「007 カジノ・ロワイヤル」鑑賞

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何気にボンド映画はすべて観ているのであります。フランチャイズをうまく再始動させたということで巷では高い評価を得ているようだけど、これそんなに面白い作品かあ?

結局のところ007って高級車を乗り回して美人のおねーちゃんたちをはべらせつつ、世界をまたにかけた活劇を繰り広げる男という、世俗のサラリーマンなら誰もが憧れることを具現化した存在であって、それが変に人間臭くなっても嬉しくないと思うんだが。確かに後期のブロスナン作品は007が単なるカリカチュアに成り果てていたし、アクション映画になりすぎてランボーよろしくマシンガンをぶっ放す姿は興ざめだったが、それから離れて原点に戻るにしても、ボンドをボンドたらしめていたものを変に取り外してしまうのはどうかと。単に俺の考えが古いだけなのかな。観てて不満に感じた点をざっと挙げると:

・ボンドが弱い
・ル・シッフルがさらに弱い
・ボンド・ガールが最後にXXXしてしまう
・スパイ・ガジェットが殆どない
・ボンドのウィットに富んだセリフがない
・マニーペニーがいない

などなど。まあ保守的なファンの不満ですかね。あとボンドガールに本気で恋してMI6を辞めようとするのも情けない。ショーン・コネリーのボンドの素晴らしかったところは、女性と寝ててもいつ彼女を見捨てるか分からない冷酷さを秘めていた点で、女性蔑視と言われようが、その危険な雰囲気を持った姿に観ている人はシビれたわけです。でも冷酷なボンドというのはもう時代に合わないんだろうな。

この作品を見てて思ったのは「死ぬのは奴らだ」に似てるな、ということ。あれもロジャー・ムーアが初めてボンドを演じたことで、従来のイメージを払拭するため、好みのドリンクの設定を「シェイクしたマティーニ」ではなく「氷なしのバーボン」に変えたりしてたわけだが、結局のところ観客が求めてるのはシェイクしたマティーニを飲むボンドであって、今回のダニエル・クレイグ演じるボンドもいずれは従来のボンド像に近づいていくのかな。

まあ大ヒット作品となったことから察するに、多くの人はこの新しいボンドを歓迎したわけだが、個人的には昔のほうが良かったなと思わずにはいられないのです。

「断絶」鑑賞

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アメリカン・ニューシネマの隠れた名作として知られる(らしい)、モンテ・ヘルマン監督の「断絶」(1971)を鑑賞。

物語としての情報を、最低限のもの以外は徹底的に切り落とした虚無的なロードムービーで、登場人物たちにも名前が与えられておらず、クレジット上ではただ「運転手」とか「メカニック」などと表記されるのみ。彼らの経歴や年齢などについても一切説明はなく、ただロードレース、および路上を走ることだけにとりつかれた男たちの姿を追っている。英語でいえば「zen-like」な作品ということになるのかな。

運転手とメカニックが東海岸を目指してチューンアップしたシェビーを走らせ、途中で家出少女を乗せてやり、それからウォーレン・オーツ演じるGTO乗り(その名もずばり「GTO」!)とお互いの車を賭けてワシントンDCまでのレースをするというプロットはあるんだが、じゃあ血湧き肉踊るレースが展開されるのかというとそうでもなく、両者(両車?)のあいだには微妙な仲間意識が生じて互いに手を貸してやるようなことになったりもする。要するに運転手もGTOも路上を走ることにだけ生き甲斐を感じており、レースはその一環でしかないのだ。

運転手を演じるのは若き日のジェームズ・テイラー。今じゃハゲの穏健そうなシンガー・ソングライターとして知られる彼だが、この頃は長髪にタイトなジーンズが似合っていて非常にカッコいい。メカニックを演じるのはビーチ・ボーイズのデニス・ウィルソン。若くて熱意をもった彼らに対して、オーツが演じるGTOはいい年になっても車上生活をやめることができず、ヒッチハイカーは必ず乗せてやって自分の身の上話を聞かせるという孤独さが出ているのが興味深い。しかもその身の上話は毎回すべてウソなので、結局のところ彼が何者なのかはまるで分からないのだ。あとハリー・ディーン・スタントンのオヤジもちょこっと出演してるぞ。

