「DOCTOR STRANGE」鑑賞

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マーヴェル・コミックスのオリジナルDVDムービー第4弾「DOCTOR STRANGE」を鑑賞。「HOT FUZZ」よりも後に注文したのに先に届いた。今までの3作品の出来がどれも非道いものだったので、まるっきり期待しないでみたけど、やはり内容には失望させられた。

アニメの出来が悪いのは今に始まったことじゃないんで何も言わん。ただストーリーに関しては、前作の「IRON MAN」 のときも感じたことだけど、主人公のオリジン(ヒーローになるまでの話)を長々と描いているために、主人公が終盤間際まで自分のパワーを使いこなせずにオロオロしてるのは観てて何かまどろっこしいんだよな。アイアンマンやドクター・ストレンジをよく知らない人向けの配慮だろうけど、そもそもそんな人はこうした作品を観ないだろうに。俺らみたいなオールドファンは、自らのパワーを最大限に駆使して悪と戦うヒーローの姿が観たいのにさ。その一方でドクター・ストレンジの従者ウォングの設定が原作と大きく異なっていて、ファンを裏切るような内容になっているのにはガッカリ。むしろスティーブ・ディッコ時代の作風に忠実に、ヒッピーっぽいサイケさを出したほうが良かったかもしれない。

ちなみにマーヴェルはここ1年くらい「ドクター・ストレンジ強化運動」を積極的にやっていて、今までは比較的マイナーキャラだった彼が、最近ではいろんなコミックに登場して大活躍していたりする。今回のDVDムービー化もその一環なんだろうけど、なんでドクター・ストレンジなんかをプッシュしてるのかね。魔法使いのキャラクターってのはその能力がはっきりと定義されておらず、その場にあわせて都合のいい魔法を繰り出すことから、むしろ脇役に徹したほうがいいキャラだと思うんだけどね。DCコミックスでは魔法を使うキャラの層が厚く、イギリス人のライターたちが大人向けのストーリーにうまく取り込んだことでキャラクターを活性化できた感があるけど(ニール・ゲイマンの「BOOKS OF MAGIC」は特に秀逸)、マーヴェルにはそうした下地がないからなあ。

とりあえずマーヴェルはアニメーションのスタッフを総入れ替えしたほうがいいんじゃないかと本気で思います。

「Little Dieter Needs to Fly」鑑賞

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こないだやっと劇場公開されたヴェルナー・ヘルツォークの映画「RESCUE DAWN」のもととなった、ヘルツォーク自身によるドキュメンタリー「Little Dieter Needs to Fly」を鑑賞。

これはディーター・デングラーというドイツ生まれのアメリカ人に関する作品で、子供の頃に目撃した飛行機の素晴らしさにとりつかれたディーターは18歳のときに単身アメリカへと渡り、夜学で勉強しながら大学を出て空軍に入り、念願のパイロットとなる。しかし折しもアメリカはベトナム戦争に突入しており、ディーターも戦地へ向かわされて戦闘機に乗るが、ベトナム軍に撃墜されて捕虜になってしまう。そこで地獄のような拷問を半年にわたって受け続けた彼は、ある日ほかの捕虜たちと脱走を決行する…。というのがおおまかなプロット。

いちおう戦争ドキュメンタリーなんだけど、むしろ空を飛ぶという夢にとりつかれたディーターの姿に話の焦点はあてられており、この1つの夢に向かって突き進んでいく男の姿というのは「アギーレ」や「フィッツカラルド」に似たところがなくもない。もっともディーター本人は温厚にベトナム人たちとも会話するような老人で、キンスキーのようにトチ狂ったところはまるでない。飛行する夢、という点ではJ.G.バラードにも通じるところがあるのかな。ディーターが受けた拷問の再現として、彼の手を後ろで縛ってベトナム兵と一緒に走らせるシーンとかがあるけど、よくあんなこと承諾したよなあ。本人も「思い出が甦って心臓がバクバクした」みたいなこと言ってるし。あとジャングルに生きるベトナム兵の知識と、ジャングルでの遭難を軽視したアメリカ軍の教育映画が対照的に紹介されてるのがちょっと面白い。ああいうのを観ると、アメリカ軍がなんで負けたのかがよく分かるような気がする。

ヘルツォークのドキュメンタリーとしては地味な部類の作品だけど、これが「RESCUE DAWN」でどう映画化されてるのか興味深いところです。

「麦の穂をゆらす風」鑑賞

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ケン・ローチの「麦の穂をゆらす風」を鑑賞。時代設定とテーマ的にはローチの「大地と自由」に近いものがあるが、実質的にはニール・ジョーダンの「マイケル・コリンズ」の裏話的作品といった感じか。アイルランドの歴史に詳しくない人は「マイケル・コリンズ」を先に観といた方が背景を把握しやすいかもしれない。

1916年のイースター蜂起から1922年の内戦にいたるまでのアイルランドの歴史は波乱の連続なので、何をどう映画化したって面白くなるわけだが、この作品では田舎の若者たちの観点からとらえた独立戦争の姿がうまく描かれていて秀逸。ときどきプロパガンダっぽくなるけど、まあそれはローチ作品のお約束ということで。あとローチ作品にしては集団シーンとか先頭シーンがずいぶん凝ってる(金がかかってる)んじゃないかな。気になったのは主人公の扱いで、ノンポリの医学生が義勇軍に加わって殺人を平気で行うようになり、しまいには兄をもしのぐラジカリストになるまでの描写がえらく希薄ではないかと。

