「RESCUE DAWN」鑑賞

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ヴェルナー・ヘルツォークの久々の非ドキュメンタリー作品「RESCUE DAWN」を観た。これは以前に取り上げた、ヘルツォーク自身によるドキュメンタリー「Little Dieter Needs To Fly」をドラマ化したもので、飛行機に憧れてドイツからアメリカに渡り、空軍のパイロットとなったディーター・デングラーの姿を描いている。

ベトナム戦争に派遣されたディーターは操縦する戦闘機を撃墜され、北ベトナム軍に捕獲されてしまう。彼は拷問を受けたあとに他のアメリカ兵が収容されている捕虜収容所に移されるが、そこの過酷な状況にも耐えて収容所からの脱出を計画する…というのが主な内容。最初の10分くらいで戦闘機が撃墜される展開はかなり急だったが、そのあとは収容所における極限の生活と、逃亡後のジャングルでのサバイバルの姿がじっくり描かれている。ヘルツォーク作品の常として自然の描写はかなり見事。ベトナムではなくタイで撮影されたものらしいが、ジャングルや岩山の光景は非常に美しい。ただし主人公が「陽気でいい人」ということもあって、ヘルツォークの昔の作品に比べてかなり話が凡庸な気がしなくもない。やはりクラキンがいなくなった穴は大きいなあ。

主人公を演じるクリスチャン・ベールは相変わらず演技が上手だが、それ以上に他の捕虜を演じるスティーブ・ザーンとジェレミー・デイビスの演技が光る。スティーブ・ザーンなんてB級コメディの人かと思っていたけど、シリアスな演技がこんなに巧かったんだ。あとベールは映画によって体重の増減が激しすぎ。早死にするぞ。この作品ではウジ虫なんかも喰ったりしてるし。

伝記映画にはよくあることだけど、描かれている内容が実在の出来事とずいぶん違うということで捕虜たちの遺族から非難されているらしい。ここらへんはヘルツォークも十分承知したうえで意図的にフィクションを混ぜているので、観るときはちょっと留意したほうがいいかも。

「ブレードランナー」ファイナルカット版を観て

以前にも書きましたが、やはり俺としてはデッカードがレプリカントだという設定は好きになれんのよ。今回ファイナルカット版を観ていてつくづく思ったが、この作品のテーマは人間とレプリカントの対比にあるはずなわけで、デッカードとレイチェルの関係も人種(?)を超えた愛であり、おまけに彼女はあと数年で命尽きるという悲劇的な内容なわけですよ。そして人間によって作り出されたレプリカントがもはや肉体的にも知性的にも人間を超えた存在となり、しまいには生命を尊重するという感情さえも備えてしまったことを、狩る者から狩られる者になったデッカードが最後に悟るわけだよね。

これがもし「デッカードはレプリカントだった!」ということになるのなら、単に「同類相哀れんでいる」というだけで作品のテーマがえらく希薄になってしまうと思うんだが、どうだろう。確かにユニコーンを使った最後のタネ明かしの演出は素晴らしいけどさ。例えば「シックス・センス」なんかでは主人公が××だった、と明かされたことでそれまでの伏線が一気に解決されたけど、この作品ではデッカードがレプリカントだと明かされても、それまでの展開が変に複雑なものになるだけだし、あまり賢い終わり方だとは思えんのだが。そこらへんキャストやスタッフはどう考えてるんだろうと思って監督のコメンタリーや3時間超のドキュメンタリー「DANGEROUS DAYS」を観てみたが、あまり関連したことは話してなかった。うーん。

余談だがこの作品って原作に大幅な脚色を加えているわけで、「ブレードランナー」で使用されなかった原作の部分を拾い集めて再映像化しても十分面白いものが出来上がりそうなんだがどうだろう。自分の死期を承知しているレイチェルや、彼女と同型の脱走レプリカント、偽の警察署、自分にVKテストを試みるデッカード、足を切られてもがく蜘蛛、郊外を埋め尽くすキップル、あとまあマーサー教などなど。Sci-fiチャンネルあたりでTVムービーとかにしてくれないかな。

「Star Trek: Of Gods and Men」鑑賞

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「Star Trek: Of Gods and Men」なる「スター・トレック」のアマチュア・ムービーがネット上で公開されていた。3パートあるうちのパート1だとか。こないだの「World Enough and Time」はスールーことジョージ・タケイが出演していて話題になったが、今回はウォルター・ケーニッグにニッシェル・ニコルズ、イーサン・フィリップス、ギャレット・ワン、チェイス・マスターソンにシロック・ロフトンなどなど、かつてST関連のシリーズに出ていた役者が勢揃いで、監督もトゥヴォクことティム・ラスが担当している。ここまでくるとアマチュア・ムービーではなくて半分プロ作品だな。役者たちがファンの期待に応えて出演したとみるか、仕事がなくてヒマだったので小銭稼ぎに出演したとみるか、判断はおまかせします。

