「レディキラーズ」鑑賞

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「ノーカントリー」の前にコーエン兄弟の映画を全部観とこうかとおもって、とりあえずまず「レディキラーズ」から片付けることにする。

そもそもバリー・ソネンフェルドが監督する予定だったというだけあって、別にコーエン兄弟がやんなくてもよかったじゃん、という感の否めない作品。まあ悪い映画じゃないんだが。教会のゴスペルのシーンなんかは「オー・ブラザー!」を彷彿させるところがあるものの、別に話にそんな関係があるわけでもなし、コーエン兄弟にしては全体の出来がメインストリーム的すぎるのではないかと。彼らの他の作品にある、どこかちょっとヒネくれた感じがないんだよな。泥棒たちも自らのヘマで勝手に次々と墓穴を掘っていくので、ストーリーの起伏に乏しくかなり先が読める展開になってしまっているのは残念。

トム・ハンクスの演技は可も不可もなし。尤もこの人の演技が巧いと思ったことは1度もありませんが。むしろ彼の部下を演じるマーロン・ウェイアンズの演技のほうが優れてたかと。あの人は「レクイエム・フォー・ドリーム」でも迫真の演技を見せてくれたわけで、いいかげん他の兄弟たちと手を切って、もうちょっとハクのある映画に出ればいいんじゃないだろうか。

コーエン兄弟のコメディだったら「赤ちゃん泥棒」のほうが断然おもしろい。あとは「ディボース・ショウ」を観なければ。

「バルカン超特急」鑑賞

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最近の駄作より往年の名作、ということでヒッチコックの「バルカン超特急」(1938)を鑑賞。

いや実に素晴らしい。90分ちょっとの長さにサスペンスやコメディやロマンスががぎっしり詰まっていて、「娯楽作」という言葉がぴったりの作品。「列車の中で失踪した婦人」というプロットを軸に、限られたスペースのなかで展開していく物語は今観ても十分にスリルが味わえる。むしろ最近の映画よりもずっとセリフがウィットに富んでいて、いかに最近の映画がバカ向けに作られてるかがよく分かる。冒頭のホテルにおける各キャラクターの紹介も巧い。そして主演のマーガレット・ロックウッドの美しいこと!心優しいアメリカのお嬢さん、という役が本当に似合っている。何度でも繰り返し書くが、ああいう女優はハリウッドでは絶滅してしまいましたね。最近のリハブなセレブたちが絶対に出せない雰囲気を醸し出してるのでありますよ。

このように手堅いプロットを誇る傑作だが、ラストの「乗客に銃をつきつける男」がどこに行ってしまったのかはよく分かんなかった。彼が急にいなくなったのはネット上でもいろいろ推測されてるらしい。まあいいや。ちなみに邦題の「バルカン」も「超特急」も実は出てこなかったりする。

「ブラザーズ・グリム」鑑賞

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ヒース・レジャーの追悼記念…というよりもテリー・ギリアムの作品を全部観るという目的で「ブラザーズ・グリム」を観た。

思ってたよりもいい映画。やはりギリアムには中世(近世?)ヨーロッパがよく似合う。「ジャバーウォッキー」と「バロン」あたりの雰囲気を持った、ある意味ギリアムにとっての原点回帰的な作品じゃないかと。ジョナサン・プライスも出てるし。童話の引用を散りばめながら進んでいく話はテンポがよくて飽きがこない。2005年の作品にしてはCGIがかなりお粗末な気がするけど、ワインシュタイン兄弟に予算をケチられたのか?

ちなみにヒース・レジャーの出演作をちゃんと観たのはこれが最初なんだけど。それなりにいい演技ができる人じゃん。単なるイケメン俳優というイメージを抱いていたもので。逆にいつもは芸達者なはずのマット・デイモンがおとなしかったかな。

同時期に製作された「タイドランド」よりもずっと面白い作品。

「ブリタニア・ホスピタル」鑑賞

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「if もしも‥‥」そしてこないだ観た「オー!ラッキーマン」に続く、リンゼイ・アンダーソン&マルコム・マクダウェルのコンビによるミック・トラヴィス3部作の完結編「ブリタニア・ホスピタル」を観た。もっとも今回のトラヴィスは脇役的存在であり、特に主人公のいない群像劇になっている。

