞

何という失敗作。クルーニーにスペイシー、ジェフ・ブリッジスといった歴代のアカデミー俳優とユアン・マクレガーといった豪華な面子が揃ってこれかよ!と思わずにいられないけど、悪いのは役者ではないよな。詳しくは下に書きます。

物語の語り部を務めるのはミシガンで新聞記者をやっていたボブ・ウィルトン。妻の不倫により働く気をなくした彼は、イラク戦争に関する取材をしたいと願ってクェートへ向かう。そこで彼はリン・キャシディという男性に出会う。彼はかつてアメリカ軍のなかに存在した極秘チーム「ニュー・アース・アーミー」の一員であり、ニューエイジ思想に感化された上官のもと、そのチームでは千里眼やテレパシー、念力といった超能力をもった兵士たちを育てようとしていたのだという。たまたま以前にインタビューした元兵士からキャシディのことを聞いていたボブは彼に興味を抱き、一緒にイラクに向かうものの、物事はあらぬ方向に進展していき…というような話。

ボブとキャシディのイラク珍道中と交差してニュー・アース・アーミーの結成と解散までが語られていくんだが、どちらの話も展開がラリっててムチャクチャなので、普通に笑うよりも「何だこりゃ?」という気持ちが先に来てしまうんだよな。いろいろ語られるエピソードの1つ1つは面白いのに、演出がマズいというか、監督がきちんと話を処理しきれていないのが明らかなんだよな。ジョージ・クルーニーと長年組んで来たプロデューサーによる初監督作品だそうだけど、ベテランの監督を起用してストーリーをもっと練れば傑作になったかもしれないのに残念。

あとニュー・アース・アーミーの兵士は自分たちのことを「ジェダイ」と呼んでいて、これはかつてオビ=ワン・ケノビを演じたマクレガーに対する楽屋オチになってるんだけど、何度も彼にジェダイジェダイ言わせてるのはかなりウザかったです。

でもクルーニーの演技は素晴らしいし、セットなどには金がかかってるし、ストーリーは少なくとも斬新だし、決して駄作というわけではないですよ。劇場で観たら頭を抱えて出てくることになったかもしれないが、レンタルとかで観るなら普通に楽しめる作品かと。

ちなみにこれは実話を基にした映画だそうです。アメリカ軍が超能力などに興味を持っていたという話はよく聞くけど、ニュー・アース・アーミーみたいなチームは本当に存在したのかね?