「最前線物語」鑑賞

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サミュエル・フラーの代表作(だよな?)である「最前線物語」を鑑賞。最近は158分の長尺版が出たらしいけど、今回観たのは従来の113分バージョン。

「大きな赤の1番」こと第1歩兵師団の第二次世界大戦における姿が、いくつもの小話として描かれていく作品で、全体的な統一感にこそ欠けるものの、フラーの経験に基づいた戦闘描写が非常に細かく凝っていて見応えがある。なかでも迫力があるのはやはりノルマンディー上陸の戦闘で、鉄条網を破るために兵士たちが順番通りに爆弾筒を抱えて進もうとするものの、ちょっと進むたびに狙撃されてバタバタ倒れていくさまは、あまりにも人が死ぬのでまるでドリフのコントか何かを観てるような気になってしまう。波打ち際の死体の腕時計(どんどん血まみれになっていく)によって上陸作戦が長引いていることを伝えるという演出もなかなか巧いね。

出演者には「帝国の逆襲」に出たばかりのマーク・ハミルなどもいるけど、やはり1人で映画を食ってしまっているのがベテラン軍曹を演じるリー・マーヴィン。敵の裏をかいてドイツ軍兵士をナイフでサクサク刺し殺していく一方で、強制収容所にいた子供を気遣うなどといった、奥の深いキャラクターを寡黙にうまく演じきっている。

ちなみに作品を通じて部下たちが軍曹に軽口を叩きまくってるんだけど、これは現実でもそうだったんだろうな。日本軍だったら即座に上司に処刑されてそうなものですが。

「SCOTLAND, PA」鑑賞

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わたくし大学生の頃は英文学を専修しておりまして、自分が読んだ本について語れるようなゼミもないまま、英語の教科書を1文ずつ生徒たちがひたすら訳していくクラスを50くらい履修させられるという、それはそれはヒドい大学だったのですが、2年生のころには「英文学の巨匠について学ばんかい!」というわけでシェイクスピアに関するクラスを強制的にとらされたんだが、このときの先生というのが平気で10分くらい遅刻してきて、その代わり授業の終わりを15分くらい遅らせるようなボンクラでさ、そのくせ「オメーらシェイクスピアのことなんて知らねーだろ」みたいな口調で授業をしやがんの。ああ、イヤな学生時代だったなあ。これらロクでもない授業と最低の失恋が俺の大学の思い出です。

で話をシェイクスピアに戻すと、多くの人がそうだと思うけど、学校で無理矢理読まされる作家(森鴎外とか)って概してものすごくツマラなく感じられてしまうわけで、おかげで俺は今になっても「ロミオとジュリエット」とか「リア王」とかを読んだことがなくて、まっとうに読んだシェイクスピア作品って「ジュリアス・シーザー」くらいかもしれない。

そんなわけですが、ふとしたきっかけで観た、「マクベス」をベースにしたダーク・コメディ「SCOTLAND, PA」は結構楽しめた。題名のとおり舞台となるのはペンシルバニア州にあるスコットランドという田舎町で、時代設定は1975年。主人公のジョー・マックベス(ジェームズ・レグロス)は町の小さなファストフード・レストランで働くしがない男。彼は遊園地で奇妙な3人のヒッピーから占いを告げられたあと、野心家の妻(モーラ・ティアニー)にせがまれて、レストランのオーナーであるダンカンを殺害して店を乗っ取ってしまう。ダンカン殺しの罪は彼の息子マルコムにきせられ、マックベス夫妻による店の経営は大成功して万事が順調に見えたが、そこに風変わりだが敏腕な刑事マクダフ(クリストファー・ウォーケン)が現れ、彼の調査はマックベス夫妻を苛み、そこから新たな殺人が起きていく…。といった内容の作品。バッド・カンパニーの曲が多用されているのも特徴らしいけど、俺あのバンドよく知らない。

低予算映画ながら、セリフのタイミングとかジョークの間のとり方とかがなかなかよく出来ていて面白い。平凡で退屈な町の住民たちの描写もうまくて、主人公マックベスはやや愚鈍すぎるような気もするものの、悪妻を演じるモーラ・ティアニーのアグレッシブな演技が秀逸。でもやっぱり一番いいのはクリストファー・ウォーケン!どんなゴミクズ映画(「カンガルー・ジャック」「カントリー・ベアーズ」)でも彼の出てるシーンだけは必ず面白いウォーケンだが、この作品でもサエてるんだか間抜けなんだかよく分からないベジタリアンの刑事を怪演していて実に素晴らしい。いつ見てもいい意味で何考えてるかわからないというか、ただ立ってるだけでもなんか怪しくて面白いんだよね。ラストの光景もえらく笑えたし。

でもまあこういう映画って、やはりシェイクスピアを知らないと十分に楽しめない作品なんだろうね。ただシェイクスピア原案の映画って毎年のように製作されてるけど、アメリカ人がそんなにシェイクスピアに通じてるとも思えないんだが。

「300」鑑賞

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やっと「300」を観た。

う〜ん、なんかダメ。「V・フォー・ヴェンデッタ」と同じで、製作側の原作に対する忠誠心は感じられるものの、脚色がマズいために十分に楽しめない作品になってしまっている。

アメコミ原理主義者として言わせてもらうと、全体的に演出が派手で騒がしく、原作にあった静と動のコントラストが失われているのが残念。以前に「シン・シティ」についても書いたけど、コミックではクールに決めて印象的になっていた場面が、映画だと過剰な音楽がついたりして逆になんか陳腐になってしまっている。例えば「ここはスパルタじゃい!!」のセリフなんかも、原作では慌てふためく伝令に対してレオニダスが無慈悲に言い放つ姿がカッコよかったのに(下図参照)、映画だとテンション高すぎて何だかなあ、という感じ。まあこの場面がネット上でカルト的人気を誇っていることを考えると、多くの人は映画の演出を気に入ってるみたいだけどね。

