「シャッターアイランド」鑑賞

「スコセッシがヒッチコックをやった映画」という評判を目にしたけど、むしろスコセッシがデビッド・リンチをやったような感じがしたよ。特に前半の雰囲気の盛り上げ方とかは巧みだなと思ったんだけどな。

でも全体的な印象としては映画というよりも洋ゲーに通じるところがあって、行動範囲の限られたエリアを舞台に、主人公がいろんな登場人物と話して情報を入手していき、嵐のイベントが起きたあとは今まで入れなかった収容棟にアクセス可能になる…というような展開が続くというか。

そして肝心の結末については当然ここで触れないが、「ミスティック・リバー」もそうだったけど、デニス・ルヘインのストーリーって予期せぬところでオチがつかなくない?それまでの謎解き作業とはちょっと離れたところで謎の解明がされるというか。この映画がああいうオチになったことは理解できるんだが、正統なミステリを期待してると肩すかしをくらうよ。

出演者についてはディカプリオやマーク・ラファロは可も不可もなし。どちらもベン・キングズレー演じる刑務所長に食われてしまっている。個人的にはマックス・フォン・シドーが怪しい博士役で出てたのが良かったな。ベルイマン作品からキワモノSFまでいろんな役が出来る人ですよ、彼は。

結局のところ悪い映画ではないんだけど、スコセッシの作品としては凡庸な出来といったところかな。あの人はもっと人間関係に深きを置いた映画のほうが似合ってると思うんだが。スコセッシの映画にCGが使われてるのも違和感があるし。あとそろそろディカプリオ抜きの映画を撮ってほしいところです。

「Plastic Bag」鑑賞


インディペンデント映画の促進を目的とした公共団体が企画した、Futurestatesという短編シリーズのなかの1作品。スーパーで生まれたレジ袋が、買い物客の女性にいろいろ使ってもらって楽しい時をすごすものの、やがて犬のフンとともに捨てられてしまう。ゴミ処理場に送られたレジ袋だが、女性にもう一度会おうと風にまかせの長い旅をすることになり、やがて太平洋に浮かぶゴミベルトへと辿り着くが…というようなお話。

使い古されたレジ袋が身の上話を語る姿だけでも十分にシュールだが、特筆すべきはヴェルナー・ヘルツォークがナレーションを務めていることで、あの独特の口調が作品に異様な深みを与えている。死ぬことのできない自分を半ば恨みつつ、アメリカ各地の空を舞い海中も漂うレジ袋の姿は、トマス・ピンチョンの「重力の虹」に出てくる死なない電球バイロンに通じるものがあるな。

都市や草原の上を舞いながら飛んでいくレジ袋の描写はとても美しくて、CGなどはいっさい使ってないんだとか。シガー・ロスの人による音楽もいい感じ。昨日の「I’m Here」もそうだけど、無機的なものに感情移入させてくれるというのは映像の醍醐味ですね。

「I’m Here」鑑賞


こないだのサンダンスで公開された、スパイク・ジョーンズの短編映画。またコメディ・タッチの内容になってるのかと思いきや不覚にも感動させられてしまったよ。

人間とロボットが共存している世界が舞台になっていて、その背景については一切説明されないものの、ロボットに対する一種の偏見や規制は存在しているらしい。そんななかで出会った2人のロボットの恋愛と自己犠牲を描いた、極めて真面目なラブストーリーになっている。

話はどことなく80年代の日本のSFマンガとかを彷彿させるけど、演出がとにかく巧い。表情の乏しいロボットたちに感情移入させてしまう手腕は見事だな。スパイク・ジョーンズってストーリーよりも映像が先行する作家かと思ってたけど、観る人のエモーショナルな部分にもちゃんと訴えることができるようになってたんですね。これは「かいじゅうたち〜」も早く観ないといかんな。

30分ほどの尺で、公式サイトで視聴可能だよ。エログロの描写などはないものの、スポンサーがアブソルート・ウォッカなので年齢制限があるサイトになってるのが少し残念。これは万人に観てもらいたい傑作なのに。

「マイレージ・マイライフ」鑑賞

前半はとても良く出来た映画だと思ったんだけどな、これ。企業の解雇通知人として全米を飛び回りマイレージ集めを趣味にしている主人公が、若くて賢い助手をつけられて彼女に仕事のコツを教えているうちに自分のやっていることを再認識するようになるだけでなく、忘れられない女性に出会ったことで根無し草だった自分の人生を見つめ直すという構図が非常に巧みに感じられたのですよ。

