「ZOO」鑑賞

(注:今回の話はちょっとグロいよ。俺はまったくこのような趣味がないのであしからず。)
去年のサンダンスで話題になったドキュメンタリー「ZOO」を観る。これはシアトルの郊外の農場で馬とヤっちゃった結果、大腸が破れて内出血により死亡した男性を中心に、動物との性愛行為に励む人々の姿を追ったもので、題名の「ZOO」というのも動物園のことではなく動物への愛を意味する「Zoophilia」からとられている。詳しくはこちらの記事をどうぞ。

テーマはドギツいが内容は別にゲテモノ趣味に走っているわけではなく、動物を純粋に愛の対象としてとらえる人々(出てくるのはみんな男性)を紹介するものになっており、グロテスクな映像なども登場せず、死んだ男性の仲間だった人たちのインタビューを中心に構成された作品となっている。役者を使って当時の状況などを再現するスタイルをとっていて、この手法をとるドキュメンタリーって俺は好きじゃないんだが、さすがに関係者の顔や実名を晒すわけにはいかないから仕方ないか。以前までは田舎の農場でそれぞれ行為に耽っていた人々(オヤジが多い)が、2000年代になってインターネットが普及したことにより全国の同士と連絡を取りあえるようになり、仲間うちで集まるようになったという点は興味深い。ドイツや日本の人とも連絡をとったなんて話も出てくるから、こうした行為は日本でも行われてるんだろう。

このドキュメンタリー自体は彼らを糾弾したり好奇の目でとらえるようなことはせず、あくまでも同情的にとらえているものの、なんか彼らの文化(?)の表面をなぞっているだけで、なぜ彼らがこのような行為に耽るのかという内面に迫っていないのがダメ。彼らの自己弁護が淡々と語られるだけで、60分ちょっとという短い尺なのにどうも冗長に感じられてしまう。死んだ男性もそれなりに倒錯した経歴があったらしく、上記の記事にあるように「防衛プロジェクトの仕事や離婚、バイク事故による後遺症など」に影響されていたらしいが、ドキュメンタリー内ではそうしたことに殆ど触れられていない。ドキュメンタリーの対象に優しく接するあまり、深く接することができなかった典型的な失敗例ですかね。テーマ自体は間違いなく人目をひくものの、ドキュメンタリーとしてはかなり出来が悪い作品。

ちなみにこの男性の事件が起きるまで、ワシントン州ではこのような行為が非合法とされておらず、事件がきっかけで罰則が設けられることになったそうな。日本だとどうなってるんだろう。

「スキャナー・ダークリー」鑑賞


やっと観た。なかなか良い出来の作品。ただしアニメ化したことが100パーセント正解かというとそうでもない気もするわけで、70年代のチープなSF映画の雰囲気(「THX1138」とか「スキャナーズ」とか)で映像化されたものも観てみたかった気がする。

あと主人公のボブ・アークターって、ずっと前に原作を読んだときは本来は麻薬の売人で、捜査をかわすために麻薬捜査官になったのかと思ってたけど、そうじゃなくて逆に捜査官がおとり捜査のために売人に扮していた、というのが正しいの?どこで読み間違えたんだろう。

「ディボース・ショウ」鑑賞

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コーエン兄弟の「ディボース・ショウ」を鑑賞。

これで「ノーカントリー」以外の彼らの作品はみんな観たことになるな。一般的には評価の低い作品だけど、何気にけっこう楽しめる作品だった。黄金時代のハリウッドのコメディを彷彿とさせる展開に加え、役者たちもリラックスしたノリで話が進んでいってなかなか面白い。最後の殺し屋のプロットだけが変だったかな。自分への殺し屋を雇うような奴と結婚したいと思うかあ?それでも「レディキラーズ」や「未来は今」よりも面白い佳作。

コーエン兄弟は「ノーカントリー」でノワール系に戻ってしまったけど、今後もこの路線でまたコメディ映画を作って欲しいな、と思わせてくれるだけの出来だった。

「FITNA」鑑賞

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日本じゃあまり話題になってないが、世界的には大論争を引き起こしているオランダ製の反イスラム映画「FITNA」を観る。最初にネット上で公開したサイトはイスラム諸国の抗議によりすぐさま公開を中止したものの、例によってGoogle VideoやYoutubeで視聴可能になってしまった。

内容は16分ほどの短い作品で、コーランの「アッラーの敵,あなたがたの敵に恐怖を与えなさい」などといった文章を引用しながら、911テロやイスラム系テロリストなどのショッキングな映像を重ね合わせてイスラムの脅威を強調し、最後にオランダにおけるイスラム教徒の増加のデータなどを示して、観る人にイスラムへの恐怖を植え付けようとするものになっている。

で、まあ、作った人の意図することはよく分かるんだけど、なんか出来がよくないのよ。コーランに限らず聖書でもタルムードでも、扇動的な文章を抜き出して狂信的な原理主義者の映像を重ねてしまえばこれくらいの作品はできてしまうし、編集の出来とかも大学生レベル。FOXニュースのほうがずっとましなプロパガンダ作ってまっせ。保守系新聞のワシントン・タイムズさえも「大した内容じゃない」と批評してるし。ただオランダ人が作っただけに「イスラムが台頭するとゲイが迫害されるぞ!」とアジってるところが興味深かったかな。キリスト教右派とかだったらここは賛成にまわる部分だからね。

今後もしばらくはこの作品にまつわる議論は広がっていくだろうけど、正直それに値するだけのものか?という感じ。

「The Mindscape of Alan Moore」鑑賞

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こないだ「AVクラブ」でもその経歴が詳しく紹介されたアメコミ界の異端児、アラン・ムーアに関するドキュメンタリー「The Mindscape of Alan Moore」を観た。

ノーザンプトンの貧しい地区で生まれ育ち、現実からの逃避の術としてアメリカの・コミックに夢中になったムーアは、学校から追い出されたあとコミック作家になることを決意し、「2000AD」誌で作品を執筆するようになる。そしてDCコミックスにスカウトされて「スワンプ・シング」でアメリカデビューを果たし、代表作「ウォッチメン」を完成させることになる。これに合わせてムーアのスーパーヒーローやファシズムに関する考えが彼自身によって語られていくわけだが、実はコミックについていろいろ語られるのはドキュメンタリーの途中までで、後半は例によって異様にディープな魔法の概念が語られる展開になっていく。

ムーアによると魔法というのはつまり「アート」であり、言葉や絵などを用いて人の意識に変化をもたらすものなんだそうな。そこから人の意識について焦点があてられ、「シェルドレイクの仮説」に象徴されるような、人の意識が共有される次元についての解説がされていく。この世界の根本にあるものは「情報」であり、すべては情報の派生物だという考えも説かれるが、これってシュタイナーのアカシック・レコードの概念のようなものなんだろうか。人々がある一定の情報を蓄積する時間は加速的に短くなっており、2015年頃にはそれまで人間が蓄積した情報量の2倍の量を1000分の1秒で蓄積することになるだろうという話は興味深い。

この他にも陰謀論(の否定)とか、単一神教の害悪とか、言語における時間の概念などさまざまな事柄が語られていく。これを大きな啓示ととらえるか、単なるキチガイの妄言ととらえるかは観る人の勝手だろうけど、個人的にはなかなか面白かった。でもあと3回くらい観ないと、彼の言ってることは十分に理解できそうにないなあ。