ほぼ全てがグリーンバックという映像については、あまり何も言う気はないが、リン・ヴァーリィの素晴らしい色使いが反映されてなかったのは残念なところか。戦闘シーンはそれなりに観てて楽しめたけど、なんかスローモーションを使い過ぎのような?スローを効果的に使い切れていないところが、ジョン・ウーのようなベテランとザック・スナイダーの力量の差ですかね。あと「大軍の通れない狭い道で戦うこと」が話の要なのに、やけに広いところで戦っていたような…?遠くから弓矢で総攻撃されるようなところにいちゃ駄目じゃん。ファランクスの組み方もなんか違ってたような気がする。

そして一番意味不明だったのが、スパルタでの王妃のシーンの数々。あれなに?あんなの原作に無いよ?原作では短い出番ながら、死地に赴く夫に向かって「あなたが昨晩お盛んだったのは、こういうこと(子孫作り)だったのね」と言って陰で涙を流すシーン1つが非常に印象的だったのに、映画だとスパルタでウロウロしてる姿が何度も挿入されて、戦地の場面の緊張感を削ぐことしきり。最近の映画じゃヒロインの活躍をそれなりに映し出すのが必須なのかもしれないが、これは女子供の出てくる作品じゃないんだよぉ!「アラビアのロレンス」を見習え!こんなんで話を膨らませるんだったら、ステリオスあたりをもっと活躍させればよかったのに。

あと最後の名セリフ「クセルクセス… 死ね!」を削除したことは、それこそ死刑に値する。あれこそテンション最大で叫んでいいセリフなのに。

でもいちおう製作側の弁明をさせてもらうと、原作を映像化したいという熱気はきちんと伝わってくるんですよ。あれだけ暴力的な内容にするにはスタジオともかなりケンカしただろうし。ただ結局のところ監督たちの力不足によって、映像化には失敗してるような気がする。コミックの映画化についてはいろいろ言いたいことがあるんだが、これはまたの機会にする。アメリカではこの映画が大ヒットしたおかげで、あの「ウォッチメン」を映画化する承認をザック・スナイダーは手にしたわけだが、この映画を観た限りでは、あまり期待できそうにない気がする。

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「ザ・ブリッジ」鑑賞

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半月に1人が飛び降りるという世界有数の自殺の名所、ゴールデンゲート・ブリッジでの自殺者たちを追ったドキュメンタリー「ザ・ブリッジ」を観る。「AVクラブ」でのレビューを読んで結構期待してた作品なんだけど、実はあまり面白くなかった。

この作品は長期にわたる橋の撮影によって収められた複数の自殺の瞬間と、そうした自殺者の家族や友人たちのインタビューによって構成されている。これに加えて自殺を阻止した人の話や、橋から飛び込んで奇跡的に助かった人たちのインタビューもあるんだけど、結局のところなぜ彼らが自殺を試みることになったのかについては、何ら明確な答えが出ないままに作品は進行していく。飛び込んで生還した人にとっても、なぜ自分が橋から飛び降りたのかについて明確な説明ができないでいる。まあ当然といえば当然のことなんだろうけど、要するに答えのない問いかけがずっと続いているわけで、観ている側としては居心地が悪くなるのは確か。映像もインタビューの場面と自殺の瞬間が交差して映し出されるだけで、やや単調かも。自殺の場面は確かに衝撃的なんだが、観てて楽しいものでもないし。

ゴスの格好をして橋の上をうろついている人がいたら、とりあえず声をかけてあげましょうね、というのがこの映画からの教訓なんだろうか。うむ。

「マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅」鑑賞

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カート・ヴォネガットの影響でマーク・トゥエインの本はよく読んでいたのですが、そのトウェイン自身を主人公にしたクレイメーション映画「マーク・トゥエインの大冒険/トム・ソーヤーとハックルベリーの不思議な旅」(1985)を観る。

これはクレイメーション(登録商標だったのか!)としては世界初の劇場長編で、トム・ソーヤーやハック・フィン、ベッキー・サッチャーといったおなじみのキャラクターたちがトゥエイン自身と奇抜な飛行船に乗り込み、ハレー彗星に向って旅をする…といったファンタジー風の作品になっている。旅の途中の小話として「その名も高きキャラヴェラス郡の飛び蛙」や「不思議な少年(第44号?)」、そして俺の大好きな「アダムとイブの日記」といったトゥエインの作品の物語が語られていく。「アダムとイブの日記」の最後の一文はいつ読んでも(聴いても)感動するなあ。俺の人生観に大きな影響を与えた「人間とは何か」も含まれてればなお良かったんだろうけど、あれはエッセイだからね。

クレイメーションの出来も優れており、細部の描写まで凝っていて観る人を飽きさせない。ただ「ウォレスとグルミット」とかに比べて人間の加尾の造形がリアルなので、ちょっと生々しすぎるところがあるかも。また「不思議な少年」のサタンの描写がグロテスクだということで欧米では問題になったらしい。Youtubeにおいては「放送禁止アニメ!」なんて紹介がされていたりする。

完璧ではないにしろ、野心的で面白い作品。ちなみにハック・フィンがトロい奴として描かれているのが気になるんだけど、奴ってもっとストリートワイズなキレ者じゃなかったっけ?