いまアメリカでは不況により多くの人々が解雇されているというタイムリーな事実も話に深みを与えていたのに、それが後半になって妹の結婚式というパーソナルな舞台に移ったら話がとても小ぢんまりとしたものになってしまったのが残念。式の当日になって怖じ気づく新郎なんて展開はあまりにもメロドラマすぎるというか。

俺が思うに、この映画の主人公には2つの特徴があって、

A. 全米を飛び回る解雇通知人
B. 結婚を面倒なものだと考えている独身男

というものであり、ストーリーテリングの常としてこれらに何かしらの危機やか挑戦がやってくるわけだが、それらがすべてB.のほうに集中している気がするんだよな。でも彼を主人公として特徴づけているのはA.のほうであるはずなのに、解雇通知人としての行いには明確な因果というか報いのようなものが生じず、彼の助手だけが報いを受けるというのはどうなんだろう。人々にクビを伝え続ける生活というものが、主人公にどう影響するのかを深く掘り下げて描いて欲しかったような気がする。

でも主人公を演じるジョージ・クルーニーは心の葛藤などをうまく表現していてハマり役か。彼の脇をかためるヴェラ・ファーミガとアナ・ケンドリックもいい感じ。その反面、ジェイソン・ベイトマンやザック・ガリフィアナキス、J.K.シモンズ、ダニー・マクブライドといったコメディ畑のそうそうたる面子を揃えておきながら、ベイトマン以外はほとんど出番がなかったのが残念だな。ふつう冒頭にガリフィアナキスのような知られた顔が出てきたら、後でもまた登場すると思うよなあ。

そして最後は実際に仕事から解雇された人々による、いかに家族が励みになったかが語られるインタビューで幕を閉じるわけだが、むしろ独り身のほうがクビになっても家族に迷惑をかけなくていいんじゃないの、と俺のようなひねくれ者の独身男は考えてしまうのです。

「FANTASTIC MR. FOX」鑑賞

邦題は「すばらしき父さん狐」になるのかな?ウェス・アンダーソンによるストップモーション・アニメ。かつてニワトリ泥棒をやっていたミスター・フォックスは妻が妊娠したことをきっかけに泥棒稼業から足を洗い、新聞のコラムニストとして妻子とむつまじく暮らしていた。しかし大きな木の中にできた家に引っ越したとき、そこから3つの裕福な農家を眺めているうちに昔の意欲がムクムクと沸き上がってきてしまい、それぞれの農家に泥棒に入ることに。3件とも泥棒に成功して有頂天になるフォックスだが、これにより激怒した3人の農家たちはフォックスを銃撃し、彼は尻尾を失ってしまう。さらに農家たちがフォックスたちの住む木を爆破したため、彼らは命からがら地中に逃げることに。しかし農家たちの追撃はそこにも迫ってきていて…というようなお話。

ウェス・アンダーソンってあの若さで良くも悪くも自分のスタイルを確立させてしまった人で、前作「ダージリン急行」は話の展開があまりにもそのスタイルにはまっていて食傷気味だったんだが、今回はストップモーション・アニメという技法を用いることで新しい境地に辿り着いたのかな…と思ってたら彼のスタイルは健在でした。微妙に噛み合ないシュールな会話とか、どこかぎこちない家族関係、60年代のブリティッシュ・ロックといったアンダーソン作品ではおなじみの要素があちこちで顔を出すことに。「子供に尊敬されない父親」が主人公だというのは「ロイヤル・テネンバウムス」や「ライフ・アクアティック」に似ているかな。ただし「アクアティック」ではそのマンガ的な展開が空回りしていることが多かったのに対し、今回はまさにマンガ(アニメ)という手法をとったために、どんな滑稽な展開があっても違和感なしに観れてしまうところが強みだな。

アニメの出来は「コラライン」とかに比べると多分にぎこちなくて、教育テレビとかで見かけるものをちょっと立派にしたような感じ。12fpsで撮影されたというのもチープさに影響してるのかな。でも物語の素朴さにはよく合っていると思う。ミスター・フォックスの声をあてているジョージ・クルーニーも、いかにも本人そのままといった感じで気楽に演技しているところが良かったな。

アニメ作品とはいえ、内容はむしろ30〜40代あたりのお父さんに受けるんじゃないかな。日本で宣伝するのはなかなか難しそうだ。まあこれでウェス・アンダーソンは今までと違った映画を作ったわけで、それが彼の今後の作品にどう影響するか期待したいところです。