あと当時アイルランドがイギリスと結んだ協定が正しかったとは口が裂けても言わないが、あれがそのまま国のバックボーンとなって今日まで続いている現状を考えると、協定に反対する主人公たちにはどこか空しいものを感じずにはいられない。これに関しては「多くの犠牲を避けるために、仕方なしに協定を結んだ」という「マイケル・コリンズ」の描写のほうが悲壮感があって良かったと思う。まあこれは俺のような部外者が軽々しくコメントすることじゃないね。

それにしてもアイルランドって、衣装と小道具さえ用意すれば簡単に1920年代の風景の撮影ができてしまうんだなあ。

とてもヒドい映画「VULGAR」鑑賞

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ケヴィン・スミスの製作会社ビューアスキューが製作した作品で、とてもヒドい映画として評判の悪い「VULGAR」を観た。

うむ。これは確かにヒドい。ここまで救いようのない映画って久しぶりに観たような気がする。

とりあえずあらすじだけ先に紹介します。ちょっとキモいよ。:

小さな町に住むウィルはさえない青年で、老人ホームにいる母親にはガミガミしかられ、安アパートの前にたむろする酔っぱらいたちにはいじめられてばかり。彼は子供の誕生日パーティーに出演するピエロとしてどうにか生活費を稼いでいました。
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そんな彼はバチェラー・パーティー用のピエロとしてバイトをすることを考案します。バチェラー・パーティーといえばストリッパーが出てくるのが恒例ですが、その前にジョークとしてピエロが登場すればウケるだろうと考えたのです。
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そして初めてバイトの依頼を受けた彼ですが、訪問した先はなんと3人のキチガイ親子が待ち受けている一室で、そこで彼は暴行をうけてレイプされたうえ、その様子を撮影されてしまいます。
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帰宅して失意に沈むウィルですが、その後ある日、仕事に向う途中で娘を人質に家に篭城している男に遭遇。彼を撃退したことから「英雄ピエロ」として評判になり、地元のテレビ局で番組を持つようになります。
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ついに成功を手にしたかに見えたウィルでしたが、番組を観たレイプ犯が犯行時のビデオを使ってユスリをかけてきます。もはや脅迫に耐えきれないと考えたウィルは、仕方なしに銃を持ってキチガイ親子たちに会いにいくのでした…。

ね、何かヒドい内容でしょ?映像だとこれの30倍はヒドいよ。トレーラーだとコメディっぽく見せかけてるけど、実際は陰気な展開が延々と延々と続いていくだけ。とにかく脚本も演技も撮影もみんなダメ。最後のモーテルでの撃ち合いはちょっとだけ(ほんのちょっとだけ)いいけど、いかんせん主人公が網タイツをはいたピエロなのでものすごく興ざめになっている。

主人公を演じるのは「クラークス」のダンテことブライアン・オハロラン。彼のイジメられキャラは「クラークス」がコメディだったから面白かったけど、この作品では純粋にひたすらイジメられるわけで、観ててものすごく気分が悪くなってしまう。他の出演者はケヴィン・スミスをはじめジェイソン・ミュウズや イーサン・スプリーなどビューアスキュー作品の常連ばかり。みんなギャラ安かったんだろうなあ。

監督のブライアン・ジョンソンも「モールラッツ」なんかにちょろっと出演しているスミスの友人らしいけど、なんでこんな映画をスミスが製作する気になったのかはまったく謎。ふつう「ピエロがレイプされる映画」なんて企画書の段階でボツにするだろうに?もしかしたらジョンソンは映画のそのままにスミスの恥ずかしい写真か何かをもっていて、それをネタに製作費を出させたのかもしれない。こんな作品なのに音声ミックスをスカイウォーカー・サウンドでやってて製作費は「クラークス」よりも上だってのは理解できんよなあ。

そもそもこんな内容の映画を面白くする方法というのは2つしかないわけで、「キラー・クラウン」みたいに発狂したピエロが惨殺を繰り返す映画にするか、製作されたのが70年代で主人公がパム・グリアー、という内容でないとどうしようもないと思うんだが。

ちなみにVULGARというのは初期のビューアスキュー作品のオープニング・クレジットに登場していたピエロの名前でもある。あのクレジットも相当くだらないと思ったけど、それを長編映画にしてしまうとは。この作品を観たおかげで、俺のケヴィン・スミスに対する評価はえらく下がりましたよ。ええ。

「ブロークン・フラワーズ」鑑賞

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ジム・ジャームッシュの「ブロークン・フラワーズ」を観た。

ジャームッシュの長編作品は全部観てるんだが、なんか「デッドマン」以上にピンとこない作品だったかも。オヤジが過去の恋人たちのもとを訪れて、見たことのない息子について知ろうとするプロットって、どうも俺がジャームッシュに期待してるものとは違うような気がするんだけどね。これがウェス・アンダーソンの作品だったらハマってたんだろうけど。ただ決して悪い作品ではなくて、場面転換に入る黒みは「ストレンジャー・ザン・パラダイス」を彷彿とさせるし、主人公が何歳になっても女の脚に目がいくようなスケベだという描写とかは結構良かったんだが。でもジュリー・デルフィーとかクロエ・セヴィニーとか、いい女優がいろいろ出ているのに出番が少なかったのは残念。

前作(「コーヒー&シガレッツ」は除く)の「ゴースト・ドッグ」が傑作だっただけに、失速した感は否めない。でも「デッドマン」も最初に観た時は「ジャームッシュが西部劇なんか作るでねえ!」と思ったけど、最近は傑作だと思うようになってきたんで、この「フラワーズ」もいずれは再評価するようになるのかな。