視聴者に与えられる情報が徹底的に少ないので、観る人を選ぶ作品であることは間違いない。話の展開はそれなりにあるものの、いかんせん全てが淡々と語られていくため冗長的に感じられるところもあるんだよな。アメリカン・ニューシネマの隠れた名作だったら個人的には「グライド・イン・ブルー」のほうが遥かにお勧めだが、それでも一見の価値はある作品かと。あとヘルマン&オーツといえば、ロジャー・コーマンのもとで作った「コックファイター」をぜひ観てみたいんだよなあ。

「レディキラーズ」鑑賞

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「ノーカントリー」の前にコーエン兄弟の映画を全部観とこうかとおもって、とりあえずまず「レディキラーズ」から片付けることにする。

そもそもバリー・ソネンフェルドが監督する予定だったというだけあって、別にコーエン兄弟がやんなくてもよかったじゃん、という感の否めない作品。まあ悪い映画じゃないんだが。教会のゴスペルのシーンなんかは「オー・ブラザー!」を彷彿させるところがあるものの、別に話にそんな関係があるわけでもなし、コーエン兄弟にしては全体の出来がメインストリーム的すぎるのではないかと。彼らの他の作品にある、どこかちょっとヒネくれた感じがないんだよな。泥棒たちも自らのヘマで勝手に次々と墓穴を掘っていくので、ストーリーの起伏に乏しくかなり先が読める展開になってしまっているのは残念。

トム・ハンクスの演技は可も不可もなし。尤もこの人の演技が巧いと思ったことは1度もありませんが。むしろ彼の部下を演じるマーロン・ウェイアンズの演技のほうが優れてたかと。あの人は「レクイエム・フォー・ドリーム」でも迫真の演技を見せてくれたわけで、いいかげん他の兄弟たちと手を切って、もうちょっとハクのある映画に出ればいいんじゃないだろうか。

コーエン兄弟のコメディだったら「赤ちゃん泥棒」のほうが断然おもしろい。あとは「ディボース・ショウ」を観なければ。

「バルカン超特急」鑑賞

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最近の駄作より往年の名作、ということでヒッチコックの「バルカン超特急」(1938)を鑑賞。

いや実に素晴らしい。90分ちょっとの長さにサスペンスやコメディやロマンスががぎっしり詰まっていて、「娯楽作」という言葉がぴったりの作品。「列車の中で失踪した婦人」というプロットを軸に、限られたスペースのなかで展開していく物語は今観ても十分にスリルが味わえる。むしろ最近の映画よりもずっとセリフがウィットに富んでいて、いかに最近の映画がバカ向けに作られてるかがよく分かる。冒頭のホテルにおける各キャラクターの紹介も巧い。そして主演のマーガレット・ロックウッドの美しいこと!心優しいアメリカのお嬢さん、という役が本当に似合っている。何度でも繰り返し書くが、ああいう女優はハリウッドでは絶滅してしまいましたね。最近のリハブなセレブたちが絶対に出せない雰囲気を醸し出してるのでありますよ。

このように手堅いプロットを誇る傑作だが、ラストの「乗客に銃をつきつける男」がどこに行ってしまったのかはよく分かんなかった。彼が急にいなくなったのはネット上でもいろいろ推測されてるらしい。まあいいや。ちなみに邦題の「バルカン」も「超特急」も実は出てこなかったりする。

「ブラザーズ・グリム」鑑賞

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ヒース・レジャーの追悼記念…というよりもテリー・ギリアムの作品を全部観るという目的で「ブラザーズ・グリム」を観た。

思ってたよりもいい映画。やはりギリアムには中世(近世?)ヨーロッパがよく似合う。「ジャバーウォッキー」と「バロン」あたりの雰囲気を持った、ある意味ギリアムにとっての原点回帰的な作品じゃないかと。ジョナサン・プライスも出てるし。童話の引用を散りばめながら進んでいく話はテンポがよくて飽きがこない。2005年の作品にしてはCGIがかなりお粗末な気がするけど、ワインシュタイン兄弟に予算をケチられたのか?

ちなみにヒース・レジャーの出演作をちゃんと観たのはこれが最初なんだけど。それなりにいい演技ができる人じゃん。単なるイケメン俳優というイメージを抱いていたもので。逆にいつもは芸達者なはずのマット・デイモンがおとなしかったかな。

同時期に製作された「タイドランド」よりもずっと面白い作品。