「麦の穂をゆらす風」鑑賞

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ケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」を鑑賞。時代設定とテーマ的にはローチの「大地と自由」に近いものがあるが、実質的にはニール・ジョーダンの「マイケル・コリンズ」の裏話的作品といった感じか。アイルランドの歴史に詳しくない人は「マイケル・コリンズ」を先に観といた方が背景を把握しやすいかもしれない。

1916年のイースター蜂起から1922年の内戦にいたるまでのアイルランドの歴史は波乱の連続なので、何をどう映画化したって面白くなるわけだが、この作品では田舎の若者たちの観点からとらえた独立戦争の姿がうまく描かれていて秀逸。ときどきプロパガンダっぽくなるけど、まあそれはローチ作品のお約束ということで。あとローチ作品にしては集団シーンとか先頭シーンがずいぶん凝ってる(金がかかってる)んじゃないかな。気になったのは主人公の扱いで、ノンポリの医学生が義勇軍に加わって殺人を平気で行うようになり、しまいには兄をもしのぐラジカリストになるまでの描写がえらく希薄ではないかと。

あと当時アイルランドがイギリスと結んだ協定が正しかったとは口が裂けても言わないが、あれがそのまま国のバックボーンとなって今日まで続いている現状を考えると、協定に反対する主人公たちにはどこか空しいものを感じずにはいられない。これに関しては「多くの犠牲を避けるために、仕方なしに協定を結んだ」という「マイケル・コリンズ」の描写のほうが悲壮感があって良かったと思う。まあこれは俺のような部外者が軽々しくコメントすることじゃないね。

それにしてもアイルランドって、衣装と小道具さえ用意すれば簡単に1920年代の風景の撮影ができてしまうんだなあ。

とてもヒドい映画「VULGAR」鑑賞

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ケヴィン・スミスの製作会社ビューアスキューが製作した作品で、とてもヒドい映画として評判の悪い「VULGAR」を観た。

うむ。これは確かにヒドい。ここまで救いようのない映画って久しぶりに観たような気がする。

とりあえずあらすじだけ先に紹介します。ちょっとキモいよ。:

小さな町に住むウィルはさえない青年で、老人ホームにいる母親にはガミガミしかられ、安アパートの前にたむろする酔っぱらいたちにはいじめられてばかり。彼は子供の誕生日パーティーに出演するピエロとしてどうにか生活費を稼いでいました。
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そんな彼はバチェラー・パーティー用のピエロとしてバイトをすることを考案します。バチェラー・パーティーといえばストリッパーが出てくるのが恒例ですが、その前にジョークとしてピエロが登場すればウケるだろうと考えたのです。
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そして初めてバイトの依頼を受けた彼ですが、訪問した先はなんと3人のキチガイ親子が待ち受けている一室で、そこで彼は暴行をうけてレイプされたうえ、その様子を撮影されてしまいます。
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帰宅して失意に沈むウィルですが、その後ある日、仕事に向う途中で娘を人質に家に篭城している男に遭遇。彼を撃退したことから「英雄ピエロ」として評判になり、地元のテレビ局で番組を持つようになります。
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ついに成功を手にしたかに見えたウィルでしたが、番組を観たレイプ犯が犯行時のビデオを使ってユスリをかけてきます。もはや脅迫に耐えきれないと考えたウィルは、仕方なしに銃を持ってキチガイ親子たちに会いにいくのでした…。

ね、何かヒドい内容でしょ?映像だとこれの30倍はヒドいよ。トレーラーだとコメディっぽく見せかけてるけど、実際は陰気な展開が延々と延々と続いていくだけ。とにかく脚本も演技も撮影もみんなダメ。最後のモーテルでの撃ち合いはちょっとだけ(ほんのちょっとだけ)いいけど、いかんせん主人公が網タイツをはいたピエロなのでものすごく興ざめになっている。

主人公を演じるのは「クラークス」のダンテことブライアン・オハロラン。彼のイジメられキャラは「クラークス」がコメディだったから面白かったけど、この作品では純粋にひたすらイジメられるわけで、観ててものすごく気分が悪くなってしまう。他の出演者はケヴィン・スミスをはじめジェイソン・ミュウズや イーサン・スプリーなどビューアスキュー作品の常連ばかり。みんなギャラ安かったんだろうなあ。