最近のSTのアマチュア・ムービーは「SFX一流、演技二流」だと以前にも書いた気がするが、じゃあ今回はプロの役者が出てるから演技が一流かというと…。みんな老けたなあ…という感じ。全体的に演出がなんか間延びしてるんだよね。SFXも「Star Wreck: In the Pirkinning」に比べればチャチに見える。あといろんなキャラクターを一緒に登場させるための苦肉の策なんだろうけど、プロットにパラレルワールドとかタイムトラベルとかをもってくるのやめようよ。話がややこしくなるばかりだって。

でもまあエンタープライズBのサエない船長ことジョン・ハリマンが活躍したり、「チャーリーX」までが登場するので、オールドファンにとってはそれなりに楽しめる出来になっている。こういう作品がちゃんと利益を出すようになって、キャストやスタッフたちに還元される仕組みが確立されればいいんだがなあ。

「THIS IS ENGLAND」鑑賞

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日本じゃ殆ど無名の存在だが、イギリスで注目されている映画監督にシェーン・メドウスという監督がいて、派手なアクションとかCGIとは無縁の、ミッドランズ地方を舞台にした社会派作品をコツコツと作っている職人肌の監督なのであります。第2のケン・ローチになる存在じゃないかな。そんな彼の自伝的映画「THIS IS ENGLAND」がアメリカでも高い評価を受けていたのでさっそく観てみる。

舞台は1983年のイギリス。12歳の少年ショーンは父親をフォークランド紛争で亡くし、学校では友達ができずにいじめられる毎日だった。そんな彼はふとしたことからスキンヘッズの若者たちと友達になり、彼らの一員となって楽しく遊ぶようになる。しかしある日、彼らのリーダーだったコンボという男が刑務所から帰ってきた。刑務所でナショナル・フロント(イギリス国民戦線)の極右思想に感化された彼は、積極的に移民の排斥活動を行おうとしてショーンたちのグループを二分してしまう。コンボの側についたショーンは、自らも人種差別や犯罪活動に手を染めていくことになる…。というのが主なプロット。

俺もちょうどこの頃イギリスに住んでいたけど、あの当時の独特な雰囲気を的確に再現している点が素晴らしい。サッチャー政権のもとで失業者は増加し、フォークランドでは多くの兵士が殺され、冷戦の暗い雲がたちこめるなかナショナル・フロントは力を増していったんだよな。あとコンボとジャマイカ系スキンヘッドの微妙な関係とか(スキンヘッド文化はもともとジャマイカ系移民が始めた)の描写も興味深い。最近はイギリスでもスキンヘッズは減ってきたらしいが、1つのカルチャーをきちんと映像に収めたという意味では「さらば青春の光」に匹敵する傑作かと。

「EASTERN PROMISES」鑑賞

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傑作!「AVクラブ」では「ヒストリー・オブ・バイオレンス」ほどではない、というような評がされていたけど、個人的には原作からあらすじを事前に知っていた「ヒストリー」に対し、こちらのほうが見応えは多分にあったと思う。

第一印象としてはまず作り方が非常に手堅い。良い意味でメインストリーム的というか、無駄な部分をそぎ落とした良質のサスペンスになっている。またクローネンバーグ作品に共通する「肉体の変化」というテーマ(今回は体に経歴書として刻み込まれるイレズミ)に加え、「ヒストリー」で扱われた「生きる術としての暴力」および「アイデンティティの変化」というテーマが非常に巧みに昇華されている。ヴィゴ・モーテンセンが再び主演ということもあって「ヒストリー」の続編的なイメージがある作品だが、あちらで開拓されたアイデアが、さらにこの作品で実を結んだという感じ。そして数々のテーマをすべて担った主人公としてモーテンセンが相変わらず見事な演技を見せてくれる。今回は文字通り身体はってまっせ。ナオミ・ワッツは可も不可もなし。ヴァンサン・カッセル演じるドラ息子はちょっとステロタイプすぎたかな。あとタイトルにも関連している東欧女性の強制売春というサブプロットの、メインの話に対する絡み方がいまいち弱かったような気がする。ラストのナレーションはいらんよな。

クローネンバーグ初の全編海外ロケ(ロンドン)ということもあって、今までの彼の作品ともまた一風違った優れた作品になっている。ちなみにネット上だと「イースタン・プロミス(原題)」という表記が圧倒的に多いんだけど、原題なら「イースタン・プロミシーズ」と表記すべきじゃないか?細かいことですが。