舞台となるのはイギリスの大病院ブリタニア・ホスピタル。建築500周年を迎えたこの病院はイギリスの上流階級ばかりかアフリカの独裁者も滞在するような由緒ある施設だったが、スタッフのストライキによってその機能はマヒする寸前だった。おまけに病院の外には独裁者に対するデモ隊が集まり、一発即発の不穏な雰囲気が漂っていた。その一方で病院の幹部たちは皇族の来訪を控えて準備に大忙し。そんななかテレビ局のジャーナリストとなったミック・トラヴィスは、病院内で実際に何が起きているのかを探るために、小型カメラを抱えて設備に侵入するが、そこで彼が目にしたものは…。というのが話のものすごく大まかなプロット。

病院をイギリス社会の縮図としてとらえ、上層部の緩慢、医者の虚栄、メディアの偽善、不平ばかりたれる労働者、そして飾りでしかない皇族などを辛辣に描いている点が非常に素晴らしい。「オー!ラッキーマン」に比べて良くも悪くも社会風刺が毒々しいものになっていて、気違い医者の毒牙にかかってものすごくヒドい目にあわされるトラヴィスの運命が何とも哀れである。しかもその医者が何の報いも受けないまま、最後にやたらカッコいい大演説をぶつところがこの映画の狂気を示しているといえよう。後半から終盤にかけて病院をとりまく状況がどんどんエスカレートしていき、デモ隊が暴徒と化すカタルシスには圧倒される。

ちなみにこの作品(1982年公開)を撮ったときのアンダーソンは60歳になろうとする頃。若手なんかより年取った監督のほうがずっと社会的にトンガったものが作れるという好例であろう。暴徒のシーンなんかは描写が本当に手慣れているというか何というか。80年代初頭に比べても、最近のイギリス映画はいかに勢いが無くなったかを考えさせられる作品だった。

「FAY GRIM」鑑賞

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「ヘンリー・フール」の続編「FAY GRIM」を観た。ハル・ハートリーの映画を観るのは「ヘンリー」以来だから10年ぶりくらいか。名ばかりの続編かと思ったらかなり話が直結してたので、記憶の片隅をほじくり返しながら観るはめになったぞ。ハートリーの作品といえばニューヨークを舞台にした、日常生活の描写が特徴的なドラマという印象が強かったけど、なんと今回は世界をまたにかけたスパイ・スリラーになっていて、ベルリンやイスタンブールでロケをしたそれなりの大作になっている。ビデオ撮りなのが少し残念だが。

ヘンリー・フールの失踪後、彼とのあいだにできた息子との生活に追われるフェイ・グリムが物語の主人公。ある日彼女のもとにCIAのエージェントが現れ、意外な事実を突きつける。実はヘンリーは世界中で暗躍した特殊エージェントであり、駄文が書き連ねられていると思われていた彼の手記には、世界各国の機密情報が暗号で記されているというのだ。手記の入手を命じられたフェイはヘンリーとの再会を望んでパリに向かうものの、そこで彼女を待ち受けていたのは数々の策略と陰謀だった…。というのが大まかなストーリー。フェイ役のパーカー・ポージーをはじめジェームズ・アーバニアクやトーマス・ジェイ・ライアンが前作に続いて登場するほか、ハートリー作品の常連であるエリナ・レーヴェンソンに加えてジェフ・ゴールドブラムなどが出演しているぞ。

とりあえず「ヘンリー・フール」的なものを期待してると壮絶な肩すかしをくらう。登場人物が多いうえに話が二転三転もしくは四転五転くらいして何が何だか分からなくなるのは問題だよな。以前のハートリーの作品ってプロットが薄い(話の展開が小さい)ぶん登場人物の性格や形式ばったセリフが活かされるところがあったが、今回はいろいろ詰め込みすぎ。冒頭のニューヨークのシーンとかはいかにもハートリー的で面白いのに、フェイがパリに渡ったあとはいろんな国のエージェントが登場してきて、フラッシュバックが多用されて急展開しまくるプロットを追うのが忙しくてセリフを十分に堪能できないんだよな。あと全編を通じてカメラのアングルが必ず左右どちらかに傾いていて、それはそれで独特な雰囲気を醸し出してるんだけど、観てるうちに椅子から転げ落ちそうな気がしてくる。

パーカー・ポージーの演技とかイスタンブールの光景とかハートリー自身による音楽とか、各所に素晴らしい要素があるのに、全体としては不満の残る出来になっているのが何とも残念。「FLIRT」以降は海外ロケが好きなハートリーだけど、やはり彼はニューヨークの片隅で小ぢんまりとした作品を作ってるほうが似合うのではないか。