監督のブライアン・ジョンソンも「モールラッツ」なんかにちょろっと出演しているスミスの友人らしいけど、なんでこんな映画をスミスが製作する気になったのかはまったく謎。ふつう「ピエロがレイプされる映画」なんて企画書の段階でボツにするだろうに?もしかしたらジョンソンは映画のそのままにスミスの恥ずかしい写真か何かをもっていて、それをネタに製作費を出させたのかもしれない。こんな作品なのに音声ミックスをスカイウォーカー・サウンドでやってて製作費は「クラークス」よりも上だってのは理解できんよなあ。

そもそもこんな内容の映画を面白くする方法というのは2つしかないわけで、「キラー・クラウン」みたいに発狂したピエロが惨殺を繰り返す映画にするか、製作されたのが70年代で主人公がパム・グリアー、という内容でないとどうしようもないと思うんだが。

ちなみにVULGARというのは初期のビューアスキュー作品のオープニング・クレジットに登場していたピエロの名前でもある。あのクレジットも相当くだらないと思ったけど、それを長編映画にしてしまうとは。この作品を観たおかげで、俺のケヴィン・スミスに対する評価はえらく下がりましたよ。ええ。

「ブロークン・フラワーズ」鑑賞

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ジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」を観た。

ジャームッシュの長編作品は全部観てるんだが、なんか「デッドマン」以上にピンとこない作品だったかも。オヤジが過去の恋人たちのもとを訪れて、見たことのない息子について知ろうとするプロットって、どうも俺がジャームッシュに期待してるものとは違うような気がするんだけどね。これがウェス・アンダーソンの作品だったらハマってたんだろうけど。ただ決して悪い作品ではなくて、場面転換に入る黒みは「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を彷彿とさせるし、主人公が何歳になっても女の脚に目がいくようなスケベだという描写とかは結構良かったんだが。でもジュリー・デルフィーとかクロエ・セヴィニーとか、いい女優がいろいろ出ているのに出番が少なかったのは残念。

前作(「コーヒー&シガレッツ」は除く)の「ゴースト・ドッグ」が傑作だっただけに、失速した感は否めない。でも「デッドマン」も最初に観た時は「ジャームッシュが西部劇なんか作るでねえ!」と思ったけど、最近は傑作だと思うようになってきたんで、この「フラワーズ」もいずれは再評価するようになるのかな。

「ウィズネイルと僕」再鑑賞

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カルト人気を誇るイギリス映画「ウィズネイルと僕」を10年ぶりくらいに観る。ずっと70年代の映画だと思ってたけど、1986年公開の作品だったんすね。

再鑑賞して実感したのは、これがものすごく単純なプロットを持った映画だということ。カムデンに住む無職男2人が、田舎にバケーションに行って帰ってくる。ただそれだけ。もちろん途中でいろんな騒動が巻き起こるんだけど、基本的なプロットはものすごく単純。魅力的なキャラクターと印象的なダイアログがあれば面白い映画は十分作れることを証明した好例になるのかな。ジミヘンの曲の使い方もなかなか効果的。あと劇中では男にヤられることに対して怯え続けるマーウッド(「僕」だ)だが、実は振る舞いとか話し方が何気にとてもカマっぽいというのが興味深い。

個人的にはむかしアイルランドのド田舎で2週間ほど過ごしたことがあって、そのときの生活がこの映画での田舎の描写と多分に重なるところがあり、何か懐かしい思いにしてくれる映画なのです。

I demand to have some booze!

「トゥモロー・ワールド」鑑賞

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2006年度の最優秀映画という声も高い「トゥモロー・ワールド」をやっと鑑賞。

うむ。確かに素晴らしい出来の映画。実のところあまりにも作りが手堅すぎてツッコミどころもなく、あまりコメントすることがなかったりする。やはりイギリスにはファシスト国家の姿がよく似合うね〜とか、マイケル・ケインは相変わらず演技が上手いね〜とか、そんなことしか書けん。あれだけのキャストとセットを備えたのであれば、アンソニー・バージェスの「見込みない種子」の撮影がついでに出来たかも。テーマは正反対(人口過剰)の作品だけど、話の舞台と流れが似てるような気がしたので。

ちなみに個人的には終盤のカメラ長回しよりも、例のピンポン球のほうが、どうやって撮影したのか知りたかったりする。